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第9話 霧島遼の立場


 イベント盛りだくさんだった1週間もあっという間に過ぎ去り、気が付けば月曜日を迎えていた。

 今日の体育の授業では俺たちAクラスとBクラスが体育館に集まり、球技大会の参加種目を決めることになっていた。


「遼は何やるか決めたか?」


「んー、俺はバレーかなぁ」


 今年は『ソフトボール』『バレーボール』『テニス』の3競技からそれぞれ選ぶ事になっている。


「テニスじゃないんだな」


「先生言ってただろ。自分がやったことのない競技を選べって」


 去年までは自分の得意な競技を選んでも良かったらしいのだが、生徒会の『誰でも輝けるチャンスを作らないといけない』という思いから、普段やらない競技を選んでほしいとの通達があったようだ。


「じゃあ俺もバレー選ぶから、一緒のチームでやろうぜ」


「もちろん。ちなみにチームメンバー候補はいる?」


「うーん……2クラスでの男女混合チームだし、難しい所だな」


 俺と蓮が誰を自分のチームに引き入れるか悩んでいると、入野が橘さんを連れてやってきた。


「ねぇねぇ、遼ちゃんと蓮は何やるか決めた?」


「俺と遼はバレーをやろうと思ってる。雨降っても練習できるしな」


「なるほどねー、じゃあ私もバレーやろっかな。詩織ちゃんも一緒にやらない?」


 橘さんは少し申し訳なさそうに答える。


「あの……私、皆さんの足引っ張っちゃうかもしれなくて……」


「大丈夫だって。ここにいる全員、ほとんどバレーやったことないし!」


「そうだぞ。それに遼なんてまともに体動かしてないだろうから戦力として期待してないしな」


 俺は蓮を小突こうとしたが、持ち前の反射神経で避けられてしまう。


「……まぁそういう事だから、俺たちは仲の良いメンバーで集まってやりたいだけだから、橘さんさえよければ一緒にバレーやってくれないかな?」


「……わ、分かりました! 不束者ですが、よろしくお願いしますっ」


 橘さんは俺の誘い文句を聞いて、やわらかい笑顔で答えた。

 思わず「可愛いな」と口に出してしまいそうになったが、土曜日の件を思い出した事で踏みとどまることが出来た。


「ってことは、あと二人探さなきゃいけないのか。遼は誰か誘いたいヤツとかいないのか?」


 誘いたいかどうかは置いといて、仲がいいという括りなら例の幼馴染が脳裏に浮かぶ。

 まぁ別にわざわざ誘う必要はないか。多分他に仲の良い友達とチーム組むだろうし。


「特に思いつかないかな。そういう蓮はどうなんだよ」


「俺も特にって感じだな。ぶっちゃけ一番仲いい遼と同じ種目やりたかっただけだしな」


 結局互いに候補者が思いつかないまま参加種目が確定してしまった。

 まぁ6限目の練習時間に一緒にやってくれそうな人をぼちぼち探すか。


 ~~~~~~~~~~~~


 休憩時間を経て、体育館にはAクラスとBクラスを合わせて大体4チーム分の生徒が残っていた。

 男女混合チームで、試合に出る6人は男女3人ずつ。

 人数を調整するため各クラスで第三希望まで出したが、幸い俺たちAクラスはほぼ全員が第一希望の種目に入れたようだ。

 隣のBクラスはというと、バレーを第一希望に選んでいた人が多かったらしく、練習が始まる直前までくじ引きをやっていた。


「なんでBクラスはバレーやりたい人多かったんだろ……」


「た、多分……綾ちゃんと日向くんが、選んだからかと」


 俺の素朴な疑問に、バレーのルールブックを眺めながら答える橘さん。

 当の本人たちはというと「まずは身体を動かしたい」と言って、俺たちの目の前でトス・レシーブの打ち合いをしている。

 言われてみれば、話しかける隙を窺うBクラスの人たちが、そこそこいる事に気づく。


「あいつら、あんなに人気者だったんだな……」


 ここ最近、俺の周りの人たちが、俺の知らないうちにどんどん変わっていってる事に気づく機会が増えてきた。

 長く一緒にいるのに、その変化に気付けない自分が少し嫌になる。


「多分……近くにいるからこそ、気付けないんだと思います」


 俺の自嘲気味な発言に、橘さんは優しい口調で答える。


「わ、私も中学生の時に、霧島君と同じように思ったこと、ありますから」


「そっか……親友が人気者になっていくのは、嬉しい反面、ちょっと寂しいな」


 感傷的になりながら、無邪気にボールを打ち合う二人を見ていると、横からボールが転がってくる。


「なーにしてんのよっ」


 明るく聞き馴染みのある声の方を向くと、朱音がニヤつきながら俺を見下ろしていた。


「橘さんとルールブックを読んでいたんだよ。そっちこそ何してんだよ」


「私含めて3人集まったから、日向君と入野ちゃんのチームに混ぜてもらいに来たのよ」


 なるほど、俺たち4人と朱音たち3人が混ざれば交代要員もできるし、いい提案かもしれない。


「いったん3人と相談してみるから、ちょっと待っててもらっていいか?」


 俺と橘さんは蓮と入野を呼び、朱音達と一緒にチームを組んでも大丈夫か聞いてみた。


「俺は遼と同じチームでバレーできるなら何でもいいよ」


「私も詩織ちゃんと一緒にできるならいいよ~」


 こいつら考えるの面倒なだけじゃないのか……?

 最後に橘さんの意見を聞いてみる。


「あ、私も皆さんと一緒にできるなら、問題ないです……」


 まぁ、そうなるよな。

 結局俺の一存じゃねぇか。


「んで、どーすんの?」


「……じゃあ、ウチのチームで一緒に練習すっか」


「おっけー。じゃあ二人呼んでくるね~」


 朱音は軽やかな足取りでBクラスの集まる場所へ向かった。


 ~~~~~~~~~~~~


 4人から7人に増えた俺たちは、コートの半分で輪になってトス・レシーブといった基本動作を練習していた。

 朱音が連れてきた二人はどちらもバスケ部ではあるが、一人は背の高い椎葉愛衣(しいば あい)さんという女子部員で、バレーは小学校の頃に柔らかいボールで少し触ったことがある程度で、実際にバレーボールをちゃんとやるのは今回が初めてとの事。

 もう一人は田野瑛士(たのえ いじ)君で、男子部員との事。

 少し小柄だが、ポイントガードというポジションだとその体格が有利に働く場面があるらしい。だからバレーでもリベロ的な役回りでサポートしたいと意気込んでいた。

 4人の現役運動部は、やはり身体の使い方が上手いのか、多少のぎこちなさはあれどしっかりボールを受けることができているように見える。


「うーん難しぃ~」


 トスを上げようとした朱音は、ボールを後ろに逸らしながら競技の難しさを実感しているようだ。


「マンガ見て脳内では上手くできてたハズなんだけどな~」


「そもそも俺らはまともに運動してないからな。思った通りには動けないって」


 とはいいつつも、朱音も中学2年生まではバドミントンをやっていたおかげか、本人が悲観するほど悪いようには見えない。


「でもまぁ、久々にやる球技は楽しいな」


「おっ、テニス部復帰宣言かー?」


 蓮はからかうように俺に向けて軽くスパイクを打ってくる。

 かろうじてレシーブできた俺自身を褒めたいところだが、蓮のヤツもうスパイク打てるようになったのか……。

 俺がレシーブを打ち上げた先では、橘さんがオロオロと両手を挙げてトスを出そうとボールの落下点まで動いていたが、落ちてきたボールは橘さんの頭頂部に直撃……せずに、頭上に挙げた両手でしっかりと受け止めていた。


「あ、あれれ……?」


「ブッ! あははっ、詩織ちゃんナイスキャッチー!」


「もうっ……! 綾ちゃん笑わないでよ~……」


 さっきレシーブしたときも両腕の間にピッタリとボールが挟まり、困惑する橘さんを見て入野は大爆笑していた。

 かくいう俺も、思わず吹き出しそうになったが。


「でも橘さん、ちゃんとボールの落下点に入れてますし、結構上達早いかもっス!」


「そうね……最後までちゃんとボール見えてる証拠だよ」


 田野君と椎葉さんは、入野と違って素直に感心していた。

 言われてみれば、ボールを追いかけて転ぶ事はあっても、近くに飛んできたボールに対してはちゃんと受けきれていた。


「あ、ありがとうございます……!」


 橘さんは褒められ慣れていないのか、少し恥ずかしそうにしている。


「橘も割とバレー出来そうな事が分かったのは嬉しい誤算だな」


「だね。落下点に入るコツとか身体の動かし方さえ覚えたら、俺らのチーム意外と良いとこまで行けるかもな」


 蓮の言葉通り、スポーツ経験のない橘さんも想像以上に動けている。

 このまま練習を続ければ、もしかしたら、もしかするかもしれない。

 期待に胸を膨らませて練習を続けていたら、体育教師の串間先生から片付けに入るよう告げられる。


「あー、お前らは真ん中の仕切りを境に、二手に分かれてモップ掛けをしてくれ」


「分かりましたー」


 俺はボールを片付け、モップを取りに向かおうとしたらバスケ部の二人に呼び止められる。


「すんません霧島さんっ、俺ら折り入って話がありまして……!」


「ん? どうした?」


「あ、あの……放課後、時間があれば体育館裏にきてくれない……?」


 二人の縋るような表情を見て、俺はNOとは言えなかった。


「えーっと、30分くらいなら時間作れると思う」


「マジすか!? 超感謝っす!」


 救われたような表情を見せられると、まだなにも成し得ていないのに人助けをした気分になる。

 一体どんな話なのか見当が付かないが、彼らの願いに報いるよう頑張るつもりだ。


 ~~~~~~~~~~~~


 HRが終わり、俺は颯爽と体育館裏へ向かいながら彼らの『話』の内容について考えていた。

 球技大会での目標だろうか。はたまたバスケ部への勧誘だろうか。

 アレコレ考えていると、一つの可能性にたどり着く。

 ……ひょっとしてあの二人は――


「俺の連絡先が知りたいのかも……!」


 Loinの友達欄に名前が増えるかもしれないという期待を胸に体育館裏に着くと、遅れて二人がやってくる。


「すんません、時間取らせちゃって……」


「いやいや、全然いいよ。それで『話』って?」


 椎葉さんは深呼吸すると、決心したように言葉を発する。


「霧島君。あなたには、あたしたちの恋が上手くいくよう手伝ってほしいの……!」


 顔を赤くしながら激白する椎葉さん。


「僕からもお願いしますっ! 霧島君の協力が必要なんです……!」


 必死に懇願する二人を前に、俺は重要な事を聞いておく必要があった。


「えっと……ちなみにお相手は?」


 二人は少し恥ずかしそうにしながら、意中の相手の名前を挙げる。


「あ、あたしは日向蓮が好きなの……っ!」


「僕は入野さんとお付き合いがしたいっス!」


「……なるほど」


 俺は天を見上げて噛み締める。

 やはり蓮と入野はモテるんだと――。


今回もお読みいただきありがとうございます。


次話も、明日9月17日20:30頃に更新できるよう頑張ります!


是非感想を頂けると励みになります……!!

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