《過去編》 4-16 記念写真 ~エピローグ~
とある過去の日の思い出の話。長かった過去編も一時終幕です……。
16.記念写真 ~エピローグ~
今朝は、4人揃って食堂へ朝ご飯を食べに行った。相変わらず、大人の男の人しか見かけない。
ディーは食堂に着いてからもキョロキョロと探してみるが、やっぱり、あの子の姿は見えない。
「何だ、ディー……何か探しているのか?」
と、リョウヤに見咎められてしまった。
「え、あ……その、友達、来てないかなって思って」
「へ~、ディーってば、ここで友達出来たんだ~」
シェリルが素直に驚いている。だって、ここは何と言っても“闇の調停者”こと、あの忍者組織の総本山なのだ。
「って、ディーお前、友達ってカイリの事だろ~? けどよー、こいつ、ガキの癖に面食いなんだよな~」
「「え?」」
リョウヤとシェリル、両方から声が挙がった。
「何だよ、お前等も知ってるのか? カイリの事」
「あぁ、知ってる」
「私も知ってるよ」
「ふーん。何だ、忍者の里も意外と狭いな」
妙な感想を述べるスタンに、二人は複雑な表情で顔を見合わせる。
「不思議な縁……だな」
「そう、よね~」
……。
「でもさ、不思議って言えば、カイリって……不思議だよなー」
それまで黙々と朝食を取っていたディーが口を開いた。……と言うより、山のようにあった皿がすっかり空になっている。食べ尽くして、暇になってしまったというのが正直な所だろう。
「カイリが不思議……うむ、確かに不思議な子だったな」
リョウヤの印象は、不思議と言うよりは『懐かしい』だったのだが、敢えて話の腰を折るような事はしなかった。
「そうねぇ、綺麗で、可愛くて……でも、何処か……寂しそうな子だったな」
まるで、その背に翼が有るかのようだった。そしてあの、頑なな、寂しい瞳……。
「そうだな。でも、アレは恐ろしい力だ……。幸い、あの子はバカが付く程優しいからいいけどよ」
だが、その優しさが意味しているのは、あの子の歩んできた道が茨の道だった事を容易く想像させる。
「……カイリって、怖いのか?
風みたいな感じで、魔法が得意で、えっと……一緒にいるとあったかい、んだけどな////」
カイリの事を思い出すだけで、また体が温かくなる。
「おーおー、一人前に恋煩いか? 確かにカワイーし、優しーし、かなりの美人だけどよー。
……でもあの子は残念ながら男の子だぞ?」
ニヤーリと意地悪く笑うスタンに、少年は食ってかかる。
「ばっ……変な風に言うなよ! そんなんじゃ、無いってばッ!!」
更に向かい側からも……。
「あら~、でもカイリくんって女の子に負けないくらい綺麗だったもんねぇ~。
わかるわかる~。青少年よ、今の内に悩んどきなさいね~」
追い打ちをかけるシェリルの言葉に、真っ赤になってディーが反論する。
「もー、しつこい! そんなんじゃ無い!!」
それが“からかわれている”のだと判っていない所が、まだまだディーが子供だという事なのだろう。相変わらずな光景に、リョウヤは呆れながらもサラダをつついていた。
* * *
「あ、そーだ! あのさ、写真撮らない?」
唐突な提案に、保護者3人組は一瞬呆けてしまった。
「……は……写真?」
「そ。ここ、折角自然がいっぱいだし。まだみんなで撮ったこと無いしさ。……ダメかな」
と、形こそお伺いを立ててはいるが、リョウヤを見る目は『絶対撮る!』と意思表示している。
「……う~ん。さすがに建物の中は許可が下りないだろうなぁ。ある意味、此処は機密中の機密的な場所だから」
渋い顔で唸るリーダーに、少年は切り返す。
「じゃあ、外なら良いんだよね? あの、草原とかさ」
「まぁ、食い終わったら聞いてみるよ。……でも、あんまり期待はするなよ?」
「うん、お願いします!」
と、言いながらもうディーはすっかり撮る気満々だ。
果たして。
世話係と称して付けられている監視役の者に、ダメ元で聞いてみると意外とあっさりと許可が下りた。
「驚いたな。まさか、許可が下りるなんてな」
「とは言え、建物が写り込まないように注意してください。……それから、コレもお貸ししますよ」
と、差し出されたのは今となっては骨董品の域に達すると思われるポラロイドカメラ。
「へ? ……うわっ、これ、動くのかい?」
受け取る手が、ちょっと緊張する。
「……動きますよ。中身は外の最新鋭の物より性能は上なんですから」
「成る程。レトロなのは外見だけ、か。じゃあ、有難く貸して貰うよ」
「おい、みんな、許可が下りたぞ~」
「やった! 行こ行こっ!」
はしゃぐディー。
「あの忍者組織が良く許可したなぁ」
驚くスタン。
「何処で撮るの~? 私、撮りたい場所有るんだけどな~」
喜ぶシェリル。
「そんな場所あるのか? 何かみんな思ったより馴染んでるなぁ……」
意外そうなリョウヤ。
「えっとね、草原に大っきな木が有るじゃない? カイリくんと会った所なの」
「もしかして……ご神木の所か? 撮りたいのは山々だけど、昔から俺、あそこには近寄れないんだ……。お前良く近くまで行けたな?
あそこは神気が充ちていて、普通の人間は近寄る事さえ出来ないってのに」
あそこに行くと頭痛がするんだ、とリョウヤはごちる。
「そうなんだー! 何かカイリくんもそんな事言ってたっけ。じゃあ私、すごいんだ~」
素直に喜ぶシェリルに、スタンのツッコミが。
「てゆーか、なーんも考えてねぇからじゃねぇの?」
「あ、ひっどーい! スタンってば! 私だって色々考えて……」
ぎゃあぎゃあとケンカをし始める二人に辟易しながら、リョウヤは貸して貰ったカメラの操作を確認する。幸い、昔取った杵柄か、一通りの操作は判る。
「ねえ、リョウヤ、何枚撮れる?」
「え、ーと、12枚……だな」
「そんなにあるんだ! 早く行こう! あ、……」
何かを思いついたのか、ディーはまたも縋るような目でリョウヤを見上げている。
「どうした、ディー……?」
「ワガママついでにさ、カイリも一緒に写真撮れないかな?」
「え? ……ホントにお前は我が侭だなあ。それこそ、ダメ元だぞ? 一応聞いてみるけど」
と、リョウヤも少々期待を込めてもう一度世話係に聞いてみる。
「何だ、あんた達、あいつを知ってるのか」
世話係は、あまり歓迎しないような口振りだった。
「……あの顔に騙されちゃダメだぜ?
あのガキはああ見えて、死神か悪魔だ。関わり合いにはならない方がいいと思うけどな」
聞くだけは聞いてやるよ、と世話係は姿を消した。
「なーに、あれ? 感じ悪ーい!」
「そーだよっ! 何だよ、あいつー!」
憤慨する二人に、男二人は無言だった。スタンはカイリがそう呼ばれる訳を知っている。
誰も太刀打ち出来ない『実験体』を、術刀・黒龍を携え狩っていく―――。
それも、まだあんなに幼い少年が。
他人から見れば、死神に見えたとしても責められない。
人間とは、己の理解を超える物に対して畏怖や否定の感情を抱くように出来ている生き物だと、スタンは常々思っている。
例え、その恐れの感情が……本人にとって言われ無き物で有ったとしても、甘んじて受け入れなければならないのが、超常の存在としての宿命だとも。
押し黙る魔術師に、リョウヤは労るような視線を投げていた。
そこへ世話係が戻ってきた。
「あのガキは今、訓練中だそうだ。そうだ、あんた……元は此処の人間なら知ってるだろ?
何でも月護のヤギヌマさんがあいつを弟子にとるんだそうだ。
あの人も、あいつの可愛い顔にやられちまった口かな? あんな硬派な人でも転んじまうなんてなぁ」
それ以上、下衆な話を聞きたくなくてリョウヤは3人をせき立てた。
「ほら、みんな、行くぞ!」
「はーい♪」
今日もまた、草原には爽やかな風が吹いている。
「あー、やっぱり、気持ち良いー!」
ここに来てからディーに笑顔が戻っていた。
孤児院のみんなと別れてから、次第に沈んでいくのが判っていた。
気にはなっていたものの、大人達にはどうしてやる事も出来ずにいたのだが……検査がらみとは言え、連れて来て良かったと、心から思う。
「さぁ、撮るぞ……って、三脚無いんだな」
ディーのご希望は4人揃っての記念写真だった。考えた末、さっきの世話係を引っ張ってきた。
「何で自分がこんな事まで……」
とブツブツ文句を言うのを宥め賺してシャッターを押させる。
「……じゃあ、撮るぞー。はい、チーズ!」
暫くして、カメラからべべべーっと吐き出された写真には、極上の顔で写った4人が居た。
全員が笑顔という訳ではないものの、個人個人の特徴がよく撮れている。
「へぇ、流石だな。最新鋭のデジカメにだって負けねぇくらいじゃねーの?」
スタンが覗き込みながらご尤もな感想を述べる。
元来の目的が忍者の潜入捜査用に造られた物だろうから、市販の物と比べる事自体、担当者が聞いたら激怒モノかも知れないのだが。
「へへへー、言ってみて良かったぁ。これ、俺が貰っていい?」
少年は本当に嬉しそうにその写真を眺めている。
「ああ、良いよ。ディーが言い出したんだしな」
「ねぇねぇ、リョウヤ! 私も欲しいーっ!」
見ていたら自分も欲しくなったのだろう、シェリルが駄々っ子のように欲しい欲しいと言い出す始末。
「え? ……仕方ないなぁ。まだフィルムもあるし、もう一度撮るか」
「どうせなら、全員分撮ろうぜ。んで、みんなで一枚づつ持ってようや?」
珍しく建設的な意見だと思ったら、スタンも単に自分の分の写真が欲しいだけのようだった。
ディーの所有物である一番初めの写真をまだ眺めている。
「判った判った。じゃあ、あと三枚だな?」
苦笑混じりにリョウヤが確認すると、しっかり3人分の返事が帰ってきた。
彼らが写真を撮り終え、この星を後にしたのはその日の夕方のことだった。




