第11話 恋模様
日曜日のショッピングモールは、相変わらず多くの人で賑わっていた。
蓮の助言通り、今日は一旦ショッピングモールで互いの仲を深め、球技大会後に改めて『お疲れ様会』を開催する流れになった。
主催者である俺は、集合時間の15分前に北入口付近で参加者が揃うのを待っていた。
初夏という事もあってか、日差しの強さも相まって外気温は既に30度近いそうだ。
「流石に中で待ってようかな……」
蒸し焼きにされては困るのでモール内に入ろうとした時、朱音と橘さんが一緒に歩いて来るのが見えた。
「おはよ~。今日もアッツいねー」
「おはよう朱音。風が吹いてないから余計暑く感じるよな」
今日の朱音は白シャツの上に丈の短いデニムジャケットを羽織り、ワイドデニムパンツを合わせた、いかにもギャルっぽい出で立ちだ。
対して橘さんは、小さいネクタイ付きのワイシャツの上に薄いキャミソールを重ねており、レースのロングスカートも相まって、とても上品な感じがする。
「あ、あの霧島君。もしよかったらこれ、使ってください」
そう言って橘さんは、俺にボディシートを渡してくれる。
「えっ、本当にありがとう。外で待ってたら汗止まらなくて……」
「ふふっ。霧島君のことですから、きっと暑い中でも外で待ってくれてるんだろうなと思いまして」
気遣いが素敵すぎる。
早速シャツの下から手を入れて身体を拭くと、制汗剤の香りと共にひんやりとした冷感が心地いい。
何故か橘さんは俺のシャツの下側をじっと見つめていたが、こういう公衆の面前でちょっとはしたなかったか……?
そのやり取りを見ていた朱音は、何故かちょっとだけ不機嫌に見えた。
ひょっとして朱音もボディシート使いたいのかな……?
「……そのシート、使い終わったら私が貰うわよ」
「えっ? 俺が使ったやつを朱音も使うのか……?」
幼馴染と言えど、流石にそれは……。
「ちっ、違うわっ! そのゴミ貰うっつってんの!!」
朱音は顔を赤くしながらバッグから小さなビニール袋を取り出すと、俺の前で広げて見せた。
「ははっ、分かってるって。それにしても、えらく準備が良いな」
「何年幼馴染やってると思ってんのよ」
俺は使い終わった制汗シートを袋に入れると、朱音はビニールの口を縛ってバッグに戻した。
その光景をじっと見つめる橘さん。
……あ、そっか。
「とりあえず、一旦中でジュースでも飲もっか」
多分早く涼しいところに移動したいんだよね?
俺も気を遣ってあげないとな……!
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待ち合わせ場所をモール内に変更して数分後、待ち合わせ時間ピッタリに来た蓮を最後に7人全員揃った。
とりあえず今日の俺の考えとしては、まずは女性陣の服選びに同行し、昼食を取った後スポーツ用品店や雑貨屋を回りつつ、もし時間が余りそうならゲームセンターで時間を潰すようなプランになっている。
バスケ部の二人には、なるべく自分をアピールできるよう頑張ってほしいものだ。
俺としても恋の行く末が気になるところではあるので、それとなく気にしておこう。
「じゃあ全員揃ったし、まずはセレクトショップを中心に回ろうかなって思うんだけど、それでいいかな?」
「あ、じゃあ私行きたいとこあるから、そこからでもいい?」
「じゃあ朱音に先導を頼むよ」
シームレスに女性陣へ主導権を渡す事に成功した。
俺ら男は後ろをついていくだけでいいから非常に楽だ。
「なぁ、服ってそんなに選ぶの楽しいのか?」
蓮は俺に『よくある疑問』を投げかけてきた。
「人によるけど、俺は割と好きな方だな」
「遼は中学からそんな感じだよな。好きな理由とかあるのか?」
「まぁ……きっかけはどうであれ、服の着方とか組合せで人の印象が大きく変わるところが面白くて好きになったな」
最初はモテたくてファッションの知識を仕入れていたけど、女子が制服と私服で印象が大きく変わる事に気づいて、服を選ぶ事の面白さに気づいた。
本当は蓮や田野君にも面白さを知ってほしいが、多分興味持ってくれないだろうなあ。
「じゃあさ、後でオレに何が似合うか見繕ってくれよ」
「ぼ、僕もお願いしたいっス!」
「いや、そこは俺じゃなくて女性陣に見繕ってもらいなよ」
俺は苦笑しながら二人を見る。
だってそっちの方が男女の仲が深まるし、何より青春っぽいもん。
蓮が何か言いたげにしていたが、そうこうするうちに1軒目の店に着いた。
「ねぇねぇ遼ちゃん、私イメチェンしたいんだけどさ、どういうのが良いと思う?」
入野に相談された俺は、改めて入野の服装を見てみる。
オフショルダーにプリーツスカートねぇ……充分似合ってると思うが。
「ちなみにどういう風にイメチェンしたいんだ?」
「私もう高校生じゃん? もうちょっと大人~なカンジになりたくてさー」
まぁ入野の体格的に、可愛いよりカッコいいにシフトした方が似合うかもしれんしなぁ。
「なるほどな。ちなみにスカートが良いのか?」
「そこなんだよー……遼ちゃん的にはどっちがいいと思う?」
えぇー俺ぇ?
正直スカートでもパンツルックでもどっちでも似合いそうな気はするけども……。
「そうだな……ちなみに田野君はどう思う?」
「えっ、ぼ、僕っすか!?」
俺のキラーパスに狼狽える田野君。
しかしここは入野の好感度を上げるチャンスだから、頑張ってほしい。
「そ、そうっすね……僕としては今の入野さんでも充分、その……良いと思うっすけど」
顔を真っ赤にしながら入野を見ているが、ここはどっちが良いかハッキリ言った方が男らしいぞ……!
「え~そうかなぁ」
田野君、頑張って褒めてみたものの入野にその言葉は刺さらず……!
「別にスカートかパンツどっちかしか似合わないって話じゃないと思うぞ……って事が言いたいんじゃないか? だから一旦どっちも見繕ってみたらどうだ?」
「あーそういう事ね~。じゃあ幾つか気に入ったの試着してみるよー」
そう言って服を選びに行く入野を見て、田野君が俺に小声で話しかける。
「き、霧島君……! ぼ、僕全然ファッションとか分かんないから、超緊張したっす……!」
「まぁまぁ、今のはチュートリアルみたいな感じだよ。入野が迷ってるって聞きに来るときはハッキリした意見が欲しいって事だから、さっきみたいなシチュエーションなら迷わず自分の直観で意見言っていいぞ?」
「そうなんすね……勉強になるっス!」
入野の取説でも作ってあげたら大喜びしそうだな。
まぁそんなことはしないけども。
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別店舗に移動して再び女性陣が服を選び始めたので、俺たち男三人は店の外のベンチで待つことにした。
すると隣の蓮が大きなあくびをするのが視界の端で見えた。
「蓮……暇なのは分かるけどさ、お前もうちょっと隠す努力しろよ」
「すまん。でも遼だってこういう時あくびしてるんじゃないのか?」
失敬な。
たとえ暇でも態度には絶対出さないって決めてるんだぞ。
理由はモテたいからだけど……。
「まぁ、姉ちゃんが服選んでる時は、正直あくびしてる」
理由は姉ちゃんにモテてもしょうがないから。
「はぁー。オレなら咲来さんが服選んでたら絶対あくびなんかしないけどな」
「お前俺の姉ちゃん好きすぎだろ。何がそんなに良いんだよ」
蓮はあくびの気配が消えた生き生きとした表情をする。
「まず美人だろ? それに物怖じせず常にはっきりと意見が言えるし、威風堂々とした佇まいがカッコいいし、男に媚びないし、美人だし」
コイツ急に饒舌になるじゃん。
あと2回も美人て言うなよ、面食いみたいになるから。
「そんなに好きなら、姉ちゃんに告白とかしてみたら良いじゃん。そうしたら多分フラれてそういう気も起きなくなるだろうし」
「バカ言え。オレの咲来さんへの思いは恋とかそういうんじゃないんだよ。強いて言うなら『推し』ってヤツだ」
拗らせすぎ。
こんなの椎葉さん聞いたら泣いちゃうよ……。
同じことを思ったのか、田野君も哀愁漂う悲しい表情をしている。
「ちなみに咲来さんに関しては、オレ以上に入野は拗らせてるからな」
「マジかよ……」
「この前なんて『なんとか遼ちゃんと入れ替わって霧島家の妹になれないかなぁ』とか妄想してたから、あれはもう『推し』じゃなくて崇拝に近いな」
「……聞きたくなかったよ」
そんな話聞いちゃったら入野に恋してる人たちの心折っちゃうんじゃないか?
そう思って隣をもう一度見ると、田野君が遠い目をしていた。
ほら見ろ、もう犠牲者出ちゃったよ。
田野君の行く末を案じつつ店舗に目を向けると、遠くから蓮をチラチラ見ていた椎葉さんと目が合った。
……ははーん、さては蓮に服が似合うか見てほしいとみた。
「なぁ蓮、折角だし椎葉さんの服見に行ってみなよ」
「なんでオレが?」
「今回は親睦会なんだぞ? 相手がどういう考えを持っているか知るチャンスだぞ」
まぁ服見ただけじゃ相手の考えとか、あんまり分かんないだろうけど。
「まぁ、そういう事なら」
そう言って重い腰を上げた蓮は、ゆっくりと椎葉さんの方へ歩いて行った。
後は彼女自身が、自分の魅力を上手くプレゼンできれば良いのだが……。
そしてもう一方の灰になりかけている田野君にも発破をかける。
「田野君も、さっきの蓮の話は置いといて、入野の事を知れるチャンスを逃すわけにはいかないんじゃないか?」
「……確かにそうっすね。さっき霧島君から教わったアドバイスで、もう一回トライしてみます!」
田野君も現実に戻ってこられたようで、自分を奮い立たせるように自分の顔を叩いて入野の元へと向かっていった。
あと1店くらい回ったらファストファッションとSPAの店舗を回って、俺も夏休み用に服を幾つか見繕うとしよう。
「なーにリラックスしてんのよ」
紙袋を片手に店舗から出てきた朱音が、さっき田野君が座っていた俺の右隣に腰掛ける。
「こんな大人数で出かける機会が滅多になかったからさ、なんだかちょっと嬉しくなっちゃって」
バスケ部二人の恋模様が見ていて新鮮なのもあるが、遊びのプランを立てて各々が楽しむ姿を見るのもまた一興だと思う。
そんな俺の姿を見て、朱音は俺が飲もうと思って右手に持っていたぶどうジュースを取って、2口ほど飲む。
「遼ってば、相変わらずコレばっかり飲んでんのね」
「おい、勝手に俺のジュース減らしときながら文句言うなよ」
朱音はケラケラと笑いながら、バッグから桃風味の水を取り出すと俺の方に突き出す。
「じゃあ遼も私の飲めばいいじゃん。そしたらおあいこじゃん?」
「……やめとく」
朱音はわざとらしく唇を尖らせながら渋々俺のジュースを渡してくれた。
俺だって喉が渇いてるのに勝手に飲みやがって……。
そう思ってジュースを飲んでいると、いつの間にか俺の左隣に来ていた橘さんが、じっと俺の方を見ていた。
「……えっと橘さん?」
俺と目が合った橘さんは、慌てて目を背ける。
「ひょっとして、橘さんもこのジュース飲みたいの……?」
「え、えぇ~っと……」
少しもじもじしながら、俺の右手をチラチラ見ている。
まぁ喉乾いてるんだろうけど、人が飲んでるものが欲しいって言いづらいよな。
「もし俺の飲みさしでよければ、これ飲んでもいいよ?」
「あ、ありがとうございます……!」
俺がジュースを差し出すと、橘さんは両手でおずおずと受け取る。
何故か朱音からの視線が刺さるが、決して俺は女の子に自分の飲みさしを飲ませる趣味はないから、そんな目で見ないでほしい。
橘さんは意を決したようにぶどうジュースをくぴくぴと飲んだ。
すると顔を赤らめながら、そっと俺の方にボトルを差し出す。
「あ、あの……とても美味しかったです」
俺はそれを受け取って今一度ボトルを眺めて、一つの解に行きつく。
「君たち、ひょっとして……ぶどうジュースが好きなの?」
「そっ、そうよっ!」
「そっ、そうですっ!」
実に息ピッタリな返答に「また一つ、親睦が深まったな」と、俺は感動したのだった。
今回もお読みいただきありがとうございます。
次話も、明日9月19日20:30頃に更新できるよう頑張ります……!
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