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第5話 意図せぬ来客


 昨晩の一件から一夜明け、明日が休日という事もあってか、昼食時の教室には週末の予定について語らう生徒達の声が響いていた。

 かくいう俺はというと、今のところ部屋の掃除くらいしか予定が入っていないので、弁当を食べつつソシャゲーのメインストーリーを進めようと画策していた。

 今日のアプデで気になってた新キャラのピックアップも来るみたいだし、イベントも走ってガチャ石を貯めなきゃな……。


「珍しく今日は1人なんだな」


 そう言いながら蓮が弁当と水を持って俺の近くへやってきた。


「蓮が来たことで2人になったけどな」


「残念。ここから更に2人増えて4人になるんだ」


 蓮がそう言うと、入野と橘さんがこちらに向かってくるのが見えた。


「男二人だとむさ苦しいから、詩織ちゃんと私が華になってあげようかなって」


「お前は『男の友情』っていう表現を知らないんだな」


 蓮と入野が軽口を飛ばし合う中、橘さんはどうしたらいいか分からないようでオロオロしていた。

 かわいそうなので助け舟を出すことにする。


「橘さん、そこのイチャついてる二人は置いといて、一緒にお昼食べようよ」


「は、はい……」


 橘さんが俺の正面に座ると、それを見た蓮と入野はじゃれあいを中断し俺と橘さんの隣にそれぞれ座って弁当を広げる。

 各自、手を合わせたり『いただきます』と言ったりして、昼食を取り始める。


「それにしても、遼の昼飯はいつにも増してウマそうだな」


「そう見えるか? まぁ昨晩姉ちゃんが作ってくれたシチューの残りなんだけどね」


 俺の発言を聞いて笑顔から一転、蓮は羨ましそうな視線を向けてくる。


「正直、俺は遼が許せない」


「なんでだよ」


「私も許せない」


「入野は意味分かんないよ」


「だってあんな綺麗なお姉さんと同棲してるんでしょ!? それに毎日甘えさせてくれるんだから許せるわけないじゃん!」


「姉弟だっつうの。同棲とか言うな」


 俺が入野に言い返している隙に、蓮は俺のシチューから器用にも鶏肉だけを奪い去って口の中へ運ぶ。


「おい! 勝手に食うなよ!」


「うんま~、鶏肉ほろほろ~」


 鶏肉をおかずに白米をかき込む蓮に意識を向けてしまったせいで、ガラ空きとなったところを狙って入野が蓮と同じく鶏肉を掠め取る。


「入野も!? お前ら自分の弁当を食えよっ!」


「ん~! 咲来お姉さまの愛情を感じる~」


 一連のやり取りを見て、遠慮がちにクスクスと笑う橘さん。

 そして俺と一瞬目が合うと、橘さんは魅力的な提案をしてきた。


「あ、あの……。もしよかったら、私のお弁当のおかず、差し上げましょうか……?」


「ホントに? でもなんか申し訳ないな……」


「だ、大丈夫ですっ! 実はちょっと、お弁当の量が多くて……」


 そう言うと橘さんは、から揚げと卵焼き、タコさんウインナーを弁当箱の蓋の裏に乗せて差し出す。


「こんなに貰っちゃって良いの?」


「はいっ、遠慮なさらず、いっぱい食べてください」


「じゃあお言葉に甘えて……」


 まずはから揚げから。一口食べて気付いたが、しっかりと味のしみ込んだ鶏むね肉とその食感から、これは冷食じゃなくて自家製だとみた。弁当用なのかは分からないが、一口で食べやすいサイズなのも良い。

 これは白米が進む……っ!

 そしてお次はあえてのタコさんウインナー。うーん馴染み深い味わい。しかもタコさんの足先がしっかりと焼かれており、若干のクリスピーさがたまらない。

 今度俺も作ってみよ……。

 最後はお待ちかね、卵焼きだ。さて、どんな味付けか楽しみだな……。


「……うん?」


 凄く覚えのある味わい。

 これは俺の得意レシピ……?

 俺の訝し気な反応に戸惑う橘さん。


「あ、あの……。お口に合いませんでしたか……?」


「いや、すごくおいしいよ?」


「ほ、ホントですかっ!? よ、よかったです……!」


 控えめに喜ぶ橘さん。

 まぁ俺が勝手に我が家の味と決めつけているだけで、比較的オーソドックスなレシピではあるか。

 実際、昨日朱音が作ってきた卵焼きもそうだったしな。

 俺は相変わらずシチューを狙い続ける二人のけん制をしつつ食事を終えた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~


 今日はテニスコートの改修工事で部活が休みだという事もあって、昼食をとった4人で帰路に就くことになった。


「いや~毎週末部活が休みだと嬉しいんだけどなー」


「でも月曜から木曜までずっと練習しっぱなしってのも、それはそれでしんどくねぇか?」


「確かに……いっそ水・木どっちも休みにしてほしいなぁ」


「ホントそれな」


「おいおい、二人ともレギュラー決まったからって気が抜けてんじゃないのか?」


 昨日の選考会で蓮と入野は見事選抜され、夏の大会にレギュラーメンバーで出場する事が決まった。

 普通なら気が引き締まって練習に没頭するはずだが、この二人はやれやれと肩を竦める。


「いいか、遼。レギュラーに選抜されたからって気合入れすぎると、かえって怪我をする事も多いんだ」


 入野は蓮の意見に深く頷く。


「だから私たちは変に意識せず、いつも通りの思考で過ごした方が好調をキープできるってワケなの」


 今度は蓮が入野の意見に深く頷く。


「っていう事でさ遼ちゃん。何か奢ってよ!」


「そうそう。1年生でレギュラー選抜なんて偉業を成し遂げた俺らをもてなせ」


 昼に俺のシチューから鶏肉を奪ったというのに、あまつさえ物を強請るとは。

 なんてふてぶてしい奴らなんだ……。


「仕方ないな……今日駅前のベーカリーに行くし、そこでパンを一個ずつ奢ってやるよ」


「駅前のベーカリーって、お前の幼馴染がバイトしてるっていう店か?」


「そうだよ。今ごろ夕方のラッシュに向けて仕込んでる時間だし、運が良ければ俺のおススメが焼きたてで食べられるかもな」


 それを聞くと二人は更に機嫌がよくなり、蓮は俺の肩をもみ、入野は俺の手のひらのマッサージを始めた。


「霧島様、今日も肩が非常に凝っていますねぇ~」


「霧島様ぁ~、指圧はこのくらいでよろしいでしょうか~?」


 さっきまでの図々しい態度から一変、急に俺をもてなし始めた。

 俺は歩きにくいとは思いつつも二人からサービスを受ける。

 すると橘さんが遠慮がちに提案する。


「あ、あのっ! 私にも何か奢らせてください……!」


「詩織ちゃんっ!?」


「さ、最近、綾ちゃんと日向くんには、色々お世話になってますし……お二人には、私からもお祝いがしたくて……」


 蓮と入野は、橘さんの申し出に感銘を受けているようだ。


「ありがとう橘……重いだろそのカバン。俺が代わりに持つよ」


「ありがとう詩織ちゃんっ! じゃあ私は詩織ちゃんの肩を揉んであげるねっ!」


 蓮と入野は俺をそっちのけに、橘さんをもてなし始めた。

 橘さんは二人の行動に戸惑いつつも、少しうれしそうにしている。

 三人の微笑ましい光景を見て、俺はなんだか穏やかな気持ちになった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~


 学校から歩いて15分ほど。世のサラリーマンの帰宅ラッシュ前な事もあって、駅前は大人よりも学生の方が多いように見える。

 朱音のバイト先である『ムラカド・ベーカリー』の近くまでやってきた俺たちは、風上から焼きたてのパン特有の香りが、ほのかに漂ってきた事に気付く。


「焼きたてのパンって、マジでいい匂いするよな」


「私、1個だけじゃ我慢できないかも……!」


「あ、綾ちゃん……? ほどほどにしないと、晩御飯食べられなくなっちゃうよ?」


「そうだそうだ。それに俺は1個ずつしか奢らないからな?」


 そう言いつつも、俺も昨日の焼きたてのバゲットを不意に思い出してしまい、はやる気持ちを抑えつつ、ベーカリーの入口扉を開けた。

 扉に取り付けられた小さなベルが鳴ると、奥から店主の村角さんが顔を出す。


「いらっしゃいませー。おや、遼君じゃないか! 今日はお友達も一緒なんだね」


「はい。今日は友人のレギュラー入りのお祝いに、村角さんの美味しいパンをご馳走してあげようかと思いまして」


「ほぉ~それはめでたいな! ちょうど遼君の好きなクロワッサンを焼いているから、それまでテーブルでゆっくりしといてくれるかい?」


「分かりました」


 ここムラカド・ベーカリーには喫食スペースが併設されており、焼きたてのパンを店内で楽しむことができる。

 俺たち四人はそのテーブルに座り、期待を膨らませながら待つことに。

 すると程なくして、二人の女子高生が袋を手に入店してきた。


「村角さ~ん。精肉店の田代さんから今日の仕入れ分持ってきましたよー」


「あ、ねぇねぇ。朱音の幼馴染君が友達と来てるよ?」


 朱音より先に俺たちに気付いたのは、朱音のギャル友である青葉璃沙(あおば りさ)先輩で、ムラカド・ベーカリーの従業員だ。


「……ホントじゃん! 材料おいてくるから、ちょっと待ってて!」


「それはアタシがやっとくから、朱音は接客やっといて~」


 青葉先輩は朱音の持ってた袋を取ると、そのまま奥へと消えていった。

 取り残された朱音は、どこかよそよそしい雰囲気で俺たちに話しかける。


「えーっと……ドリンクメニューとお冷をお持ちいたしますので、少々お待ちください」


 そう言って奥へ向かおうとした矢先、一人の男子高校生が入店してきた。


「やぁ朱音ちゃん。俺にもドリンクメニューとお冷、貰ってもいいかな?」


「お、小野先輩っ!? どうしてここに……」


 意図せぬ来客に戸惑う朱音。

 小野先輩と呼ばれた男はそのまま朱音へと距離を詰めると、優しい笑顔でこう言った。


「朱音ちゃんの可愛い笑顔が見たいなーって思いながらパン屋に来たら、本当に居たんだから驚いちゃったよ」


「そ、そうなんですね……」


 朱音はぎこちなく笑いながら答えた。

 すると小野先輩は朱音の目の前まで歩み寄り、こう言い放った。


「やっぱりさ、これって運命だよね。……朱音ちゃん?」


投稿が遅くなってしまい申し訳ありません……!!


今回もお読みいただきありがとうございます。


次話は、9月12日20時頃に更新予定です!


是非感想を頂けると励みになります……!!

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