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第29話 夏休みの予定


 期末テスト2日目。

 今日の俺は、朝から物凄く注目を集めてしまっている。

 この前、小野先輩を懲らしめたという噂が広まったとき以上に、男子からの視線が多いように感じる。

 理由は明白。

 昨日放課後に、生徒玄関前で木城先輩とハグをしたからだ。

 とにかく目立つ場所ではあったので瞬く間に噂が広まってしまったのだろう。


「おい霧島~! ちょっといいか?」


「なんだ?」


「昨日、生徒会の木城先輩と抱き合ってたって本当か?」


「言い方悪すぎる……あれは友好の証にハグしてただけだって」


 普段は話しかけてこない別クラスの陽キャ達に絡まれてしまう。


「マジ!? じゃあオレも木城先輩と仲良くなったらハグできるな!」


「オマエ単純すぎ~。そもそも木城先輩と会話すらまともにできねぇクセにさ~」


「あと加納の顔じゃ無理だって、この前女子大生ナンパしたときも『顔が好みじゃない』ってあしらわれてたじゃん」


「うっせ!」


 まぁ悪い奴らじゃない事は知ってるけど、テスト始まる前に俺の勉強時間奪うのはやめてほしい。


「ゴメンけど、俺いまテス勉してるからさ」


「あっ、わり! また今度話聞きに来るわ」


「オマエ諦めろって」


「話聞くだけだっつの!」


 陽キャだけど素直に引き下がってくれるあたり、やっぱ根はいいヤツなんだな。

 小野もこのくらい素直だったらよかったのにな。

 俺は昨日勉強した時にポイントをまとめたノートを再び読み返す。

 昨日姉ちゃんと朱音に要点を教わったから、今日の古文も多分いい線いけそうだな。

 そうしている間にもチャイムが鳴り響き、一気に静まり返った教室で担任の恒久先生が問題用紙と解答用紙を配り始める。

 よし、今日も高得点目指すぞ……!

 俺は回ってきた解答用紙を見て、一度深呼吸をして意識を切り替えると、自分にとって最大の山場である古文の問題を解き始めた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~


 テスト期間2日目も完璧に近い仕上がりで乗り切った俺は、周囲の視線から逃げるように駐輪場へ行き、そそくさと帰宅しようとする。


「あ、いたいた~! ちょっと待って霧島く~ん!」


 可愛らしい声のする方を向くと、木下さんがこちらに駆け寄ってくる姿が目に入る。


「ふぃ~、帰る前に会えてよかったー」


「久しぶりですね、木下さん」


「そうだね~。あの一件以降なかなか霧島君と話せる機会が無かったからね」


 小野の事が好きだった木下さんは、あの時に好意を利用された挙句、小野に逆ギレされて可哀そうな目に遭ってしまった。

 最後に会った時はまだ傷心の様子で非常に暗い雰囲気が漂っていたのだが、今の木下さんには当時の影は無く、表情からも明るさが感じ取れた。

 そんな木下さんに、俺は何用か尋ねる。


「それで、今日は俺に何か用事でも?」


「そうそう! あの時私を救ってくれたお礼がまだだったなって思って!」


「お礼、ですか。それほどの事をした記憶はないんですけど……」


 俺は生徒指導室で取り調べを受けて以降、ほとんど木下さんのフォローをしていない。

 やった事といえば、木下さんに関する陰湿な噂をかき消すよう木城先輩やゴリ……末吉先輩に協力してもらった事くらいだ。

 そんな俺の発した言葉を、木下さんは否定する。


「いやいや、メンケアしてもらったりもしたし、変なウワサをかき消してくれたりしたじゃん! かなり嬉しかったんだよ?」


「確かにそうですけど……」


「いーから! 先輩からのお礼はちゃんと受け取って欲しいな」


「では遠慮なく……って、お礼ってなんです?」


 木下さんは何かを差し出す訳ではなく、おもむろにスマホを取り出したかと思えば二次元コードを見せる。


「とりあえず、私をLoinで友だち登録してもらってもいい?」


「ええ、はい」


 俺は自分のスマホで二次元コードを読み取り、木下さんを友だちに追加する。


「んふふ、霧島君のLoin貰っちゃった」


「悪用しないでくださいね?」


「しないよ! 単に嬉しかっただけ!」


 そっか、ならいいけど……。

 少し怪しい笑い方だったので身構えてしまう。


「それで、お礼というのは……?」


「それはね~、『私になんでもお願いできる権利』を進呈しまーす!」


「え、なんでも……?」


 想像以上に重い権利をお礼として受け取ってしまった。


「えっと、ちなみに回数とかは」


「もちろん無制限でーす! 何か私にシてほしい事とかあったら、なんでも言ってね!」


 木下さんはバチコーンとウインクをしてくる。

 『なんでも』かぁ……。


「あー、今えっちな事考えたでしょ」


「そんなまさか」


「ふふっ、もちろん『そういう』お願いでもいーよ?」


 えぇっ!? いいの!?

 やけに大人びた雰囲気を纏う木下さんに、思わず生唾を飲み込んでしまう。

 いや待て……流石にそれはマズいだろ。

 俺は危うい思考に陥りかけたところで理性という名の自動ブレーキがかかり、なんとか思い留まる。


「えっと、とりあえず今は何も思いつかないので、また今度でもいいですか?」


「え~? もう、ウブだなぁ」


「じゃあ帰りますね」


 こちとら恋愛未経験者だぞ。初心(うぶ)に決まってんだろ。

 刺激の強すぎる木下さんとの会話を切り上げようとすると、慌てて引き止められる。


「待ってゴメン! 霧島君可愛いからつい揶揄いたくなっちゃっただけなの!」


「はぁ。でも明日に備えて、早く帰って勉強したいんですよね」


「急にドライな感じになっちゃった……」


 焦る木下さんは、カバンから何やら1枚の紙を取り出して、俺に手渡してくる。


「はいコレ、花火大会のチケットあげるよ」


「はぁ……ありがとうございます」


「でさ、もしよかったら、私達と一緒に来てほしいの」


「私『達』……?」


「うん。レーナちゃんも一緒に来ることになってるの」


「レーナちゃん……って、木城先輩!?」


 思いもよらなかった名前が挙がって驚いてしまう。


「実は、あの件以降レーナちゃんとちょっとだけ仲良くなってね? 花火大会行った事ないって聞いたの」


「はぁ……それで、なんで俺なんです?」


「だってレーナちゃん美人過ぎるから、私と2人だけだと絶対うっとうしくナンパされちゃうと思うんだよね」


 あー……そういう事か。

 確かにあの容姿で花火大会に行こうものなら、ワンチャン狙った人たちからナンパされかねないな。


「つまり『魔除け』的な感じで、俺も一緒に来てほしいって事ですか」


「んー、半分正解。霧島君くらい容姿が整ってる男子が一緒に居れば、多分変な人は寄り付いて来ないと思うし」


「……待ってください。俺の容姿が整ってるって言いました?」


「え? うん。霧島君ふつーにイケメンだし」


「えぇっ!?」


 俺が……イケメン!?

 いやいやいや、まさかそんな……。

 きっと社交辞令だろ。

 今までちょいちょい言われてきたけど、それならもうちょっとモテてるハズだ。

 つい真に受けてしまいそうになったが、何とか持ち直して本題に戻る。


「……で、半分正解と言っていましたけど、残り半分は何ですか?」


「残り半分はね……私とレーナちゃん、2人の可愛い女子とデートできるって、普通にご褒美だと思わない?」


「たしかに」


 あ、思わず本音が……。


「それで、霧島君は来てくれるのかな?」


 チケットを見て日程を確認する。

 姉ちゃんとの温泉とは……被って無さそうだな。


「分かりました。折角の御厚意に甘えさせてもらいます」


「堅いなぁ~、ふつーにありがとうって言ってよー」


「じゃあ……ありがとう」


 木下さんは満足そうに頷くと、俺に手を振りながら帰っていった。

 『なんでもお願いできる権利』は、もしかしたら俺と連絡先を交換する口実だったのだろうか?

 それとも、何かしてあげたいとは思っていても、俺が何をしてほしいのか分からず、決めるのを俺に丸投げしたかったのか。

 今考えても何も答えは出ないので、一先ず木下さんの件は置いておくとしよう。


 ~~~~~~~~~~~~~~~


 他の生徒の視線から逃れるように帰宅した俺は、今日も姉ちゃん、朱音、綾とリビングで勉強を始める事になった。

 明日は副教科である美術と音楽だ。

 難易度自体はそこまで高くないし、基本的に暗記するだけでいいので今日の勉強会は比較的緩い雰囲気で行われている。


「ところでさ、みんな夏休みの予定とかあるの?」


 朱音の質問に姉ちゃんがいち早く反応する。


「あたしは遼と温泉行ってくるわ」


「いーですねぇ……私も咲来お姉様と一緒に温泉行ってみたいなぁ」


「そう? もしあたしと2人でよければ、今度近場のスーパー銭湯行きましょ?」


「え゛っ!? いいんですか!?」


「もちろん。あたしも入野ちゃんと個人的に話してみたかったし」


 浮かれる綾を鋭い視線で見つめる姉ちゃん。

 まだ昨日のこと根に持ってんのか……?


「朱音は何か予定あるのか?」


「んー、ウチは家族総出で福岡のおばあちゃんちに1週間くらい行く事くらいかなぁ」


「そっか。すっかり忘れてたけど、そういえば朱音は福岡出身だったな」


「そうよー。福岡よかとこやけん、遼もいつか遊びにおいで~」


 取って付けたように即興で博多弁を披露する朱音。

 そういえば小学生の頃に、一度だけ家族旅行で福岡に行った事があったな。

 ご飯も美味しかったし、いつか改めて行ってみたいところだ。

 懐かしい記憶に想いを馳せていると、今度は朱音から予定を聞かれる。


「で、遼は夏休みは予定あるの?」


「そうだな~。今のところ温泉と花火大会と、あと水族館に行く位かなぁ」


「思ったより予定が詰まって……ちょっと待って。花火大会?」


「ああ。2年の先輩に誘われて行く事になったんだよ」


 姉ちゃんと顔を見合わせる朱音。


「遼って2年の先輩で、仲良い人居たんだ」


「そりゃ居るよ」


「ちなみに誰?」


「……別に、言う必要なくないか?」


「あっそ。ま、ウチも青葉先輩から花火大会に誘われてたし、現地行けば分かる事だし」


「そうね。あたしも伽奈ちゃん誘って行こうかしら」


 お?

 なんか最近二人とも深掘って来なくなったな。

 流石に高校生だし、互いの交友関係にいちいち突っ込まないようにしたのだろうか。


「ちなみに水族館は?」


「それは蓮に誘われたから、一緒に付いていくだけだぞ」


「ふーん? 男二人で?」


「いや、椎葉さんと綾も来る予定だけど」


 未だ妄想から帰ってきていない綾に、朱音と姉ちゃんの視線が向いたかと思えば、二人は再び顔を見合わせて視線だけで審議している模様。

 っていうか、俺が誰と遊びに行こうが二人には関係ないハズだけどな。

 審議の結果、特に問題はなさそうだと結論付けたのか、二人はそれ以上追及はしてこなかった。


「じゃあさ、ウチと咲来さんの分のお土産買ってきてよ。んで、今度交換しよ?」


「お、いいなソレ。プレゼント交換会みたいで面白そうじゃん」


 夏休みの楽しみがまた一つ増えた俺は、改めてスマホで予定を確認する。

 中学の頃は練習とか大会の予定が入っていたが、高校生になってからは帰宅部なので殆ど予定が埋まらないと思っていた。

 しかしこうして予定を見てみると、案外夏休みらしく、しかも青春の香りがするイベントがここまで目白押しなのは非常に嬉しい誤算だ。

 とはいえ、まずはしっかりと期末テストを乗り切る必要がある。

 俺は浮き立つ心を抑えつつ、音楽の勉強を再開した。


今回もお読みいただきありがとうございます。


次話も、明日10月12日20:30頃に更新できるよう頑張ります……!


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