《過去編》 4-10 成功例にして失敗作は死の夢を見るか? スタン その5
バケモノにスタンが”選ばれた”理由の話。
10.成功例にして失敗作は死の夢を見るか?
シュターニスラウス・オーベルシュタイン その5
「ゴメンね、キミは何も悪くないのに………」
『カイリ、これはお前が気に病むべき事ではない。……ないのだ、カイリ』
「……黒龍は、いつも優しいね。じゃあ、この子を命の円環へ返してあげよう」
術龍がいつの間にか刀から龍形態へと戻っている。
『ああ、そうだな。』
「………“還流”」
光球は、少年の手の中で完全に波動を変え、最後には光の飛沫となって霧散した。
浄化、しちまった………?!
単に命を絶つだけなら、誰にだって出来る。容易い事だ。
だが……、その命を絶つ際に、対象の持つマイナス感情―――つまり恨みや憎悪、悔恨といった持っているべきではない暗い感情をキレイさっぱり跡形もなく消し去っている。
『輪廻』思想を持つ忍者にしてみれば、恨みを残して死んだ者の魂は、悪霊となり現世に残り悪影響を与えるのだという。だから、今のカイリの方法は一番最良な処分の仕方と言ってもいい。
しかし………。
「………」
なんて……なんて「力」なんだ……。この子は、決して『精霊魔法使い』なんかじゃあない!
そんな枠で、計れるような「力」じゃない!!
「あ、すいませんっ! 大丈夫ですか?」
少年は慌てて駆け寄ってくると、座り込んだままのオレの前にしゃがみ込んだ。
まじまじ見てみると、この子はお姉ちゃんのカイエ以上に顔が良い。
十年も経ちゃあ、それはそれはオレ様好みの美人さんになるに違いねぇぞ。
……惜しむらくは、まぁ、その、男だって事くらいだな、うん。
自分と同じ作りのモンを愛でるのはイマイチ面白くねぇもんなぁ。
「ああ、大丈夫だ。それにしても……あのバケモノは何なんだ?」
「………………」
辛そうに俯いてしまう。
「……どうも、あいつはオレ様を“選んだ”ような気がするんでね」
オレ様の言葉は間違ってはいなかったようで、少年はぽつりぽつりと話し出した。
「……そうです。あの子は、あなたの連れている精霊達を吸収しようとしていたんです」
「……契約精霊を、って意味か?」
少年はコクンと頷いた。
「あの子達は……既に誰かと契約している精霊しか、奪うことが出来ないからです。
また、そうすることでしか自らの力を上げることが出来ない。
そして……あの子達は、精霊魔法使いの血肉でしか、飢えを満たせない」
「そんなバケモノが、どうしてこんな所をウロウロしてるんだ?」
「装置の不調で、冷凍保存の温度が上がって逃げ出してしまったんです」
成る程、事情は分かった。だが。
「じゃあ、教えてくれ。そもそも、あいつらは何者なんだ?
どうしてキミは『あの子達』なんて呼び方をしてるんだ?」
「……誰にも言わないって、約束してくれますか?」
少年の瞳は、悲しいくらい真摯だった。強い意志を宿した、澄んだ蒼の瞳。
「ああ、約束は守る」
オレ様の言葉に少しだけ安堵の色を見せて、少年は言葉を繋いだ。
「あの子達は……ボクの兄弟みたいなものだから……」
「要するに、実験体ってコト、だな」
少年は『実験体』という言葉にビクンと反応する。
「……はい」
「お姉ちゃんは……カイエはこの事を知ってるのか?」
「―――どちらを、ですか?」
「両方共さ。こいつ等の存在と、“処理者”としてのキミの事」
「知りません」
きっぱりとした回答だった。
「どっちも?」
「はい。知らせたくも……無いですから」
それは少年なりの、姉に対する思いやりなのだろう。
「それにしても、カイリ。お前は……いつもあんな、自分に負担の掛かるやり方をするのか?」
「え?」
「対象のマイナス感情を無くしてやってから、魂を昇華するなんて、今の……子供の肉体でしかないお前には、幾ら術龍のサポートが有るとはいえかなり過酷なオーバーワークだろ?」
あんな力の使い方をしていたら、大人になる前に肉体の方が参ってしまう。
「だけど……あのまま……殺してしまうだけなんて……あの子達があんまりにも可哀相だから……」
……優しすぎる。“処理者”としては致命的なほどに。
「だって……折角この世界に生まれてきたのに。訳も分からないままメチャメチャにされて、用が終われば廃棄処分か、冷凍保存………。
たくさんの子達が生み出された事を怒り、嘆き、泣いてた………。
ボクはもう何十人、何百人もの子達を『処分』と言う名目で……殺してきた。
その時、いつもみんなの声が……聞こえるんだ。
『どうして創ったの』って。『早く殺して楽にして』って……っ」
俯いたままボロボロ涙をこぼしていた。張りつめていた糸が切れたように。
声が、子供本来の高いソプラノへと変わっていった。それは、強い自己制御が溶けていく様でもあった。
「……ボクだって……こんな事したくないのにっ!
『どうしてお前だけ』だなんて、そんなのボクにも分からないのにっ!!」
何もかもを、背負わされて、受け止めて……この子はこの小さい体で何処へ行こうとしているのか?
オレ様は、ふとある考えがよぎった。ひょっとして、この子は潜在的に『死』を望んでいるんじゃないか、と。おそらくは、本人も気付いていない深層心理で。
『最初で最後の成功例にして、大失敗作』カイエの言葉を思い出す。
成功例にして失敗作。それはもしかしてこんなにも強大な力を持ちながら、『忍者』という、至極機械的な思考体系を持てずにいる事を、意味しているのではないのか?
「カイリ、お前は……」
「何ですか?」
慌てて涙を拭って、真っ直ぐに見つめてくる。
「いや。……悪い、何でもねぇ。ああ、そうだ。第13研究室って何処か知らねぇか?」
「あ、ボク、丁度これからそこに行くんです。良かったら、ご案内しましょうか?」
「おお、サンキュウ! 助かんぜ」
実の所、教えられた道は覚えていたが、もう少しこの少年と話してみたかった。
「はい。じゃあ黒龍戻って」
そういって、少年はすい、と左手を持ち上げた。その細い少年の手首には何とも厳つい装置がつけられている。
「へぇ、いつもはそいつの中にいるのか」
黒龍はすぐには戻らなかったが、やがてすうっと装置の中に消えていく。
「そうなんです。体の中にそのまま入ってると、黒龍を召喚するだけで体力使っちゃうから、ボクが大きくなるまではもう暫くこの中に。でもすっごく嫌がるんです、黒龍……。
なんだか居心地悪いらしくて」
「確かに同じ立場だったら、そんな中に入んのはオレ様もゴメンだな。
やっぱ、中に挿るならお前みたいな美人の中じゃないと」
「え、そうですか? あはは、嬉しいな」
……やっぱ、お子さまには通じねーかなぁ。トホホ。




