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俺の親友が異世界で最強枠になっちゃった話  作者: カトウアキ
第2章 白虎編

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16話 イノシシ退治 後編

「──ユウ! ユウ! 早く起きなさいよ! まったく……どこにいるのよ! もう夕方なのよ!」


 動く爆音目覚まし時計に起こされた俺は、呂律の回らない状態で「おりれるろ(起きてるよ)」と言い、何度か目を擦る。


 気がついたら外は日が沈んでおり、夕焼け空は綺麗な赤色に染まっていた。

 日中と違い風はひんやりしており、少し肌寒さを感じる。


 というか、魔法で周りから見えなくなっていても風は感じるのか、とふと疑問に思ったが、魔法とはそういうものだと思い込むことにし思考を停止させた。


「二人ともおはよう。イノシシは無事に撃退できたか?」


 全力で伸びをしつつ、俺は見えない仲間に目配せした。


「あのねぇ、おはようって言っちゃってるじゃないのよ。……イノシシはまだ現れてないわ。外も暗くなってきたし、今日はもう外れくじかもね」


「そうだったのか……。また明日出直すか? それとももうちょっと粘ってみるか?」


「──もうちょっと、待ってみようよ。気配は消せてると思うし、人気(ひとけ)がいなくなる今だからこそ来るかもしれないし」


 どこからともなく聞こえたのは叶多の声だった。


 たしかに叶多の意見も一理あるが、前回、前々回のチヨばあさんの目撃証言はお昼過ぎと聞いているし、毎日人里に降りてくるわけでもあるまい。


「もしかして、二人はずっと起きてたのか?」


「そうだよ」

「当たり前じゃない」


「ま、まあ、叶多がそこまで言うならもう少し待つとするか。うん」


 冷たい視線を浴びせられた気がして、慌てて謝罪する。

 再び地面に座った俺は、静かに事が起きるのを待った。


 ──待つことおよそ十数分後。日は完全に地平線に隠れ、辺りはすっかり暗くなってしまった。


 あまりの退屈さにそろそろ痺れを切らしそうになった俺は、なんとか気持ちを抑えるため、体育座りから正座に切り替え、瞑想を始めようとした、そのときだった。


「きたよ」


 葉っぱの落ちる音と同じような大きさの声で、叶多が言った。


 森の方を見ると、俺達より一回りくらい大きい体躯をした、左右に二本の鋭い牙を持ち大きな鼻を持ったイノシシが、こちらへ近づいてくるのが見えた。

 

 隣には二回りは小さい子イノシシも一緒に歩いてきており、恐らく子供なのだろう、親の傍から離れず、少し震えながら歩いている。


 二匹のイノシシは、俺達が見ていることも知らずにゆっくりと壊れた柵まで辿り着くと、鼻をピクピクさせてなにやら臭いを嗅ぎ始めた。


 日中なら牛たちが柵の中を歩き回っているためイノシシが降りてくる意味も分からなくもないが、牛は既に牛舎に帰ったし、イノシシが日没以降にわざわざここまで降りてくる理由がない。


 親イノシシは臭いを嗅ぎながら徐々に柵の中へ入ってくると、なにか特定のものを嗅ぎ分けるように辺りを回り始める。

 

 数秒すると、親イノシシの動きが俺達の方向を向き止まった。


「これ、もしかしてバレてる……?」


 嫌な予感がしたと同時に、豪快に音を立てて鼻から荒息を溢し、前足を地面に擦り付け助走をつけた親イノシシは、俺達目掛けて全速力で突っ込んできた。


 完全に隠密がバレてしまった俺達は、大騒ぎで親イノシシから逃げるように走り、牧場を巻き込まないよう旋回しながら柵の外へ移動した。


「はぁ、はぁ……。ここまで来れば、大丈夫ね」


「……ああ。思う存分、暴れさせてもらおうか」


 互いに一定の距離を保ちつつ止まり、動き出すタイミングを窺う。


 子イノシシは柵の陰に隠れながら半分だけ顔を出し、怯えながら親イノシシを見守っている。


 一番先に動き出したのはルメリアで、剣を抜き、今にも走り出してきそうな親イノシシに警告する。


「あなたを傷つけたいわけじゃないの。大人しく森に帰ってくれれば、私たちはなにもしないわ」


 固い爪を持った前足で地面を何度か蹴り、後退りした親イノシシは、ルメリアの警告への回答として上下に生えた牙を打ち鳴らした。


「そう……手荒なマネは、極力したくないんだけどね。いいわ、かかってきなさい」


「おいおいルメリア、そんなこと言って大丈夫かよ。あのイノシシまた突進してくるつもりだぞ。今回の目的はあくまで退治だ。魔物でもないし、それに、子供のイノシシもいるし……殺すのは、ちょっと……」


 俺の家族は、俺が子供の頃に家庭崩壊を起こしていて、父親と離婚した母親の実質シングルマザーで俺は育てられてきた。結局は唯一の母親もまもなく鬱になり、俺は人で暮らすことになったのだが。


 よって俺の中で“家族”というワードは、非常に重い言葉なのだ。今でこそ叶多というもう一人の家族ができてはいるが、旅の目的であるルメリアの父親探しや、今回のような親子イノシシを見てしまうと、どうしても放ってはおけないのだ。


 俺の葛藤を汲み取ったのか、あるいは最初からそのつもりはなかったのか、少しだけ笑顔を見せたルメリアは、「そんなこと分かってるわよ」と一言いうと、剣を鞘に戻し、今度は鞘に入れたまま持ち直して言った。


「私も、このくらいの手加減は(わきま)えてるつもりよ」


 両者睨み合う中、先に走り出した親イノシシは、自慢の牙を剥き出しにして猪突猛進で進んでくる。

 

 片手で鞘付きの剣を構えたルメリアは、腰を落とし、突進の当たるギリギリまで相手を引きつける。


 牙が当たる寸前、ルメリアは足を大きく上げてジャンプし突進を回避。通り過ぎるところで、胴体に一発、強めの一太刀を披露。


 軌道がズレた親イノシシは、勢い余って地面を削りながらブレーキをかけ、数メートル離れた距離で停止した。


 攻撃をしてきたルメリアに対して敵対心を露わにすると、再び助走のため一メートルほど後退りし、突っ込んできた。


「二度も同じ手はくわないわよ!」


 今度も直前でジャンプをかまし、胴体に一発打ち込もうとした──が、前回の失敗を学習した親イノシシは、ルメリアが空中で剣を振るうまでの間に、頭を大きく上に持ち上げて反撃した。


 背中に直撃しバランスを崩したルメリアは、そのまま吹っ飛び牧場の柵に激闘してしまう。

 しかし、土を払い、すぐに立ち上がった剣士は再び鞘付きの剣を構える。


「……こいつ、意外と……タフなのね。頭も良いし、思ったより手強いかも」


「ルメリアさん、頑張って!」


 観客の叶多の声援で鼓舞された剣士ルメリアは、「よーし!」と謎のやる気をみせると、親イノシシを煽るように手招きした。


 荒息を溢し走り出した親イノシシは、懲りずにルメリアを追いかけるように走り回る。しかし走りの速いルメリアは、円を描くように何周かまわったあと、俺の真横を通り過ぎ、今度は大きくジャンプし親イノシシの視界から消えた。


「囮よろしく!」


 とだけ言い、ルメリアは相手に気づかれずに背後を取ることに成功する。


「えちょちょちょちょちょ、俺なの!?」


 約一週間の間、頑張ったと自分を褒められるくらいには任務をこなしてきたつもりだが、戦闘経験はぶっちゃけ片手で数えられるくらいしかない。


 思考がパニックになった俺は、とりあえず商店街で買った鋼の剣《シャープソード》を鞘ごと引き抜き、構える。


 勢い任せの親イノシシは、俺に交代したことに気がつくこともなく、過去最高速度で俺目掛けて突っ込んでくる。


 俺は両手でずっしりと剣を構え、走り込んでくる親イノシシの牙にシャープソードを交えた。


 まるで走行中の列車を止めるかの如き勢いに、俺の身体は意図せず後退していく。

 凄まじい重圧が全身にのし掛かり、手首が震え、牙と剣の間から火花が迸る。


「──うおおぉぉぉおおおおおおお!」


 喉元から全力で声を張り上げて踏ん張る。

 しかし、数秒と経たずに耐えかねた俺の足は、地面から打ち上げられ、空高く吹っ飛び、大きな衝撃音と共に地面に激突した。


 満足した親イノシシは、前足を使って少しずつ減速していき、完全に停止する、その直前。


「──完璧な囮だったわよ! あとは任せて!」


 親イノシシの視界から外れていたルメリアが、「強化魔法」と口ずさみながら隙のできた暴走列車を背後から全速力で追う。


 薄赤いオーラを纏い、あっという間に距離を詰めた赤髪の剣士は、親イノシシが方向転換するより前に、強化魔法で威力を上げた一撃を放った。


 ──フゴォォォッ。


 情けない鳴き声を出した親イノシシは、その場に倒れ込んだ。

 すぐに子イノシシが駆け寄ってきて、俺達のことはお構いなしで親の体を揺する。


「……退治成功、ね。ナイス囮だったわ、ユウ。どうやらそっちの才能はあるみたいね」


 今回の任務のMVPである赤髪の剣士は、陰の功労者の俺をバカにする口調でそう言った。


「今度ルメリアにも教えてやるよ、きっと才能あると思うぜ」


「はぁ。ほんっと、口だけは達者なんだから」


「うるさい」


 なにはともあれ、任務達成だ。

 あとは親イノシシの回復を叶多にしてもらえれば万事解決だ。


「二人とも、すごいよー! 最後の一撃、すごくカッコよかったよ!」


「ありがとう、カナタ。でもまだまだよ、もっと強くなって、あなたと肩を並べれるくらい強くなってみせるわ」


 親友に惚気のようなシーンを見せられ少々複雑な気持ちになるが、早く傷を治さないと子イノシシが可哀想だ。


「叶多! 帰る前に、イノシシの傷を治してやってほしい!」


 俺の傷も治してほしいところだが、それは帰ったあとでも間に合う。ひとまずはイノシシ親子の回復を優先させる。


 ただ一つ懸念なのは、せっかく回復させたのに、懲りずにまた襲ってくる場合。こうなったらまた懲らしめなければならない上に、牧場がまた危険に晒されてしまう。そうならないために、少し強めにお仕置きしたつもりだ。きっとイノシシも分かってくれるだろう。


 両手を傷口に当て、「回復魔法」と唱えた叶多は、黄緑色の光を両手に纏わせ、傷口に流し込んでいく。


「──よし、治ったよ」


 数秒足らずで回復を終えた最強万能ヒーロー叶多は、「次はもうちょっと優しくやってね、痛そうで見てられないよ」と言いながらゆっくりと後退る。


 ──プギッ。プギッ。


 子イノシシが鼻から音を何度か鳴らすと、意識が戻った親イノシシがこちらを一瞥して、今度は少しだけ大きな音で鼻から音を鳴らす。


 ──プギッ。プギッ。プギッ。


 なんと言ったかは俺達には分からないが、少なくとも、もうこいつらが悪さをすることはなさそうだ。


 二匹の後ろ姿が森の中に消えていくのを確認してから、安堵の溜息をつく。


「……ふぅ、これで一件落着だな」


 辺りはすっかり暗くなっていて、空に浮かぶ丸い月が、俺達を上から見守るように照らしている。


「ええ、今日も疲れたわね。早く帰ってご飯にしましょう、もうお腹ペコペコよ」


 左腰に鞘を納め、お腹を押さえたルメリア。


「叶多も、一緒にチヨさんに報告だけしてさっさと帰るぞー」


「ううん、僕が行ってくるよ。今回なにもできてないしね、これくらいさせてよ」


 ずっと観戦しかできていなかった叶多は、元気よく立ち上がると小走りで牛舎のほうへ向かっていく。


「──? なんだろう……これ」


 その場でなにか物を拾う動作をした叶多は、俺達に聞こえるか聞こえないかギリギリの小声で言った。


「どうした、叶多。なんか落ちてたか?」


「いや、綺麗な石が落ちてるなーと思って! それだけだよ」


「ふーん、そっか。俺達、壊しちゃった柵を直しとくから、報告終わったらすぐ戻ってこいよな」


「分かった! すぐ戻るね」


 そう言い、再び叶多は牛舎の方へ走り出した。


 二人きりになり、若干気まずくなった俺はなにを言おうか考えていると、


「──ユウはもっと、努力するべきだと思うわ」


「え?」


 俺が話すより前に口を開いたルメリア。


「剣でイノシシを迎え撃ったとき、力比べて負けて吹っ飛んだでしょ。日頃からトレーニングしてれば、いくらZランクとはいえもう少し耐えられたはずだわ」


 俺がバツの悪そうな顔をしていると、ルメリアは追い討ちをかけるように話を続ける。


「この先一緒に戦っていくには、最低限の努力は必要だと思うわ。ZランクならZランクなりの努力の方法があるはず。私もまだまだだけど、あなたよりは確実に努力しているし、カナタに追いつきたいって気持ちも持ってる。……それがないあなたに、カナタを守る資格はあるの?」


 そう言われ、ハッとする。


 正直、叶多とルメリアと一緒に行動する中で、俺の中である種の悔しさ──劣等感のようなものがあるのは事実だ。


 突然異世界に連れてこられて、人生やり直す機会を得たのかなと一瞬思った時期もあったが、能力や人に恵まれてるのはあっちの世界でもこっちの世界でも、変わらず叶多だった。


 ルメリアの過去など知らないが、ルメリアはルメリアで努力し続けているのは見ていて分かる。親がいなくなってもなおひたむきに探し続ける愚直さや素直さが、彼女にはある。


 しかし俺はというと、異世界にきて、自分に才能がないと分かった途端、全て叶多とルメリアに頼り、守ってもらってばかりいた。

 

 ──でも。


「ルメリア……俺は、二人みたいに強くなんてなれないよ。叶多みたいに特別な力なんて持ってないし、ルメリアみたいに努力の天才でもない……でも、叶多を想う気持ちだけは絶対に本物だ。これだけはあんたにだって譲れない」


 強くなれるかどうかなんて分からない。努力したって報われるとは限らないし、正直、叶多に届くとも思えない。それでも、俺なりに努力して努力して、それでも駄目だったら、そのとき考えればいいじゃないか。


 捻くれたってしょうがない。

 せっかく来てしまったこの異世界、全力で努力して生きてやろうじゃないか。


「──たまにはカッコいい顔するじゃないのよ。いいわ、私がしばらくの間つきっきりで教えてあげる。覚悟しといてよね」


「……おう、ありがとな」


 夜風に吹かれた木の葉が、ふわりと俺とルメリアの間を過ぎ去った。


 少しして、遠くで俺達の主人公が手を振っているのが見えた。


 俺は両手を振り返して、叶多の元へ走った。

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