2-12 事の顛末。
また新しい仲間が増えました、という話。
船に戻ったライトを待っていたのは、客人として滞在している“自称”トレジャーハンターの今後の身の振り方。
「あ、あのさ……もし良かったら、この船に乗せてくれないかな?」
まさか、黒装の魔女の言葉を真に受けてるんじゃないだろうな。
その時の事を思い出し、俺の顔は酷い顰めっ面になったらしい。
「ライト、顔々」
シェーラが苦笑しながら注意してくる。
「やっぱ、ダメかな?」
上目遣いに俺の表情をチラ見しつつ、様子を窺っている。
「―――――理由は?」
「えッ?!」
「理由も無しに、船に乗せる事は出来ない。それなりの理由があるなら、聞いてから俺が判断する。
―――タダメシ喰いを増やす訳にもいかないんでな」
アイシャはその場にいるこの船の乗組員をぐるりと見渡した。
ライト。
言わずと知れた“黄金の調停者”でこの船の主。若き英雄でもある。
シェーラ。
妖精族の女の子。ライトの活動のサポート役。聞いた所によると、怪我を治す能力があるらしい。
ケルベロス。
この船の頭脳。お説教臭いらしいけど居なくちゃ絶対に困る。
去月。
……全身完全黒尽くめの超アヤシイ奴。出たり入ったりしてる。でもご飯はメチャクチャおいしかった。
しまった。アタシ、出来ることあるっけ? 腕が立つ訳でもない。料理だって殆どしたこと無い。洗濯や掃除も苦手。本職と定めたトレジャーハンターだって、賢者さん曰く“迂闊で残念”なんて評価。
「で、でも……賢者のオバサンが言ってたからッ!
今からは幸せになれるように、探したいの……『何か』を!!」
『フッ……どうやらこの船には「何かを探す者」が集うらしい。
―――良いのではないか? 何も出来ないと言うなら、雑用でもやって貰えば構わないだろう』
なんと、アイシャにとって思いがけない方向から援護射撃が来た。
去月だ。
「雑用、ねぇ……。今でも何とかなってるしなぁ。シェーラはどう思う?」
「わ、私は、別に構わないわよ……? その、二人とも出ちゃうと、私一人じゃままならないコトだって、いっぱいあるし……」
歯切れは悪いが、珍しくシェーラも賛成のようだ。
『ライトにしても、今でこそ英雄だが、そもそもこの船に乗り込んですぐはまだ小さな子供だったのだ。どうせ出来る事などほぼゼロで、雑用から始めた筈だぞ。“誓約”さえ守るなら、問題なかろう』
「せいやくって何?」
去月が言った言葉の意味をライトに確かめる。しかし、当の本人はバツが悪そうに頭を掻いていて。
「―――――あーもー、これだから、俺の事情を知ってる奴が居るのは困るんだよなぁ。
は~、しょうがない。一回しか言わないぞ?
『知っての通り、宇宙は弱肉強食の厳しい世界だ。幾ら仲間だと言っても、いつもいつも助けてやれるとは限らない。俺達に出来るのは精々、自分の身の守り方を教えてやれるくらいだ。
それから、この船では“働かざる者喰うべからず”がモットーだ。自分の食い扶持は自分で稼ぐか、それが出来なきゃ船内で何か仕事を見付けろ。
ゲストじゃない者が遊んでいるなら、俺は即刻叩き出す』
この条件を呑むなら、ティンカーフィッシュにクルー登録してもいい。
―――どうだ?」
ライトの言葉に、拳を握り締めて頷く。
「う、うん! アタシ、頑張るから!! 迷惑掛けないように頑張るから!!」
決意を込めて宣言したというのに、何故かライトは突然吹き出した。
「……え? 何? アタシ、ヘンなコト言った?」
「いや、違う違う。アイシャが言った言葉が、シェーラがこの船に乗る時に言った言葉そのまんまだったからさ。つい、ね」
「え、わ、私、そんな風に言ったんだっけ?! は、恥ずかしぃ……」
『それを言うなら、お前が言った言葉も似たような物だったがな? ライト』
シェーラは真っ赤になって顔を両手で覆い、ケルベロスからはツッコミが入る。
「はいはい。最初の言葉なんて、そうそうバリエーションないっつーの。似てくるのも当然ってな。
てか、いい加減そんな昔の事は忘れろよな~。メモリ容量の無駄だぞ」
『フン。大きなお世話だ。それにこの間忍者の里で滞在中に大規模なデータの圧縮を行ったから、まだまだ空きがある!』
「は? 何だそれ、いつの間に?!」
ライトには初耳だ。
『何だ、あれは独断だったのか?』
さも意外そうに去月が聞いた。ケルベロスは憤懣やるかたない様子で返す。
『別に、いちいち許可を得るような事でもあるまい。危うくスクラップになるかも知れなかったのだぞ?! 何らかの成果でも無ければ、行った甲斐がないではないか!!』
「あのー、少しも話が見えないんですけどォ。去月、もしかして、お前の仕業?」
『私はケルベロスに頼まれてセク課の……いや、そちらの専門家へ仲介しただけだ』
去月もあくまで淡々と説明する。
「お前ら、いつの間にそんな仲良くなってる訳? つーか、俺の事助けてくれた人もそうだけど……ケルベロス、最近ちょっと手懐けられ過ぎじゃないか?」
『手懐けるとは失礼な! そもそもお前の態度が悪すぎるのが原因だろうが!!!』
「あーぁ、また始まっちゃった~」
「何が?」
やれやれと言った様子で遠巻きにライト達を眺めながら、シェーラがため息をついていた。
新入りほやほやのアイシャが不思議そうに話しかける。
「えっとね、ライトとケルベロスのケンカ……って言うか、コミュニケーションって所なのかなぁ?
何だかんだ言って、仲は良いしね」
「ふぅ~ん。あ、アレか、ケンカするほど仲が良いってヤツ???」
「そうかもね。……私はまだ、あそこには行けないのかも」
シェーラは何だか寂しそうに二人と一匹? を見つめている。
「え、でも……シェーラってこの船に乗ったの、去月……さん、よりも先だったんだよね?」
「うーん。半年くらい、早かったかなぁ。実はそれまで生まれた森から出た事なんてなかったから、ティンカーフィッシュでの生活に慣れるまで時間掛かったのよね~」
「森からいきなし宇宙船じゃあね~。
てゆーかアタシもさー、妖精なんてココ来て初めて見たからびっくりしちゃった。
ドールが動いてる!! って思ったもんなー」
そう。妖精種はあまりにも閉鎖的で希少な為、彼らをモデルとしたファションドール……所謂“着せかえ人形”が発売され、人気が出て巷に溢れかえり、女児向けの定番玩具となってしまった現在では、そちらの方が余程見掛ける事が多い、という事態になっている。
「まぁ、そのお陰で服とか助かってるんだけど……。何処行っても、ドールに間違われちゃうんだよね~。
そう言えば、ガンフじいちゃんにも最初お人形だって思われたっけ」
しみじみと思い出に浸っているシェーラだが、彼女が口にしたのはごくフツーの一般人、アイシャにとってはかなり驚愕の名前だった。
「ガンフ??? ん? ガンフって、まさか、あのガンフ・ウル・グルンザ?!」
驚きのせいか目を丸くしているアイシャに、シェーラは小首をかしげていて。
「え、うーん。確かそんな名前だったかな~、あのおじいちゃん?」
「ちょちょちょちょ、ちょっと待って!! ガンフ・ウル・グルンザって言ったらこの宇宙でも一,二を争う名工よ?! アタシでも名前知ってるくらい超有名人なんだから!!
―――賢者のオバサンといい、名工ガンフといい、おまけに忍者って……ライトって、思ってたよりすっごい知り合いばっかりね!!
も、もしかして、シェーラも実は何かスゴかったりして???」
「私は別に、何にも無いよ? ライトと出会ったのだって、ホントに偶然だったんだもん」
「へー、そうなんだ~。それ聞きたい! そういやさっき、去月さんが言ってたよね?
『この船には何かを探す者がつどう』って。シェーラは何を探してんの?」
妙に興味津々なアイシャにせがまれて、シェーラはそう遠くもない思い出を話し始める―――。
次からまた過去編になります……。暫くお付き合いください。




