3.交配
「村木くん!」
英語の授業が終わり教室を出るところで、後ろから声をかけられた。美鈴さんだ。
「えっと…元気?留年決まったんだって?」
「ああ、うん。三か月も無断欠席したから、仕方ないよ」僕は答えた。
「どこに行ってたの?」
“異世界に行ってたんだ”
とは言わず、僕はただ笑った。
「え?なーにぃ?なんで笑うの?心配したんだよ!」
美鈴さんが上目遣いに唇をとがらせ、僕の腕に触った。
「ごめん。何でもないよ」
僕は歩き始めた。
そういえば、美鈴さんは僕の友人と別れたらしい。
「村木くん、お昼どこ行く予定?」と聞かれたが、彼女の甘ったるい、探るような話し方に煩わしさを感じた。
美鈴さんは、あの頃の僕の視線と想いに気づいていたのだろう。
「今日は実家に帰るんだ」と告げると僕は方向を変えた。
「村木くん、変わったね。雰囲気が」
「そう?」
振り返ると美鈴さんが立ち止まっていた。
「服とか髪型のせいじゃないかな?」
僕はパーカーを着るのをやめた。髪も短くカットした。
「そうかなぁ…」
美鈴さんは何かを言いかけたが、その代わりに微笑して小さく手を振った。
久しぶりに実家に帰ると勉強机の引き出しを開けた。
探すと、やっぱりあった。
奥の方に隠してあった。
高校時代に描いた漫画。
他愛もない二次創作。
主人公に成り代わった僕が、卑猥なセリフを喚き散らしながら、下半身丸出しで日本刀を振り回す。ラブコメ世界のパリピを虐殺していく。という内容だった。
エクスカリバーをもじった“エレクトカリブトカリバー”も出てきた。
あの頃の僕は、世界を壊したかった。特に、幸せそうな、若くてカワイイ女の子たち。
僕を馬鹿にしたり見下したり、無視したりする生き物が許せなかった。
「ぽこチン、ごめんな」
僕はひとりごちた。
「こっちの世界はぬるかったよ」
あの世界で人々は、魔竜人という異種族に支配されていた。
魔竜人には雄しかいない。
魔竜人はヒトの女をさらい、犯して子どもを産ませる。
女の子はヒトとして生まれるが、男の子の場合、ヒトではなく魔竜人が生まれる。
魔竜人の赤ん坊には歯が生えており、生まれてすぐに立ち上がりキメラの出産で衰弱した母親を最初の餌にする。
だが極めて稀に、血の融合が未完成の魔竜人が生まれるという。それが、アンジェとぽこチンだ。
姿形はまったく違うが、一心同体の双子だ。
もし、ぽこチンが成長し、母親から授かったヒトの理性を失えば、アンジェを食ってロアーグになる。
伝説によれば、大昔はメスのロアーグがいて、人間の男の戦士がそれとまぐわって魔竜人が誕生したという。
だが、いまは雄の魔竜人とメスの人間しかいなくなった。
そのはざまに産み落とされたアンジェは、魔竜の血に呪われた世界を変えたかったのだ。
だが、僕は逃げた。
魔竜人どもと闘い続ける勇気はなかった。




