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俺の親友が異世界で最強枠になっちゃった話  作者: カトウアキ
第1章 朱雀編

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6話 覚醒

 人は本当に死んだとき、魂だけが消え、体重が二一グラムだけ減るという話を聞いたことがある。当然科学的根拠などないため、事実かどうかは置いておいてだ。


 俺は今、胸を貫かれて死んでいるわけだから、意識もないし、魂もどこかに消え去っているはずだ。


 しかし、今こうして思考ができているのはどういう訳なのだろうか。視界は真っ暗で、操縦する身体もない。ただ意識だけははっきりしていて、こうして物事を考えることができている。


 これは死んでいるのか、もしくは死後の世界で思考だけは生き続けているのか──。


 と、虚無の世界で耽っていたその時だった。


 眩い光と共に、俺の視界は徐々に光を取り戻していった。


 何度か瞬きをし、ようやく焦点が合う。

 視界の先には、目を見開いて口を開けるハイン、そして両隣に顔の見えない重鎧の兵士二人の姿が映った。


 数秒前なのか数十分前なのかは分からないが、どうやら死んだときと状況は一緒のようだった。

 ただ一つだけ違ったのは、ハインの生き霊を見るかのような表情だけだった。


「──もう大丈夫だよ、悠君」


 後ろから、聞き馴染みのある、穏やかな声。

 小さい頃から聞いていた、大好きな親友の声だった。


 俺はすぐさま振り返り、叶多の無事を喜びつつ、ある一つの確信を得た。


「叶多。とりあえずここから逃げよう。こんな状況じゃあ、落ち着いて話もできないからな」


「でも、どうすればいいんだろう……? どうやって逃げるの?」


「多分だけどさ。叶多は、この世界で最強になったんだよ。きっと、なんでもできるよ。そうだなぁ、とりあえず、俺を持ち上げてジャンプで壁を突き破ってみるか」


 そう。洞窟での一件や水晶玉を割ったこと、またベロニカとの会話の中で、俺はある確信を得た。


 それは、“叶多はこの世界でめちゃくちゃ強い”ということだ。


 朱雀に殺されかけたルメリアを救ったのも、ルメリアの言う通り叶多なのだろう。

 こうして胸を貫かれたのに今生きているのも、恐らく確実に叶多の力によるものと考えていい。


 ベロニカの言うことが正しいのだとすれば、叶多は悪魔の力を得たことになる。


 まずは試しに、ここを脱出する。

 そして、ルメリアとの約束を果たさねば。


「……本当に、僕にできるのかな……」


「大丈夫だよ、俺がついてる」


 踏ん切りのつかない様子の叶多だったが、俺の言葉を聞くと、少しだけ落ち着いた表情に戻り、首を縦に一回振った。


 これであとは、俺と、一応ルメリアも一緒に脱出するだけだ。


「ルメリアも、一緒に行くぞ。大丈夫か? そんなに腰抜かして」


 ハイン達以上に驚きを隠せていないルメリア。口をあんぐりあけて上の空だった。


 ハインが登場してからお役御免のルメリアだったが、半ば巻き込む形になってしまった以上、一緒に連れて行かなければ後味が悪いのと、約束もある。


 数秒間は上の空だったが、もう一度名前を呼ぶとようやく気づいたのか、一瞬身体をビクッと震わせ、慌てたように言った。


「だ、大丈夫に決まってるじゃない。早く行くわよ。って……どうすればいいの?」


 ごもっともな切り返しに返す言葉もないが、叶多の力が仮に魔素の量に比例しているとしたら、ベロニカの拘束魔法の時のように掴むモーションを、矢で相手を射抜きたかったら兵士のように弓を持って構えるモーションを取ればいいのではないか。


 ピコーンと閃いた俺は、隣で頭を悩ませている親友に指示をした。


「えーっと、あそこだ、あそこにしよう。あそこの天井に灯りがついてるだろ? あそこ目掛けて、腕を思いっきり伸ばすんだ。空気を殴るみたいにな。できるか?」


 余計にチンプンカンプンな空気感になってしまったが、そろそろ痺れを切らしたのか、ハインがイライラした口調で警告する。


「僕をあまり苛立たせないでくれないかな。僕も忙しいんだ。そう易々と、逃すとでも思うのかい?」


 持ち前の髪をかき上げる動作を挟みながらそう言うと、おもむろに右手を前に出す。


「錬成魔法」


 ハインが小声でそう言った直後、右手から剣のシルエットが浮かぶ。それは数秒間かけて実体を成していき、すぐに形ある剣へと変化した。


「さっきは殺り損ねたけど……今度は君から行くよ、カナタ。君は、僕たちが想像していた以上に危険な存在だったみたいだ」


 目つきが変わった、その瞬間。思い切り踏み込んだハインは、数メートルの距離をほんの一瞬で駆け抜けると、叶多の眼前で勢いを一瞬で殺し、止まる。

 

 遅れてきた風圧で身体が吹き飛ばされそうになるが、必死に食らいついて耐える。

 

 冷徹極まりない表情のハインは、「すまないね」と、まるで思ってもいない口調で短くそう言うと、素早く剣を振り上げた。


「──させて…………たまるかぁぁ!!」


 間一髪、ルメリアの剣がハインの剣に届いた。

 同時に、軽い衝撃波と、金属がぶつかり合ったことによる甲高い金属音が盛大に鳴り響く。


 ルメリアの剣は、振り下ろされたハインの剣を下から受け止めるように交わっていて、この状態が続くとルメリアが不利なのは明白だ。


「無駄なことを……。貴方は関係ないんだから、大人しくしていればいいのに」


 ハインも皮肉をいうほどの余裕はないのか、少しだけ声を震わせている。


 一方ルメリアは、片膝をついて、力任せに振り下ろすハインの剣をギリギリのところで押さえている。


「ごめん、なさい、カナタさん……。そろそろ、限……界……。魔法を……使って……!」


「叶多! 今しかない!」


 一分一秒の猶予も許されない状況に、叶多は慌てて「わかった!」と言うと、真上にある電灯目掛けて腕を振った。


 腕の先から空気砲のように放たれた魔素は、目には見えずとも周りの空気を巻き込んで天井の壁を大きく突き破った。


 それと同時に、耐えきれなくなったルメリアの剣が、真っ二つにへし折れた。


 ルメリアは、ハインの剣が当たるスレスレのところで後ろに飛び退り、間一髪のところで避けた。


 しかしハインは、そこまで見越していたのだろう、決してルメリアを逃してはくれなかった。


 ハインはどういう訳か戦闘中に空中へ剣を手放し、瞬時に後退する。


 瞬間、実体のあった剣が空中で霧散し、形を変え、円形のチェンソーのような物体に変化した。


 円形チェンソーはその場で高音を垂れ流しながら高速回転し、まだ足が地面についていないルメリアへ一直線に飛んでいった。


 間に合わないと思ったルメリアは、どうにかして体制を変えようともがいたが、目前に迫る死が判断を遅らせた。


 空中でバランスを崩したルメリアは、その場で転倒してしまう。


 もう無理だ、そう思った直後──。


 ハインの頭上から、大量の瓦礫が降り注いだ。

 

「──ナイス叶多!!」


 天井に風穴を空けたときの瓦礫が、一斉に落ちてきたのだ。意図してなのかは分からないが、ナイスファインプレーだ、叶多。


 死角からの攻撃に気づかず、大量の瓦礫に埋もれたハイン。同時に、円形チェンソーはその動きを止め、再び霧散した。


「「ハイン様!」」


 二人の兵士は、重そうな鎧をガチャンガチャンと音を立てながら走り、瓦礫を撤去しようと両手をかざす。少しすると、瓦礫が少しづつ宙に浮き始めた。


「叶多、ルメリア、今のうちに逃げるぞ! 叶多、俺達を持ち上げでジャンプしてくれ!」


 いかに普段不器用な叶多でも、今を逃すとやばい、そう思ったのだろう。

 無言で頷いた叶多は、左手を俺に、右手をルメリアに向け、ベロニカのやったことを思い出しながら唱えた。


「──拘束魔法」


 ふわっという感覚と共に、俺の身体を何かが包む。叶多が受けた魔法のように苦しくなることはなく、不思議な衣を羽織ったような感覚だ。


 ルメリアも同じようなことを思ったのか、変な声を上げてこちらを向く。


「……不思議な感覚がするんだ。身体の底から力が湧いてくる気がする……。今の僕になら、できると思う! 二人とも、いくよ!」


「おう!」

「はい!」


 叶多はその場で膝を曲げると、バネのように天井を飛び抜けようとした。


「──させない!!」


 自らの力で瓦礫を宙に浮かせてみせたハインは、冷静さを取り乱した口調でそう言い、こちらを睨みつけた。額からは一滴の血が流れていて、高そうな衣服は破れボロボロだった。

 

 すぐに走り出したハインは、先刻と変わらぬスピードで一直線に駆け抜けてくる。流れる血は空気中に置いていかれ、後ろの兵士の重鎧につく。


 ──ヤバい!! 追いつかれる!!


 そう思ったのも束の間、ふと、俺への拘束魔法が解けた感覚がした。

 次いで叶多の左手が、俺ではなく、ハインへと向けられた。

 叶多は腕を引き、今にも俺達を殺そうとしている対象へ、思い切り放った。


 耳元で空気を切り裂く音が聞こえ、それは一瞬でハインへと向かっていく。


 避ける間もなく──この技を避けるという概念があるのかも分からないが──直撃したハインの身体はくの字に曲がり、走ってきた距離分吹っ飛び、入り口のシャッターへ激突した。


 叶多を含むこの場にいる全員が驚きを隠せず口を開けたが、すぐに我に返る。

 再び俺に拘束魔法をかけた叶多は、今度こそ足に力を入れ、地面を蹴った。


 先頭の叶多に次いで、俺とルメリアが見えない紐で繋がっているかのように後ろを自動で追いかける。

 

 なんだかんだで叶多の救出作戦は成功し、無事に──とは言えないが、三人揃って外へ出ることができた。


「僕たち、この先どうなっちゃうんだろうね……」


「叶多の力があれば、なんだってできるよ。でも、まあ……はは。多少覚悟はしといた方がいいよな……」


「はぁーあ、ほんと、先が思いやられるわね。でも大丈夫よ。カナタさんがいれば、どんな相手にだって負けやしないわ!」


 真昼間の涼しく気持ちいい風にあたりながら、俺達──正しくは叶多とその他二人──はひたすら遠くへ走った。

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