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第19話 球技大会"決勝"


「小野先輩と……付き合う?」


 絞り出すような朱音の解に、俺は少し戸惑っていた。

 俺の言葉に頷きつつ、彼女は言葉を続ける。


「そうすれば全部解決だと思わない? ウチが小野先輩の恋人になれば、遼は先輩と喧嘩せずに済むし、ウチだってイケメンの先輩と付き合えて……嬉しいし……」


 尻すぼみになっていく彼女の言葉は、とてもじゃないが本音とは思えなかった。

 きっと朱音なりの、俺への配慮なのかもしれない。


「実は、小野先輩から『放課後、大事な話がしたい』って言われてるんだ。多分……もう一度告白されるんだと思う」


 嬉しいのか悲しいのか分からない、そんな彼女の顔はどこか憔悴しているようにも見える。


「だから、そこで『私も、あなたの事が好きでした』って……言わなきゃ……」


 そんな朱音を見て、俺は居てもたってもいられなくなって――。


「朱音ッ!!」


 突然の大声に身体が硬直した彼女の、驚愕に満ちた顔を見ながら、俺は自分の想いを伝える。


「俺をもっと頼ってくれよ!!」


 目を見開いた朱音は、口を震わせる。


「で、でも……それじゃあ遼が……」


「俺の事はどうだっていい! 自分が本当はどうしたいか、本音を俺に言えよ!」


 彼女は、堪えきれなかった涙をポロポロと溢れさせながら、声を絞り出す。


「助けて……遼っ、ウチじゃどうしようも出来なくて……!」


 ようやく引き出せた朱音の本音を聞いて、俺はハンカチを取り出……そうとしたが、木下さんに渡したままだった事を思い出して、そのまま人差し指の背で彼女の涙を拭う。


「絶対に朱音を助ける。だから安心して、またいつものように明るい笑顔を見せてくれ」


 そう言うと、まるで胸に痞えてたものが無くなったように、何かから解放された様子の朱音は、俺の胸元に顔をうずめてくる。

 そんな彼女が少し、愛おしく思えた。


「あの……俺のジャージはハンカチじゃないんだけど?」


「うぅ~~」


 朱音はジャージ越しに顔を押し付けながら、くぐもった声で何かを喋っているようだ。


「何か言ってる……?」


「すぅー……」


「何か吸ってる……!?」


 汗臭いだろうに……一体何をしてるのか分からん。

 俺に聞き取れない言葉を一通り発した後、朱音はようやく俺から離れる。

 前髪が少し乱れた彼女の顔は、かなり赤みを帯びていた。


「落ち着いた?」


「うん。ありがと」


「礼を言うのはまだ早いぞ。まずは小野先輩をどうあしらうか、作戦会議をしなくちゃな」


 朱音は頷き、何かいい考えがあるようで、いつものように悪戯な笑顔になって、自身の考えた作戦を語り始める。


「ウチ、実はやってみたかった作戦があってさ――」



 ~~~~~~~~~~~~



 朱音が落ち着いてから二人で体育館に戻った頃には、既に決勝戦の勝敗は決していたような状態だった。

 先ほど俺たちのチームに勝利した3年の先輩方が、対戦相手である小野達を圧倒しているようだ。

 2階のギャラリーで蓮達と合流して、試合の状況を聞く。


「なんか小野先輩のチーム圧倒されてるね」


「ああ。オレらとの試合の方が面白かったって話も聞こえてくる程度には、全然見応えが無いな」


「なんでこんなに差が付いちゃってるんだ?」


「単純にスタミナの差だな。オレ達とフルセットやりあったのに、まだあんなに体力あるなんてな」


 もうマッチポイントに差し掛かろうという両チームは、明らかに疲労度に差が生まれている。

 小野たちのチームは既に肩で息をしているのにも関わらず、もう片方のチームは息を整える程の疲れしか見せていない。

 これほど一方的な試合展開を予想していなかったのか、焦って大声で指示を出す小野だが、チームメンバーの士気は低下する一方のようだ。


「こうなったらもう、チームとしては終わりだな」


 半ば義務的に試合を見ていた参加者の生徒達も、勝負は決したと見たのだろう。試合中のコート周辺から徐々に人が離れているのが分かる。

 蓮も手すりに肘をつきながら試合を見ているあたり、試合内容への興味自体はほとんど無さそうだ。


「……あ、遂に小野ってヤツもミスった。これでゲームセットとは、なかなか『面白い試合』だったな」


「まさか得意のスパイクをミスって試合を締めるなんて、小野先輩もなかなか『持ってる』人だよね」


 二人で皮肉を言い合っていると、屈辱に塗れた小野は出来の悪い『笑顔という名の仮面』を被って、対戦相手と形式的な挨拶を交わしあっていた。

 すると館内のスピーカーから、鈴のような凛とした声が響く。


『バレーボール競技の最終試合が終了しました。参加者の皆様は学年およびチーム順に整列してください』


 実行委員会の指示に従って集合すると、淡々と結果発表が行われ、俺たちの高校生になって初めての球技大会は、バレーボール種目で総合3位という結果で幕を下ろしたのだった。


 ~~~~~~~~~~~~


 放課後、制服に着替えた俺は、朱音が呼び出されたという校舎裏に向かっていた。

 すると、俺たちが準決勝で負けた相手チームの、『大会が終わった後に話す』と言っていた暫定味方の先輩に声を掛けられる。


「霧島君! ちょっとだけ時間貰ってもいいかな?」


 俺よりも身長の高いスレンダーな先輩は、少し申し訳なさそうに手を合わせてウインクをする。


「5分程度なら大丈夫かと。えっと……」


 先輩の名前を呼ぼうとしたが、そういえば聞いていなかった。

 そんな俺を見透かしてか、先輩は自分の腰に手を当ててポージングを決める。


「私は3年C組、バドミントン部主将の北川由華(きたがわ ゆか)! 趣味は彼氏とホラー映画を観に行って、ビビる彼の表情を眺める事よ!」


「よ、よろしくお願いします……」


 北川先輩、なかなかの畜生だな……。

 って、時間ないから手短に『俺たちの味方をしてくれた理由』を聞く事にする。


「あの、試合前に話していた件についてなんですけど」


 俺の問いに対して、北川先輩は『待っていました』と言わんばかりに頷きながら理由を話し始めた。


「そもそも私たちのチームはね、小野を懲らしめる為に3年生のフィジカルエリートによって結成されたドリームチームなのよ!」


「……なるほど?」


 色々聞きたくなってしまったが、自分の知的欲求を抑えて要点のみを聞く。


「『小野先輩を懲らしめる』と言いましたけど、何かあったんですか?」


 俺の問いを聞いて、何やら思い出したっぽい北川先輩は、少し憤りながら語り始める。


「アイツ、女の子をその気にさせて侍らせて、自分が人気があるように見せかけたい醜悪なモンスターなんだよねー」


 マジかよ……俄然許せねぇな。


「んで、私が可愛がってた後輩ちゃんが小野のこと好きだったんだけどさ……球技大会の前に、アイツのせいで不登校になっちゃって」


 ふと昼休みの木下さんを思い出す。

 彼女も小野に裏切られたショックで、かなり不安定な状態になっていた。

 もしあのまま誰からも手を差し伸べられなかったら、彼女はきっと立ち直る事ができなかったかもしれない。


「今はかなりメンタル回復してきたんだけど、そういう被害者の子が他にも数人いるわけよ」


「そうだったんですね……」


「だから同志たちと、正々堂々と正面からアイツをボコボコにしたってワケよ」


 そういえば小野にばっかり強烈なスパイクやサーブが飛んで行ってた気がしてたけど、やっぱアレ狙ってたんだな。


「で、今日の昼休み前に霧島君もアイツに嵌められそうになってたじゃん?」


「北川先輩、見てたんですか?」


「最後の方だけね。で、準決勝で身構えてたキミたちと戦う事になって、少なくとも私達はあなた達の敵じゃないって事だけは伝えときたかったんだ」


「そういう意味の『味方』だったんですね……」


 俺の言葉に頷いた北川先輩は、少し表情を引き締めると、俺に質問を投げかける。


「ところでさ、多分霧島君は小野がどこに居るか知ってるよね?」


「……はい」


 味方である北川先輩に嘘を吐いても仕方がないので、俺は正直に答えた。すると北川先輩は、少し考えて何かを察したようだった。


「なるほど……霧島君も小野にお灸を据えるつもりだったんだね」


「まぁ、そんなところです」


「そっか。本当は私達もそのつもりで小野を探してたんだけどね……ここは良い試合をしてくれた君たちに、花を持たせてあげようかな」


 複雑そうな顔をしながらも、どうやらメインディッシュは俺たちに譲ってくれるようだ。


「なんとなくだけど、多分君たちのチームに居た子が標的にされてるっぽかったし。もしよかったら、今度どうなったか聞かせてほしいな」


「分かりました」


 俺の返事を聞いた北川先輩は、俺の肩をポンと叩き、そのまま歩き去っていった。

 よし……ここからは俺らの番だ。



 ~~~~~~~~~~~~


 人の気配が殆ど感じられない校舎裏へ行くと、既に朱音と小野が話しているようだった。

 俺はスマホで『仕込み』を済ませると、小野の背後へゆっくり歩き始める。


「……でさ、朱音ちゃん。もう一度返事を聞かせてもらえるかな?」


 まだ俺に気付いていない小野は、朱音に告白の返事を迫っているようだ。


「小野先輩……」


 俺の接近に気付いた朱音は、予定通り『堕ちた顔』で先輩を見つめ、答えを告げる。



「ごめんなさい……ウチ、他に好きな人ができたんです」



「……は?」


 俺は小野の肩をポンと叩きながら朱音の隣に立つと、朱音は俺の腕を抱き寄せた。


「いやぁ~すんません。小野先輩の好きな子、俺が取っちゃいました」


 この状況が理解できない様子の小野は、俺の顔と朱音の顔を交互に見ながら言葉を発せずにいたので、朱音は追い打ちをかけるように、小野に見せつけるように甘い声で俺に向けて語り掛けてくる。


「はぁ~、遼ってホントかっこいいね……大好き……」


「でもさ、小野先輩の事はいいの?」


「んー、小野先輩しつこかったし、よく見たらそんなにカッコよくなかったからさ」


 見せつけられた小野は徐々に憤怒の表情へと変わっていき、激昂する。


「ふざけるなよォ!! テメェ俺の女横取りしやがって、マジで許せねぇ!!」


「おや、朱音って小野先輩の彼女だったの?」


 俺がわざとらしく朱音に問いかけると、朱音はまるで興味のないモノを見るような表情で小野を見る。


「そんなワケないじゃん。勝手に小野先輩が彼氏面してただけだし、正直超メーワクだった」


 わなわなと震えつつ顔を赤くする小野は、遂に怒りを抑えきれなくなって、俺に『詰め寄ってきた』。

 その時、俺の背後から女子特有の通る声が響く。


「小野先輩っ!! その女の彼氏面してたって本当なの!?」


 不意に聞き覚えのある声が聞こえてきたからか、小野の足がピタリと止まり、予想していなかった人物の出現に驚愕の表情を見せる。


「め……芽瑠ちゃん……っ!?」


 そこには怒りに染まった表情で小野を見据える、木下芽瑠の姿があった。


今回も更新が遅くなってしまい大変申し訳ございませんでした……

しかしながらお読みいただき本当にありがとうございます!


次話も、明日9月30日20:30頃に更新できるよう頑張ります……!


是非感想を頂けると励みになります!!

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