2-5 トレジャーハンター
旅は道連れ、世は情け……? な話。
ライトがティンカーフィッシュに戻ると、不機嫌MAXのシェーラに出迎えられた。
「やっっっと帰ってきたのッ?! すっごく待ったんだから!!!!」
「何かあったのか?」
怒鳴り散らすシェーラに辟易しながら聞いた所によると、去月から俺にと預かったモノが有るらしい。俺が知る限り、去月からシェーラに話しかける事自体が稀だから不思議に思うと同時に重要な物なのだろうと感じた。
「で、去月なんだって? 何置いていったんだ?」
シェーラは無言で自分が座っていた『物』をこつんと蹴った。
「???」
それは俺がいつも使っているハンディ端末の拡張システムカードと昨日貰ったデータディスク……じゃないな。昨日の物は俺自身が持っていたから、また別の物だ。
「データが随時更新されているらしいから、この拡張カードとディスクで同期が取れるって言ってたわよ」
「ふぅん?」
データディスクの方は、先の物よりも容量が格段に大きいという以外はごく普通の市販の物のようだ。一方、拡張カードの方はと言えば……見たこともない。
この手の物は、元々好きなので市販物からガンフの趣味の発明品まで粗方チェックしているが、それでも見たことがない。おそらくは忍者組織で作られた物なのだろう。
確か、今日は里へ戻ると言っていたから、ついでに持ってきてくれたのかも知れない。
「じゃあ、有難く使わせて貰うとするか。つーか、今回はかなり去月に世話になってるなぁ……」
戻ってきたら、何か礼しなくちゃな。
「ねぇねぇ、ライト~。今回は私、何すればいい?」
シェーラが目をキラキラさせて俺を見上げている。古代遺跡へ行く仕事だと言っただけだから、面白そうだと思っているらしい。全く、その手の映画の見過ぎだよ……。遺跡探検なんて、ド素人が行って愉しい訳がないだろうに。オマケに、目的地はトラップだのアンデッドだの障害だらけだと先に分かっている。
「うーん、俺自身が殆ど手探りだからなぁ。マップデータをケルベロスに置いていくから、取り敢えず俺のマーカーの追跡しておいてくれないかな?
最悪の場合、俺が身動き取れなくなったら、去月に頼んで救助して貰わなきゃならない可能性もあるし。その時場所が分かるか分からないかでは大違いだと思うから」
しゅーん。
そんな擬音が聞こえてきそうな程にガッカリな表情をする。
「安全だって分かったら、また連れてってやるからさ、な?」
「……………わかった」
何とかシェーラを納得させてから、ペシャワール氏へ『これから目的地へ向かう』旨連絡を入れ、惑星NH-780389へと自動航行の進路を取った。
俺は、その間軽く仮眠を取って、装備のチェック。
ワクワクしているシェーラに、その手の映画の見過ぎと思ったけれど、人の事ばかり言えない。
やっぱり、気付けば俺自身もワクワクしている。
一体、何と出逢うだろうか? 楽しみだ。
* * *
去月の提供してくれたデータは恐ろしく緻密だった。流石は忍者組織の収集した物だと実感する。
その上、渡された拡張ユニットは、電源を入れるなり新たなデータを書き込んでいる。
が、のんびりしていたのもそこまでだった。
半壊した遺跡の出入り口付近に個人用のエアーピットが乗り捨てて? ある。
どうやら、先客が居るようだ。
そもそも、ペシャワール氏が手に入れたデータが出回っている以上、考えられない事じゃない。
それほどまでに『犠牲の心血』は人の関心を引く物なのだ。例え、呪い殺されるとしても、身に余る願いが叶うのならば―――と。
マップによると、入っていきなりトラップが……って、あれ?
「……たーすーけーてーーーーーー……」
ぽっかりと口を開けた落とし穴から、何とも投げやりな、そして情けない声が聞こえてくる。
「誰か居るのか~?」
こんな入ってすぐのトラップに引っかかってるなんて、どんなヤツだ?
「居るわよーッ!! 居るから助け呼んでんでしょーッ!!!
何でも良いから、さっさと助けなさいよッ!!!」
どうやら、この穴に落ちているのは礼儀も知らないヤツらしい。とは言え、人道上助けない訳にもいかない。俺が放って行けば、次にいつ誰か来るかどうかすらアヤシイ。
持ってきた強力懐中電灯で照らしてみると、深さは5mくらいだろうか? 底の方で泥まみれになった若い女がこちらを見上げている。
「怪我とかはしていないのか?」
「お陰様で、擦り傷と打ち身くらいよ」
穴の壁は態とそうしてあるのだろう、磨いたように平坦で手を掛けるような所が見あたらない。
これじゃ自力では上れないか。
「アンタ、体重何キロ?」
ロープを用意しながら聞いてみる。
「乙女に体重聞くなんて、野暮な男ねッ!!」
こ、この女……、ムカツク……。
「この辺り、ロープ掛ける所が無いんだよ。そーなると、俺一人で体重支えないとならないんだよなぁ。
アンタ重かったら、俺も落ちちまうしなぁ~。やっぱ、助けるの止めとこうかなぁ~」
「あ、う、ウソッ?! アタシ、今63キロくらいよ! ゴメン! 助けてッ!」
ま、これくらいで勘弁してやるか。ロープの端を投げてやる。
「ほら。―――引き上げた方が良いか?」
「大丈夫、自分で上れるわ」
暫くすると、言葉通りスルスルと上ってきた。その姿は本当に全身泥まみれで、いきなり出てこられたらクリーチャーと間違えそうな程だ。
「はぁ~、助かったぁ………。って、アンタ、ライト・エルズワースッ?!」
指までさして、素っ頓狂な声でそんな事を抜かす女に、俺はムカツクを通り越して呆れた。
「確かに俺はライト・エルズワースだけど、せめて礼ぐらい言ったらどうだ?」
「あ、ああ、そうだった。助けてくれてありがと。
アタシはアイシャ・ルベルス。それなりに場数は踏んだトレジャーハンターよ。
………信じないだろうけど」
「まぁ、こんな入ってすぐの、しかも落とし穴なんかにはまってりゃね。
ところで、ミズ・ルベルス。見たトコかなり軽装だけど、何が狙いだい?」
俺とは違って、彼女は物凄く軽装だ。この先行かせても大丈夫かな?
恐らく、もっと深くなればアンデッドなんかも出てくるだろうし。
「そんなの、言う訳ないでしょ?!
それより、黄金の調停者サマでも、遺跡になんか潜るんだ。しかも、結構装備も本格的だし……もしかして商売敵?」
「今回は、そう言うことになるかな?
俺はこっちは専門じゃないから、準備と対策にも念を入れたけど、アンタはここから引き返した方が良いかもな。この遺跡、魔法生物や不死者も出るって聞いてるぜ?」
さぁーッ、と彼女の表情が変わる。
「そんな……ここは浅いし、そこまで危険じゃないって話だったのよ?
それじゃあってんで軽く下調べに来たら、あのザマだったんだけど―――――」
がじがじと親指の爪を噛んで悔しがっている。今度会ったらシバいてやるとか言いながら。
「だったら、完全にガセネタだ。情報屋、代えた方が良いな。
ま、ウチの情報元以上に確実なのなんて、何処にも居ないだろうけどね。
じゃ、さっさと帰れよ?」
と、俺は背を向けて奥へと進む為に歩き出したのだが。
「ちょ、ちょっとッ!! 待ってよ!! アタシ、アンタに付いて行くからね!!」
「はぁ?! 何だよ、それ?! 今回は下調べだったんだろ?
もっとちゃんと準備してから出直せよ」
いい加減、腹が立ってくる。
俺自身遺跡探索なんて不慣れなのに、こんな名ばかりのトレジャーハンターなんつー足手まといに付いてこられるなんて真っ平ゴメンだ。
「やーよ!! 今から戻ってたらアンタに先越されちゃうじゃない!!
それじゃ意味無いのよ!!」
それからケンカ腰で話合ったが、全くの平行線だった。逆に離れて行ってるくらいの勢いで怒鳴り合っていた。
「あーもー、勝手にしろ!!!」
「勝手にするわよ!!!」
キレて怒鳴ったその時だった。奥の方からゴォォォォォォと、何とも言えない咆哮のような音が聞こえてきたのだ。随分と深い階層かららしい。
下らない言い争いをしている場合じゃない。去月の揃えてくれたデータから考えるに、魔法生物の守護者が侵入者に反応しているのだろう。
この遺跡に侵入しているのは、俺達だけではないという紛れもない証拠だ。
「―――――行くなら、急ぐぞ。“商売敵”さんは、かなり先を行ってるようだ」
「オーケー。借りはきっちり返すわ」
一時休戦、といったところか。
こうして遺跡探索ド素人と、自称トレジャーハンターという先行き不安な二人連れが出来上がったのだった。




