《過去編》 4-2 未知なるは君の行末 ディー その2
朝ご飯はちゃんと食べないと元気が出ないんだぞっていう話。
02、未知なるは君の行末…… ディライヴ・エルズワース その2
「ほら、もう着いたよ。ディー何食べる?」
結構広めの食堂には人がまばらだけど居た。でもやっぱり、大人の男ばっかだ。
入り口近くのトレイをとって、ビュッフェ方式っつう奴のトコへ歩いていく。
「わぁ、色々あるんだなぁ~。あ、これ旨そッ!!」
食器に山盛り取り分けて、先に席に着いているカイリの所まで急いだ。
「って、カイリ、お前それだけ?」
カイリの皿にはサラダがちょこっと乗っかっていて、あとはヨーグルトだけ。
「う、うん。ディーこそ、朝からそんなに食べるの?」
「あったり前だろ! 朝はちゃんと食べなきゃ、その日一日元気が出ないんだぞっ!」
と俺はリョウヤがいつも口にする言葉をそのまま言った。
「だから俺ってこんなに元気なんだ! ……って、元気すぎるって言われるんだけどさ」
でも、コレは俺の自慢の一つなんだ。元気ってのは、無いよりは有った方が断然良いに決まってるだろ?
「………そうだよね。
ボクも良く怒られるんだけど、やっぱり食べられなくて」
えへへと困ったような顔でカイリは笑う。
「……ええと、そういうの確か『食が細い』って言うんだっけ? シェリルが言ってたな。
でもコレ、ギャグらしいんだけど、意味分かる?」
くすっ。
うんうん、カイリはやっぱ、笑ってる方がいいや。
ああ、そうだ。シェリルって言うのも(自称)俺の保護者の一人。女の割にやたら腕っ節の立つ、ゴーカイな性格の格闘家。
料理も上手いけど、殆どを自分一人で喰ってるっつー 地獄の胃袋を持つ大食らいでもある。
全ッ然女らしくないけど、あれで美少年とかには目がないからアイドルが大好きなんだ。
………いい年こいて、全く。絶対、俺の方がしっかりしてるよなぁ~。うん。
「……ディーの周りには、『いい人』がたくさん居るんだね。」
いきなりそんなことを言われた。
「何だそれ?」
「……分かるんだ、何となく。キミの周りの空気は暖かくて、日溜まりのようだから。」
暖かい……ホカホカするってコトか? だったら、俺、カイリと居ると暖かいって思うけど。
だって、どこか違う。何だか不思議な感じがするんだよな、カイリって。
「カイリ……俺さ、さっきカイリと会った時、すぐ側に来られるまでちっとも分かんなかったんだ。
俺、いつもはそういうの、すぐ分かるんだけど。何でだろ?」
だって、あまりにも突然に、でもそれが当然のようにそこにいたから。
「それは……きっと、ボクが風の精霊と一番仲良しだからだよ」
「……???」
分かんなくて困ってる俺に、カイリは笑顔で説明してくれる。
「ディー、『精霊魔法使い』って知ってる?」
ああ! 知ってる知ってる!! 精霊魔法使いなら、俺の保護者(こっちも自称)にも一人居る。
それもかなりキョーレツなのが。
スタン(本名は…何だっけ? すっげぇ舌噛みそうな名前)って言って、見た目のなりは俺よかガキの癖に、実際は200年以上も生きてるんだって本人はゴウゴしてるケド。
でもまぁ、魔法使わせたらかなりの腕(俺はまだちゃんと見てない)だってリョウヤは言うし、魔法でガキのままでいるのは、そりゃーもー、チョージョーキューシャでないと出来ないんだぞって言って威張るんだ。……でも、『チョージョーキューシャ』って何なんだ? 実物見てると、ホント唯のガキなのに。なんか、ムカついてきた。
「ボクも、その力を持ってるから…」
「ああ、そっか! スタンが火の精霊とケイヤクしてるっていうのと同じなのか!」
「……そうだね。ボクの場合はちゃんと契約してないんだけど」
「へぇ~、すっげーなぁ!! 俺、魔法って幾ら習っても出来なくってさ。
えーと、なんて言うンだっけ、ほら……」
精霊魔法みたいな専門的なのじゃなくて、もっと簡単なやつ。
「初級魔法のコト?」
「そう、それ!」
『初級魔法ってゆーのは、本当は「共通魔法」って名前の、ごく初歩の魔法のコトなんだ。サバイバルとかに便利な、簡単な魔法が一通り揃ってる。そーだな、例えば……、小さな火を起こす呪文とかだな。
この初級魔法は、俺様みてーにありあまる素質とか何とかは、コレと言っていらないんでケッコー覚えやすいんだ』なんてスタンは言うけど、俺は全ッ然、全く、ちっとも使えない。
絶対、教えてくれる先生が悪いに決まってる。
「だって先生がスタンだもんな。……でも、シェリルもちょっと呆れてたっけ」
シェリルはほんのちょっとオバカだけど、嘘は言わない。ホント悔しくてたまんない。
「仕方がないよ。初級魔法にも、向き不向きがあるからね。きっとディーは魔法には向いてないんだよ」
うぅぅ。きついなぁ、カイリも。
「………」
カイリは俺を見つめて言った。
「向いていないなら、向いている人に頼っちゃえばいいよ。
ディーはディーに向いてるコトで、その人を助けてあげればいいと思う」
だけど……やっぱ悔しいモンは悔しいんだよな。でもだからって俺には何が出来るんだ?
「……うう~ん。俺に向いてるコト? 俺が得意なのってまだ格闘技くらいしかないんだよなぁ」
それにしたって、リョウヤはまだまだだって言うし。
「人は、一人じゃ生きていけないから、助けあうんだって。
だから、ディーが助けてあげなきゃいけない人がどこかに居るんだよ―――きっと、ね」
『助けてあげなきゃいけない人』……たぶん、俺はその『誰か』の為に、この宇宙に出たんだ。俺を『待っている』その人を早く見つけなくちゃいけないから。今は、その為に強くなるコトも目標になった。
「いい人だと、いいね。」
また、あの儚い笑顔でカイリが笑いかける。
「………そう、だよな」
何となく、ハッキリしない返事。こんなの、何だか俺らしくないかな。
でも、『待っている人』、それはずっと前から頭の中にあるコトバ。
「何だか……、悪いこと言っちゃったみたいだね、ゴメン」
「あ、カイリが謝らなくても……ッ!! ホントに何でもないんだ、俺の方こそ、ゴメン」
その後、朝メシを食い終わってまた草原に戻った。すごく気持ち良い風が吹いてる。
「なぁ、カイリ。ここって、人工の星だって聞いたんだけどホントなのか?」
隣に座っているカイリが、こくりと頷く。
「そうだよ。この星の中心は、小惑星程しかない岩の塊なんだ。
その上に長い年月をかけて大地を築き、自然環境を造ってある」
「俺、宇宙に出る時に習ったぜ。そういうのって、めちゃめちゃ難しいんだろ?」
人の手が入ると、「自然」はやがて壊れていくって教わった。それなのに、この星は、すごく自然がいっぱいなんだ。
「ここは、精霊がとっても多いから。他の所よりは随分楽なんじゃないかな」
「ふうん………。そりゃそーと、カイリってさ、精霊、見えんのか?」
「うん。ボクの大切な友達だからね」
カイリが、初めて嬉しそうな笑顔を見せた。
ドキ。
だから、治まれってば、俺の心臓。
「……見てみたい?」
「う、うんッ!」
「じゃあ、目閉じて…」
言われたとおり、目を閉じる。
「これでいい?」
「うん。ちょっとだけ、ガマンして。今だけ、少しの間だけならボクの力を分けてあげられるから」
唇に柔らかい感触がして、何かが入り込んでくる。優しいモノ、熱いモノ、冷たいモノ、一度に沢山。
「もう良いよ。目を開けて、ディー」
恐る恐る目を開けると、草原には無数の……精霊が飛んでいた。
そこかしこに「彼ら」がいる。
「う、うわぁッ!!!」
思わず腰を抜かした俺に、カイリは優しく微笑んでいる。
「大丈夫、少しも怖くない。みんなも、キミのこと好きみたい。」
色んな色の精霊が居る。
「大きいのが四大精霊。赤いのが炎の精霊、青いのが水の精霊、黄色いのが地の精霊、緑が風の精霊」
カイリの言葉に合わせて精霊達が寄ってきて挨拶してくれる。
「ちょっと小さいのが各属性の従属精霊達だよ」
精霊はみんなカイリが好きなのだろうか、彼の周りへと集まってる。
「す、すごい! カイリ、コレがいつも見えるんだ?」
「いつも見えてると視界が狭くなるから、意識的に見えないようにしてる。」
「そんなことも出来るんだぁ……」
すっげー!!! ……てことは、スタンにもそういう力があるんだよな。
「確かに、スタンも、こんないっぱい見えてたら鬱陶しいよなぁ」
「スタンってさっき言ってた、火の魔法使う人だよね?」
「……うん。そうだけど?」
「うぅーんとね、『契約』してる人は、契約してる精霊しか見えないんだって。
他の精霊が居ることは分かるらしいんだけど」
「何だ、そうなのか。……って、じゃあ、カイリってばあの『威張りんぼ』よかすごいんじゃん!」
カイリの表情に急に影がさした。いつの間にか笑顔も消えている。
「………そう? ……でも、ボクはこんな力、いらないのにね………」
「えーっ、そんなコト言うなよ! スゴイんだから威張っちゃえよっ!
さっきカイリも言ってたじゃないか?
その力で助けてあげられる『誰か』がどっかに居るはずだって!」
暗い顔を見たくなくて、一生懸命に思ったコトを喋っていた。
「俺みたいな、魔法が全然ダメなヤツのこと助けてやればいいじゃないか!」
ざぁぁ、と一際強い風が草を揺らせる。カイリの、少し長めの髪があおられる。
その間も、カイリはじっと俺を見つめていた。
不思議な感覚だった。時が止まったような気がして。
ただあるのは、風の吹くこの空間だけのような。
カイリの澄んだ蒼の瞳に見つめられると何故だか何も言えなくなる。
言葉を喋るのが、酷く……いけないことに感じられる。
「………いつか、…………」
カイリの言葉が風に遮られる。
「え、何? 聞こえな……ッ」
ざぁぁぁぁぁっ。
強い風に、視界が奪われる。
一瞬の風がやんだ時、少年の姿は消えていた………。




