第9話 新たなゲーム仲間
『藤阪さん、今日は絶対に勝たせてもらいます!』
スマホのスピーカーからは姫島さんの気合いの入った声が吐き出されていた。
「……それはいいけど、さすがに今日は日が昇るまでは勘弁してね」
日が昇るまでやっていた結果、寝坊して2人揃ってホームルームギリギリに登校したけど、眠気に耐えきれず午前中の授業を爆睡してしまい、反省文を書かされる始末。
で、なぜかクラスメイトからは喜びと嘆きの声が浴びせられると……感情がぐちゃぐちゃになりそうな1日を過ごしていた。
『大丈夫ですよ、さっきまで特訓してましたから!』
「……執念って人を強くするんだな」
ちなみに俺は学校から帰ってきて母親に夕飯で呼び出されるまで夢の世界へ旅立っていた。
寝ぼけながらも夕飯を食べ、風呂を済ませて部屋に戻ってきたら姫島さんからの連絡があったと言うわけだ。
『くしゅん!』
PCを立ち上げようとしているとスマホから気になる声。
更に3回ほど連続で聞こえていた。
「姫島さん大丈夫?」
『大丈夫ですよ……っくしゅん!』
「……本当に大丈夫?」
姫島さんが大丈夫だと言うので、昨日と同じように『アケロク』をプレイしていったのだが、最初はくしゃみだけだったが徐々に咳き込んでいった。
「姫島さん、悪化してるようだけど本当に大丈夫?!」
『大丈夫です、ちょっと頭がクラクラしてきてますが、藤阪さんに勝つまでは——』
「——いやそれもう完全にアウトだよ、薬飲んで寝た方がいいって!」
姫島さんにそう言い聞かすもまだまだ頑張れるとか、まだ舞えますなど最終的には支離滅裂なことを言い始めたため、強制的に終了させて彼女を寝かせることにした。
「……大丈夫かな?」
彼女を心配しながらも俺は昨日の睡眠時間を取り戻すかのように早めに布団の中へ潜り込んでいった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「姫島は体調不良で休みの連絡があった」
次の日のホームルームで担任からそう告げられた。
「……やっぱ風邪だったか」
俺の呟きが聞こえたのか、周囲のクラスメイトたちが俺の方を見ていた。
「最近暖かくなってきてるから、体調管理をしっかりするんだぞ!」
担任は最後にそれだけを告げるとホームルームを終わらせて教室から出ていった。
いつもなら授業が始まるまでの間、話をするのだが、今日に限ってはそれができそうになかった。
「……暇だな」
そう独りごちながら俺は今日最初の授業の準備をしていったのだった。
「……姫島さん、風邪ひいてるのにINしてるよ」
午前の授業も終わり、昼食の時間。
いつもなら売店で買ってきて教室で姫島さんと『機神』をやりながら食べるのだが、今日はそれができないので食堂で過ごすことにした。
注文したカツカレーを食べ終わり、スマホでゲームを立ち上げると姫島さんのプレイヤーネームが明るく表示されていた。
そんなに時間もないのでデイリーミッションだけ済ませようと思っていた。
「誰かと思ったら、藤阪じゃん」
ふと、目の前で声が聞こえたので、顔を上げると1人の男子生徒が立っていた。
少し茶色が混ざった黒髪に細いゴムバンドをつけて髪が落ちないようにしており、格好もブレザーのボタンをつけてないため、チャラいように見えてしまう。
「……誰?」
俺の言葉に目の前の男はガクリと項垂れる。
「同じクラスの天王寺勇登だよ!」
大声で自分の名前を告げる。
言われてみれば教室で見かけたような気がしなくもない。
基本的に姫島さんとしか話していないので、他のクラスメイトのことはほとんど知らなかった。
「……それで何の用?」
「何でそんなに不機嫌そうな顔しているんだよ……」
全く不機嫌とは思っていないが、そう見えてしまっているのだろうか?
理由はまったくわからないけど。
「藤阪とはずっと話してみたかったんだよ。 いつもは姫島さんと楽しそうにしてるから声かけづらくて」
天王寺は「ははは……」と乾いた笑いをしていた。
「この前、姫島さんとゲーム音楽について話してたろ?」
おそらく数日前のことだろうか。
あれ以降、彼女は授業中に口ずさんでいる。
「まさか、ゲームの曲について語れそうなのがいるなんて思いもしなかったぜ! ってか姫島さんもゲームの曲が好きだとは思わなかったぜ! 早く知ってれば絶対に声かけたのに!」
悔しそうな声をあげながら天王寺は目の前の椅子に座り、こちらに身を乗り出していた。
「藤阪はノヴェサガシリーズはやってる? 俺、あのシリーズの作曲家のクドケンのファンなんだよ」
ノヴェサガというのは、『ノヴェルシング・サガ』という長年シリーズが出ているゲームのことだ。
ちなみに制作はDPOと同じ大手ゲーム会社のエストニクウェアとなっている。
また、クドケンというのはノヴェサガシリーズの曲を担当している作曲者の愛称ででたしか本名は『工藤健三』だったはず。
「……最近のノヴェサガシリーズはやってないかな」
中学の時にDPOをプレイし始めてからは他のゲームをすることはなかった。
そのため、俺のスマホに入っている曲は古い作品のものが多かったりする。
「マジかよ、最近出たのは20年以上前のリメイクだけど、めちゃくちゃ面白いぜ? 音楽もクドケンのセルフアレンジだし!」
よほど好きなのか、天王寺は長々と1人で喋り始めていた。
そうこうしているうちに昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いていった。
「って、もう昼休み終わりかよ……何で楽しい時間ってあっという間に過ぎるんだろうな」
天王寺は1人でボヤきながら席を立った。
「教室戻ろうぜー!」
同じクラスなので断る理由もなかったので、一緒に戻ることにした。
そして、その間もずっとゲーム音楽について語っていた。
ずっと姫島さんとしか話していなかったので、たまにはいいのだけれども……。
——何故か物足りなさを感じてしまっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なぁなぁ、この後ヒマか?」
帰りのホームルームが終わったので、カバンを取ろうとしていると天王寺に声をかけられた。
「……暇かな」
普段なら夜に備えて帰宅してすぐ寝るところだが、今日はそれをする必要はなさそうだ。
「それじゃファミレスでも言って語ろうぜ! まだまだ話したいことがあってさ!」
昼休みだけじゃなく授業の合間の時間にもこっちへきてずっと話していたのに、まだ話すことがあるのか……。
流石に疲れてきたので断ろうと思っていると、教室の外から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
そしてへ視線を向けると、廊下で担任が俺をみて手招きをしていた。
「ごめん、先生が呼んでるから」
水を得た魚の如く、断る口実を見つけた俺はすぐに担任の元へと向かう。
「ちょっと職員室まで来てくれるか?」
「え……?」
不安な気持ちを抱えたまま、俺は担任の後をついていく羽目に……。




