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第18話 球技大会”準決勝”


 昼食を摂って教室に戻ると、既に食べ終えていた蓮が少し怒った様子でこちらに向かってくる。


「遼、そろそろ何があったか教えてもらってもいいか?」


「何がって?」


「とぼけるな。そこら中で遼と小野先輩のトラブルが噂されているんだ。流石にオレも無関係のフリはできない」


 昼食の間に、小野との一件の詳しい話まで蓮の耳に入ったのだろう。

 本当は言うつもりは全くなかったのだが、この際全てを白状しよう。


「――ってな感じで、小野先輩から因縁付けられちゃってるんだよね」


「なんでそれをオレに言ってくれなかったんだよ」


「だってこれは俺の問題だからだよ。こんな面倒に皆を巻き込むわけにはいかないじゃん」


 俺の意見を聞いても納得できない蓮は、俺の目を真剣に見据える。


「遼はいつも面倒事を一人で抱え込む癖があるよな。それだけオレらに気を遣ってくれてるんだろうけど、逆にオレってそんなに頼りないか?」


「頼りないって事じゃないよ。もし頼って蓮まで悪い噂とか流されたら、折角のレギュラーが台無しになっちゃう可能性だってある」


 1年生でテニス部のレギュラー入りするという事は、実績はもちろん、素行も重要視されるし、何よりいきなり大会に出られるという破格の待遇なのだ。

 そこでもし小野みたいなヤツによってありもしない悪い噂を流されると、それだけでレギュラーメンバーから外されてしまいかねない。


「もしそんな事にでもなったら、俺が耐えられないよ。だから蓮、この件は俺だけで何とかするから、蓮達はとにかく試合に集中してほしい」


 俺の言葉に、蓮は深いため息を吐きながら諦めたように話しはじめる。


「分かったよ。遼の思いやりを潰したくないし、この件に関して首は突っ込まないようにする」


「ありがとうな、俺の我儘を聞いてくれて」


「ただし……これ以上厄介な事になるようだったら、流石に口を挟ませてもらうからな」


「ああ。そうならないように気を付けるよ」


 まだ少し不満そうだが、俺と小野の件はこれ以上拗れない限り静観すると言ってくれた。

 でも、そこまで俺の事を考えていてくれたなんて、相変わらず情に厚い漢だな……。



 ~~~~~~~~~~~~


 準決勝まで残ったチームは、俺たち以外は全て3年生で、次に対戦する相手は体格が良く、身長も高い3年Bチームだ。

 お互いコート内に入り、挨拶を交わす。


「よろしくお願いします」


「よろしく~……ひょっとしてキミが霧島君?」


 椎葉さんと並ぶくらい長身の先輩女子が興味深そうにする。


「そうですけど、どうかしました?」


「ふ~ん? アイツより全然イケメンじゃん」


「アイツって?」


「ん? 小野翔也の事だよ?」


 そういえば小野も3年生だったな。

 ひょっとしてこの先輩も何か仕込まれているのか……?

 俺が少し身構えると、先輩は少し残念そうな表情になった。


「あぁ待って待って! 小野から色々言われたけど、あたしたちは霧島君の味方だから!」


「……本当ですか?」


「もちろん! 理由は大会が終わった後でちゃんと話すから。まずは正々堂々勝負と行こうか!」


「……分かりました、よろしくお願いします」


 やたらハイテンションな人だな。

 でも俺の味方をするなんて、小野とは確執でもあるのだろうか。

 そんな事を考える間もなく試合は始まった。


「蓮、サービスエース頼むぞ!」


 俺の言葉に頷くと、蓮はこれまで同様ジャンプサーブで得点を狙いに行くが、流石に準決勝ともなれば平気でレシーブされてしまう。

 そのままトスが繋がり、スパイクを人の居ない空白地帯に打ち下ろされ、唯一反応できていた田野君はギリギリ間に合わず失点してしまう。


「すみませんっ、今の自分が取れたのに……っ!」


「気にすんなって、まだ一点取られただけだ。オレらは充分戦える」


 蓮の言葉通り、今まで以上に強い準決勝の相手とシーソーゲームを繰り広げるが、結局1セットずつ分け合い、最後の1セットでも俺たちは同等の戦いを見せた。

 しかし、俺や朱音、橘さんの3人がスタミナ切れでボールに追い付けなくなってきた。


「くっそ……こんな事なら蓮とトレーニングしときゃよかったな……」


「遼の口から泣き言なんざ聞きたくねぇな……! 最後まで食らいつくぞ!」


 蓮の叱咤激励で震える足に鞭を入れる。

 まだ準決勝だというのに、体育館はもう一方の3年同士の試合そっちのけで盛り上がっているようだった。

 しかし、試合はあっけなく終焉を迎える。

 3年Bチーム側でトスが上がり、スパイクを打つモーションに入ったのを見て強いボールを受ける姿勢を取ったが、相手の狙いはその『硬直』だった。

 強く打つと見せかけたフェイントによってタイミングをずらされ、ブロックする椎葉さんと蓮の指先を掠めるように緩く打たれたボールは、俺の前方へ落ちてくる。


「くそっ……!!」


 咄嗟に飛び込んで左手を目一杯伸ばしたが、ボールは空しくも、床でバウンドする音を響かせた。

 その瞬間、敗北を知らせるホイッスルが鳴り、俺達の準決勝での敗退が決定してしまった。

 緊張の糸が切れ、突如としてやってくる虚脱感から立ち上がれずにいると、試合前に挨拶を交わした長身の先輩女子が伸ばしていた俺の左手を掴む。


「ナイスファイト! 霧島君の最後まで諦めない姿勢、本当にカッコよかったよ!」


 俺はゆっくりと立ち上がると、会場から割れんばかりの拍手を浴びていた事に気付く。

 チームメンバーの様子を見ると、汗をかきつつもピンピンしている蓮と入野を除いて、全員が座り込んでいた。

 みんな限界まで自分を追い込んでいたんだな……凄く悔しい。

 肩で息をする俺の耳元で先輩女子が呟く。


「じゃあ、後はおねーさん達に任せなさいな」


 そう言って汗で濡れた俺の背中を軽く叩くと、自陣に戻って仲間とネット前で整列を始める。

 俺は入野や蓮と一緒に、共に戦ったチームメンバーを起こしに行く。


「ナイファイ朱音。運動のブランクあった割にはよくここまでスタミナ持ったな」


 膝から崩れ落ちるような体勢だった朱音の両手を掴んで引き起こすと、思ったより飄々としていた。


「そりゃ放課後にランニングしてたからね。結局最後にはガス欠しちゃったけど」


 なんだかやり切った感があって、俺も少し安堵する。

 そしてもう一人の影の立役者である橘さんの元へ歩み寄る。


「橘さんも最後までよく頑張ったね。ホント凄かったよ」


 彼女は俯いてぺたんと座り込んでいたので、少し心配になってしまう。


「えっと……大丈夫?」


 俺の声に気付いて頭を上げた橘さんは、涙を流さず、とても悔しそうな表情で俺に目線を合わせた。


「私……こんなに負けるのが嫌いだったの、初めて知りました」


「橘さんを含めて、皆でただ勝つことに集中して練習してたからね」


 汗で顔に張り付いた髪を整えもせず、橘さんは俺の言葉に頷いた。

 徐々にコート前に皆が集まる様子が視界の端に見えたので、橘さんが立ち上がれるよう両手を伸ばす。


「立ち上がれそう……?」


「多分、大丈夫です」


 俺の伸ばした手を、少し諦めたような笑顔で掴んでくれたので、引き起こす。

 すると、勢い余って俺の方によろけた橘さんを抱きとめる形になってしまった。


「あっ! ご、ごめんね橘さん!」


「い、いえ! こっこちらこそすみませんっ……!」


 まるでラブコメみたいなトラブルに、少し役得感を覚えていると、『早くこっちに来い』という無言の圧力を朱音から感じたので、橘さんの手を引いてコート中央に立つ。


「全員整列! 礼!」


「「ありがとうございました!」」


 主審をしていた生徒会のゴリラ……もとい書記の末吉先輩の号令で、俺らが互いに挨拶をすると、ギャラリーから拍手を受けつつコートを後にした。

 そして決勝戦の試合を観戦するべく2階へ上がると、チームのメンバーはそれぞれ悔しそうに嘆く。


「あー、マジで勝ちたかったな~」


「あたしも、もうちょっとバレーの勉強しときゃよかった……」


「いや、椎葉は充分やってたよ。オレもブロックとかフェイントとか、もうちょっと練習してりゃなぁ」


「蓮こそ充分やってたって! 私なんて身長足りなくてブロックもスパイクも届かなかったし」


 皆本気でやって、それでも勝てなかったことが相当悔しかったのだろう。

 しかし、気落ちしながらも各々を励ましあっている所をみると、1か月程度の急造チームにも関わらず友情を深められた事実に、俺はとても満足感を覚えた。

 折角なので、前に話していたお疲れ様会の件を持ち出す事にした。


「皆、ちょっと聞いてほしい事があるんだ」


 俺の声を聴いて、全員がこちらを向く。


「今回、俺らは負けて悔しいと言えるほど、互いに仲が深まったと思う。だから、バレーチームとしては最後になっちゃうけど、全員で慰労会をやろうと思うんだ」


「良いね! 私カラオケ行きたい!」


 切替の早い入野が、早速俺の提案に飛びつく。


「わ、私も、カラオケ行ってみたいです……!」


「オレも負けたストレスを発散したいし、その話乗った!」


 意外にも乗り気な橘さんと、未だ悔しさの晴れない蓮も食いついてくる。


「椎葉さんと田野君も、一緒にどう?」


「い、良いんすか……?」


「あたしも行って大丈夫なの……?」


「当然だろ、オレらもう友達だろ?」


 自信なさげに伺ってきた二人に対し、蓮がその背中を押した事で二人は笑顔になり、小さな喜びを互いに分かち合っていた。


「さて、最後の一人は――」


 またしても、少し離れたところで未だ落ち込んでいる朱音に近づき、小声で話しかける。


「大丈夫か?」


「うん……」


 どう見ても大丈夫じゃなさそうなので、少し場所を変えて話を聞こうかな。

 俺は他のメンバーに『朱音と外の空気吸ってくる』と伝え、彼女の手を引いて体育館の外に出た。


「さて……とりあえず、今朱音が悩んでる事を当てようか?」


「……なんだと思う?」


「小野先輩の事だろ?」


 俺の回答を聞いて、複雑そうに頷く。


「昼休みに、遼と小野先輩が揉めたって噂を聞いちゃって。しかも、なんかウチが原因っぽい事も言ってたらしいじゃん?」


「知られちゃってたか……まぁ、概ね合ってるよ」


 朱音は俯きつつ、ウェーブがかった自身の髪を指でくるくる回す。


「ウチね? 遼がつらい目に遭うところ、見たくないんだよね」


「そりゃ俺だって、朱音がつらい目に遭ってるの見たくないよ」


「ふふっ、そっか。そっか……」


 朱音は少し嬉しそうな顔をしたかと思うと、『何かを諦めた』ような声色で己の意思を告げる。



「遼、ウチ……小野先輩と付き合う事にするよ」



大変お待たせいたしました!!!

今回もお読みいただきありがとうございます。


次話からは通常通り(ほぼ)毎日配信に戻りまして、明日9月29日20:30頃に更新できるよう頑張ります……!


是非感想を頂けると励みになります!!

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