《過去編》 2-2.出逢いと別れと旅立ちと -2-
ライトとフレッドが三英雄と初めて出会った話。
「折角久しぶりの町だってのに、何で食事がキャンプ状態なんだよ~?」
赤い髪の少年が思いっきり不機嫌そうに、空になったスープの器をカンカンと打ちならす。
それへ応えたのは大きな鍋を掻き混ぜていた、ブラウンの髪の若い女性。
「しょーがないじゃなーい。昼間の大騒ぎ忘れたのォ?」
『大騒ぎ』……それは言わずもがな。
歓迎セレモニーという名前の簡単なイベントの筈だったそれは、新聞に載ったりしたせいか町の住民殆どが集まってしまったらしく? パニックと言っても良い程の盛況ぶりだった。
「……ったく、誰があんなバカ騒ぎになるって思うんだよ?
久々に、マジで、無茶苦茶、疲れたっつーの」
ごろんと寝っ転がる少年の器を取って、お代わりを入れてやりながら返事している女性。
「でしょ? それで町のホテルなんかに泊まったら、まーた人が集まって他のお客さんとか、ホテルにだって迷惑掛けちゃうかも、じゃない?
リョウヤってば、そーゆーのすっごーく嫌がるし~」
「ほーだよなァ。ま、リョウヤの場合は素性も素性だし、変に勘ぐられるのもイヤだってのもあるんだろーけどさ」
口に咥えたスプーンをユラユラと動かしながら、少年がふと視線の先の方―――この場合、町を囲むように生い茂る森になる―――に視線を投げた。
「……ん?」
何か見つけたようだ。少年はもっとちゃんと見る為に逆さまだった視界を元に戻した。
「……何だ、ありゃあ?」
少年がじーっと目を凝らすと、森の奥から誰かがこちらへ歩いて来ているようだった。
急に不平を垂れなくなってしまった少年に、不審に思ったのか女性が寝っ転がったままの横へしゃがみ込む。
「スタン、どーしたのー?」
少年が睨み付けている森へ視線を巡らすものの、常に契約精霊の魔力で五感が強化されているスタンには到底かないっこない。それにもう随分陽が傾いている時間だし、尚更だ。
「しっ。……ちょっと、黙ってろシェリル。誰か、来るっ」
「げ、誰かって誰ぇっ?」
「……知るか。何でも良いから、すぐリョウヤ呼んでこいっ」
「う、うんっ!」
シェリルが慌てて船のメンテをやっているリョウヤを探しに行く。
足音が遠ざかるのを確認してから、スタンと呼ばれた少年は小さく呪文を唱え始めた。それは、彼の最も得意とする炎の精霊魔法ではなく、古代語魔法と呼ばれる魔法の一つだった。
「え、誰かがこの船に近づいて来てるって?」
シェリルから『スタンに呼んでこいと言われた』と聞かされたリョウヤは、一瞬自分自身に対する追っ手かとも考えた。
しかし、自分に対する追っ手なら、たとえスタンにさえもその気配を簡単に悟られるような不用意な接近の仕方をする筈がない。
では或いは三英雄としての自分達に、だろうか?
それも、可能性は低い。
そもそも、この町に立ち寄ったことすらイレギュラーな事だった。
たまたま以前から少しばかり不調だった機関部が、ここの所の無理が祟ってとうとうギブアップしてしまった。
実を言うと、この船の設計者でもあり建造者でもあるガンコ爺の工場へオーバーホールの為向かう途中だったのだが。あともう少しと言う所で、言うことを聞いてくれなくなった。
だから、俺達の後をつけ回してでも居ない限りは、三英雄に対する『お礼参り』という線も、まず無いだろう。実際、後を付けられていた形跡も無かったことだし。
―――だとしたら? ひょっとして、町の人かな?
しかし、それにしたってこの、町の東にある荒野まで来るにはかなり広い森を横断しなければならない。
「分かった。すぐに行こう」
リョウヤは工具を置くと、油にまみれたままの顔を引き締めた。
慌てて駆けつけたリョウヤ達が見たのは、魔法の網に雁字搦めにされて転がっている男の子が二人。
「早くほどけよ~~~っ!!」
なんて叫んでいる。
「おう、リョウヤ。遅かったなぁ。見ろよ、イキの良い獲物が二匹も掛かったぜ」
捕獲者であるスタンはニヤニヤと笑っていた。
「おいおい、スタン。悪ふざけも大概にしとけ。
まだ小さな子供じゃないか。早く魔法解除してやれって」
「はいはい。ほーら、お前らリーダーのお許しが出たぜ、っと」
スタンが指をぱちんと鳴らすと、奇妙な色で輝いていた魔法力の網が溶けるように消えた。
「……ふー、助かったぁ~。ひっでーよなぁ、いきなりアレだもんなぁ。
だいじょーぶか、フレッド?」
金髪の少年が、もう一人の少年を気遣っている。
「う、うん……僕は大丈夫だよ、ディー」
「ふ~ん、君たちフレッド君にディー君って言うんだ~」
座り込んだ状態の少年達に、シェリルが同じように座り込んで目線を合わせる。
「……う、うん。って、おねーさん、シェリル・ブラウエン?」
フレッド少年に逆に問い返されて、焦る。
「え、うん。あたし、シェリルだけど?」
少年達はきょとんとして、その次に顔をみあわせ、それから二人揃って『本物だぁ~~~~っ!!』と叫んでしまった。
「おいおい、それを言うなら俺だって『本物』だぜ?」
顔をしかめて文句をつけるスタンに、少年達は気付いたように
「―――あーっ!! スタン・オーベルシュタインッ!!!」
と二人揃って指さした。
「っ、ガキども! 人を指さすんじゃねぇーっ!!」
スタンの怒号が夕焼けの空に響き渡った。
「へぇ~、二人とも幼なじみなんだぁ」
暫く話している内に、雲の上の存在の三英雄ともすっかりうち解けてしまった。
「うん。牧師様が孤児院やってるから、幼なじみは他にもいっぱい居るよな?」
シェリルが作ったスープを飲みながら、今は少年達が自分のことを話していた。
「そうだね。ウチの孤児院、牧師様やシスター入れるとみんなで30人くらいいるもんね」
話を振られたフレッドが、考える素振りもなく数字を出す。
「結構大所帯なんだなー。そんなに人数居てケンカとかしねーの?」
少年達二人と同じようにスープを飲みながら、スタンが話す。
「……するけど、すぐ仲直りする。しないと牧師様に無茶苦茶怒られるし。ね?」
とはフレッド。
「……フレッドはケンカなんてしないじゃないか。ケンカすんのはいつも俺の方」
はディー。そこへ席を外していたリョウヤが戻ってきた。
「あ、お帰りリョウヤ~。どうだった?」
「ああ、随分恐縮なさってたよ。ウチの子供達が大変ご迷惑を……ってね」
「何の話だよ? リョウヤ」
不思議そうにスタンに聞かれたリョウヤが、少年達を見つめて笑う。
「この子達の教会へ連絡を入れてきたんだ。心配して探しているといけないしね」
少年達ははっとしたように顔を見合わせ、身を固くした。
「リョウヤさん……牧師様、怒ってた?」
小さな声で聞くフレッドに首を横に振る。
「随分心配なさっていたけれどね、大丈夫だ」
「―――良かったぁ~~~。
普段優しいけど、牧師様あれで怒るとメッチャクチャ怖いんだよなぁ」
「うんうん」
少々オーバーアクション気味に子供達は緊張を解いた。
「で、今日はもう遅いし、こちらで二人をお預かりしますって言って置いたから、今夜は船でゆっくりして行くと良い。そうだ、食べ終わったら、船の中を案内しようか?」
「や、やったぁ~!!」
少年達は目をキラキラと輝かせて喜んだ。




