↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/54

第22話 姉の想定


 腹の虫が鳴りやまないまま家に帰ると、姉ちゃんがエプロンを着けようとしている場面に出くわした。


「あ、おかえり~」


「ただいま。今日は姉ちゃんが作るの?」


「それも考えたんだけど~」


 姉ちゃんは洗濯して畳んである状態の俺のエプロンを手に取ると、俺に渡してくる。

 ……という事は。


「今日は遼と一緒に晩御飯を作りたいなって!」


 俺はエプロンを受け取りつつ、台所に用意された食材を確認する。

 玉ねぎ、人参、木耳、卵、豚肉、豆腐……。


「ひょっとして中華料理?」


「ピンポーン! あたしが食べたかったのもあるけど、最近遼も中華料理食べたそうにしてたの思い出して」


 そういえば一昨日くらいに、姉ちゃんと中華料理の話したっけ。

 流石俺の姉ちゃんだな。俺のことを良く見ていらっしゃる。


「よく覚えてたね」


「そりゃ遼の事だもん。覚えてなきゃ姉失格だわ」


 相変わらずの弟愛の重さを一身に感じつつ、俺は受け取ったエプロンを着け始める。


「で、具体的には何作るの?」


「んー、麻婆豆腐と野菜炒めかなー」


「良いチョイスだね」


「んふふ、でしょ?」


 ちょうど食べたかったメニューだったので、俺は早速玉ねぎの下ごしらえを始める。

 するとワイシャツの袖をチョイチョイと引っ張られる。


「あたしにも何か手伝わせて?」


「じゃあ、豆腐を塩ゆでしながら、水溶き片栗粉を作ってもらってもいい?」


「分かった!」


 姉ちゃんは嬉しそうに下ごしらえを始める。

 やはり、ここ最近姉ちゃんがやたら甘えてくるような気がする。

 照葉学園の生徒会ってストレス多いのかな……?

 あまり自分の事を多く語らない姉ちゃんの学校生活は分からないが、多分気を張ってて大変なのかもしれない。

 外ではクールだけど家では甘々とか、これがラブコメのヒロインなら人気キャラになりそうだ。

 俺は姉ちゃんと一緒に晩御飯を作りながら、平和な霧島家の日常を、また一ページ刻んだ。



 ~~~~~~~~~~~~



 姉弟で作った中華料理を堪能していると、姉ちゃんが思い出したかのように話し出す。


「あ、そういえば遼は期末テストの自信ってどうなの?」


「ん? まぁ理系は8割、文系は7割くらい取れるって感覚かなぁ」


 授業自体は真面目に受けているので、そこそこ点を取れる自信はあるが、ここ最近色々あったので部分的に怪しい所がある現状だ。

 しかし帰宅部である事が幸いして、テスト勉強用ノートの仕上がりはかなり良い出来だ。


「ふーん? もしよかったらさ、テスト期間中あたしと一緒に家で勉強しない?」


「嬉しい提案だけど、実は友達と一緒に勉強する約束をしちゃってるんだよね」


 俺の言葉を聞いた姉ちゃんは、麻婆豆腐を食べようとした手が止まる。


「……誰と?」


「だから友達だって」


「名前を教えてよ」


「なんで」


「知りたいからよ」


 こうなった姉ちゃんは、答えを聞けるまで一生引き下がらないので、俺はやむを得ず答える。


「……入野と約束してるんだ」


「綾ちゃんかぁ~。そうくるかぁー……」


 予想外の人物だったのか、持っていたレンゲを皿に戻して頭を抱える。


「入野だと何か都合が悪いのか?」


「いやぁ~綾ちゃん子供だけど、もしもの事があるかもしれないしなぁ~……」


 俺の質問を無視してブツブツと念仏のように独り言を唱え始める。


「待って……? もしかしたら、それを織り込んでの急接近だったりとか……!?」


 またしても姉ちゃんが外界とのバリアを張ってしまったので、俺は大人しく麻婆豆腐を食べる。

 あ、そういえば明日何時から勉強やるか決めてなかったな。

 後で入野にLoin送っとくか。



 ~~~~~~~~~~~~



 自室で明日の勉強プランを考えながら入野にメッセージを送る。


『入野~、明日何から手を付けるー?』


 一瞬で既読が付くと、すぐさま返事が返ってくる。


『遼ちゃんに任せる!!笑』


『笑じゃないが。苦手な教科とかないのか?』


『うーん。強いて言うなら数学かな?』


『じゃあ明日は数学やるから、勉強道具一式ちゃんと持って来いよ』


『おけ』


 あ、そういえばどこで勉強するか決めてなかったな……。

 まぁ、安定の図書館でいっか。


『じゃあ明日は市立図書館に10時集合で』


『りょ!!』


 サカバンバスピスの顔の上に〇の記号が描かれたスタンプが送られてくる。

 なんでそんなの持ってるんだよ……。

 入野の謎スタンプに呆れていると、突然入野から電話が掛かってくる。


「もしもし?」


『今、「なんでそんなスタンプ持ってるんだよ」って思ったでしょ』


「なぜ分かった」


『だって遼ちゃんの反応予想しやすいんだもん』


 いや、誰だって似たような反応すると思うけど。


「そんで、なんで急に通話なんだ?」


『だって文字打つのめんどいしー』


 毎朝欠かさずトレーニングしてるのに、こういう所は面倒臭がりなんだよなぁ。


「用がないなら切るぞ?」


『え~用がなかったら通話しちゃダメなのー?』


「ダメじゃないけど、何か理由があったから掛けたんじゃないのか?」


 入野とLoinのやり取りをする中で、あまり通話をする印象がなかったので、直接話さないといけない理由があると俺は踏んでいる。

 少し唸り声が聞こえてきたかと思うと、想定にはない返答が返ってくる。


『……遼ちゃんの声が聴きたくなったから、じゃあダメ……?』


「……そういうのは彼氏相手にやることだぞ」


 何故今日はこんなにも甘えてくるんだ……?

 ……あ、ひょっとして――。


「入野、ひょっとして寂しいのか?」


『……』


 沈黙する入野の様子を見るに、これは多分図星だ。

 そういえば、入野の両親は共働きで家に居ない事も多いんだったな。

 加えて一人っ子なので、恐らく今は彼女一人しか家に居ないのだろう。

 俺は仕方がないと溜息を吐いて、彼女の気を紛らわせる小粋なトークを披露する事にした。


「入野、知ってるか?」


『んー、何?』


「サカバンバスピスって、泳ぐの下手だったらしいぞ?」


『えっ、魚なのに!?』


「ああ。胸にヒレがないから水中を泳ぎ回るのに難儀したそうだ。しかも顎がないらしい」


『へぇ~、なんだかマヌケな感じだったんだね』


 マヌケとは可哀そうな評価だな。

 そんなんでもしっかり生きていたんだぞ……?


『ねーねー、他に雑学はないの?』


 ふっ。俺に雑学ネタを振ったのは運の尽きだぞ?

 俺は脳内の雑学フォルダの中から一つ選んで、知識を披露する。


「そうだな……ブラックホールって知ってるだろ? あれって光ですら出てこれないほど重力が大きいらしくて――」


 そこから30分ほど雑学自慢をしていたところで、スマホのスピーカーから寝息が聞こえてきた。


「……入野?」


『すぅ……すぅ……』


「寝落ちしやがった……」


 図らずも寝落ちモチモチをしてしまったが、こういうのは恋人とやった方が心地いいものなのではなかろうか。

 仕方がないので、俺はスマホのマイクに向かって、小声で言葉を掛ける。


「じゃあ、また明日。おやすみ」


『んぅ……すぅ……』


 返事かどうか分からない入野の寝言を聞いて、俺は通話を切った。

 明日は気合を入れて、入野が赤点を取らないようしっかり教えねば。

 そして、友人として、恋愛相談にも乗ってあげようと心に誓って、俺は電気を消して寝床に就いたのだった。



 ~~~~~~~~~~~~



 翌日。

 俺は予定より10分早めに市立図書館に着き、入野の到着を待っていた。

 その間やることもないので、雑学を仕入れる事にした。

 今日は数学の勉強なので、何か理系の知識を知りたいところだ。

 ……ふむ、量子コンピューターなんか面白そうだな。

 様々なサイトを巡って情報を仕入れていると、急に視界が塞がれた。


「だ~れだ!」


「……声的に入野だろ?」


「せいかーい!」


 入野は手を離すと、俺の正面に回り込んでくる。

 なんてベタな真似をするんだ。

 しかもこういうのは恋人とやるべきであって、親友相手にやる事じゃないと思うんだが……。


「ふむふむ……『親友相手にやる事じゃない』って思っているでしょ」


「ナチュラルに心の声を読み取るのやめてくれない?」


「ふふん! 私『霧島遼』検定の準2級持ってるからね!」


 そんな検定作るな。

 いや待てよ? 姉ちゃんなら作りかねんな……。


「まぁ、なんにせよ、ちゃんと時間通りに来たな」


「まぁねー。なんたって遼ちゃんと図書館デートだからね! そりゃ気合も入るってもんよ!」


 入野の言葉通り、今日はおめかししてきたようだ。

 普段履いている所を見ない白いティアードのスカートに、オーバーサイズTというおしゃれなコーデは、どう考えても遊びに行くソレにしか見えない。

 しかしデートという単語は、ここ日本では恋人と遊びに行くことを指すはずなので、友人である俺にその単語は当てはまらないはずだ。


「デートじゃなくて勉強会な。デートって単語は彼氏ができるまで取っとけ」


「む~、遼ちゃん相変わらずカタいなぁ~」


「ってか、ちゃんと勉強道具は持ってきたか?」


「一応ノートと数学の教科書は持ってきたよ!」


 入野は大き目の可愛らしいポーチをポンッと叩くと、自慢げに胸を張る。

 良かった……本当に遊びに行きそうな格好だったので、勉強道具一式持ってきてないんじゃないかと危惧していたところだ。


「じゃあ早速学習室に行って、テスト勉強するぞ」


「えぇー?」


「えーじゃない」


 不服そうな入野をいなしながら図書館に向かうと、彼女が後を追うように俺の右隣りにピッタリとくっついてくる。

 あまりにも距離が近いので、異性への耐性がない男なら勘違いしそうだが、姉ちゃんに鍛えられている俺は、特に意識する事もなかった。

 ほどよく冷房の効いた図書館に入り、受付カウンターへと向かう。


「すみません、学習室って空いてますか?」


「ええ。半分ほど空いていますよ。もし利用されるのであれば、利用票を発行しますが」


「では、二人分の利用票発行をお願いします」


 受付のおじさんから2枚の利用票を発行してもらい、1枚を入野に手渡して学習室に向かう。

 扉を開けると、思っていたより久峰高校の生徒が居るようで、中には休日にも関わらず制服を着ている人も見かける。

 俺は利用票に書かれている席に着くと、入野は右隣の席に着きながら小声で耳打ちしてくる。


「向かい合うんじゃなくて、隣の席なんだね」


「そうだな。俺もここを利用するのは初めてだから知らなかったけど……まぁ教えやすいから良いんじゃないか?」


 そう言いながら、俺がトートバッグから勉強道具一式を取り出すと、入野もそれを見て勉強道具を机に広げる。

 正直向かい合うよりも隣同士の方が勉強は教えやすいと思うので、個人的には良い配置だと思う。


「じゃあ早速、今回のテスト範囲を教科書にマーキングしてるから、入野の理解が足りていない所を重点的にやっていくぞ」


 俺は数1・Aの教科書の、付箋の付いた一番最初のページを開く。


「まずは『集合』についてだけど、ここは分かるか?」


「うん。分かんない」


「なるほど。じゃあ『命題』は?」


「『名大』? 大学の事?」


「……そこからか」


 数学の授業ちゃんと聞いてなかったのか……?

 もしかしたら数学のテスト範囲全部教えなきゃいけないのだろうか。

 想像以上に長い戦いになりそうな状況に戦慄していると、俺の左隣に誰かが座る。


「綾ちゃん、数学の授業中に寝ている事多かったので、これは相当気合を入れないといけませんね……」


 白百合のような控えめな香りを漂わせて、白いブラウス姿の橘さんが、顔にかかる艶やかな黒髪を押さえながら俺の教科書を覗き込んでくる。


「……遼ちゃん?」


「……なんだ?」


「なんで詩織ちゃんが居るの?」


 ジト目で俺を見つめる入野。

 そんなの俺に聞かれてもなぁ……。


「たまたまだよ。私、休日はこの市立図書館で勉強する事が多いから」


 その言葉を聞いた入野は、今度は橘さんに対して怪訝な眼差しを送る。


「詩織ちゃん……別に私達を追ってきたわけじゃないよね?」


「まさか! 本当にた(・)ま(・)た(・)ま(・)だよ」


 白百合のような可愛らしい笑顔で入野に返答する橘さんだが、どこか圧を感じさせるオーラを漂わせながら、言葉を紡ぐ。


「では折角なので、3人で勉強会をしましょう。構いませんよね、霧島君?」


「……はい」


 謎の圧に屈してしまった俺は、右隣からの刺すような視線を避けながら、平静を装って自分のノートを捲った。


昨日は更新できずすみませんでした……!!


次話は、明日10月4日20:30頃に更新できるよう頑張ります……!


是非感想を頂けると励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。