《過去編》 2-4.出逢いと別れと旅立ちと -4-
ディーが三英雄に乗船を認めて貰った話。
問いただす風でもなく、リョウヤが質問する。
「ディーは、どうしてそんなに『待ってる人』にこだわるんだ?」
「―――ずっと前から……声が、聞こえるんだ。なんて言ってるのかはよく分からないけど。
だけど、俺のこと、呼んでるんだってのだけは、分かる。
その声聞くと、胸が痛くなるんだ。涙が、出そうになる。
だからいつも、俺、応えるんだ。
『待ってて』って。『絶対逢いに行くから、それまで待ってて』って。
だから、だから、俺……」
少年が言葉を詰まらせる。ぽろぽろと涙をこぼしながら。
はぁ~。
ため息が聞こえた。スタンだ。
「―――俺、信じてやんぜ。可能性が全くのゼロって訳じゃ、ねぇからな。
双子とか、絆の強い兄弟なんかの間でテレパシーが通じる、なんて事があるのは過去の研究でも立証されてるしな。
ひょっとしたら、その声の主ってのは、お前にとって何よりも大事な存在かも知れねぇぜ」
こんな場合、滅多に人の肩を持ったりしないスタンが珍しく少年に同調している。
「どうしたんだ、スタン。いつもとは風の吹き回しが違うようだけど?」
「べっつに~。たまにはそーゆーの、信じてみんのも良いかなって。……そう思っただけさ」
格好良く言ってのけたスタンだったが、次の瞬間には
「でよ、ディー。その声ッつーのは、女か?」
なんてスケベな下心丸出しの顔で聞いている。
リョウヤはぐったりと疲れを感じながら、ほんのちょっとスタンを見直したのを撤回しようかな……と本気で考えてしまった。
「……まぁ、ディーの話は分かったよ。
でも、ディーだって、フレッドの気持ちは分かってるんだろう?」
また、少年は俯いてしまった。
「分かってる。あいつは大事な幼なじみだし、親友だし。
他の人が聞いたら、俺の話って空想にしか聞こえないと思うし。
俺のこと、ホントに心配してくれてるの、分かってるんだ。
……でも。
やっぱり俺は、一日でも早く宇宙に出て、俺を待ってる『誰か』を探したい。
そばに行って、泣いてたら、護りたい」
「どうして、『誰か』が泣いてるって思うの?」
いつの間にか、シェリルが戻ってきていた。
「良く、分かんないけど……その声、とっても悲しそうなんだ。
すごくすごく、悲しい声なんだ」
本当に、切なそうな顔をする。
「だから……早く、宇宙に行かなくちゃ。どうやったら、行けるんだろう?
それを、聞きたくて、俺……」
切実な少年の思いに、シェリルが理解を示す。
「ねぇ、リョウヤ。何か良い方法ないかなぁ」
………。
「―――そうだなぁ。基本的な所から説明すると、宇宙に出る為にはまず、銀河連邦局にクルー登録をしなくちゃいけないんだ。
その際に、健康状態を調べる検査も同時に行われる。
あんまり数は多くないけど、宇宙へ出る際のちょっとした環境の変化によって体調を崩して、死に至る事例が無い訳じゃないからね。
……話は戻るけど、そもそもクルー登録っていうのは、既にある船に乗り込む場合や、定期船の会社なんかに入る場合の話なんだ。
個人で新規に船を登録する場合は、船の船体コードから何から何まで一切合切を総て書類で揃えて、登録申請しなくちゃならない。
こっちの方は申請してからかなり時間が掛かることが多い。
それに……、星間航行が可能な船は随分安くなってきたとは言え、一般の人に取っておいそれと買える代物じゃない」
リョウヤは一気に此処までを説明して言葉を句切った。
少年は見るからに元気をなくしてしまっている。
一口に、宇宙へ出ると言っても、現実問題として子供一人ではままならない事だらけなのだ。
「だから、君が大人になってから……」
「堅いこと言うなよ、リョウヤ~」
スタンが遮る。
「そうよ、リョウヤー。この子、ウチに乗せてあげれば良いじゃない!」
なんとシェリルまで。
「お、おい、何を言い出すんだよっ! 犬やネコ飼うのとは訳が違うんだぞ?!
ケルベロス、お前も何か……」
慌てて良識の固まりである(筈の)彼に助けを求めたものの、当のホストコンピュータはつれない答えを返した。
『別に私は構わないが……』
「ほーら、ケルベロスだって良いって言ってるんだしよー」
「リョウヤだけよ? 反対なの」
3対1。……ちょっと……イヤ、かなり、分が悪い。
「ちょっと待てよっ!! 何なんだよ、お前達! もうちょっと冷静に考えろよ!!
大体、誰が面倒見るんだよ? もし、命の危険にさらされたら、誰が護ってやるんだよ?
常識で考えろ!!」
普段ならいつも調停側に着く立場だというのに?!
「そんなの、みんなでやればいいのよ。それにこの子、しっかりしてそうだし、大丈夫よ。
ね、ディー?」
「俺のこと……、船に乗せてくれるの?」
少年は半信半疑の様だ。
「この船、空き部屋なんて腐るほどあるんだしよ。
それに、雑用やってくれる奴、前から欲しかったんだよな」
スタンが賛成に回っているのが忌々しい。こんな事、本来なら一番嫌がる性格なのに。
覚悟を決めたのかリョウヤはふぅ―――と一つ、大きく息を吐いた。
「……ディー。」
「は、はいっ」
少年は、かしこまっている。
「本当に、宇宙に出たいのか?」
「はい」
真摯な瞳がそこにある。
「宇宙に出たら、お前が子供であっても関係なくなる。あるのは厳しい弱肉強食と、自己責任の掟だけだ。正直言って俺達も、自分の事だけで手一杯だ。
要するに、自分の命は常に自分で守らなくてはいけない。俺達に手伝えるのは、自分の命を守れるだけの技術を教えてやれる。
たった、それだけなんだ。それでも……構わないか?」
真剣なリョウヤの物言いに、少年は一言一言噛みしめるように頷きながら聞いている。
「構いませんっ! 俺、みんなに迷惑掛けないように頑張るからっ!
だから……お願いしますっ! 俺をこの船に乗せてください!!!」
少年は、深々と頭を下げる。
リョウヤは、またも観念したように深いため息を付いた後、少年の性格そのままの真っ直ぐな金色の髪をなでながら言い聞かせる。
「今日は遅いから、もう寝ないとな。
明日はみんなで君の保護者の方……ええと、牧師様だったっけ? の所へ話をしに行かないといけないしな」
堅物のリョウヤにしては珍しく、最後にお茶目なウインクのおまけ付きだった。
「……ぃやったぁ――――――!!!」
「良かったね~。えへへっ」
ディーとシェリルが大喜びしているのを横目に見ながら、スタンがボソッとつぶやいた。
「……似合わねぇよなぁ。でけぇ図体の、その上ムサい男のウインクなんてよぉ」
「ウルサイッ!」
ポカッ。リョウヤの怒りの拳骨がスタンの頭を襲撃した。




