《過去編》 4-15 交わした約束 ディー その3
漸くちびっ子ライト再登場という話。
15.交わした約束 ディライブ・エルズワース その3
「ねぇ~、まだ終わんねーのー? 眠くなってきちゃったよ~」
消毒薬の匂いが染みついてる。俺、この部屋好きじゃない。
「あともう一つだよ。採血が済んだら終わり」
「えー?! 『さいけつ』って、また血取んのっ?! さっきも取ったじゃん!! なんでっ?!」
口の悪い医者だなぁ、そんな極太なだけの注射器なんか、俺、何とも思っちゃいねーんだからなっ。
「ははーん、さてはお前、注射が怖いんだなぁ? だっらしねぇなぁ。」
な、なんだよその人をバカにしたよーな目つき!
「こ、怖かねーよッ!!」
「だったら、さっさと腕出しな。そろそろ常連さんが来る頃でな、オレもチンタラやってられねぇんだよ」
偉そうな所はスタンと張りそうな、その若い医者は、随分と慣れた手つきで圧迫用のゴムを結び、アルコール消毒する。
つぷっ。
「いっでぇッ!!!」
「なーにが痛ーんだよ。一人前なのは口だけかぁ?」
見る見る血液が吸われていく。
「オレの知ってる子なんざ、顔色一つ変えねぇぞ?」
嘘だろ~っ?! コレ痛がんねー奴は、ぜってー人間じゃねーっ!!
「しょーがねーだろッ、痛ーもんは痛ーんだからっ!!」
「ほらよ、終わりだ。よく押さえとけよ」
うわわっ! 分かったから、髪をぐじゃぐじゃにすんなって。
「よーし、もう行っていいぞ……って、お迎えが来るって言ってたか?」
「……そーだけど、ホントに来んのかなぁ? だってスタンだしなぁ~」
そこへ、タイミング良く(?)誰かが入ってきた。
「オレ様が、なんだってぇ~?」
ドキぃっ。
「げっ!!! その声は……」
恐る恐る出入り口の方を振り返ると、スタンが立っていた。
「……で、オレ様が何だって? あぁ、ディー?!」
「う………何でも、無いですぅ………あれ?」
え、スタンの後ろに居るの、カイリか?
「……カ、カイリ? 何でこんなトコに……」
「何だ、お前ら知り合いか? ここまで案内して貰ったんだけどよ?」
スタンが不思議そうに俺達の顔を見比べる。
「友達になったんです。今朝は、ゴメンね、ディー……」
俺のこと置いて帰ったのを気にしてるみたいだ。
「あ、いいんだ、全然、気にしてないからっ!!」
なんか俺、カイリに弱い……みたいだ。か、顔がホカホカしてきた。
「さぁ、ディー。色気づいてねぇで、リョウヤ達んとこ戻ろうぜ」
「ば、何言ってんだよ!!」
す、スタンの奴ッ、何がそんなにおかしいんだよ? ニヤニヤしやがって、こんな奴無視だっ。無視無視ッ!!
「あ、あのさ……また、逢えるかな? カイリ」
「逢えるよ。絶対。」
見た感じ、カイリってちょっと、頼りなさそうな感じなんだけど、しっかり返事してくれたから、すんごく嬉しかった。なんか、余計にホカホカしてくる。
「そうだよな! じゃ、またな!」
「うん、またね」
こーゆーのが、良いムードってやつだよな~。……だったのに、スタンの奴、げしっって俺の足を蹴りやがった。
「いってーなっ!! 何すんだよ、スタンっ!!」
スタンは俺を横に押しのけて、カイリのほっぺたにちゅーしたんだっ。何ていってたのかは、俺には聞こえなかったけど、カイリは擽ったそうに笑っただけだった。
「ほら、ディー、いつまでもブーたれてねぇで、帰るぞ」
そう言ってスタンは、一人でさっさと部屋を出て行こうとする。
「あ、ああ?! 待てよ、スタンッ!! ご、ゴメン、カイリ、じゃあまたな!」
カイリの事は気になるけど、置いて行かれると道が分かんないし、慌てて気ままな仲間を追っかけて行くしかなかった。
俺とスタンの騒々しい様子を、手を振って見送っていたカイリは小さく呟いた。
「また……逢えるよ、ディー。―――必ずね。」
俺には決して届くことのない、小さな囁きだった。




