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第39話 初デート


 俺は駅の改札口で、チラチラと腕時計を眺めながら待ち合わせをしていた。

 今日はそれなりに気合を入れて髪もセットし、おろしたての服に身を包んでいるが、当然理由がある。

 綾とちゃんと向き合う時間を作り、俺のせいで少しギクシャクしてしまった関係を回復するために、あえて『デート』というプロセスを踏むことにしたのだ。

 女心は未だ遠く理解が及ばないが、どうやら友人から一歩進んだ関係になるにはデートが一番いいらしい。

 蓮の後押しもあって、俺は綾をデートに誘う事に成功したが、生まれて初めてデートプランを考えたこともあり、実は少し寝不足だ。

 時刻は午前10時50分。

 駅の方からこちらに歩いてくる美少女が居た。

 それなりに付き合いは長いはずだが、一瞬綾だと分からない位にはいつもと様子が違っていた。

 まず、グレーチェックのラップスカート、しかもミニ丈なんて絶対履かないだろうと思っていたし、それに黒いサマーニットを合わせてくるとは、まったく想定外だ。

 しかも薄く口紅を塗っていて、あどけない少女と大人な魅力が入り混じった雰囲気を醸し出している。


「おまたせっ」

 

「お、おう。なんかいつもと雰囲気が違うな」


「そういう遼ちゃんだって、なんだか大人っぽく見えるよ?」


「まぁ、今日は『そういう日』だからな」


 綾は少し照れくさそうにすると、上目遣いでこちらの様子を窺ってくる。


「実は今日、初めてこういう服着たんだけど……どう?」


「正直予想外だったけど、凄く可愛いと思う」


「そっか……えへへ」


 俺にコーデを褒められた事で安堵の表情を浮かべる綾。

 さて、じゃあ初デート、始めちゃいますか!



 ~~~~~~~~~~~~



 まず最初に向かったのは、何の変哲もないアパートだ。

 間違った場所に来てしまったのかと不安になる綾に対し、俺が事前に下見に来てるから大丈夫だと伝える。

 案内通りにアパートの一室までやってくると、綾は扉に貼られた文字を読む。


「『レンタルルーム、ホームシネマ』?」


「正解~。えーっと、鍵の番号は……」


 予約時に届いたメールに書いてある鍵の番号を入力して開錠すると、一室まるごとリノベされ、壁一面を覆うような100インチの大きなロールスクリーンが存在感を放っていた。

 俺と綾は玄関で靴を脱ぎ、広々としたソファーに座る。


「へぇ~、こんなところあるんだねぇ~」


「『映画館』で調べてたら偶然出てきたんだ。結構広いし、ゆっくり楽しめそうでよかったよ」


 俺はスマホとプロジェクターを連携させて、某サブスクアプリを立ち上げる。


「綾は何か見たい映画とかある?」


「ん~、コメディ映画とか?」


「おっいいね」


 綾に映画を選んでもらい、部屋を暗くして鑑賞を始める。

 どうやらロンドンが舞台で、主人公はアンディとテリーという兄弟らしい。

 その兄弟の祖父が入居する老人ホームを資金難による閉鎖の危機から救うために仲間たちと銀行強盗を企てるが、地下墓地から蘇ったゾンビが町中に溢れてしまう。

 この時点でそこそこ面白いシーンがあり、俺と綾の顔はニヤけたままになっている。

 そして気付けばあっという間に映画は終わってしまった。


「いやぁー面白かったなぁ~。綾はよくこの映画知ってたな」


「ちっちゃい頃に、テレビか何かで予告編やってたのがずっと頭の中にこびりついてたんだよね~」


「へぇー。それにしても、コメディとシリアスがいいリズムで切り替わってて、想像以上に見ごたえあったな」


「わかる! っていうか、おじいちゃんとゾンビの緊迫感のないチェイスシーンは流石に吹き出しちゃった」


 彼女の言うシーンでは、正直俺も吹き出してしまいそうになるくらいシュールで面白かった。

 映画館と違って上映中でも感想や冗談を言い合えるので、この『ホームシネマ』プランは当たりと言っても差支えないだろう。

 お互い程よく緊張が解けたところで、次のイベントへと移行する為に部屋を片付けてチェックアウトをする。


「綾的に、さっきのホームシネマはデートとしては何点くらいだった?」


「え? うーん……85点!」


「思ってたよりいい点数だな」


「だって観たい映画を遼ちゃんと一緒に観れたし、思ったより雰囲気良かったし!」


 なるほど、『観たい映画を友人と一緒に観れる』というのが綾に刺さったようだ。


「ちなみに残りの15点は?」


「時間が短いよ~。もっとゆっくりダラダラ観たかったなぁ~っていう減点かな」


「なるほどなぁ」


 2時間も貸切れば充分ゆったりできるだろうと思っていたが、映画一本見て感想を言い合う程度の時間しかなかったのは確かだ。

 もし次に誰かと行く機会があれば、今度はもう少し長い時間レンタルする事にしよう。


「じゃあ次は昼ご飯だな」


「何食べるか決めてるの?」


「当然。今日はハンバーガーを食べに行こうと思ってるんだけど、どうだ?」


「ん~、ポテト食べたかったし、いいよ!」


 という事で、俺が行ってみたかったハンバーガー屋さんまで、バスで移動する事にした。

 流石に真夏という事もあって、停留所に立っているだけでも汗が流れてくる。

 綾は日傘を持っていないようで、オシャレの為に選んだ黒っぽい服装も相まって非常に暑そうにしている。

 ミスった……真夏の暑さを舐めてたな……。

 俺は苦し紛れに制汗シートを取り出して、綾に手渡す。


「綾、もしよかったらコレ、使ってくれ」


「わ~ありがとー! 私制汗シート家に置いてきちゃってさー、あ~涼し~」


 綾は制汗シートで首筋を拭いて、少しマシになったようだ。

 二人で少し温くなったドリンクを飲んでいると、少し遅れてバスが到着したので、すぐに乗り込む。

 冷房が効いた車内の一番後ろの席に、一人分のスペースを空けて俺と綾は座る。

 何故かというと、俺が汗で臭かったら嫌だと思ったからだ。

 以前綾が俺にハグしてきた時に、俺の事を『汗臭かった』と言っていたのを未だに引きずっているのだ。

 お互い自然とスペースを空けたので、恐らく綾も俺の汗臭さから距離を置いているのかもしれない。

 いや……気にしすぎかもしれないが、傷つきたくないので敢えて触れないでおこう。


「いやぁ~真夏のデートって思ったより過酷なんだね」


「確かにな……気合入れてきたコーデのせいで、かえって暑い思いしてるしな」


「ホントだよ! やっぱ慣れない事するもんじゃないね」


 綾はそう言いながら、短いラップスカートの裾をパタパタさせ始める。

 一瞬そちらに目が行ってしまったが、いつも以上に太ももが露出しており目のやり場に困ってしまう。

 前に座席があるからスカートの中が見られることはないだろうが、もう少し慎ましさというものを持った方がいいのでは……?

 俺はモヤモヤしながらも、目的地付近の停留所が近づいてきたので停車ボタンを押す。


「次で降りるから、そのはしたないパタパタはもうやめなさい」


「えぇ~、これ思ったより涼しいのに~」


「他の人に下着見られてもいいなら止めないけど」


「流石にそれはヤだね」


 バスが停留所で停車したので、俺と綾は涼しい車内を名残惜しみながら降車する。


「あぁ……やっと少し汗が引いて来たのに……」


「お店は近いから、もう少しだけ我慢してくれ」


 停留所からアーケード街を抜けると、小さなアパレルショップが現れる。

 その脇の階段を登って2階へ行くと、どこかアメリカンな雰囲気の入り口が目を惹く。

 扉を開けて中に入ると、焼きたてのパティやポテトの香りが一気に鼻孔へと流れ込んでくる。


「いらっしゃいませー。空いてるお席へどうぞー」


 案内されるがままに、俺と綾は4人掛けのテーブルに向かい合って座る。

 お冷とおしぼりを受け取ってメニューを眺めると、綾は少し驚く。


「うわぁ~、このベーコンエッグチーズバーガー超おいしそーっ!」


「オニオンリングも美味しそうだな」


「はいっもう決まりましたー」


「早っ! 他にも色々あるけど……」


「もうベーコンエッグチーズバーガーセットに脳が支配されちゃった……」


 支配されてしまったのなら仕方がないか。

 俺もアボカドサルサバーガーセットしか頭になかったし。



 ~~~~~~~~~~~~



 とてもゴキゲンだった昼食を終え、俺と綾はアーケード街を歩いていた。


「いやぁ~、まさか一口も交換せずに食べちゃうとはねぇー……」


「俺ら完全に味に集中してたからな。まぁある意味健全ではあるか」


 俺はてっきり綾が俺のバーガーを欲しがるかと思っていたが、こちらには見向きもせず黙々と食す姿を見て、俺も火が着いてしまった。


「まぁーでも超~おいしかったから、さっきのは85点にしといたげる!」


「ホームシネマと同点じゃん……」


 そもそも基準点が分からないので勝手に高得点だと思い込んでいるが、実際どうなのだろうか。

 俺は満点だと点数はいくつになるのか聞こうと思った矢先、唐突に綾から腕を引っ張られ、ゲームセンターの角に連れ込まれる。


「おいっ、急にどうしたんだよ」


「しぃ~……ねぇ、あそこにいるのって……」


 そう言って綾は壁に身を隠しながら指を差すので、その方向を俺もこっそり見てみる。

 すると、何やら周囲を気にしながら歩く朱音と姉ちゃんの姿が見えた。

 どうしてここにあの2人が居るのか分からないが、もしかしたら偶然の可能性もある。

 一瞬気さくに話しかけようかと思ったが、今日は『綾と2人きり』で遊ぶ事を約束していた事を思い出す。

 となると、ここは一旦隠れてやり過ごすほかなさそうだ。


「とりあえず、2階に上がってやり過ごすか」


「そうだね……」


 俺と綾はエスカレーターで2階に上がると、今度は奥の方に木下さんとレーナ先輩がUFOキャッチャーを楽しんでいる姿が目に入る。

 今度は俺が綾の腕を引いて、目立たないよう別のUFOキャッチャーの台の陰に隠れ、様子を窺う。


「なんで木下さんとレーナ先輩が……っ!?」


「偶然、重なり過ぎじゃないかな……!?」


 逃げ込んだ先に、今度は別の知り合いを見つけてしまうとは、運が良いのやら悪いのやら。


「このままここに居て鉢合わせるのはマズいし、いっそ最上階まで登るか……?」


「最上階って何があるんだっけ……?」


 近くにあったフロアマップを見ると、最上階である5階にはプリクラが密集しているらしい。

 今日の予定にはないが、ここは背に腹は代えられない。


「綾、俺とプリクラを撮ろう」


「うん……それしかないよね……」


 隠れる為とはいえ、やむを得ずプリクラを撮る羽目になったのだが、よくよく考えたら初めて撮るな……。


「綾はプリクラ撮った事あるのか?」


「ううん? ないけど」


「そっか……」


「遼ちゃんは?」


「俺もない」


「そっか~……」


 俺と綾はエレベーターに乗り込み、5階に上がりながら互いに緊張感が増していくのを感じた。



今回は投稿が遅れてしまい大変申し訳ございません……。

今週末まで仕事が忙しい為、更新が遅れてしまうと思われます。


次話も、明日10月22日に更新できるよう頑張りますので、何卒ご容赦ください……!


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