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treasure seeker  作者: 草葉 影野
現在編.03 出逢い 無鉄砲? な妖精編
48/89

3-2 依頼内容は二つ

露天風呂に豪勢な食事を満喫してるライトの話。

 ライト・エルズワースはことのほか、ご満悦だった。

 オヤッサンの斡旋した(?)仕事を請け負ってやって来たリゾート惑星グリーンウッド。

 その間の滞在先となったのは、何処となく『懐かしい』と感じさせる(たたず)まいで、露天風呂が名物という旅館「極楽荘本店」。

 食事の前に一度、その露天風呂とやらに入りに来たのだが、ライトは一目で気に入ってしまったのだ。

 その時は丁度、森に沈む夕日を眺めながらというシチュエーションで、団体客が一斉に帰って行った後と言うことも重なって、広い岩造りの風呂にたった一人という贅沢(ぜいたく)さ。

 三英雄を失ってからと言う物、無我夢中で過ごしてきた。

 あの後、全く行方が掴めなくなってしまった奴―――『邪悪なる精神生命体』。

 決まった名も、決まった姿も無く、只、他者の肉体を乗っ取り支配する。

 最後の瞬間、大爆発を起こした小惑星跡の宙域からは何も、見つからなかった。勿論、三英雄の遺体や―――遺品さえも。

 スタンのテレポート魔法で脱出させられ、小型艇で宇宙空間を漂っていたライトを救出してくれたのは、事前に連絡を受けて駆け付けたオヤッサン本人だった。巡回艇に拾われてオヤッサンの顔を見た後の事は、憶えていない。

 医者には安心と疲労、負傷から気を失ったのだろうと言われたそうだ。次に目が覚めたのは、連邦警察の付属病院のベッドの上だった。結局、完治するまでには一ヶ月近く掛かった。それでも、医者には大いに舌を巻かれたが。

 俺にとっては、そんな事よりも何よりも、三英雄のみんなの方が重要だった。

 先生でもあり、家族でもあり、親友でもある―――――彼らが、死んでしまったなんて。

 認めたくなかった。信じたくなんか無かった。それでも、現実は曲げようもなく―――俺は、信じざるを得なかった。


『俺達に付き合って、お前まで死ぬことはない』

『そうよ。思い出しなさい。アンタは、何の為に宇宙に出たのかを』

『―――はは。ケツの青いヒヨコがいちゃあ、足手まといなんだよ』


 みんな、ボロボロだった。

 それでも彼らは―――俺の事を気遣ってくれていて。


『………、………』


 シェリルが最後に俺にかけた言葉は、一体何だったんだろう?

 それからの俺は、何かに取り憑かれていた。

 こうやって、振り返る「時間」すら無いほどヤツの消息を求め、また自分自身が「強く」なりたいという、強迫観念にも似た思いに。

 俺が弱かったから、みすみすみんなを死なせてしまったのだと、悔いる毎日だった。だから、俺は「強く」なろうと思った。そしていつか、必ずヤツを倒してやるのだと。

 しかし、一向にヤツの消息はおろか、生きているという確証も掴めない。

 いつの間にか俺は、焦っていたのかも知れない。

 生きているという確証はないが、また、死んだという確証だって無いじゃないか。

 それにアイツは、派手に暴れるか、或いは知謀を巡らせ暗躍するかという、両極端な活動を好む傾向がある。つまり、その時々の宿主の肉体のタイプによって活動を変える。

 現在、ヤツがどんな肉体に宿り、どんな顔をしているのか分からない今の状況では、後者のタイプだと探すことすら容易ではなくなる。

 元々、ヤツはかなりの実力を持った魔術師だったと言う説が尤も有力なのだ。

 それというのも、ヤツは宿主である肉体が変わろうとも、高レベルの魔法を操ったという記録が残っているからだ。

 ちなみに、精霊魔法は精霊との契約の効力が肉体に根ざす為に、宿主の肉体が精霊魔法の適正を持っていないと使えない、と言うのは精霊魔法使いだったスタンに聞いた話で、俺自身は魔法にはてんで疎かったりするので詳しいことは実は良く分からない。

 やっぱり、『魔法』に詳しい知り合いが欲しいなぁ。でないと、もしヤツに対峙する時が来ても、魔法一発で死んじまったら、笑い話にもなりゃしねぇ。

 考え事をしながらで、つい長風呂になってしまったようだ。湯あたり状態でボーっと部屋に戻ってくると、女将が待っていた。


「随分と長いお風呂でしたね。夕餉(ゆうげ)のお支度が出来ておりますよ」


 そう言われて、座敷を覗くと、テーブルいっぱいに料理が並んでいる。

 海の幸、山の幸をふんだんに盛り込んだ、この旅館自慢の夕食だそうだ。

 事実、これまでは風呂と同様かなりおざなりな食事しかしていなかったライトには、料理から後光が差しているかのように見えていた。


「す、すげぇ。こ、これ俺の晩飯ですか?」

「ええ、どうぞ召し上がってください。クォラルド様からお客様が健啖家(けんたんか)でいらっしゃるとお聞きして、板前も張り切って居りましたわ。お口に合うと宜しいのですが……」


 女将は後ほど酒の追加を持ってくると言い残し、部屋から退出していった。

 パタン、と静かに扉が閉まる音を聞いて、きりりとしていたライトの表情が一変した。

 まるで、お預けを喰らっていた犬のような、今にも(よだれ)を垂らしそうな、それはもう絶対他人には見せられない顔だ。


「う、うまそぉーーーーーー!! いっただっきま~~~~すッ!!」


 ライトは、“ガツガツ”という表現以外、何も当てはまらないような恐ろしい勢いで食べ始めた。

 ちなみに、それから十五分後くらいに女将自ら熱燗を二本持って来た時には既に、あれだけあった料理の殆どが空になっていた。

 刺身のつま一本、小鍋の出汁一滴たりとも残っていない。

 これには流石の女将も呆然と立ちつくしてしまったという逸話付きだ。未だに目が点状態の女将が、すっかり食べ尽くされた食器を仲居達に下げさせている。

 その仲居達がぼそぼそと小声で喋っているのが耳に入った。


『あの量をたった15分足らずで平らげてしまったんだってさ』

『ひぇ~、一体どんな胃袋してんだろうねぇ?』


 思わず苦笑が漏れる。随分久し振りにありつけた”ちゃんとした料理”だったもんだから、つい意地汚い事をしてしまったが、ふと、食べている最中に悲しくなった。

 みんなが居た頃は、シェリルが作ってくれた食事をスタンと取り合いしながら喰ってたっけ―――――。

 もう、そんな事も二度と無いんだ、と思うと泣けてきそうだった。

 ふとした拍子に、忘れ去ろうと何処かへ追いやった筈の「悲しさ」が顔を出す。

 まるで不意打ちのようにやって来る「それ」と、見つめ合う事を避ける為に今まではがむしゃらに走ってきた。頭では彼らが死んでしまった事をちゃんと理解しているのに感情はまだ認めたがらない。いつまでもこのままではいけないと、自分でも分かっている。

 分かってはいるのに……。




「料理を作って下さった方には、とても美味しかったので、全部平らげてしまったとお伝え下さい」


 と、声を掛けられて女将がはっとしたように我に返る。


「ええ、そりゃあもう。あの食器を見れば伝えるまでも無いでしょうけれど。きっと、泣いて喜びますよ。

 今夜は個人のお客様がお二人だけでしたので、いつもより時間を掛けてましたし」

「へぇ~、ってことは、俺以外には後一人だけ、なんですか?」

「ええ。明後日になればまた、ツアーのお客様が大勢お越しになるのですけれど。

 丁度、日程の谷間なのですわね、きっと」


 女将は世話好きそうな微笑みをふと消すと、責任者の顔をしてまっすぐにライトを見つめる。


「お願いしたい事は二つあるのです」


 どうやら、漸く今回の依頼内容の話らしい。ライトも胡座(あぐら)だった足を正座に戻す。


「ここ数ヶ月でこのリゾート地区のホテル、旅館を問わず、行方不明になる者が十人を越えております。

 噂に寄れば、日帰りでビーチに来られたお客様にも何人か消息を絶たれている方が居るとか。

 地元警察も捜査はしたのですが、何しろこの星においては入植の際の盟約から、開発の許されたリゾート地区での捜査権しか有りません。

 更に、姿を消した者を最後に見た者の話では、フラフラと森の方へ歩いていく姿を見かけたという証言が御座います」

「成る程、逆に“警察”では下手に動けないんですね」


 女将がこくりと頷いた。


「また、盟約での取り決めや先住種族の閉鎖性などから、リゾート地区とそれ以外の場所は互いの交流も皆無に等しい現状なのです。ですから、分かる範囲で良いのです、どうか行方不明になった者の消息と、その原因を調べて欲しいのです。

 行方不明の者には、行方を案じる家族も居るのです。どうか、どうかよろしくお願いいたしますッ!!

 大変手前勝手な依頼だとは、重々承知しております。また、簡単ではない事も分かっております。

 ですので、分かる範囲で構いません。もう他に頼れる先も有りませんし、今回の調査が終われば、その結果を家族にも知らせます。どうか、どうか……」


 がばっ、と額を床に擦りつけんばかりに頭を下げる女将にライトは労りの声を掛ける。


「頭を上げてください。俺は、もしかしたら何の役にも立たないかも知れない、只の男です。

 唯ちょっと人様より腕っ節が強いだけの、無力な男なんです。こんな俺でも頼りになさってくださるのなら、俺は俺の全力を尽くします。だからどうか、頭を上げてください」


 女将の手を取り、顔を上げて貰うと、その目元が濡れていた。


「もしかして、行方不明の方の中に、ご家族の方が?」


 女将はそっと袖で目元を拭うと、小さく首を振った。


「いいえ。わたくしの実の家族ではございません。ですが、先代の頃からわたくし共と一緒にこの旅館を支えてくれた専務の娘さんが……。

 コーシローとも幼なじみで家族同然に仲良くして居たのですが、一週間前に突然―――。

 それで、彼女の身近にいたコーシローならば何か気付いたことはないかと、今回の案内役を命じました。それと、手前味噌ですが、コーシローはアレでこの地区では顔も広く、何かの役に立つのではと思いまして」


 それは、チェックイン前に名所を案内して貰った時にも感じたことだ。

 行く先々でコーシローは声を掛けられては、丁寧に挨拶を返していた。

 公園の管理事務所のおじさん、旅館組合の理事長、岬の灯台守、入植資料館の館長……それこそ、学校帰りの子供達にまで。

『愛すべき好青年』を絵に描いたような存在だな、とライトも感じていた。とは言え、あの運転さえ何とかしてくれれば、の話なのだが。

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