3-8 密航者
ライトとシェーラの出逢いからの~、押しかけクルーになったよというエピローグ話。
「じゃあ、ライトさん、本当に有難う御座いました。お元気で」
「ああ、ヒナタさんにもよろしくな」
「あ、メール送ります!! ヒナタと、みんなで写真撮って!!」
「おう、楽しみにしてるぞ!」
楽しげな会話を交わして空港へ。運良くすぐ後に出るシャトルに空席があったので、搭乗手続きをして手荷物を預ける。
そう言えば、オヤッサンには報告がてら頼み事があったので連絡したけれど、ガンコジジイには連絡も何もしていなかった。
今回、ジジイが趣味で作った機器が役に立った事だし、礼の意味も込めて酒でも買っていこうかとか考えていた。
一度、運用試験(……人体実験?)を兼ねて持たされている機器の理屈とか、原理とかもちゃんと聞いておかなくてはならない。
さすがにちょっと、今回みたいに『自分が作った物じゃないので、良く知らないけどね』では、あまりに格好が悪い。
聞いたところできちんと理解できるかどうかって言うのは、また別の次元の話になるけれど。
無事、空港の名産品売り場で手土産の酒も買うことが出来たし、ガンコジジイこと、ガンフの工房へ直行した。
「こんちはー。ガンフじーさん、修理出来てるかい?」
「儂を誰だと思っておるのぢゃ? 当然完璧に出来ておるにきまっとる!」
ガンフの言葉通り、ティンカーフィッシュ号はまるで新造船のような輝きを放ってライトを待っていた。
「うわー。いつもながら、流石だなぁ。あ、これ土産ね」
と、手に持っていたガンフ大好物の酒、エオルナ星名物の“火酒”を進呈する。
「おおッ!! いつになく気がきいとるぢゃないか、ディー」
と、火酒の瓶に頬ずりするジジイ。
「ま、ね。今回は別の意味でも世話になったからね。
そりゃそうと、この間持たされたあの、指向性レーダー? あれ、どーゆー仕組になってるんだ?」
「え? ああ、アレか。あー、アレはその、アレじゃ、ホレ!
……ええと、どういう仕組ぢゃったかの?」
ライトは内心、まさかもう呆けたんじゃ? なんて思いながら、現物を見せて聞こうと荷物のファスナーを開けた。
「―――――????!!!!!」
固まった。
「なんぢゃ? どうかしたのか、ディー?」
硬直したまま、動かないライトを不審に思ったのか、ガンフも横からバックの中を覗き込んだ。
無言。
「何ぢゃ、ディー、お主、何時からこんな趣味を?」
「ちっが――――――うッ!! 断じて違―――――――――うッ!!!!!」
漸く復活したライトが大声で異を唱え―――いや、叫ぶ。
その声に目が覚めたのか、“それ”はむにゃむにゃと目を擦り、あくびをしてのびをした。
「最近の人形は良く出来とるのぅ。まるで生きとるようぢゃ」
しかし、その“人形”はジジイを下から睨み付けると腰に手を当ててぷんすか怒り出した。
「しっつれいね~~~! 私、人形じゃないわ!! 妖精よ!!」
そう。荷物の中には、グリーンウッドに居る筈の妖精の少女、シェーラが潜り込んでいたのだ。
「ほうほう、妖精とな。はー、初めて見たぞい。長生きはするもんぢゃのー」
と、ジジイは和んでいるが、ライトにしてみれば一大事だ。
「ちょ、ちょっと待て! 何でキミがここに居るんだ?」
ライトの語尾は心なしか掠れているような。
「私、ライトと一緒に行く事にしたの! 森だけじゃない、もっともっと広い世界を知りたいの!
―――――ダメ?」
「ダメダメダメダメッ!!!!! ダメったら、ダメッ!!!
大体、この間の事で懲りたんじゃ無かったのか?」
妖精は小さな頭をぷるぷると振る。
「ううん、逆よ! 私、もっと強くなりたいの!
何があっても対処できるように。何があっても、あなたみたいに諦めずに居られるようになりたいの!
それに……」
ポッと頬を染めて、少女は小さな声で付け足した。
「あの時のあなた、とっても格好良かったんだもん/////」
「ほほー。お嬢ちゃん、此奴にホの字ぢゃな~♪」
ジジイがまたチャチャを入れるような事を言うと、シェーラは真っ赤になって俯いてしまった。
「……取り敢えず」
ズキズキと痛み始めるこめかみを押さえながら、ライトは努めて冷静になろうと努力していた。
「キミはグリーンウッドに連れて帰る」
「えぇ~~~~~ッ?! どうしてぇ~~~?!」
キッパリと言い切るライトに、シェーラはぶーたれる。
「どうして、じゃない!! 大体、キミがここにいる時点で俺は犯罪者なんだぞ?」
「……どうして?」
本気で分かっていない妖精に、ライトはぷしゅう~~~っと音を立てて体中から力が抜ける気がした。力無く、傍らの椅子に腰掛けると一から説明し始める。
「そもそも、君たち妖精という種は極めて珍しい種族だと言うことは分かるな?」
それにはシェーラもこくりと頷く。
「キミも出逢った時に言っていたけど、妖精を狩ってコレクターに売るような密猟者が横行しているのが現状だ。
だから、20年ほど前に苦心惨憺の末、銀河連邦は妖精の各部族の長と会合を開いて、宇宙法っていう法律の”種の生存と保護に関する法律”に追加する条文を作ったんだ。
『何人たりとも、妖精種を捕らえ、棲息する地域・惑星から移送させたること、又は剥製、標本等、生命を脅かす行為を行う事を一切禁止する』ってね。
違反者には5000万銀河共通通貨(G)の科料、或いは15年以上30年以下の懲役が科せられる」
一気に話して言葉を切ると、ジジイからツッコミが入る。
「そんな法律、よう憶えとったのう?」
「宇宙法と連邦法はコンダクター試験の必須科目だからな。これが出来ると出来ないとじゃ、一次のペーパーテストの点数が……
って何言わせるんだよッ! そんな話じゃ無いだろ!!」
シェーラはきょとんとしている。どうも意味が良く解っていないらしい。
「よーするに、キミが俺の荷物の中へ隠れてグリーンウッドを出てしまった事自体が、みんなで決めた決まりに大いに違反してるんだ。
今もう既に、俺には5000万Gの罰金か、15年以上牢屋にぶち込まれるかのどっちかの罰が確定するんだ。
―――分かる?」
「ごせんまんのばっきんって、何?」
ガク―――――ッ。
そりゃそうか、妖精には貨幣経済なんて無かったんだ。
あーもー、どーすんだよ、俺。
頭を抱えるライトに代わり、今度はジジイが説明役をかって出た。
「いいかな、お嬢ちゃん。森の外の世界では、飯を食うにも、服を着るにも、ありとあらゆる事をする時に、そのものと交換する物が決められておる。
それが“お金”と言う物ぢゃ。むつかしい言い方で貨幣とか、通貨とも言うがの」
シェーラはうんうんと素直に聞いている。
「儂の着ておる服も、ディーの着ておる服も、洋服を置いている店へ行ってそこにある欲しい服と儂等のもっておる“お金”とを交換して手に入れておる。
ちなみにその交換することを“買う”というんぢゃよ。
ほんで、ぢゃ。
一日飯を食うのに1000Gもあればまぁ、そこそこ腹を満たせられる最低限の飯が喰える。
5000万と言うのはざっと、そうぢゃなぁ……えぇと、137年くらい、毎日そこそこの飯を食い続ける事が出来る程の大金なのぢゃ」
ジジイの説明を聞いている内に、段々とシェーラの顔色が悪くなっていく。
「お嬢ちゃんが気まぐれでした事で、此奴にかかる罰の大きさが分かったかの?」
すっかり、しゅーんと項垂れてしまっている。
「そんなに大変な事になるなんて、私、ちっとも知らなくて……。
そんなつもりじゃ無かったの、ホントよ? 信じて!!」
涙ぐんでしまっている。流石に可哀想だと思えてきた。
ライトは声のトーンを落とすと、優しく話しかけた。
「シェーラ、出て来る事をきちんと言って来たのかい?」
こくん。
「お祖父ちゃんと仲間と、ヒナちゃんには……」
「そうか。お祖父ちゃん、止めなかったのか?」
「ううん。妖精だからと言って、森にいるばかりでは世界は広がらないから。お前の好きになさいって。
それにあなたと一緒にいれば、いつか私の怪我を治してくれたヒトにも逢えるような気がするの。
だから私……」
決して、浮ついた気持ちだけではないのだ。怪我を治してくれたヒトを捜すこと、そして世界の広さを知ること―――――。
それは、ライトが持っている旅の目的とも似通っている。
「つくづく、俺って『人捜し』に縁があるんだな」
ふ―――――。
一つ、大きくて深い溜息をつくと、ライトはシェーラを見つめた。
「良いか? 宇宙は弱肉強食の世界だ。幾ら仲間だと言っても、いつもいつも助けてやれるとは限らない。
俺に出来るのは、自分の身の守り方を教えてやる事くらいしかない。
それでも良いのなら、キミを俺の船ティンカーフィッシュにクルー登録しよう」
それはあの日―――ライトが宇宙に出る事になったあの日に、リョウヤから言われた言葉だ。
まさかこの言葉を、自分が言う事になるなんて、とちょっぴり感慨に耽る。
目の前では、シェーラが目を輝かせてあの日の自分と同じような事を言っている。
「私、ライトに迷惑掛けないように頑張るから! だから、あなたと一緒にいさせて! お願い!!」
オヤッサンのコネをフル活用して、法律違反のもみけ……いや、情状酌量措置とクルー登録の予備審査申請などの手続きが完全に終わったのはもう、日付が変わろうかと言う頃だった。
シェーラは急ごしらえのバスケットのベッドでもうぐっすり眠っている。
アルコール度数の異様に高い、土産の火酒をちびちび酌み交わしながら、ライトはジジイ相手にガラにもなく思い出話のような物を語っていた。
「何となくさ、シェーラ見てると、俺、自分のガキの頃の事思い出しちまって。三英雄のみんなも、あの時こんな風に感じたのかなぁって、ちょっと分かった気がする」
ジジイは逞しい青年に成長したライトを父親のような目をして見つめていた。
初めて三英雄に連れられて工房へやって来た時には、まだまだ小さな、元気だけが取り柄の子供だったのに。
「大きくなったのぉ……ディー。年を取るわけぢゃよ」
「よせやい。まだまだ老け込んで貰っちゃあ困るぜ? ティンカーフィッシュはガンフにしか直せないんだからな」
「全く、老人使いの激しい若造ぢゃのう、お主は。
ま、安心せい。儂等の種族の平均寿命はまだまだ先ぢゃよ」
おどけて胸を張るジジイに自然に笑みがこぼれる。
「それ聞いて安心した」
穏やかな夜は、深々と更けていく―――――。




