《過去編》 2-5.出逢いと別れと旅立ちと -5-
ディーが旅立つ話、フレッド目線。
翌日、朝。シェリルさんに起こされた。
「おっはよー、今日もいい天気だよっ!」
シェリルさんはいつも、……なんて言うかハイテンションだ。僕は、ホントいうとちょっと朝弱いから、ツラい……。昨日は頑張って起きたけど。
「おはようございます。あれ、ディーは……?」
「あ、先に起きて顔洗ってるよ。フレッド君も行っておいで~。はい、これ」
と、タオルと袋に入った歯ブラシを渡された。
「はーい……」
教えられた通路を通って、洗面所らしき場所へ行くと、ディーとスタンさんらしい話し声が聞こえてきた。
「……スタンは……どうして俺の言うこと信じてくれたんだ?」
「うーん、何つーか……。昨日も言ったけどよぉ、そーゆーの、信じてみたいんだよな。
この世の中ってのは、ウゼェ事とかムカツク事とか、とにかくだ、そんな事ばっかある中で、1コ位良い事……つーか人の絆みてーなものを信じてみたいんだろーな。
―――甘いかもしれねぇんだけどよ」
聞きたくなかった。
誰も、本気でなんか聞かなかったディーの話を、よりにもよって三英雄が信じるだなんて。
「あれ、フレッド君じゃないか。もう顔洗ったのかい?」
「あ、まだ……です……」
「俺もまだなんだ。夕べ遅くまでメンテナンスやってたから……。もう、眠くて眠くて……」
と、リョウヤさんがあくびを噛み殺しながら僕を促して洗面所へ入る。
「あ、フレッド。おはよ」
「おっす。よく眠れたかぁ?」
二人が何事もなかったように声を掛けてくる。
ずきん。
「う、うん……おはよう……」
「じゃあ、俺ら先に行ってるぜ、リョウヤ」
と、スタンさんがディーを引きずって出ていこうとする。
「え、あ、フ、フレッド……?」
「後から行くよ」
ばしゃばしゃとわざと乱暴に顔を洗ってると、リョウヤさんが話しかけてきた。
「フレッド君、俺達は、ディーを船に乗せようと思う。」
きっぱり言ってから、慌てて付け加える。
「勿論、保護者の方の了解を得られれば、の話だけどね」
背筋が、冷たかった。
本当言うと、三英雄と会った時からそうなることを恐れていたような気がする。
……この人達は、ディーの『何か』を感じる人達だと。
「どうして……僕にそんな事言うんですか?」
「君が、ディーの一番の親友で、理解者だと思うからだよ」
僕は首を振った。
……違う。そんなのじゃ、無いっ!
僕は唯、ディーに側に居て欲しいだけなんだっ!
「君の思いは、あの子もちゃんと知ってる。
それでも、あの子は宇宙へ『自分を捜しに行く』んだ。
それを、分かってやって欲しい」
そう、僕のワガママだって、分かってる。だけど、だけど……。
涙がこみ上げてくる。ポンポンと大きな手が頭を撫でてくれる。
「……もう一回、顔洗わなきゃな」
僕は、小さく頷いた。
シェリルさんお手製の朝ご飯はとっても美味しかった。……ちょっと、……いや、かなり量が多いかなって思ったけど。
その後、みんなで教会へ向かった。
ディーが、三英雄と一緒に行くことの許可を貰う為に。車で教会まで行ったせいか、特に人に囲まれるといった事もなく、ほんの10分くらいで到着した。
でも、その10分は僕にとって、ものすごく長かった。みんなが、押し黙っていた。
ディーは、真っ直ぐ前を向いていた。いつもの、意志の通った強い瞳をして。
僕はそんなディーをちらちらと盗み見ている。自分でも、こんな自分がイヤだった。
教会の門をくぐると、事前に連絡してあったので、みんなが出迎えに出ていた。
「おかえりなさい、ディー! 心配したのよ」
シスターや子供達がわっとよってくる。
「おかえり、ディー」
「抜け駆けは狡いぞっ!」
「わー、三英雄だー! 格好いい!」
「おねーさん、きれー!」
「スタンって結構チビなんだ! 俺の方が高いやっ!」
「っんだと、このガキャッ!!」
大騒ぎだ。と、牧師様が輪から外れている僕の前に立った。
「お帰り、フレッド」
僕は抱きついて泣き出してしまった。それが収まった頃、リョウヤさんが牧師様に言った。
「牧師様、折り入ってお話があるのですが……」
牧師様はゆっくりと頷いて、リョウヤさんと二人で応接室へと入っていった。
僕はどうしても気になって、ドアを少ぅし開けて二人の話を盗み聞いたんだ。
「……そうですか。ディーがそんな事を。
最近は、私達にも『誰か』の話をしなくなっていたものですから。
つい、毎日の生活の中で失念しておりました」
「それで、彼を、我々の船のクルーとして乗船させようかと、思っています。
今日お伺いしたのは、保護者としての牧師様に彼を連れて行く為の許可を頂きに来たのです」
「……あの子が居なくなると、寂しくなりますねぇ」
「牧師様、それでは……」
「あの子はしっかりしているようで、まだまだ小さな子供です。
たくさんご迷惑をお掛けするとは思いますが、私からもどうか、宜しくお願いいたします」
―――牧師様が、あんなに簡単に許可を出すなんてっ。
僕は、自分の部屋に戻って布団をかぶった。
それから、みんなが企画したお別れパーティがあったり、ディーは荷物をまとめたり忙しそうだった。
僕は、意識的にディーを避けていた。ディーが話しかけようとしても、逃げていた。
そして、その日が来た。思ったより、早いなと思った。
と言うのも、僕たちの町には銀河連邦の窓口が無いそうで、登録するにも健康診断を受けるにも、もっと大きな街に行かないとダメなんだって話だった。
要するに、僕たちの町はド田舎だってことだ。
出発の日、僕たちはみんなであの荒野に泊まっている三英雄の船へディーの見送りに行った。
みんなは、笑顔だった。どうして、笑えるんだよ? ディーは、友達じゃないのかよ?
「元気にやれよ!」
「たまには顔出してね?」
「美味い物みっけたら、送って来いよ!」
みんなが口々に別れの言葉を交わしてる。
「うん、俺、頑張るよっ! 絶対、手紙かくから!!」
ディーも、笑顔だった。そんなみんなを見たくなくて、僕は、人垣の一番後ろにいた。
「……フレッド。何も言わなくて、良いのですか?」
牧師様に言われて振り返ると、もうディーはタラップを登り掛けてた。後ろを気にしながら。
だけど諦めたように、前を向いてまた階段を上り始める。
ダメだ……。ダメだよ……。このままじゃ、僕は……!
「ディー!!」
みんなをかき分けて、一番前に出る。ディーが振り返る。
「お前が何処に行っても、僕たち、友達だよなっ!」
大声で、叫んでた。
「……ッたり前だろ! お前は俺の親友だぜ!!」
僕は、腕が痛くなるくらいぶんぶんと手を振った。ディーも、振っていた。
そのまま三英雄の白銀の船体が青い空の彼方へ消えるまで見送っていた。




