↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/54

第24話 友人と恋人の境界


 入野からの言葉を、口の中にあるポテトと同じように飲み込めずにいると、彼女は言葉の補足をする。


「私はさ、友達が少ないから……詩織ちゃんも蓮も遼ちゃんも、離れて行っちゃうのが怖いんだよね」


「別に俺たちは誰も入野から離れてないと思うけど」


「今の蓮を見ても、そう言える?」


「それは、入野が気にしすぎているだけじゃないのか?」


 確かに、蓮は椎葉さんと関係を深めている事もあって、最近は俺達と遊ぶ機会は減ってきている。

 かといって別に学校では相変わらず話すことも多いし、蓮との距離が遠くなったと感じた事はない。

 しかし、入野は俺の言葉を否定するように首を横に振る。


「今までは蓮と二人で話すことも多かったけど、最近は話してくれなくなってきてさー」


 もしかして、蓮は椎葉さんに気を遣って、異性である入野と二人きりで話さないようにしているのだろうか……。

 その辺は今度、直接蓮に聞く必要がありそうだな。


「そんな蓮を見てたら、話しやすい異性の友達を蔑ろにしてまで、恋人を作らなきゃいけないのかなーって最近思うんだよね」


 俺は恋人がいた事も恋愛をした事もないが、なんとなく入野の意見も分かる気がする。


「つまり入野は俺と友達で居続けたいから、恋人を作らないって決めたって事か?」


「ま、大体そんなところかなー」


 そう言いながら入野はストローでコーラを飲むと、チーズエッグバーガーにかぶりつく。

 中学の頃から一緒に遊んできた女友達が、こんなにも繊細で、寂しがり屋だったとは思いもしなかった。

 そりゃ夏休みも一緒に遊びたがるワケだ。

 俺がニンジャ・マッグの包みを開いてかぶりついていると、何故か俺の方を向いて口を開ける入野。


「……なんだ?」


「あ~~ん」


 察しろって事か……?

 もしかして俺のニンジャ・マッグが食べたくなったのだろうか。

 仕方がないので入野の口元にバーガーを持って行くと、嬉しそうにかぶりついた。


「ん~! もいひー!」


 思ったより彼女の一口が大きく、俺のバーガーが1/4は消えてしまった。

 俺が抗議の目線を送ると、やれやれといった様子でチーズエッグバーガーを差し出してきたので、俺も入野と同じくらいかぶりついてやった。


「んふふっ! 遼ちゃんがっつきすぎ!」


「ほへは入野も、だろ?」


 2人して悪ガキみたいに笑い合いながら昼食を摂っていると、入野の後ろの階段から朱音が上がってくる姿が見えた。

 誓ってやましい事をしているわけではないのだが、何故か朱音の視界に入らないように伏せてしまった。


「どったの? 遼ちゃん」


「いや、ほら……入野と二人で勉強できなかったら、俺の夏休みが一日減るっていうアレが……」


「あー、アレね! ひょっとして誰か来ちゃったの?」


「ああ。ちょうど朱音が階段辺りに居たから、つい……」


 別に朱音に見つかったところで俺の夏休みが1日分、入野と遊ぶことに費やされるだけなのに、俺の本能が『朱音に見つかるな』と叫んでいる。


「えーっと、遼ちゃん……?」


「なんだ?」


 入野に肩をつつかれたので顔を上げると、何故か分からないが通路側からものすごい圧を感じる。

 恐る恐るそちらを向くと、笑顔の朱音が仁王立ちしながら、俺を見下ろしていた。


「ねぇ。なんで隠れたの?」


「い、いや、別に隠れたとかじゃなくてさ。なんとなくそうしたかったっていうか? 俺の身体が勝手に動いたっていうか?」


「そんなにウチに見られたくなかったワケ?」


「まぁ当たらずとも遠からずっていうか。なんとなく詰められそうな気がしたからっていうか……」


「ふーーん?」


 どう見ても不機嫌な朱音だが、入野も若干不機嫌そうだ。


「ねぇ朱音ちゃん?」


「どうしたの、綾ちゃん?」


「私が遼ちゃんと二人きりで居たら、何か不都合なことでもあるの?」


「……ある、かも」


 何故かバチバチに睨み合う入野と朱音。

 え、なんで……?


「遼と綾ちゃんが付き合ってるって噂が流れたら、面倒じゃない?」


「全然面倒じゃないよ? むしろ、朱音ちゃんは面倒に思うの?」


「思わないけど。ウチは遼と幼馴染だから、そもそもそういう噂とか流れにくいし」


「私も遼ちゃんとは3年くらいずっと一緒に遊んでたから、今更そういう噂流れても困らないよ?」


 入野の反撃に言葉に窮する朱音。

 ……いや、どうしてこうなった。

 キミたち二人とも、球技大会を通して下の名前で呼び合う程仲良くなったんじゃなかったのか?

 そして朱音は、悔しそうな表情でポツリと呟く。


「……ウチも遼から勉強教わろうと思ってたのに」


 言えたじゃねぇか……。

 最初からそう言えばよかったのに、何故入野を責めてしまったのだろうか。

 女心、未だ存ぜぬ。


「じゃあ朱音も一緒に勉強しようぜ。そうすりゃ万事解決だろ?」


 俺がトレーとバッグを持って席を立とうとすると、入野が俺の袖を再び掴んで、寂しそうな表情で俺の顔を見上げてくる。


「ねぇ、二人で勉強するって約束は……?」


「しょうがないって。入野も朱音も俺の大事な友達だし、どちらかを蔑ろにする事なんてできないよ」


「……そっか。遼ちゃん優しいから、そう考えちゃうよね」


 入野は諦めたように俺の袖から手を離すと、トレーとポーチを持って立ち上がる。


「じゃあ、あっちの四人掛けのテーブルに移るか。朱音もそれでいいか?」


「うん。ありがと」


 俺が移動して席に着くと、入野と朱音が俺の隣の椅子を二人同時に掴む。

 そのまま互いの顔を見合ったかと思えば、再び火花を散らし始める。


「朱音ちゃん、今日の主催は私だよ?」


「主催なら上座じゃない?」


「そんなルール関係ないよ。主催なんだから好きな席に座ってもいいよね?」


「じゃあゲストのウチは好きな席に座っちゃダメって事?」


「おいおい、たかが席ごときで取り合いすんなって。二人とも大人しく俺の正面に座ってくれ」


 どうしてこうも修羅場っぽくなってしまうのか。

 頼むから二人とも仲良くしてくれないだろうか……周りの目が凄く痛いんだけど……。

 俺の言葉に渋々従う二人は、俺の正面に座る。


「えーっと、そもそも朱音は勉強道具持ってきてるのか?」


「当り前じゃん。元々勉強するためにここに来たんだし」


 朱音が勉強道具を広げるのを眺めながらポテトを食べていると、入野がまた一本差し出してきた。食べようと口を開けた途端、ひょいと遠ざけられる。

 少し対抗心が芽生えた俺も、入野の目の前にポテトを差し出す。彼女が口を開けたところで、あえて自分の口へ放り込んだ。


「あー、遼ちゃんひどーい!」


「おあいこだろ。そっちも大人しくポテトを差し出していればよかったものを」


 ふざけ合う俺と入野を見て疎外感を覚えたのか、朱音は俺に無言の圧を掛けてくる。

 人に食べさせてもらうのが、そんなに羨ましいのか……?

 俺がポテトを差し出すと、朱音は少し嬉しそうに口を開いた。ので、俺は当然のように、そのポテトを自分で食す。


「ちょっと! そこはウチに食べさせてくれる流れでしょ!?」


「知らんなぁ~。欲しいならちゃんと言ってくれないと分かんないって~」


「……けち」


 朱音は拗ねてしまったので、仕方なしに新しいポテトを彼女の口元へ運ぶと、訝し気にしながらも控えめに口を開けたので、今度はちゃんと食べさせてあげた。

 すると、朱音は満足そうに咀嚼しはじめたので、これで少しは機嫌が良くなっただろうと安心した。

 ところが、今度は入野がジュースをズゴゴーと音を立てて飲みながらこちらにジト目を向けてきた。

 ……二人の機嫌を同時に保つの、無理ゲーすぎん?


 ~~~~~~~~~~~~~~~


 朱音が「しょっぱいポテト食べたら甘いもの飲みたくなってきた」と言ってジュースを買いに行ったので、その間に俺と入野は包装紙を捨て、トレーを返却して席に戻る。


「ねぇ遼ちゃん」


「なんだね」


「そろそろ私の事も、下の名前で呼んでくれてもいい頃合いだと思うのだよ」


 入野はポーチから勉強道具を取り出しながら、名前呼びを要求してくる。


「その心は?」


「なんか距離を感じるから」


 確かに、言われてみればそうかもしれない。

 蓮は昔から当然のように下の名前で呼び合っていたが、入野に関しては俺だけ名字で呼んでいる状態だ。

 しかしいきなり名前呼びって、ちょっとハードル高いな。


「今まで長い間名字で呼んでた人を、いきなり名前呼びってのも少し難しいものがあるな……」


「でも私は遼ちゃんのこと、ずっと名前で呼んでるよ?」


「それはそうだけどさ……」


「……朱音ちゃんは名前で呼んでるのに、私は『綾』って呼んでくれないんだ」


 それはそうだけど、そうじゃないんだよなぁ……。

 ずっとそう呼んでたから口馴染みがあるだけで、そこに特別な意味なんてないんだけど、入野が不平等に感じてしまっている以上、ここは腹を括る他ないか。

 俺は意を決して、入野の名前を口に出す。


「じゃあ……あ、綾……?」


「ふふっ、なんで疑問形なの?」


「……綾」


「んー聞こえないなぁ」


 コイツ、揶揄ってやがる……!


「綾?」


「遼ちゃん?」


「綾」


「遼ちゃん」


 ……なんだこれ。

 バカップルみたいで恥ずかしいんだけど。


「……何やってんの?」


 朱音が呆れながらジュースをテーブルに置いて席に座る。


「遼ちゃんがやっと私を名前で呼んでくれたんだけど、なんか恥ずかしがってるのが面白くて」


「あー、なんか分かる」


「ついイジりたくなっちゃうよねー」


「遼は小学校の頃からイジりがいあったからね~」


「へぇー。何か面白いエピソードとかある?」


「えっとー、小学5年生の時に、一時期ウチの事『住吉さん』って名字呼びしてたんだけどさ。理由聞いたら、『だって……女子を名前で呼ぶの、ちょっと恥ずかしいし』とか言っちゃって――」


「俺の昔話はいいだろ! それよりもさっさと勉強するぞ……っ!」


 何故こんな辱めを受けなきゃならんのか。

 俺は熱くなる顔を下敷きで扇ぎながら、コーラを飲む。


「ほら、こんな感じでさ?」


「ほんとだー! 遼ちゃんかわいいな~」


「うるせー。勉強しないなら帰るぞ」


「ゴメンて。ほら、ウチのオレンジジュースあげるからさ」


「……いらない」


「じゃあ私のコーラ飲む?」


「俺のと同じじゃん……」


 不貞腐れる俺とは対照的に笑いあう二人。

 やっぱこの二人、なんだかんだ仲良いんじゃん……。


今回もお読みいただきありがとうございます。


次話も、明日10月7日20:30頃に更新できるよう頑張ります……!


是非感想を頂けると励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。