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第12話 想いの『行く末』


 フードコートで昼食を終えた俺らは、スポーツ用品店を回ることとなった。

 あの後何軒か服屋を回り、バスケ部コンビは服を選んだり、選んでもらったりしてそれなりに手応えを得られたようだ。

 椎葉さんも田野君も、序盤の不安はどこへやら。今は各々で談笑できるようになっていた。


「そろそろ俺のアシストは要らなさそうだな……」


 俺は皆と離れ、一人トイレで手を洗いながら独り言ちる。

 蓮や入野にしたって、あれだけモテるのに中学生の時は俺と同じく浮いた話を一つも聞かなかったので、余計なお世話かもしれないが少しは恋愛をしてくれたっていいんじゃないかと思うわけで。


「はぁー……俺も『書き置きちゃん』と『手紙さん』とお近づきになりてぇ~」


 まともに恋愛をしたことがないので、相思相愛の関係になれそうな見知らぬ異性に思いを馳せる事しかできない自分が、少し情けなく感じる。

 少し気落ちしながら皆がどこにいるかLoinで確認すると、朱音から『テニス用品売り場でテニス談義してるよ』との事だった。

 皆と合流しようと売り場に向かっていると、爽やか青年から声を掛けられる。


「やぁ、こんなところで会うなんて奇遇だね」


「あ、小野先輩。どうも」


 朱音にフラれながらも、まだ諦めていないバスケ部の先輩に軽く会釈をする。


「今日は一人かい?」


「いえ、球技大会でチームになった皆と遊びに来てるんです」


「そっか……ところで、球技大会はどの種目に出るんだい?」


「バレーですね」


「なるほど……」


 小野先輩は少し考える仕草をする。


「実は俺もバレーを選んでいるんだけど、もしよかったら『勝負』をしないか?」


「えっと、それはどういう……?」


「前回君と会った時、朱音ちゃんは君の事を気にしてる様子だった。俺としては、やっぱり俺だけを見ていてほしいわけで」


「はあ」


「君も朱音ちゃんの事が好きなんだろう? だからお互い、好きな人を賭けて勝負をしようじゃないか」


 この人思い込み激しいな。

 それに前提も間違っているので、俺は修正を求める。


「あの……小野先輩?」


「なんだい?」


「俺、別に朱音と付き合いたいとか思ってないですよ?」


 呆気に取られる小野先輩。


「この前も言いましたけど、俺と朱音はただ幼馴染ってだけで、お互い特別な感情とか抱いてないんですよ」


 とは言ったものの、以前朱音が小野先輩を煙たがっていたのも事実だ。

 だからここは素直に思っていたことを言う事にした。


「でも、朱音は先輩に彼氏みたいに振る舞われて、困ってるようでしたので、もしかしたら小野先輩と付き合っているような噂が流れるのを、快く思っていない可能性はあるとは思いますよ」


「……」


「だから勝負云々の前に、まずは朱音に付きまとったり、彼氏面するのをやめたらどうですか?」


 もしかしたらこんなお節介、朱音は求めていないかもしれない。

 これはただ、幼い頃から仲良くしてくれた人には『本当に付き合いたい人と付き合ってほしい』という、独(・)善(・)的(・)で(・)傲(・)慢(・)な(・)俺(・)の(・)願(・)望(・)だ。

 俺の言葉を聞いて、少し憤りを見せる小野先輩。


「あくまでも俺の恋路を邪魔するっていうんだね?」


「俺はただ、今のままだと『小野先輩が朱音に付きまとっているだけの厄介な人』になっちゃうので、やめたほうが良いですよと忠告したまでです」


 俺の言葉に苛立った小野先輩は俺の眼前に立ち、俺を見下ろす。


「……テメェもそ(・)っ(・)ち(・)側(・)かよ。俺にご高説垂れた事、後悔させてやるからな」


「いずれ後悔するのは小野先輩の方ですよ」


「……チッ」


 俺は小野先輩が人ごみに消えていくのを見送ると、張り詰めた空気を吐き出すように溜息を吐く。


「こんなの、柄じゃないよな……」


「あ、あの……大丈夫ですか?」


「たっ、橘さん!?」


 いつの間にか近くに居た橘さんに驚く。


「……ひょっとして、さっきの話聞いてた?」


「え、えっと……はい」


 橘さんは申し訳なさそうに答える。


「えっと、橘さんは気にしなくていいからね? これは俺個人の話だから」


「そう……ですか」


 少し寂しそうな表情をしながら、ポツリポツリと話し始める。


「やっぱり、霧島君は……とても優しいですね」


「そうかな? 結構独善的だと思ってるけど」


「そ、そんな事ないですっ! いっつも周りに気を遣ってくれますし、仮に独善的でも、その優しさに救われてる人だって居るんですから……!」


 感情的になる橘さんに少し驚きつつ、俺は感謝の意を伝える。


「そっか……そう言ってくれると助かるよ。ありがとう」


「い、いえ……感謝されることなんて何も……。あっ、早く皆さんと合流しませんか……?」


「確かに。戻るの遅いと朱音あたりに文句言われそうだしな」


 俺は橘さんと並んでスポーツ用品店に向けて歩き出す。

 橘さんの優しさと気遣いに触れた俺は、少し温かい気持ちになった。


 ~~~~~~~~~~~~


 あの後17時過ぎまで遊んだ俺たちは、蓮が帰ってトレーニングしたいと言い出したので解散する事になった。

 俺は、小野先輩の件もあったので、なんとなく朱音と一緒に帰ることにした。


「ねぇ」


「なんだ?」


「今日なんかあったっしょ」


「いや? まぁ強いて言うなら、他人の恋路について考えてた事くらいかな」


 俺は初めて幼馴染に嘘を吐いた。

 本当の事を言って、これ以上朱音を不安にさせたくなかったという理由からなのだが、俺の嘘を朱音は見透かすように言う。


「ふぅん? ま、そういう事にしといたげる」


 これ以上弁明しても意味がなさそうなので、俺は話題を変える。


「ところでさ、朱音はなんであのバスケ部の二人とチームを組んだの?」


「んー、私の事を気遣ってくれるからかなー」


「それは、あの先輩の件も絡んでるのか?」


「まぁそんな感じ。遼たちが4人でチーム組みそうなのは分かってたし、あの二人が好きな人も知ってたから、恩返しのつもりでチームを組んだの」


 あの二人にどんな恩があるのか、掘り下げると朱音も気が重くなるだろうし、もう少しだけ話を逸らす。


「朱音から見て、あの二人の恋は成就しそうか?」


「うーん……椎葉さんは思ったより積極的だから、あとは日向君が椎葉さんの魅力に気付きさえすれば、関係が進みそうな予感がするかな」


「確かにな~、最初こそ蓮に対して緊張してたけど、今日の最後の方は普通に話せてたしな」


 椎葉さんは蓮と話す機会も多かったように見えたし、今日一日でそれなりの成果は得られただろう。


「田野君はどうかな」


「……多分難しいかも」


 あれ?

 あの二人結構話してたと思うんだけどな。


「田野君も後半はかなりアプローチかけてたけど、そもそも入野ちゃんは田野君を異性として見てないというか、そんなに興味がなさそうな感じがしたの」


「……なんとか挽回はできないもんかねぇ」


 俺が田野君の恋路に気をもんでいると、朱音は首を振る。


「入野ちゃんのガードがとてつもなく硬いの。態度には全く出てないように見えるけど、遼たち4人とそ(・)れ(・)以(・)外(・)って感じで、明確に切り分けてる気がするのよ」


「なるほどなぁ」


 入野ってあんなにフレンドリーだけど、人との距離にはそんなに慎重だったなんて思いもしなかった。


「なんなら、私も橘さんくらいの距離には行けないもの」


「そうなのか? でも朱音の事は下の名前で呼んでるよな?」


「それはそうなんだけど、言葉にしにくいんだけど……遼と仲がいいから、比較的近づけてるだけっていうか、そんな感じがするの」


 言われてみれば、何か意見を聞くときも『いつメン』の俺たちから先に聞いてるような気がしなくもない。

 田野君……君の想い人は想像以上に攻略が難しいみたいだ。


「だからまずは、入野ちゃんの本当の友達になってアプローチするか、運よく異性として見てくれるようなイベントがない限り、田野君を筆頭に彼女に想いを寄せる人達は、入野ちゃんと付き合うの無理じゃないかな」


「そっか……」


 普段何気なく会話している友達に、そんな一面があったなんて思ってもみなかった俺は、いかに自分が他人をよく見ていないのか思い知らされた気分だった。

 ……今度から入野の事もちゃんと知らなきゃな。


「ところでさ。今日は珍しく遼の方から一緒に帰ろって誘ってくれたよね」


「ギャルが非行に走らないか心配でな」


「ふふっ、なにそれ」


 朱音は少し嬉しそうな反応をする。


「非行って、例えば?」


「そうだな……ナンパしてきた男にホイホイ付いて行ったりとか、落書きしたりとか」


「私をどんな女だと思ってるワケ!?」


 俺の冗談にキレる朱音。


「冗談だって」


「……まぁ私こんな見た目だから、実際ナンパは多いけどさ」


 ウェーブ掛かった自分の髪を指先でくるくる回しながら不貞腐れる。


「ま、幼馴染とはいえ隣に男が一人でも居れば、帰りにナンパされることはないだろ」


 何気なく言った俺の言葉に、朱音は少し真面目な表情をする。


「遼はさ、私にもし彼氏ができたら、どう思うの?」


「どうって……まぁ、普通に祝福するけど」


「そっか。じゃあ逆に遼に彼女ができたとして、私がどう思うか分かる?」


 え、朱音がどう思うか……?


「普通に祝福してくれるんじゃないのか?」


 朱音は首を振る。


「身近で私と仲良くしてくれてた人が、徐々に自分から離れていっちゃうんだろうなっていう焦燥感から、祝福なんてできないと思う」


 予想外の言葉に、俺は戸惑う。


「あはっ、そんな風に私が思ってるだなんて考えてもなかった顔してるね」


「そりゃそうだろ」


 すると朱音は少し据わった目で俺を見る。


「遼って、案外自己中心的だよね」


 俺は言い返そうと思ったが、小野先輩に忠告をした時の独善的な言動を思い出し、閉口してしまう。


「別に責めてるワケじゃないの。それも含めて遼っていう人間だし、いい所でもあるから」


 少し表情が緩む朱音は「でも」と続ける。


「もう少し、周りの人の事をよーく見た方がいいよ? じゃないと……」


「……どうなるんだよ」


 朱音は俺の手の甲に爪を立てながら囁く。



「大(・)変(・)な(・)こ(・)と(・)に(・)な(・)っ(・)ち(・)ゃ(・)う(・)……かもね?」


今回は予定より大きく遅れてしまって申し訳ありませんでした!!!


明日は一日お休みをいただきまして、明後日9月21日(月)の20:30頃に更新させていただきます……!


お待たせしてしまいますが、何卒ご容赦ください……!!

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