《過去編》 4-4 道を違えし者の懸念 リョウヤ その2
リョウヤの里帰り話の続き。
……すみません、昨日は寝落ちしてました。
04.道を違えし者の懸念 リョウヤ・ヒイラギ-その2
滞在している間、あてがわれているのは来客用の離れだが、そこへ戻るまではかなりの距離がある。途中、道場の側を通りかかった時に名前を呼ばれた。
「おーい、リョウヤぁ!!」
のんきに手を振ってる見慣れた顔がこっちに走ってくる。
「……シェリル……」
「ねぇねぇ、私さっきすっごい美少年見ちゃったッ!!」
………。第一声がそれか、シェリル。………頭痛がしてきた。
「お前、何処に行ってたんだ?」
「それよか、何、この真っ黒い服? カラスみたい」
人の話を聞いてないよ、全く………。
「いや、遠縁の親戚で不幸があってな。葬儀に出席してたんだ」
俺たちは、商売柄色んな風習に出会う。だから、シェリルも俺の故郷の冠婚葬祭は知識として頭に入っている。
「あ……“喪服”なのか。ゴメン」
途端にしゅんとしてしまうシェリルに、何故だか安心する。俺の居場所がもう、この星では無い事を感じられたからかも知れない。
「で、何だって?」
「ああ、そうそう。さっきね、超絶美少年と喋っちゃった!!!」
「おいおい、またか、シェリル……」
ほんっとーに嬉しそうだな。昔から『かっこいい』とか『かわいい』とかいう、顔の良い男には目がないんだから。顔さえ良ければガキだろうが、オッサンだろうが見境ないのも問題だよなぁ。
この間なんか仕事そっちのけでアイドルのコンサートに行っちまって、居所探して連れ戻すのに随分苦労したもんなぁ………。何とかならないモノだろうか……って、こんなのは今はどうでもいいか。
「あー、可愛かったなぁ~。ウチのガキん子達もあれくらい可愛いといいのにぃ~」
なんてぼやいているシェリルに、『ガキん子達』って言っても片方はお前より遙かに年上なんだぞとツッコムよりも先に溜息が出てしまった。
そんな時だ。また俺を呼ぶ声が聞こえた。
「……お前、リョウヤ? ……リョウヤ・ヒイラギか」
振り返るとそこにはもう一人の大恩人であるサヤカゲさんが立っていた。
「戻っているというのは本当だったんだな」
「……はい、ご無沙汰しております。」
何となく、会いたくない気分だった。
「十二年振り、か……元気そうでなによりだ。活躍の話も良く聞こえてくるしな」
「ありがとうございます。何とか生きてます……」
「それでこそ、里を出た甲斐があるってもんだ。……頑張れよ」
サヤカゲさんは俺の肩を軽く叩いた。
「………しかし十二年振りの帰郷がアイツの葬儀の日とはな」
俺は黙ってしまった。里に残っているにも関わらず、親友の葬儀に顔も出さないなんて。
「そんな目をするな。……言いたい事ぐらい分かっている」
「分かっているのなら、何故……!」
責めるような俺の語調にも、サヤカゲさんは平静だった。
「……なら、お前はアイツが死んだだなんて話を、ロクな証拠もなしに信じられるのか?」
「ッ! ………いいえ」
「葬儀に出席してしまえば、ヤツの『死』を認めてしまうような気がしてな……。
俺にはどうしても、納得がいかない。だから、葬儀には行かなかった」
……ああ、そうか。冷たいんじゃない。この人達は今でも親友なんだ。
「それに、あんな飾り物の祭壇には、誰もいやしない」
カイリ少年と同じような事を言って、サヤカゲさんはほろ苦く笑った。
「相変わらずですね、サヤカゲさんは」
皮肉屋というか、素直でないというか、この人には昔からそう言う所がある。
「そうそう変われるか。それに、その言葉そっくりそのままお前に返してやるよ。
お前こそ、少しも変わっていない……本当に。バカ正直というか、融通がきかないというか」
「それが、俺の取り柄兼、短所ですからね。仕方ありませんよ」
あはは、と笑ってみせるとサヤカゲさんもこの人独特の笑みを見せる。
「……本当に、あの時はお世話になりました」
「全く、そう恐縮するな。今のお前は、俺達が最初っから諦めちまった『自由』ってもんを体現した成功者なんだぜ?」
「………サヤカゲさん」
返す言葉がない。
「それより、お前……葬儀に出たのなら、カイリを知らないか?」
不意に、思いがけない名前を聞いた。
「カイリ? シュウガさんの息子の……」
「そうだ。ちょっと、話したい事があってな。探しているんだが」
あの、シズカさんによく似た面立ちの少年…。
「まだ葬儀場に居ると思いますが……。それより、サヤカゲさんっ!!」
俺は、食ってかからんばかりの勢いでサヤカゲさんの名を呼んでいた。
「―――何だ?」
「あの子は……いえ、あの子達は本当にシュウガさんの子供なんですか?!」
「何が言いたいんだ、リョウヤ?」
しかし、まるで問われるのが分かっていたようにサヤカゲさんの声は冷静だった。
「だって……あの子達は……あまりにも………」
思わず、黙り込んで俯いてしまう。俺は、こんな事をハッキリさせてどうしようと言うんだ?
過去の、淡い想い出を自分の手で叩き壊そうとしている……。
「『あまりにも、似すぎている』か?」
見透かされている。
「………はい……」
「リョウヤ、お前は組織を抜けた人間だ。余計な事は詮索せん方が身の為だな」
冷たい、拒絶の響きが多分に含まれたサヤカゲさんの言葉に、それ以上の追求は許されないのだと理解した。
「もう会うことも無いだろう……ここでの事は、全て忘れろ。お前にとっても、その方が、良い」
サヤカゲさんは背を向けて歩き出した。
「ねぇねぇねぇ、あのシブイ人、誰!?」
サヤカゲさんの姿がかなり離れた頃、それまで黙って側に控えていたシェリルが激しく袖を引っ張って聞いてくる。
「俺が組織を抜ける時に、とても世話になった大恩人で……今では名実ともにナンバーワンの実力を誇る人だ」
「ふぅん……。でもちょっと……近寄りがたい雰囲気かも」
多大な興味を示したシェリルだったが、急に『あれ~!?』なんて声を上げる。
「どうした、シェリル……?」
「ほらほら、あの子よ! さっき言った『美少年』くんって!」
またも俺の袖を引っ張って黄色い声を出す。………やっぱり頭痛が……。
と、シェリルが指さした方向へ視線をやると、サヤカゲさんとカイリ少年が何事か会話している所だった。
「何だ、『美少年』って、カイリの事だったのか」
「って、知ってるんだ、カイリ君の事?」
「今日の葬儀の遺族だよ」
「……そっか。でも、可愛いわぁ、ホント私好みぃ。しっかりしてるし、キレイだし、儚くて不思議な感じよね……おまけにちょーっと影があって。
でも、変な事言ってたわね、カイリ君ってば。『ボクたちには最初からお母さんなんて居ない』って。てことはさ、あの子、もう、両方とも親が居ないのね……」
「そうだな……そうなるな」
『お母さん』……それはつまり、シズカさんの事じゃないのか?!
俺が組織を離れた後に、一体何が起きたっていうんだ……。




