5.一撃
バリデロンの町を襲った二人の魔竜人は、時計台に吊るした餌にヒトの男がかかったのを確認すると、二手に分かれて広場に踏み込んだ。
「ロアーグの死体から辿ってみれば思わぬ拾い物よ。食ってみたかった」と一人が言うと、
「兄者。男というが、メソメソして“戦士”に見えぬ。これなら、そこいらに放しても構わんのでは?」もう一人が応じた。
「ふーむ、こいつは“戦士”とは別の生き物かもしれぬ。ここの囲いを使って繁殖を試みるのも一興か」
二人は語り合いながら無造作に距離を縮めた。
だが、途中でその足を止めた。
時計台があったところに、突如、火柱が上がったのだ。太く赤く燃えさかり、その輝きが天に刺さった。
炎の中から満身創痍のアンジェが現れた。
抜き身の刀を下げている。
「ほう、そのような業物をどこから?この町には鈍ら刀しかないはず…」と魔竜人は驚きを口にした。
「魔法を使えるのか?“出来損ない”の中には、魔法を使えるものがいると聞くが…」
「しかし、兄者。所詮、まがい物のようじゃ。この女からは強い魔力を感じぬ」ともう一人が嗤った。
アンジェは“兄者”と呼ばれた方の魔竜人に対峙し、脇構えを取った。
刀を左後方に伸ばし、極限まで体勢を前傾させ、力をためた。
左下腹から血が流れ、傷口が身体の捩れと腹圧に負けそうだ。腸が飛び出したらもう走れない。
この一太刀。
両手で柄を絞ると、刀の茎から切っ先までドクドクと気が充ち、アンジェが望む大太刀に変形した。
だが、脇構えは刀の長さを隠せる。
ダン!
一歩で距離を縮め、胴に撃ち込んだ。
長大な刀は唸りをあげて魔竜人の脇腹に食い込み、胴を半分切ったところで止まった。
切られた魔竜人が両手で刀を掴んでいる。「こいつは驚いた!油断したわ!」と大声で言った。
「じゃが、こっちは二人」
もう一人がひとっ飛びでアンジェの背後を取り、その首を掴んだ。鉤爪が頸動脈を探って肉に食い込む。「兄者を離せ」
アンジェは振り返らず、
「こっちは三人だ!」と叫ぶと太刀筋を下方向に切り換え、魔竜人の指もろとも、はらわたを掻っ捌いた。
その後ろで、憤怒に膨れ上がったぽこチンが弟分を頭から噛み砕き、バラバラの死体を宙に吐き捨てた。
魔竜の咆哮が大地を揺らし、あたり一面に響き渡った。




