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第41話 デートの終わりと『スターチス』


 アクセサリーを買った後は喫茶店でゆっくり落ち着く時間を作った。

 そこでは夏休み課題の進捗だったり、最近綾が始めたトレーニングについて話したりと、取り留めのない会話に花を咲かせた。

 気付けばもう夕方5時を回っていたので、俺は最後のプランに移るべく会計を済ませて喫茶店を後にする。


「じゃあ次の場所に向かうか」


「分かった……って、ひょっとして次が最後?」


「ああ。あまり遅くまで綾を連れまわして何かあったら怖いしな」


「……そっか」


 綾は名残惜しそうに俺の横を歩く。

 部分的にスリリングだったけど、綾も終始楽しそうだったし名残惜しくなる気持ちは分からなくもない。

 何か明るい話題を提供しようと、俺は脳内の『面白かった出来事』を掘り起こす。


「あー……そういえばうちの姉ちゃんが写真撮るの下手なのって知ってる?」


「えっ、あの咲来さんが……?」


「そうそう。この前写真送ってもらったんだけどさ……見てよこの猫の写真」


 俺はスマホを取り出して、姉ちゃんからLoinで共有してもらった猫の写真を綾に見せる。


「……メッチャ疾走感あるね」


「猫だけブレてるの逆に凄いよな」


 そうして何枚か姉ちゃんによる猫アルバムの写真を見せると、綾は笑いを堪えつつも頑張って褒めようとする。


「ふふっ、いやぁ~流石は咲来さんだなー。ユーモアの塊というか……ふっ……!」


「無理して褒めなくても良いぞ」


「いやいや! 私は心から咲来さんを……わはっ! ちょっとやめてよ遼ちゃ~ん!」


 俺がこの前の、姉ちゃんと俺のツーショット写真を見せると、綾はたまらず吹き出した。


「ちなみにこれも姉ちゃんが撮ったやつだからな?」


「なんでそんな変顔してんのよ~」


「誓って言うが、俺と姉ちゃんは一切変顔してないぞ。単に姉ちゃんの写真撮影のセンスが壊滅的なだけだ」


 笑いのツボに嵌ってしまったのか、歩きながらもお腹を抱えて笑う綾。

 そんなに面白いのかよこの写真……。

 結局綾が笑い疲れる頃には、目的地である鉄橋にほど近い堤防の階段にやってきた。

 よし……じゃあ良さげなタイミングで切り出すか。

 俺は綾の呼吸が落ち着くのを待っていると、俺の雰囲気が変わったことを察した彼女は、乱れた髪を手櫛で整えて俺に向き合う。


「一応ここが今日最後のデートスポットなんだけど、なんでここを選んだか分かるか?」


「うん。私が遼ちゃんと友達になった場所……でしょ?」


「……ちゃんと覚えてたんだな」


 中学に入学して間もない頃、体力づくりの為に堤防をランニングしていたら、転んで泣いている女子を見つけた。

 彼女は体力づくりの為に初めてランニングをしていたらしいのだが、身体がツラくなってきたタイミングで足をもつれさせて転んでしまったらしい。


「そういえば、あの時も遼ちゃんが私を励ましてくれたんだよね」


 綾の言葉通り、俺は彼女の手当てをしてあげるついでに、世間話や笑い話で場を盛り上げたんだ。


「ま、あの時は綾が中学生だなんて思ってなかったんだけどな」


「えっ……もしかして、高校生に見えちゃった?」


「いや……小学生だと思ってたんだよ」


「えぇーっ」


 今でこそ成長して姉ちゃんかそれ以上の身長になっているが、当時の綾は背も低くて幼く見えたんだ。

 だから年下の子をあやすような立ち振る舞いをしてしまった。


「でもさ、私の愚痴とかい~~っぱい聞いてくれたよね」


「だってあんなに泣いてたら流石に話聞いてあげたくなっちゃうだろ」


 中学に上がったのに全然友達が増えないとか、何か新しい事を始めても上手くいかない等の相談を何十分もここで聞き続けて、気付けば日が暮れかけていた。


「それで帰り際、遼ちゃんが『入野ちゃんは、今日から俺と"友だち"だな!』って言ってくれたよね」


「ああ。その通りだ」


「……それで?」


 綾は『あの頃』と違って、とても大人びた姿と表情で俺の次の言葉を待つ。

 俺は深呼吸をして、自らの想いを言葉に乗せる。


「……俺は知っての通り、自分が友達だと認識した人には平等に接するようにしているんだ」


 この考え自体は曲げるつもりはない。

 だって、誰か1人を特別扱いなんてできないし、俺もそこまで器用に生きれない。


「でも、この前綾に『そういうところ、嫌いだよ』って言われて、友達の一つ先の優先すべき存在を作ることにしたんだ」


 そうする事で『友達』という関係以上に、優先度の高い人。

 つまり『家族』並みに自分が気を掛けなければいけないという、そんな存在。


「今まで口先では都合のいい事を言って逃げてきたけど、俺は綾をそういう大事な人として扱いたいと思ったんだ」


「うん……」


 空が薄赤くなってきた思い出の堤防で、俺は綾の目を真っすぐに見つめて自分の行きついた答えを出す。


「だから綾。改めて俺と『本物の親友』になって欲しいんだ」


「…………『本物の親友』?」


「そうだ。俺は綾と、そうなりたいと心から思ってる」


 そうすれば、俺の中では姉ちゃんと並び立つ『優先すべき存在』になり、今まで平等に接してきた『友達』の枠から抜け出す、いわば特別扱いになる。

 綾が『友達が減るのが怖いから恋人を作らない』というのであれば、俺が『友達以上、恋人未満』の関係になれば、そのジレンマからも抜け出せると思ったんだ。


「……そっか、そうだよね」


 綾は嬉しいような、少し悔しいような、そんな表情を浮かべる。


「遼ちゃんは、私の悩みを真剣に考えてくれて、私の為に『その席』を用意してくれたんだもんね?」


「ああ」


「……ん、分かった。じゃあ遼ちゃんは、今日から私と"親友"だね……っ!」


 そう言って駆けだした綾は、俺に抱き付く。

 若干反応が遅れてしまったが、俺も綾の背に両手を回して"親友"にハグをする。

 遠くから上りの列車が鉄橋を走ってくる中、綾は俺の懐で小さく呟く。



「これで私は、遼ちゃんのい――――」



 自問自答のような綾の儚い言葉は、俺達の背後を走る電車によってかき消されてしまう。

 二両編成の短いローカル鉄道だが、彼女の独白をかき消すには充分すぎる長さだった。


「えっと……ごめん。最後の方が聞こえなかった」


 俺の謝罪を気にすることなく、綾は俺の懐から一歩下がって今日一番の笑顔を見せる。


「私、これからは遠慮なんて絶対にしないから……ってコト!」


「望むところだ。あ、でも姉ちゃんみたいには絶対ならないでくれよ?」


「えぇ~、私の推しが咲来さんって知っててそれ言うの~?」


「当り前だろ。特に最近は弟の俺を束縛しがちなんだからさ」


 高校生になったばかりの時に比べて、最近の姉ちゃんは何かと俺の行動や遊ぶ相手を気にするようになってきているのだ。

 俺が非行に走らないか不安なのかもしれないが、もし綾までそっち側に付いてしまったら、俺は恋愛どころじゃなくなってしまうだろうし。


「ふ~ん? ま、いーや」


 綾はくるりと後ろを向いて、その表情を見せないまま言葉を続ける。


「私、今日のデートで自分のキモチに気付けたから。本気になったからにはトコトンやるとこまでやってやる……!」


 テニスの夏大会に向けて意気込んでいるのか、彼女の両手は固く握りしめられている。

 そして普段はラケットを握っているであろうその右手からは、俺がプレゼントしたピンゾロのダイスが、夕日に照らされて煌々と輝く。


「っ……?」


 真夏だというのに、俺は一瞬身震いしてしまう。

 河口から吹いてくる風のせいか、喫茶店で飲んだアイスラテのせいか。

 はたまた彼女の背中を見て何かを感じ取ったのか。

 俺は答えを出せないまま、彼女の背中をただ眺め続けた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~



 綾とのデートを終えた俺は帰路に就いていた。

 別れ間際に今日のデートはトータルで何点だったか聞いたところ、『そりゃ~85点でしょ』と、結局及第点なのかすら分からなかった。

 俺的には最高のプランだったハズなんだけどなぁ~……。

 喜び半分、悔しさ半分の絶妙な気分になっていると、自宅の郵便受けにまたもや紙が差し込まれていた。

 俺はまたしても何か忘れ物をしてしまったのかと不安になりつつ、郵便受けの中からその紙を取り出して内容を確認する。


『受け取って』


 正方形に切り取られた紙に綺麗な文字でそう書かれており、再び郵便受けの奥を覗くと、"一(・)束(・)の(・)"白い花が置かれていた。

 手に取って観察すると、茎の先端に小さな花が幾つもついているようだった。

 俺は一先ず書き置きと一束の花を片手に、自宅の鍵を開けて帰宅する。


「ただいまー」


「おかえりー」


 リビングでいつになく疲れた声を出す姉ちゃん。

 もしかしてあの後ずっと木下さん達と遊んでいたのだろうか。


「今日なんか疲れてない?」


「真夏の日中にずっと歩き回ってたからねー……もう脚パンパンよ」


 ソファーにも座らず、ラグマットの上でだらしなく両足を伸ばす姉ちゃんを横目に、靴を脱いだ俺は自室へと戻ろうとする。


「……ねぇ、その手に持ってる花は何?」


「これ? ……なんだろうね?」


 曖昧に答える俺を見て、少し間を置いて姉ちゃんは何かを警戒するような声で感想を言う。


「……遼の部屋には飾らないでね」


「なんでだよ」


「私は言ったからね」


「……ひょっとして虫でも湧くの?」


「……まぁ、そんなところよ」


 だとしたら確かに自室には飾れないな……。

 でも綺麗な花だし、捨てるのは勿体ないしなぁ。

 俺は迷いつつも一旦自室に入り、机の上に書き置きと花を置き、スマホのAIカメラで撮影して花の名前を調べる。


「へぇ~『スターチス』っていうのか。初めて聞く名前だな……」


 スターチスの花に目をやると、一瞬造花かと思ってしまう程に無機質で、それでいて水分が抜けきっているように見える。

 贈られるのも、ちゃんと目にするのも初めてだが、所謂ドライフラワーと呼ばれるものかもしれない。

 とすると、ちゃんとした場所で保管すればそれなりに長持ちするかもしれないと思い、スマホでドライフラワーについて調べる。


「……なるほど。高温多湿を避け、暗所に飾るのか。なんか保存食みたいな書かれ方だな」


 俺は机の上にクリップを入れている小瓶をひっくり返して中身を全て出し、空になった小瓶にスターチスを挿して飾ることにした。

 姉ちゃんは虫が湧くような事を言っていたが、生花じゃなくてドライフラワーでもそうなのだろうか。

 今度近所のホムセンで防虫剤でも買ってくるか。

 男くさい部屋の中に一挿しの花があるだけで華やかになるんだなぁと満足していると、ふと花言葉が気になり、今度はスターチスの花言葉について調べる。


「えっと、このスターチスは白だから……」


 スマホで調べた白いスターチスの花言葉。


 それは『変わらぬ心』、そして『永久不変』。


 一束の花にしては、とても重い意味が込められていた。


今回も投稿が遅れてしまい大変申し訳ございません!!!

何故かログインができなくなり焦りましたが、どうやらサイトに障害が発生していたようですね。。


今回は結局日を跨いでしまいましたので、次話は本日10月24日中に更新できるよう頑張ります……!


是非感想を頂けると励みになります!!


※誤字と表現を一部修正しました

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