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treasure seeker  作者: 草葉 影野
現在編.03 出逢い 無鉄砲? な妖精編
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3-1 リゾート惑星グリーンウッド

現在編第二話ラストの続き。ライトとシェーラが出逢った時のお話。

 シャトルから降りた途端に熱い空気に襲われ、金髪の男は一瞬顔を(しか)める。

 しかし、それは利きすぎていたシャトルの冷房のせいらしい。慣れてしまうと湿気の少ない暑さは逆に心地が良かった。

 何となく、人々がこの星にリゾートにやって来る気分が分かるような気がする。

 ここは20年ほど前に開発着手されたリゾート惑星で、名を『グリーンウッド』と言う。

 現住種族との取り決めで、必要以上に開発を行えなかったと言う話だが、寧ろその方がかえって良かったのではないだろうかとさえ思えてくる。

 よその星の都市部ではもう殆ど見られない豊かな緑、美味しい空気。空港の外に見える澄み切った青空に惹かれて足が外に向いてしまったが、我に返って手荷物を取りに行く。


 三英雄の形見となってしまったティンカーフィッシュは、建造者でもあるガンコジジイ、ガンフ・ウル・グルンザの所でオーバーホール中。

 たまたま近くまで行ったので、顔を見せに寄っただけ……のつもりが散々説教をされた挙げ句に、『儂の最高傑作をこんな哀れな姿にしてしまいおって。徹底的に修理してやるから、完全に終わるまでは返してやらんわい!!』

 何て言われて、一人用の小型艇の方まで没収されてしまったのだ。


 だから、オヤッサンに呼び出された時も定期シャトルで銀河連邦の本部まで出掛けたら、会った途端に大爆笑されてしまったという、本人的には少しも笑えない一件まであった。

 何も小型艇まで取り上げる事ねーじゃんかよ! と、長いつきあいのガンコジジイを大いに恨んだのだが。

 それ程大きくもない荷物を受け取り、宇宙港の外に出る。この星はオヤッサンから常夏の星だとの話を聞いていたのだが、その話を裏切らない、と言うか思った以上の『夏』ッぷりに気持ちが弾む。

 青い空、真っ白な入道雲、照りつける太陽の光。それらはこの男に一番似合った組み合わせかも知れない。その二つ名の由来となった金糸の髪がキラキラと輝いて見える。


「ふー。ええと、迎えが来るっつってたんだけどな?」


 男が手荷物を足下に置き、キョロキョロと辺りを見渡して居ると、そこへ猛スピードで滑り込んできたライトバンがあった。

 車体の横にはホテルの名前だろうか? 『温泉旅館 極楽荘本店』とデカデカと書かれている。もしかしなくても、送迎車のようだ。

 と、中からこけつまろびつ大慌てで降りてきた人物が居た。


 ひょろひょろに背の高い、瓶底メガネの若い男だった。車から降りる時にでもぶつけたのか、赤くなった額をしきりにさすっている。男が唖然としたままその様子を見ていると、何かを探す様にキョロキョロしていた瓶底メガネが駆け寄ってきた。


「……あ、あのっ、ラ、ライト・エルズワースさん、ですか?」


 どうやら、この瓶底メガネが“黄金の調停者”の二つ名を持つこの男の迎えらしい。

 ライトは営業用スマイルを多少引きつりながらも作り上げると頷いた。


「ええ、初めまして、ライト・エルズワースです。では、あなたがサイダさんですね?」


 オヤッサンに呼び出されるのは、実のところ、オイシクない話が大半だったりする。

 過去にも何度か苦い思いを味わいながらも、呼び出されると一度は難癖をつけるが、意外とホイホイ出掛けてしまう。それは結局の所ライト自身がオヤッサンを気に入ってると言う事なのだろう。

 オヤッサン―――こと、ウォルフ・クォラルド。

 切れ者として有名な銀河連邦警察のお偉いさんである。何でも長官の椅子も近かろう、との噂だが、ライトにとってはあまり重要ではなかった。流石に、オヤッサンが連邦警察をクビになるとかなら大いに困るが。

 その、オヤッサンから『やってみないか』と廻された仕事をする為にこの星へやって来たのだ。


「は、はいっ、ど、どうぞ宜しくお願い、い、致しますッ!

 何かご用のさ、際は、どうぞ、ボ、ボクにお申し付け下さいッ!!」


 と、サイダは緊張の為なのか、それともそう言う口調なのか良く分からない話し方で胸ポケットから小さな紙片を取り出した。それが、世に言う「メイシ」と呼ばれる物だと言うことをライトは知っていたので、すっと受け取り紙面に目を落とした。


『株式会社 温泉旅館極楽荘本店 送迎係 コーシロー・サイダ』


 成る程、それで送迎車ね。ライトは納得しながら切り出した。


「で、サイダさん……詳しくお話しをお伺いしたいんですが―――?」


 そう。オヤッサンと来たら、人にたらい廻す仕事だというのにこんな事を(のたま)った。


『詳細は向こうで詳しく聞いてくれないか? どうも状況が良く分からなくてなぁ。何でも行方不明になってる人を、捜して欲しいとか何とかって話だと聞いたんだが』


 何ていい加減なッ、このクソ忙しいのに人捜しなんざやらねぇぞッ! と思って聞いていたライトの表情に、如実にソレが出ていたのかも知れない。

 オヤッサンはそこで漸く、目的地がリゾート惑星であることを持ち出してきた。そして一言。


『ま、悪いことは言わん。この仕事を受けてゆっくりしてきたらどうだ? お前はここの所全力疾走だったからな』


 心配させていたのだ、とハッと気が付いた。また、これがこの男なりの、気遣いなのだとも。



「あ、そ、そのッ、今日は、この辺りをご、ご案内してさしあげろと上から言われてますので。

 ―――あ、ど、どうぞ」


 と、サイダは乗ってきた送迎車へと歩き出す。だが、近付いて良く見てみると、その送迎車はお世辞にも“客を送迎”するような車ではなかった。

 ―――『廃車寸前』、といった所か。良くても、『大層くたびれた』。ボコボコにへこんだ車体、所々塗装の剥げた所には錆が浮いていたりする。


「あ、す、すいません……その、少し前、げ、現役引退した、そ、送迎車を譲って貰ったんです……。

 で、でも、他に、使える、く、車が無くて、す、すみませんッ!!

 せ、折角、エルズワースさんが、き、来てくださったって言うのに―――」


 サイダは見ているのが可哀想になってくる程恐縮していて、だんだん気の毒になってしまったライトは後ろで縮こまっている瓶底メガネに微笑みかけた。


「そんなの構いませんよ。俺は只の何でも屋で、偉くも何ともないんですから」


 そんな訳で、その日はリゾート地区の案内をして貰ったのだが、どうにも、落ち着かない道のりだった。

 確かに、案内してもらった各場所はリゾート惑星の名に恥じない素晴らしい所ばかりだった。……のだが。そこへと行くまでの道のりが、その、有る意味サイテーだったのだ。


「す、す、す、スイマセンッ!? そ、そのっ、ボクは、運転が、へ、下手だって、みんなから、い、言われてて……」


 急発進、急ブレーキは当たり前。その上走り出すとこんなおんぼろ車で、どうしてこんな速度が出るんだと思うくらいの猛スピードでかっ飛ばす。

 冗談ではなくて、真剣に死ぬんじゃないかとライトは思った。お陰で廻る場所を全て見終わり、滞在予定であるサイダの務める旅館へ着いた頃にはもう、ぐったりと疲れきっていた。


 ―――そもそも、運転が下手とかそう言う問題じゃ無いような気がするんだが……。


 明日もこの運転で移動するのかと思うと、生きた心地のしないライトだったが、彼を旅館の玄関前で下ろすと、車を車庫入れに行くからと、サイダはそそくさと去っていってしまった。

 仕方なく一人で旅館に入ってみると、一般客同様の盛大な出迎えを受けた。濃い紫色の揃いの着物を身につけ居並ぶ大勢の仲居さん、そして玄関口で三つ指付いて出迎える一際品の良い女性。


「お待ちいたしておりました。ライト・エルズワース様、遠い所をようこそおいで下さいました」


 ライトが面食らって情けない返事を返すしか出来ない間に、女性はしゃきっと背筋を伸ばして上半身を起こした。凛とした目が、何処か涼しげな印象を持たせる熟女だ。


「申し遅れました。わたくし、この温泉旅館を取り仕切ります女将、ショウコ・サイダと申します」


 ―――――サイダ? そう言えば、どことなく面影があるか?


「あ、もしかして?」


 女将はふと、目線を伏せるとまたすぐに前を向く。


「はい。コーシローはわたくしの不肖の息子で御座います。

 申し訳有りません。本日は団体のお客様が多御座いましたので仕方なく……。

 もしや、あの子が何か粗相を?」


 さっと顔色が変わるところを見ると、思ったより無関心という事ではないようだな、とちょっと、安心した。


「あ、いえ。この辺りの名所を案内して戴きました。サイダさんはお詳しいですね。流石に良い所だなぁと思いました」

「そうですか。あの子にはもう少ししっかりして貰わないと困る、と常々申して居るのですが……。

 あら、いけない!? わたくしとした事が。

 ささ、エルズワース様。立ち話も何ですし、お部屋へご案内致します。

 ―――――どうぞこちらへ」


 女将直々に案内を受け、通されたのは一番奥まったかなり高そうな部屋だった。


「こちらで御座います。御夕食までにはまだ少し時間がありますので、お先に露天風呂にでも行かれてはどうですか?」


 女将は手慣れた手つきでお茶を注ぎ、流れるような所作で席に着いたライトの前へ湯呑みを置く。


「ロテンブロ? って、なんですか?」


 聞き慣れない単語にそのまま聞き返すと、女将はコロコロと笑い出した。


「???」

「あぁ、いえ、ごめんなさい。ウチへ来られるお客様は、殆どが露天風呂に入りにいらっしゃるお客様ばかりなものですから。

 露天風呂と言うのは、屋外に作られた、今時分でしたら暮れゆく夕焼けの元で入るお風呂の事ですわ。流石に、混浴は規則で出来ませんでしたけれど。

 団体のお客様は先程お発ちになられましたし、大浴場も空いてると思いますよ」


 大空の下でのんびりゆっくり入浴。

 ここの所ティンカー・フィッシュのシャワーか、簡易ホテルの狭いユニットバスで汗を流すだけという風呂が定着していたライトにとっては、それはもうかなりの誘惑だ。


「へ~~~。凄いなぁ、そーゆーのが有るんだ。じゃあちょっと、行って来ようかな」


 既に気分は想像のロテンブロへと飛んでいたりする。


「是非そうなさいませ。今は堅苦しいお仕事の話は抜き。ゆっくりくつろいで下さいませ。

 それから、お風呂から上がられたらそこの、浴衣にお着替え下さい。明日の朝までにお召し物をクリーニングしておきますので。

 貴重品は、あちらのTVの下の金庫か、フロントへお預け下さい。

 ―――何でしたら、これから場所をご案内いたしましょう」

「良いんですかッ?! スイマセン! 助かります」


 何しろ、この旅館はかなりの広さだ。連れて行って貰えるならそれに越したことはない。

 ある程度の道順を憶えるのは、そこそこ得意だったりするので、帰り道は問題ない。

 ライトはウキウキしながら、浴衣の一揃えを小脇に抱えると、女将の後を子犬のように(もし彼に尻尾があったなら激しく振られていたに違いない)付いていった。

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