第15話 善意の書置き
【お知らせ】
第16話につきまして、原稿データが消えてしまい、予定していた時間に投稿が間に合わなくなってしまいました……
つきましては原稿の再構築が完了次第投稿させていただきますので、大変申し訳ございませんが、少々お待ちいただけますと幸いです。
本日中には投稿できるよう頑張ります……!!
俺は自室で郵便受けに入っていた書置きを眺めながら呟く。
「『小野翔也に気を付けて』ねぇ……」
先週の親睦会で出会った小野先輩が、まるで人が変わったような目つきで何か俺に危害を加えそうな言動を取っていた。
今のところ何もしてきていないので忘れかけていたが、明日の球技大会で何も起きないとは言い切れない。
「相手の行動が予測できない以上、こっちは後手に回らざるを得ない、か……」
俺が悩んでいると、部屋のドアがノックされる。
「遼ー、お風呂上がったけどー」
「はーい、今から入るよー」
クローゼットから着替えを取り出して、風呂場へ向かう。
服を脱ぎながら、左ひじの包帯と湿布を剥がすと、思ったより痛みが取れている事に気づく。
これなら明日の大会も選手として出場できそうだ。
そう思いながら身体を洗っていると、突然風呂場のドアが開かれる。
「はーいちょっと失礼するよ~」
「ちょっ、なんで入ってきてんのっ!?」
姉ちゃんはタオルを巻いて、風呂場に侵入してきた。
「ほら、背中洗ったげるからボディタオル貸しなさい」
「い、いや、自分でできるって!」
抵抗する俺からボディタオルを取り上げると、俺の背中を洗い始める。
「明日球技大会でしょ? 本番前に左ひじ悪化させちゃったらダメじゃない?」
「それはそうだけど、別に姉ちゃんに洗ってもらう必要は――」
「いいから! こういう時くらい姉ちゃんに甘えなさいってば」
果たしてこれは甘えるという事なのだろうか。
姉ちゃんのよくわからない言動に困惑していると、深刻な声色で俺に質問する。
「ところで、『小野翔也』って誰?」
さては俺の部屋に置いて行った書き置きを見たな?
「例の朱音の彼氏面してるバスケ部の先輩だよ」
「どうして遼が気を付けなきゃいけないワケ?」
「それは……『朱音に付きまとうのやめた方がいいですよ』って言ったら、変に因縁付けられちゃって。挙句『後悔させてやる』的な犯罪予告までされちゃって……」
溜息交じりに伝えると、背中を洗う姉ちゃんの手が止まる。
どうしたのかと思い、顔だけ後ろを向くと、今まで見たことない程怖い顔をしていた。
「ど、どうしたの姉ちゃん?」
「……明日、私学校休んで遼の学校行くわ」
「いやいやいや、心配してくれるのは嬉しいけど、そこまでしなくても……!」
「アタシは! 遼の傷つく所なんてもう二度と見たくないのっ!!」
声が風呂場で反響する。
驚きで硬直している俺の背中を這うように、姉ちゃんの細い指が触れる。
「……この前あたしが、意図せず遼を傷つけちゃった事あったわよね?」
「……うん」
「あの時の遼の表情、今でも忘れられないのよ……」
そういえば最近、俺が姉ちゃんに拒否られてると勘違いして、キツく当たってしまった事があった。
もしかしたらその時の俺の言動が、姉ちゃんを傷つけてしまったのかもしれない。
「あの時は本当にゴメン。あれは俺の勘違いが原因だし、姉ちゃんは気にする必要なんて……」
「あれは元を辿れば、遼に勘違いをさせてしまったアタシが原因だから。遼は謝らないで」
優しい声で俺に気を遣いつつ、今回の件に触れる。
「アタシはね、この世の中で一番遼を愛しているの。だから、これ以上遼が悲しんだり、傷ついたりするような事があったら、アタシ多分耐えられないと思うの」
あまりにも重い愛をぶつけられて困惑する俺を、背後から抱きしめてくる。
「だからその小野翔也とかいうゴミクズが、遼を傷つけないようにアタシが守ってあげたいの」
姉ちゃんとはいえ、背後から伝わる柔らかさを感じて流石に気まずくなったので、姉ちゃんの両腕を引き剥がしつつ自分の意見を言う。
「これは俺に付けられた因縁だから、姉ちゃんを巻き込みたくないんだ」
そう。これは俺の朱音に対する過ぎたお節介によって生まれた問題なのだ。
だから、これは俺自身がカタを付けなければいけない。
「そっか……遼も成長してるのね」
「どうだろう、自分じゃ分からないや」
徐々にいつもの姉ちゃんに戻りつつある事に安堵した俺は、シャワーで身体のボディソープを洗い流す。
「はぁ……アタシと………がってなかったら………たのに……」
背後で姉ちゃんが何か喋っているが、シャワーの音で殆ど聞き取れなかった。
「姉ちゃん何か言った?」
俺の問いに何も返答がなかったのが気になって、顔だけ後ろを向けて背後を確認すると、姉ちゃんは既に風呂場を出ていた。
「……まさかこの歳になって姉ちゃんに背中を洗ってもらうなんてな」
実の姉に裸同然の格好で抱き着かれただなんて、口が裂けても他人に言えない。
この出来事は墓場まで持って行こうと誓って、俺は冷水シャワーに切り替えて頭を冷やすのだった。
~~~~~~~~~~~~
翌日、冷水シャワーを浴びたことで風邪をひくんじゃないかと心配したが杞憂に終わり、球技大会当日を迎えた。
姉ちゃんは早朝から学校へ行くと言って足早に家を出て行ったが、まさかウチの学校に来てるとかないよな……?
小野先輩の件とは別の不安を抱えながらも、特に何事もなく朝のHRを受け、俺はチームメンバーと合流する。
「おはようございます霧島君! 肘の調子はどうっすか?」
「ああ、おかげさまで痛みはなくなったよ」
田野君の心配を吹き飛ばすように、俺は包帯も湿布もない肘の様子を見せる。
「ま、だからと言って油断は禁物だけどな」
「分かってるって。俺も痛い思いはしたくないからな」
蓮の言葉に笑って返しながら歩いていると、橘さんが耳打ちをしてくるので、俺は立ち止まって耳を傾ける。
「あ、あの……小野先輩の件ですけど、何か変わった事とかありましたか……?」
「いや、今のところ何もされてないよ。逆に橘さんは何かあった?」
俺の問いに何か思い当たる節があったのか、橘さんは考えながら俺に伝える。
「実は先ほど、小野先輩が2年生のチームと談笑してるのを見掛けまして、そのチームはどうやら、私たちの初戦の対戦相手のようでした……」
「初戦の対戦相手ねぇ。何か妨害とかあったりするのかなぁ」
「さぁ……? 人目も多いですし、直接何か危害を加えるなんて事は難しいかと……」
正直俺が何をされようと、チームが勝てばそれで良いわけで。
それに小野先輩からの取引に応じなかった事から、仮に俺たちが負けてしまったとしても、何かを失うわけではないのだ。
「ま、小野先輩の事は一旦忘れよう。変に考えると試合に集中できなくなっちゃうからね」
「そ、そうですか……分かりました」
俺の言葉を聞いて気持ちを切り替えた橘さんと体育館へと向かうと、何故かチームメンバーから少し離れた場所で落ち着かなそうにしている朱音を見て、どうかしたのか聞くことにした。
「おはよう朱音。なんかソワソワしてるけど、なんかあったか?」
「えっと……遼なら話してもいいかな……」
何かに迷いながらも、小声で耳打ちしてくる。
「あのね、今日小野先輩の様子がおかしくて……端的に言うと、『超キモい』の……」
「えぇ……ちなみにどういう風に『超キモい』んだ?」
朱音は身震いしながら小野先輩の様子を説明する。
「例えば、今日に限ってやたらスキンシップ多くて、手を握られたり、頭撫でられたりとか……」
「逆に今まではそういうの無かったのか?」
「ないない。むしろ今までは友達くらいの距離感だったのに、今日はその一歩内側に入ってきてるって感じで……」
急に距離を詰められて戸惑いを隠せない朱音。
「しかしなんで今日なんだろうな」
「……多分、今日全校生徒が参加する大会だから、私と小野先輩が付き合ってるように見せつけたかったんじゃないかな」
「つまり、そういう風に周りに認知させるって魂胆か。いやらしい事するなぁ」
朱音と小野先輩が恋仲かもしれないという噂は、未だ流れ続けている。
そして今日、小野先輩が朱音と近い距離でコミュニケーションを取った事で、その噂の信憑性が高くなるという、朱音の弱みに付け込んだ最低なやり方だ。
「私はそういうのやめてくださいって言ったのに、周りも『照れてる』とか『可愛い』とか言うだけで、全然止めてくれなくて……」
「それは、めっちゃキツいな」
「ねぇ遼……? うち、どうすればいいのかな……?」
かなり追い込まれている様子の朱音を見て、俺は一つ提案をする。
「なぁ朱音。俺の隣にずっと居てくれないか?」
「え……うん、分かった」
何故か頬を赤らめて嬉しそうな朱音を見て、まぁ幼馴染である俺と一緒に居た方が少しは安心するのかな? と思い、彼女の手を引いて皆の元へ駆け寄った。
~~~~~~~~~~~~
初戦の相手は、小野先輩の息が掛かっているかもしれない2年のCチームだ。
試合開始のホイッスルが鳴ると、相手のサーブが飛んできた。
橘さんが正確にレシーブして椎葉さんがトスを上げ、蓮がスパイクで決める。
このスムーズな連携によって、先制点を取る。
「ナイス蓮っ!」
「スパイクはずっと練習してたからな! しかし試合で決まると気持ちいいな!」
全員とハイタッチしたあと、次は入野がサーブを打つ。
あれから入野はジャンプサーブの練習をしたおかげで、男子にも引けを取らないスピードで相手コートのラインぎりぎりに突き刺さるサービスエースを決める。
「入野さんっ、ナイスです!」
「いえ~い! 次も決めちゃうよー!」
その言葉通り、3連続でサービスエースを決める入野を見て、俺は思った。
あれ……? なんかウチのチーム強くね?
小野先輩が何か仕組んでそうだった2年Cチームは、結局手も足も出ない様子で敗北した。
「やっぱ運動神経良い人が集まると、プレーも安定するもんだなぁ」
「運動部じゃない橘と住吉がちゃんと動けているのが一番デカいな」
全チームが男女混合という事もあって、連携や個人のプレーに差があるチームが殆どなので、俺らのチームのように全員がそれなりに上手くこなせるというのは、実際大きなアドバンテージになっている。
まぁウチの場合は、何故か全員本気で練習していたという側面もあるが……。
何はともあれ勝ちは勝ちなので、一旦コートを後にして次の対戦相手が決まる試合を観に行く事にする。
「ほら、朱音。一緒に行くぞ」
「はーい」
朱音は右手を笑顔で差し出す。
「えっと……手は繋がなくても良いんじゃないか?」
「でもさっきは私の手、引っ張ってくれたじゃん」
「それはその……あれはその場の勢いでやっちゃった事であって」
「ふーん。じゃあウチが小野先輩にセクハラされてもいいんだー」
ウソ泣きをし始める朱音を見て、恥ずかしながらも彼女の手を引こうとした。
「あ、朱音ちゃんっ! はぐれるのが怖いのであれば、私が手を繋いであげますよっ」
そう言って橘さんは朱音の差し出された右手を握る。
「し、詩織ちゃんっ!? どうして……っ?」
「あー……じゃあ橘さん頼んだよ」
俺の言葉を聞いて頷いた橘さんは、朱音の手を引いて歩き始める。
二人の後ろを付いていきながら、互いに名前で呼び合っていた事に気づいた。
最近お昼も二人で食べている事もあるし、きっと意気投合して仲が深まったのだろう。
眼前の美しい光景に感動した俺は、ふと目頭が熱くなるのを感じた。
今回もお読みいただきありがとうございます。
次話も、明日9月24日20:30頃に更新できるよう頑張ります……!
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