第8話 今日は寝かせません!
「あったあった」
エレベーターで目的の階に移動して、歩いていくと目的のコーナーへとやってきた。
「あ、ゲーム売り場だったんですね」
たどり着いた場所を見て姫島さんが声を上げていた。
彼女の言う通り、俺が来たかったのはゲームの本体やソフト、周辺機器を扱うゲームコーナー。
周りを見渡すと、セイテンドウの顔ともいっても過言ではないヒゲがチャームポイントのキャラクターのパネルやあちこち置かれたディスプレイには最近発売したばかりのゲームの映像が流れている。
「そういえばこのゲーム、もうすぐ発売するんですね!」
姫島さんはモンスターを狩っていくゲームの映像を見て呟いていた。
「気になってはいるけど、そのために高い本体を買わなきゃいけないのがなあ……」
「うちは発売当日におじいちゃんが買ってきました」
「お、おじいちゃん……!?」
「はい! 私のおじいちゃん、機械類が大好きなんです。 特にゲーム機とかパソコンが好きなんですよ」
「へ、へぇ……」
素直に羨ましく思えてしまう。
自分のところの祖父は両方とも厳格すぎてゲーム機はもとよりソフトも買ってくれたことはなかった。
遊び道具で買ってくれたのはカルタや百人一首など知育玩具的なものばかりだった。
それに見兼ねた祖母が内緒で買ってくれたんだけど。
「そういえば、藤阪さんは何を探していたんですか?」
「コントローラーなんだけど……お、あった!」
コーナーを見渡しながら答えていくと、探しているものがありそうな場所を発見しするとすぐに歩き出した。
姫島さんも俺の後をついてきていた。
「コントローラって純正のですか?」
「いや、アケコンだよ」
俺が探していたのはアケコン、正式名称アーケードコントローラーだ。
「アケコンって……」
「さすがにわからないよね、ゲーセンで格闘ゲームとかにあるようなレバーと——」
「——それは知っていますけど、探しているのってHUPです? それともHAYABUKA?」
姫島さんの口からは絶対に出てこないと思っていたワードが出てきて、普通に言葉を失う。
「……もしかして、姫島さんも格ゲーマーだったりする?」
「少し前まではやってました! おじいちゃんが好きでしたので一緒に」
姫島さんのおじいちゃんってどんな人なんだ……。
聞けば聞くほどとんでもない人にみえてくるんだけど。
「最近は対戦してくれないんですよ、『彩葉と対戦してると疲れる』と言って」
「まあ、格ゲーの対戦って神経も体力も使うし」
前に知り合いと半日以上プレイし続けていたが、終わった瞬間力が抜けてそのまま寝てしまったことがある。
「ちなみに藤阪さんがやっているのって『アケロク』ですか?」
「そうだね」
「それじゃ、今日の夜対戦しませんか!?」
一緒のゲームをプレイしていると聞いた姫島さんはまたもや興奮気味に顔をこちらに近づけてきた。
「い、いいけど……それよりも姫島さん近い近い!」
両手を差し出して止める俺。
「ありがとうございます! ずっとおじいちゃんとでしたけど、最近はすぐ疲れたと言ってやめちゃうので、フレンドとリアルで話しながら対戦したかったんですよ!」
「そ、そうなんだ……」
まあ、女子で格ゲーを好んでやるのはそんなにいなさそうだしな……。
最近では女性配信者がプレイしている動画をみかけたりするけどまだ一般的ではなさそう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それじゃ、夜連絡しますね!」
家電量販店を出てから駅に向かい、改札で姫島さんとは別れた。
やりたかった格ゲーの対戦ができることが嬉しいのか、別れる際も笑顔でこちらに手を振っていた。
「さっさと飯食って……これのセットアップを済ませるか」
自分も久々のリアルでの対戦相手ができたことに嬉しかったのかもしれない。
電車の改札までの距離が若干長く感じてしまっていた。
手荷物が重いのもあるかもしれないけど。
——だが、この時の俺はこの後起きることを知る由もなかったのである。
『コマンドミスったぁぁぁぁぁ!』
スマホからいつもの姫島さんからは想像できないぐらいの叫び声。
そして画面にはスローモーションで吹っ飛んでいく姫島さんのキャラ。
「ミスって助かったよ、成功してたら俺がやられてたって……」
答えながら俺は全身を椅子の背もたれに預ける。
このまま目を瞑れば夢の世界に旅立てるような気がしてきた。
『藤阪さん、もう1試合やりましょう!』
「ちょっとまって、そのセリフ何回目か忘れるぐらい聞いたんだけど?!」
『このままだと悔しくて夜も寝れません!』
ちなみに現時刻、良い子も悪い子もとっくに寝ている時間だ。
これで次の日が休みならよかったが、無情にもまだ週の半ばという。
「さすがに疲れたよ、明日学校あるしからそろそろ加減寝ないとね?」
ディスプレイに移されたリザルトには二桁の数が表示されていた。
普通なら飽きるんだけど、何が彼女をのやる気を駆り立てるだろうか……。
『次こそは絶対に勝ちます! っていうか私が満足するまで寝かせません!』
「……そのセリフ、できることなら違う意味で言われたかったよ」
ため息混じりに答えながら、ゆっくりと体を起こしアケコンに両手を置く。
この時やっと、姫島さんのお祖父さんが疲れたと言った理由がわかった気がした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……おはようございます」
「…………おはよう」
次の日の朝、俺と姫島さんはほぼ同時と言えるぐらいの時間に教室の中へと入った。
「……何とか間に合いましたね」
「…………あと1分遅れたら遅刻だったよ」
結局あれから姫島さんが勝つことなく気がついたら日が昇りかけていたので強制的に終わらせてすぐに寝たのはいいが、見事に寝坊してしまう。
それは姫島さんも同じだったようで、誰が見ても寝坊したのがわかるぐらい疲弊していた。
そして、俺と姫島さんは席に着くと同時に顔を突っ伏してしまっていた。
「あの2人どうしたんだ? 疲れた顔で教室に入ってきたけど」
「……まさかとは思うけど」
「何だよまさかって……ちょっとまて! いくら何でもそれは!?」
「あぁ……2人ともついに一線を超えちまったのか」
教室内が突如騒がしくなっていったが、そんなことを気にできる体力も気力もこの時の俺たちには残ってはいなかった。




