第10話 連絡先
天を見つめたところで、空は俺に何も教えてくれないみたいだ。
俺は気持ちを切り替え、二人に向き直る。
まずは俺にできる事なのかを聞いて、そこからどうするか決めよう。
「……それで、俺に何をしてほしいのか、具体的に教えてくれないか?」
「えっと、基本的にはあたしたちでアクションを起こすつもりでいるの」
「霧島君には、僕らが入野さん達との距離を縮められるよう、会話のサポートをしてもらいたいっス」
なるほど、つまり彼らだけじゃどうしようもない状況になった時だけ、俺がヘルプに入るって事か。
てっきり個人情報を教えろとか、椎葉さんと田野君の良い所を吹き込んでほしいとか、そういう過激な事を言うんじゃないかと構えていたが、そういうワケじゃなさそうで安心した。
「いいよ。そのくらいなら手伝ってあげられそうだし」
俺の協力が得られる事が分かって、二人は嬉しそうにハイタッチしていた。
二人とも、性別は違えどしっかり恋してんなぁ。
俺も恋愛がしたいなぁ……。
羨望の眼差しを無自覚に送っていたらしく、それに気づいた椎葉さんが何かを察したようだ。
「……田野君、今さっき男バスの顧問がこっち見てたから、早めに戻った方がいいかも」
「マジっすか!? じゃあ僕戻るんで、すみませんがこの辺で失礼しまっス!」
そう言って田野君はダッシュで体育館へ向かった。
それを見送った椎葉さんは、俺に向き直る。
「霧島君は、誰か好きな人とか居るの?」
「えっと、『異性として』という意味なら今は居ないかもなぁ」
それを聞いた椎葉さんは少し考えて、別の質問をする。
「じゃあ気になる女の子は?」
「うーん……」
気になる女の子か……。
あ、そういえば書き置きと手紙の差出人は女の子でほぼ確定してたんだった。
「あ、一応いるかも」
「……ちなみに気になる子が『誰』なのか教えてもらう事はできる?」
いやーそれが分かれば苦労しないんですよねぇ~。
現状分かってる事だけ伝えてみるか……。
「えーっと、具体的に誰かっていうのは分からないんだけど……字が丁寧で、身長が160cm以上ある女の子かなぁ」
「……なにそれ、好きなタイプって事?」
自分で言っておきながら、説明不足過ぎるな。
一応経緯を話そうと思ったが、どうやら書き置きや手紙の差出人とお近づきになりたいという考えは、姉ちゃんや朱音、蓮とかの反応を見るに異端のようだ。
なので椎葉さんには、一旦『タイプの子』として認知してもらう事にした。
「まぁ、そんなところかな」
「なるほど?」
少し疑問に思いつつも納得してくれたようだ。
「っていうか、椎葉さんはどうしてそんな質問を?」
「そうね……あたしの『興味本位』って事にしといてくれると嬉しいわね」
椎葉さんは俺に興味があるって事?
でも好きな人は蓮だよね?
つまり……どういうこっちゃ。
女心の難解さに頭を悩ませていると、椎葉さんは苦笑する。
「この件はまた今度、折を見て話すことにするわ。今日はあたしたちの話を聞いてくれて、本当にありがとう」
「どういたしまして」
椎葉さんは体育館へ戻ろうとして、再び戻ってくる。
「……えっと、もしよかったら霧島君のLoin教えてもらってもいい?」
ついに来たか、この時が……!
「もちろん! あとでバレーのチーム用にグループ作っとくよ」
「ホントに!? 早速サポートしてもらっちゃったね」
嬉しそうに俺のアカウントを友達に追加してくれている。
俺も実は超嬉しいんですけどね。
後で田野君もグループに誘っておいてほしい旨を伝えると、椎葉さんは今度こそ体育館へと戻っていった。
「連絡先増えた……ありがてぇ……っ!」
「霧島君は、連絡先が増えると嬉しいの?」
「うわぁ!! き、木城先輩!?」
トングとゴミ袋を持って、いつの間にか俺の正面に立っていた。
「ど、どこから聞いてました?」
「そうね、あなたの気になる女の子が、身長160cm以上あるという場面かしら」
よりにもよってそこからかよ!
とんでもないタイミングだなおい!
「それで、霧島君は連絡先が増えると嬉しいの?」
いつも通りの考えが読めない無表情で聞いてくる。
「えっと……まぁ、はい。嬉しいです」
「そう」
トングとゴミ袋を地面に置き、軍手を外した木城先輩は、おもむろにスマホを取り出した。
「じゃあ私とも連絡先、交換しましょ?」
「え、いいんですか?」
「ええ。もちろん」
木城先輩はQRコードを出してくれたので、俺は木城先輩を友達に追加した。
「このアカウント名の『Lena』って、ドイツ語でも『レナ』って読むんですか?」
「正確には『レーナ』だけど、あなたの好きな方で認識してもらっても構わないわ」
ドイツ語にも日本語にも読めてしまうのって凄いな。
「とても良い名前ですね」
「ありがとう」
木城先輩は特に表情も変えず、慣れた手つきでスマホを触る。
「ところで、その……俺のLoin知って、どうするんですか? 生徒会の手伝い告知用とかですかね?」
「あら。生徒会の用事以外で、あなたに連絡してはダメなのかしら?」
不意に俺のスマホが鳴ったので手元に視線を落とすと、木城先輩からウサギのマスコットがサムズアップしているスタンプが送られていた。
意外なメッセージだったので再び木城先輩を見ると、スマホで口元を隠しながら俺の返事を待っているようだ。
そのいじらしい仕草に、俺は笑顔で答えた。
「いつでも、どんな内容でも送ってください。お待ちしてますよ、木城先輩」
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球技大会まで残すところあと2週間となった週末、俺らのチームはそれなりに仕上がってきていた。
中でも、やはり現役運動部の成長には目を見張るものがある。
蓮と入野はボールを片手で打つという動作が非常に上手くなり、サーブやスパイクの打点の高さや精度に秀でている。
椎葉さんは身長の高さと跳躍力でブロックが上手くなり、田野君は持ち前の瞬発力を生かしたレシーブが上手く、ボールが飛んでくるコースの読みも鋭い。ラインアウトの判断も的確だ。
「流石テニス部レギュラーよね。日向君が近くでスパイク打ってるの見ると、迫力が凄いもの」
「あんま褒めんなって。それに椎葉だってブロックとかアタックのフェイント上手いじゃん」
「入野さんもメッチャ凄かったっスよ! どうやったらあんな綺麗にサーブ打てるんすか?」
「ふふん! それはねぇ~……乙女の勘ってヤツかな!」
「あ、綾ちゃん……コツを教えてあげた方が……」
チームメンバーがそれぞれの強みを理解し始めていたのは、団結力が上がってきている事の表れだろう。
「しかしまぁ、オレとしては橘が意外性というランキングでは頂点に居る気がするな」
「そっそんな事ないです……皆さんの足を引っ張らないように必死なだけで……」
「詩織ちゃん、まさしく才能の原石って感じだし、もっと自信持ちなよ~」
蓮と入野の言う通り、橘さんはとてつもない才能を持っている事が、練習する内に分かってきた。
彼女はどうやら、とてつもない動体視力を隠し持っていたようだ。
例えば、どんなに速いボールが飛んできても目を瞑ることはないし、自分が取れる範囲のボールに対して取り逃すことは一切なかったのだ。
「で、でも……私よく転んじゃうし、すぐ息切れちゃうから……」
流石に運動自体は苦手なようで、横方向の移動やステップを踏むとき、体感3~4割くらいの確率で足がもつれる印象だ。
「じゃあさ詩織ちゃん、毎朝私と一緒に筋トレしようよ!」
「まっ毎朝!? ちなみに、綾ちゃんはどんな事をするの……?」
「えっとねー、まず動的ストレッチやって、サイドブリッジ1分×3セットずつやるでしょ? そのあと外でラダートレーニングかなぁ」
橘さん学校来れなくなっちゃうトレーニング強度じゃん。
ってか入野、毎朝そんなガチトレーニングやってんだな……。
「えっと入野ちゃん……? その強度だと橘さん学校に行く体力無くなっちゃうよ?」
俺の考えていた事を朱音が代弁してくれる。
「入野……お前鬼かよ」
「い、いやいや! 私と全く同じトレーニングをさせるワケないじゃんっ!?」
「えっと……考えておくね、綾ちゃん……」
と、そんな感じでいつもの内輪ノリをしていると、バスケ部の二人が寂しそうにこちらを見ていることに気付いたので、すかさずフォローする。
「あのさ、個々の能力は上がってきたと思うんだけど、チームとしてはまだまだ伸びしろがあると思うんだよね」
俺の言葉に思い当たる節があるのか、蓮が反応する。
「確かにな……俺も連係ミス何回かやらかしてるし」
やっぱり、蓮もそう思ってるよな?
だから、恐らくバスケ部の二人が期待しているであろう提案を持ち掛ける。
「だからさ、このチームメンバーで親睦会をやらないか?」
「親睦会?」
「そう。例えば皆でカラオケ行ったりとか、ショッピングモールで買い物したりとか。もっとお互いの事を知る機会を作るべきだと思うんだ」
俺は友達に嘘は言わないと決めている。
だからこれも内心ずっと考えていたことだし、もちろんバスケ部二人にとっても助けになると思う。
「なるほどね~、流石遼ちゃん! よく見てるねぇ」
「でもどうして今なんだ? もっと前にやれる機会なんて幾らでもあったろ」
「むしろ、皆がバレーという競技に慣れてきた今だからこそやるべきだと思わないか? 練習始めた頃なんて、自分の動作を改善する事で頭いっぱいだったろ」
「……そうだな。でもカラオケは祝勝会まで取っておこうぜ?」
蓮が俺の言葉に同意するところを見て、椎葉さんと田野君も嬉しそうにしている。
「おっけー。じゃあそろそろ休憩時間終わるし、詳細はLoinのグループで詰めよっか」
よし、これで二人のサポートとチームの団結力向上をどちらもこなせそうだ。
あとはそれぞれが己の力で活路を切り開いてくれる事を祈ろう。
すこし満足げにしていると、蓮と入野がこっそり話しかけに来る。
「……あんまり皆に気を遣いすぎるなよ?」
「え? それってどういう――」
「もうちょっと自己中になったっていいんだぞ~って事!」
二人は俺の背中を叩くと、小走りでボールを取りに行った。
……もしかして俺の考え、見透かされてる?
困惑する俺を他所に、練習の続きが始まった。
今回もお読みいただきありがとうございます。
おかげさまで第10話に到達しました!
次話も、明日9月18日20:30頃に更新できるよう頑張りますが、もしかしたら近いうちに1日だけお休みいただくかもしれません……!
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