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第16話 女神降臨


 特に何事も起きることなく4回戦まで勝ち進むことが出来た俺達は、昼食の時間に入るという事もあり、一度体育館を後にすることにした。

 俺はトイレで用を足していた為、皆から遅れて体育館出口で靴を履き替えようとしていると、不機嫌そうな小野がこちらに近づいてくるのが見えた。


「霧島君っ! 僕の上履きをどこに隠したんだ!」


「上履き……? いや、自分は何も分からないんですけど」


 心当たりが一切ない事を伝えるや否や、突然胸倉を掴まれる。


「どうせ僕に嫌がらせをしたくて、こんな陰湿な事をしたんだろう!?」


「そんなワケないじゃないですか。そもそも俺が小野先輩に嫌がらせする理由とかないですし」


 俺の言葉を聞いた小野は少し口角が上がると、周囲に居る生徒に聞こえるようわざとらしく喋り始める。


「キミさぁ、ひょっとして僕と朱音ちゃんが仲良くしているのが気に入らないんじゃないのかい?」


「気に入らないっていうか、小野先輩が朱音に――」


「あーはいはい、僕が朱音ちゃんに付きまとってるっていうウソね~。そういうレッテルを貼りたがってるあたり、むしろキミが朱音ちゃんに付きまとってるんじゃないのかい?」


 小野は俺の言葉を遮りつつ自分の主張を押し通そうとする。


「んで、僕と朱音ちゃんの仲が急接近したことに焦ったキミは、少しでも僕に嫌な思いをさせたいが為に僕の上履きを隠したんだろう? ん? 図星だろ?」


「そもそも俺が先輩の上履きを隠したって証拠ないでしょ」


 俺の言葉を待っていましたと言わんばかりに笑顔になる小野は、俺の胸倉から手を離す。


「証拠ねぇ~。キミが僕の上履きを持っていく姿を見たって証言してる子が居るんだよなぁー」


「だとしたら見間違いですよ」


「ねぇ芽瑠(める)ちゃん。隠したのってコイツだよね?」


 芽瑠ちゃんと呼ばれておずおずと出てきたのは、1回戦で戦った2年Cチームの小柄な女子生徒だった。


「そ、そうですっ。その男子生徒が、小野先輩の上履きを持っていく姿を見ました……」


 やられた……。

 この男は、最初から俺の評判を貶めるために2年生のチームに接触していたようだ。

 明らかなウソにも関わらず目撃者をでっち上げる事で、ウソを本当の事のように仕立て上げているのだ。

 俺の反応を見て勝ちを確信した小野は、仕上げとばかりに追い打ちをかける。


「だ、そうだよ霧島クン? 素直に『朱音ちゃんと仲良くなった小野先輩にムカついてやっちゃいました』って言ってくれれば、許してあげない事もないけど?」


 そんなものは小野がでっち上げた嘘だと言うべきか……いや、そんな事を言えば反感を買うのは俺だ。

 かといって小野の言うとおりにしてしまうと、朱音が今以上につらい思いをしてしまう。

 自分の評判と朱音の気持ち。二つを天秤にかけ、反感を買ってでも言い返そうとしたところで、凛とした声が響く。


「どうかされましたか?」


 野次馬の生徒を掻き分けて現れたのは、右手に小袋を持った木城先輩で、したり顔の小野は被害者面をしながら木城先輩に擦り寄る。


「聞いてくださいよ副会長~。この霧島っていう生徒が、僕に嫌がらせをしてきたんですよ」


「嫌がらせとは?」


「僕の上履きをどこかに持って行って、挙句隠したみたいなんですよ~」


 マズいな。

 ここで生徒会副会長である木城先輩が、俺が無実を示す証拠を持っていないと知った場合、恐らく小野の肩を持たざるを得ないかもしれない。

 そう考えていた矢先、小野は芽瑠という女子生徒の手を引くと、彼女にさっきと同じ証言をさせようとする。


「ちなみに、こちらの芽瑠ちゃんが僕の上履きを彼が持ち去るところを目撃してるんですよ。僕も霧島君の事を疑いたくはないんですが、ここまで証拠が揃っていると、彼がやったと言わざるを――」


「あなたの上履きとは、こちらの事ですか?」


 小野の言葉を遮って、木城先輩は右手の小袋を開ける。

 そこから取り出されたのは『3-C 小野』と書かれた上履きだった。

 意図しないモノの出現に驚愕する芽瑠さんと小野。


「ど、どうして……っ!」


「あなた方が試合をしている最中に、親切な生徒があなた宛てに、と持ってきてくださいました」


 気のせいかもしれないが、木城先輩は少し冷たい表情になったように見えた。


「そして、そちらに居る木下芽瑠(きのした める)さんが、生徒玄関のロッカーの上にあなたの上履きを置いている所も目撃されていたようで……おや。あなた方の証言とは矛盾しているようですが?」


 木下さんの証言に疑いの目を向け始める木城先輩と周囲の生徒を見て、小野は声を荒げる。


「じ、じゃあその生徒を連れて来いよ! もし居ないって事なら副会長が一人の生徒に肩入れしてるって事になるんじゃないのか!? そんな公平性を欠く生徒会で良いのかよ!」


 木城先輩が目撃者となる生徒を連れていない事に気付いた小野は、木城先輩に詰め寄る。

 しかし彼女は一切臆せず、むしろ見下すように小野を見る。


「『より確実な証拠』を求めるのであれば、各所に設置されている防犯カメラの映像を確認するため、生徒会として先生に依頼させていただきます」


「なっ……!!」


「もちろんあなたの上履きがあった生徒玄関のロッカー周辺は、複数の画角から鮮明に人物を確認できますし、だれが持ってきたのかを知りたい場合は、私の真上にある防犯カメラの映像から特定することができると思いますが?」


 木城先輩の頭上にある防犯カメラに気付いて一歩引いた小野に対し、追い詰めるように一歩近づく木城先輩は、王手とばかりに小野の上履きを彼の面前に持ち上げる。


「そして一体誰が、どのような動機で上履きを隠したのか……私たち生徒会と先生方も交えて話し合いましょう。それこそまさしく、あなたが求める『公(・)平(・)性(・)』ではないでしょうか?」


 ……もしかして木城先輩、ブチキレてる?

 表情は変わらないが、とてつもない圧を感じる。


「は、ははっ……あ~、そういえば僕が持って行ったんだったっけなー」


「その場合、木下芽瑠さんが虚偽の証言をしたという事になりますが?」


 一切追及の手を抜く気配のない木城先輩と、周囲の反応を見て劣勢と悟った小野は逃げの言動をし始める。


「わっ私は小野先輩に言われ――」


「ああーそうか! なるほど! 芽瑠ちゃん、僕に嘘を吐いたんだねっ!?」


「えっ」


 こいつ、ついに味方を切り捨て始めたぞ……終わってるな。


「きっと僕の気を惹きたかったんだよね? そうだよね、芽瑠ちゃん?」


「えっと、わ、私は……」


「ね? そ(・)う(・)な(・)ん(・)だ(・)よ(・)ね(・)?」


 小野に圧を掛けられ、涙目になる木下さんは、涙ながらに自白する。


「そ、そうです……私、嘘を吐きました……」


「おーいー、いくら僕の事が好きだからって、モノには限度があるだろう!」


 やり玉に挙げられた木下さんを責める小野に、流石の周囲もドン引きである。


「という事で、霧島君! 疑ってすまなかったね。彼女も反省しているようだし、ここは僕の顔に免じて許してやってくれないかな?」


「……霧島君。どうしますか?」


 対応を振られた俺は、いたたまれなくなった木下さんに気を遣う事にした。


「……まぁ、そういう事であれば。謝罪を受け入れることにしましょう」


「分かった! じゃあお昼の時間も少なくなってしまったし、僕も教室に戻るとするよ」


 そう言い残すと小野は木城先輩から上履きを取り、足早に体育館を後にした。

 野次馬の生徒達も、続々と体育館から出て行き、気付けば俺と木城先輩と木下さんだけが体育館入り口に取り残される形となった。

 大粒の涙を流す木下さんがあまりにも可哀そうなので、俺は声を掛ける。


「……木下さん、大丈夫です?」


「ぐすっ……全部わたしがわるいんだ……ズビっ」


「あーあー涙でグチャグチャじゃないですか……俺のでよければコレ、使ってください」


 そう言ってポケットからハンカチを取り出すと、木下さんは俺の顔を見る。


「い、いいの……? こんな嘘吐きな生ゴミ下衆女に……」


 あまりにも卑屈すぎる。

 いやまぁ、やった事を考えればそういう自己評価になってしまっても仕方がないかもしれないけど。


「まぁ、やっぱり泣いている女の子を放置するなんてできないんで」


 すると木下さんは頑張って取り繕った笑顔で俺のハンカチを受け取ると、盛大に鼻水をかんだ。

 おいおいおい、マジかよ……。

 流石の木城先輩も顔が引き攣っていらっしゃる。


「ぐすっ、キミって優しいんだね……私、こんな良い人にウソついちゃったんだ……」


「えっと……詳しく話聞かせてほしいんで、もしよければ一緒に昼食でもどうですか?」


「うん……分かった。じゃあ中庭で待ってるね?」


 俺の問いに対して、頑張って作った笑顔で答えると、木下さんは再び俺のハンカチで鼻をかみながら体育館を後にした。

 ……それやめてくれないかなぁ。


「えっと、木城先輩もありがとうございました。先輩が居なかったら、多分今ごろ俺が犯人に仕立て上げられてたでしょうし」


 木城先輩は何かを考えながら、俺の言葉に応じる。


「私はただ、状況を整理して提案をしただけに過ぎないわ」


「そうだとしても、俺からしたらあの時の木城先輩は女神にしか見えないくらい、ありがたかったんです」


 実際、小野を問い詰めている木城先輩は、何故か後光のような太陽の反射光に照らされており、とても神々しく見えたのだ。

 俺の言葉を聞いた木城先輩は、自らの考えに解が出たのか、俺との距離を縮める。


「じゃあ、そんなあ(・)な(・)た(・)の(・)女(・)神(・)も、あなた達の昼食会に参加しても良いかしら?」


「えっと……もちろん歓迎しますよ……?」


 最後が疑問形となってしまったのは、木城先輩の『あなたの女神』が気になったのではなく、再び彼女の背中から何故か太陽の反射光が差し込み、後光が差していたからだ。

 いや、実は本物の女神なのかもしれないな……。


大変お待たせいたしました!!!

今回もお読みいただきありがとうございます。


次話も、明日9月24日20:30頃に更新できるよう頑張ります……!


是非感想を頂けると励みになります!!

(次回からはちゃんとバックアップも取るようにします……)

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