《過去編》 4-5 暑い日、忍者の里にて…… シェリル
忍者の里で一人置いてけぼり喰らったシェリルの話。
……昨日は死んでましたが取り敢えず復活しました。
05.暑い日、忍者の里にて……シェリル・ブラウエン
―――退屈だなぁ。
『闇の調停者』こと忍者組織に、ほんのちょっと興味があって、無理矢理リョウヤにくっついて来ては見たけど……。
完全部外者の私には『立ち入り禁止区域』が多過ぎて楽しくない。
しかもよ? ここは一応来客用の建物らしいからいいんだけど、組織の本部が置かれている『本殿』って区域には至る所に侵入者除けのトラップが仕掛けてあって、知らずに歩こうモノなら一発で引っかかってあの世行きっ! てこともあるらしい。
……そんなモン、作んなぁ! ハタ迷惑な。
まあ、そんな感じでいつものメンツと喋って気でも紛らわせようかと思ったのに、何とだぁ~れも部屋に残ってないんでやんの。
どーゆー事よ?! 昔関係者だったリョウヤが、どこか出かけるのは分かるにしても……何で私と同じ『完全部外者』のスタンとディーまで居ない訳?
……ったくぅ。ちょっと起きるの遅すぎたのかなぁ?
だって、ホントに気持ちよくて、ぐっすり寝た気がする。たまにはこんな大地の重力のある場所で眠るのも良いもんだわ。
とはいえ、ここはリョウヤの話によると『人工の星』らしいんだけど。
そんなの、どーでもいーわ。
ここの環境は気持ち良い。それでオールオッケーよね。幾ら重たい歴史があろうとなかろうと、この星の今の環境が成立してるなら、それすらも受け入れるしかないじゃない。
それがいやなら、出て行けばいい。自分の人生は、自分が決めるモノなのだから。
例えそれが、生死を分ける分岐点だとしても。
私は……そうして生きてきた。少なくとも、自分に恥じる生き方だけは、してないわ。
……って、あれ? なんか脱線しちゃったわね。
取り敢えず、案内板を頼りに食堂行って、ちょっと遅めだけど朝ご飯食べてこよーっと。
おなか空いてるとロクな考えが浮かんでこないっていうの、ぜぇ~ったい本当だから。
ああ、でもみんなの食事作らなくていいのは楽だわ~。最初、交代制って言ってたのに、リョウヤもスタンにしても、全くと言って良い程に料理が美味しく出来なくて、必然的に私の専任になっちゃった。
もしも、もしもよ? 私が料理するの下手だったり嫌いだったら…って考えただけでもゾッとする。来る日も来る日も合成食品の毎日なんて、目も当てられないわよね。
あ、美味しい。昨日も思ったけど、ここって食べ物が美味しい。
やっぱり添加物てんこもりじゃない天然の食品は味が違う。
だけど…何なのかしら? 変な目で見られてる気がするのよねぇ。極めて普通なのに。
ひょっとして、私が部外者だからかしら? きっとそうよね。
(本当は山盛りになった皿が8枚も彼女の前に並んでいるからなのだが……。ちなみにその横には既に平らげたと思われる空の皿が9枚も置かれている……)
さてと、お腹もいっぱいになったし、天気も良いから外に出てみよう。
渡り廊下から外に出ると、広い広い草原が広がっていた。柔らかな草がさわさわと風に揺れている。気持ち良い風。
ここは……本当に精霊が多いんだわ。
この“世界”は、精霊の力がなければ生命を育むことが出来ない。もし、星の精霊力のパワーバランスが崩れれば、瞬く間に人は愚か昆虫や植物さえ生きていけない環境になってしまう。
空は青く晴れていて、ちぎった綿のような白い雲が浮かんで風に流れている。
いま、この星の気候設定は「夏」なのだそうだ。どうりで日差しが強い。
ふと、見渡すと少し離れた所に大きな木が2本、競い合うように枝葉を広げている。私は木陰の涼を求めてそこまで小走りに走っていった。
近寄ってみると、木はその太い幹に奇妙な紙のぶら下がったロープが掛けてある。
普通の木じゃ、無いみたいね。
それに、何だか……この辺りだけ空気が違う感じがする。単なる木陰というだけではない、雰囲気がある。その上、2本だと思っていた木は、根本の方から分かれて伸びた、すんごく古い年輪を重ねた一本の大木だった。
「すっごぉぉぉい!」
呆然と見あげていると、ふと、何かが目に止まった。
―――子供……?
どうやって登ったのかと思うような遙か高い枝に子供が一人、座っている。
あら? 向こうも私に気が付いたみたい。突然、椅子から立ち上がるように、座っていた枝から乗り出した。
「あ、危ないっ!!」
思わず声を出して手を伸ばしていた。でも、私の心配はあっけなく空振りした。
その子は、背中に見えない翼でも有るかのようにふぅわりと私の横に降り立った。
うっわぁ……なんてキレイな子なんだろう。そこいらのアイドルなんて、メじゃないわ!
「………」
私としたことが、起こった事とその子の超美少年ぶりにあんぐりと口を開けて言葉もなく見つめちゃってた。
「お姉さん……よくここまで来られたね」
わぁ、綺麗な声。……じゃなくって……。
「え……?」
「ここは……この御神木の『神気』が満ちているから、普通の人はこんな近くまで入って来られないんだけど、お姉さん凄いね」
少年は、少しはれた目元を乱暴に拭う。普通の人間がやって来ることのないこの木の上で、この子は泣いていたのだろうか。たった一人で、どうして?
「私、シェリル・ブラウエン。キミは?」
「ボクはカイリ……カイリ・ミカナギ。」
「聞いてもいいかな? ……どうして泣いてたの?」
不思議な少年だと思った。あまりにも……違う。私たちとは違う次元の住人のようで。
風……。静謐な、風だ。
「と……父が、死んだと……掟で確定してしまって……」
初めは「とうさん」と言いかけたのだろう、でもすぐに言い直す。
幼いと表現できる年代の子供なのに、悲しいくらいにしっかりしている。
「そっか……でもカイリ君、キミ、まだ小さいんだからこんな所で隠れて泣かなくてもいいと思うけどな。そんな人前で泣けなくなるのはもっと大人になってからでいいのよ」
「……うん……でも……弟の前じゃ……泣けなくて……」
少年は辛そうに表情を曇らせると言葉を継いだ。
「弟の前じゃ、情けないトコとか弱気なトコなんか、見せたくなくて……」
「カイリ君って強いのね」
「そんなコト……ない……。一人になっちゃうと、やっぱり……」
また涙が溢れてきたのか、慌てて目元をこする。
「いいのよ、それで。私が許してあげる。今は思いっきり泣きなさい」
「………」
カイリ君は潤んだ瞳で私をじっと見つめていた。
と、遠くで鐘の音が聞こえた。恐らく時を告げる鐘なのだろう。ここへ来てから何度と無く耳にしている。
「ああ、もう、行かなくちゃ……」
また、目元を拭うとカイリ君は私を振り返った。
「お姉さん、いい人だね……。……『お母さん』ってお姉さんみたいな人なのかな?」
……え……?
「カイリ君……キミ、お母さん居ないの?」
少年は、背を向けて駆け出す間際に答える。
「ボクには……」
「ボク達には、最初から『お母さん』なんていないから……」
何故か、酷く頑なな言葉を残して、カイリ君は私の前から走り去っていった。
* *
私が、不思議な少年……カイリ君と会ったのはその時一度きり。
だけど、どうしてだろう? 酷く心惹かれる『何か』を感じた。
それは、後のリョウヤの言葉を借りれば、“予感”ってヤツだったのかもね。
……うふふ。こんなギリギリの最期の時にこんな昔の事を想い出すなんて。
私って結構責任感が強いのかもしれないわ。
こんなこと、ディーの目の前で言ったらなんて言うかしら?
『何言ってるんだ』なんて怒り出しちゃうわよね、きっと。
今となっては……あの子と、それからまぁ、ついでにウチのディーの未来が平穏であるようにと祈るくらいしか、もうしてあげられることがない。
御免なさい……保護者の癖に、見護ることすら出来ない私たちを……許して。
そして……私たちの分まで生きて。そう。出来るだけ悔いのない人生を。
最期に……今まで楽しい時間をありがとう、ディー。
……そして、さようなら……永遠に――――――。




