《過去編》 4-7 邂逅/魔導の申し子 スタン その2
スタンがカイエと出逢った話。
07.邂逅/魔導の申し子 シュターニスラウス・オーベルシュタイン その2
■ 姉 カイエ ■
昼前になって、研究室から食堂への道を教えて貰って一人で歩いていたら、見た目はオレ様と同じ位の女の子が通路の向こうの方からこちらを見ていた。
オレ様は全然知らない女の子だったから、後ろに誰か居るのかと振り返って見たけど誰も居やしねぇ。
……じゃあ、オレ様か? まいったなぁ……オレ様はこんなナリだが、ロリコンのケはねーんだよなぁ。でも、タイプとしては超オレ様好みだから、もう十年くらい経ってから逢ってみたいよなぁ~。
女の子はずっとこちらを見ている。
だんだん距離が縮まるにつれて、オレ様は……軟派な事を考えていた自分に舌打ちした。
重苦しい、圧力。
それは同種の『力』をもつ者同士しか分からない感覚だった。そこそこ永い人生だが、今の今まで、これ程の圧力を感じたことはない。
動悸が早まる。
喉が乾く。
肌が粟立つ。
……本能が、警鐘を鳴らしている。
それは、生まれて初めて感じる、『同種』への“恐怖”。
長生きはしてみるモンだ。
自分以上の能力を持つ者との出逢いは後にも先にもこの日が初めてだった。
……だがたった一日に二人もそんな存在と出逢うとは想いもしなかったが。
「あなた……私やカイリと違って、本当の子供じゃないのね。
すごく長生き……そう、本当は600年以上生きてるんだ。すごい」
「……お前は? 幾つなの?」
取り敢えず、少女に敵意はなさそうだ。一応安心したら、好奇心がわいてきた。
「私は……まだ7歳。本当の7歳よ。だけど、よく子供らしくないって言われる」
確かに……言葉も、仕草も、並みの7歳とは大きく違っている。
かろうじて、その姿だけが7歳という彼女の実年齢を表していた。
「そうだな。普通、7歳ってもっとガキだもんな。
目瞑って一緒にいたら、もう十五、六にはなってる感じだ。
名前を聞いても良いかな?
オレ様はシュターニスラウス・オーベルシュタイン。
自分でも言いにくいんでな、スタンって呼んでくれれば良い」
少女は気付いたように少し頬を赤らめると、笑顔で答えた。
「私、カイエ……カイエ・ミカナギっていうの」
「カイエか。……なぁカイエ、お前は……その……」
オレ様は自分の聞こうとしている内容があまりにも露骨すぎてらしくねぇ程躊躇してしまった。
しかし彼女は察したらしく、寂しそうに微笑んだ。
「そう、私たちは……人工的に能力を付加されるように操作されて生まれてきた実験体。
最初で最後の……成功例にして最大の失敗作なんだって」
賢い子だと感じざるを得ない。
「……すまない。……詮索するつもりはない、とはいえないか。
オレ様自身、お前程の能力者に出会った事は未だかつてねぇ。
はっきり言って興味深い」
カイエは嫌がると思ったが、存外涼しい顔をしている。
「あなたは、心を偽らない人……。他の人みたいに、本音では私に悪意を持っていたりしないもの」
嫉妬、軽蔑、羨望……。
様々なマイナス感情を包み隠して、上辺だけ猫なで声で話し掛ける。……周囲の彼女に対する接し方が浮かぶようだ。
「だから、いいよ。知りたいことって何?」
「……そうだな、まずはお前のその能力の強大さには何か秘密があるのか?」
一般的に精霊魔法という魔法は、四大精霊の中からたった一種類だけ、最も相性のよい精霊を選び『契約』を交わす。
契約完了後は術者のキャパシティによって『保持』する精霊の数を可変出来るようになるので、使用する魔法の規模に応じて追加契約したり、時によっては契約解除したりもする。
常時契約している精霊数は、ごく普通の術者で3万から5万。世間様では『オーバークラス』と称されるオレ様でさえ今現在は8万といった所だ。
だが、彼女は……どう軽く見積もっても10万を越している。
しかも、恐ろしい事に四大精霊それぞれ全てを10万ずつ契約している。
それは要するに、精霊を力の源とする魔法は総て、何の支障もなく、使用出来るという事を意味している。
それが、どれ程迄に絶大な力かを、ここでオレ様が力説しても始まらないが……。
あーいや、やっぱ止めておく。
しかし、こんな小さな女の子の何処に、それ程の数の契約精霊を統べる力が備わっているのだろう?
「私のママは、ここで一番の術者だったの……そして父親は、ママの実の兄……」
やっぱりな……。ベースは血脈の、……それも純粋培養の産物か。
確かに忍者ほどの能力者の中での近親交配なら、あり得ない話ではない。
「それにママのお腹に入る前も、居る時も、遺伝子や頭の中をいじくり回されていたんだって。
お陰で、弟のカイリは最初、産声も上げないし、死んでるんじゃないかって思われたんだって。」
少女はまるで第三者の事でも語るように淡々と話してくれる。それが逆に、酷く可哀相に思えた。
「生まれてからも……ずっと、そう。……私は研究室で生活してるし、カイリは家にいるけど、毎日私とは別の研究室に通ってるもの」
「寂しくない?」
「寂しくなんか、ないよ。……っ嘘! やっぱり……寂しい。
けど、仕方ないの……そうしなくちゃ、私たちは生きていけないもの。
大切なカイリを、護ってあげられなくなる。
お互いに、そう思ってるから……今はまだ、生きていたいから、ガマンできる」
どうして、こんな小さな子がこれ程の想いを抱いて生きなければならないのだろう。
世間の7歳なんて、もっと、バカでお気楽で……それこそ、その日一日を楽しく過ごすことだけを考えてるっていうのに。
「他には……何かある?」
「じゃあ、精霊との契約はいつ頃した?」
7歳でこの数の契約量は、思わず笑っちまうほど凄まじい。契約の儀式は恐らく気が遠くなる程の時間を要したはずだ。
「契約? ええっと……一番最初は覚えてないけど赤ちゃんの頃かな?
それからだんだん増やしていって、今の状態になってるの」
「成る程ね。追加契約は簡略化されるから、時間も少なくてすむもんな」
「……でも……」
少女はちょっと納得できないと言いたげな表情を見せる。
何だろう?
「でも、何だ?」
「弟は……全然契約なんかしてないのに魔法使えるのよ。ふこーへーだよね。よく分かんない」




