第10話 進路、あの子の家
「えっと、先生……これは?」
担任に呼び出されて、連れてこられたのは職員室。
そこで俺は担任から茶封筒を渡された。
「帰りのホームルームで書類をみんなに配っただろ?」
「親に書いてもらう書類ですよね?」
「藤阪に渡したのは姫島の分だ」
担任の返しに俺は一瞬言葉を失う。
驚いたというのではなく、何故彼女の分を俺に……?
「それを姫島の家に届けて欲しいんだ」
「ちょっと待ってください……何で自分が?」
「うん? 姫島と仲がいいのは藤阪と聞いたんだが?」
首を傾げる担任。
むしろそれをしたいのは俺の方なんだけど?
「本当なら俺が持っていくべきなんだけど、これから職員会議が入ってな」
そう告げた担任は周りを見渡すと口元に手を添える。
「今日の職員会議は校長がいるから長丁場になりそうなんだ、入学式の時思い出してみればわかるだろ?」
入学式の時、校長が2時間近く話していたけど……。
「でも、姫島さんの家の場所知りませんよ?」
「そうなのか、仲がいいから知ってるものだと思ったが」
男同士ならこの短い期間で互いの家を知っててもおかしくはないが、男女となれば話は別だと思うけど……。
担任は目の前に置かれたファイルを開くと、正方形の付箋を1枚めくり何か書いていく。
「ここに姫島の家の住所が書いてある」
そう言って付箋を渡そうとする担任。
もちろん俺は両手を大きく振って拒否をする。
この担任の頭には個人情報保護とかそう言った観点はないのか!?
「いやいやダメですよね!?」
「藤阪だから信用しているんだ」
えっと、入学してから数日しか経ってないのに俺の何がわかるんだよ……。
何とか断ろうとすると、職員室の奥から職員会議を知らせる声が聞こえてきた。
「おっと、そろそろ行かないと、それじゃ頼むぞ!」
担任は俺のブレザーの胸ポケットに付箋を貼るとそのまま職員室の奥にある会議室へと向かっていった。
「大人からのアドバイスだ! 気になる子がいたらアタックしていけ!」
更には『これはチャンスでもあるぞ!』など適当にも聞こえることを話していた。
そもそも何で担任までがクラスメイトみたいなことを言っているんだよ……。
「最悪だ……」
その場に残された俺は貼られた付箋を取り、大きくため息をついた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「隣の駅で乗り換えて、次の駅か……」
あれからすぐに食堂に行き、誰もいないことを確認してからスマホの地図アプリで付箋に書かれた住所を入力すると、学校から彼女の家までのルートが表示された。
今から行けば1時間以内には着きそうだ。
「……仕方ない、行くとするか」
何回目かわからないため息をつき、渡された書類をカバンにしまい、学校を後にした。
学校から駅までは歩いて10分ほどの距離だ。
駅に到着すると、自分が乗る方面のアナウンスが聞こえてきたので走って改札の奥へと入っていった。
乗った電車はすぐに乗り換え駅へと到着した。
そして、改札を出て違う路線の電車に乗り……あっという間に最寄駅へと到着した。
「乗り換えが面倒なだけで、結構近いんだな」
おそらく直線距離なら近いのかもしれない。
バイクとかであればもっと早く来れるんじゃないかと思う。
もちろんバイクで登校したら反省文どころか、停学までなってしまうが。
「で、ここからか……」
駅の改札を出て、スマホでもう一度地図アプリを起動させて、ナビを開始する。
駅からは到着まで10分ほどと表示されていた。
「あれ、藤阪じゃん?」
歩き出そうとしていると、自分の名前を呼ばれた。
周りを見渡していくうちに、見覚えのある姿が目に入った。
「……天王寺?」
俺の視線の先には天王寺の姿があった。
一度家に帰ったのか、制服ではなく黒いパーカーにジーパン姿。
手には茶色いカバーの大きな本を持っていた。
「あれ、藤阪の家ってこの辺なの?」
「いや、むしろ逆だけど……」
「そうなのか? 隣の駅ならわかるけどこんな辺鄙なところに何のよう——」
話の途中で天王寺はハッとした表情を浮かべていた。
「もしかして姫島さんのお見舞いか?」
ニヤけた顔で聞いてくる天王寺。
でも、何でここにいるだけで姫島さんと直結するのだろうか。
この辺、住宅街以外ないし、そんなところに藤阪が来るなんてそれしか理由がないだろ?」
言われてみればその通りすぎて何もいえなくなってしまう。
「で、姫島さんの家はわかるのか?」
「いや、ナビ通りに行こうかと」
「あー、でも姫島さんの家ってナビだと分かりづらいんだよ」
「もしかして家知ってるの?」
「知ってるぞ、小、中と一緒だったしな」
天王寺は自信たっぷりに答えていた。
「ちょうど俺も帰り道になるし、案内してやるよ!」
そう言って天王寺は歩き出していった。
学食であった時はチャラい男かと思っていたが、実はいいやつだったりするのかもしれないな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「天王寺は姫島さんは付き合いはあるのか?」
「いや、知ってるぐらいでほとんど話したことないんだよ」
「……それで何で家を知っているんだ?」
俺の質問に天王寺は少し黙っていた。
「……小学校の卒業間近だったかな、姫島さんの母親が死んじゃってクラスで葬式にでたことがあるんだよ、それで家を知ったってぐらい」
「そう……なのか」
天王寺と話している時にふと、彼女から両親の話が出てこないことに気づく。
お祖父さんの話はよく口にするけど……。
「しかも姫島さんの母親、ものすごく怖くてさ……小学校の時に遊んでたら母親が来てものすごい勢いで怒り出したんだよ、今ならそんなこと思わないけどガキからしたら一種のトラウマだぜ」
「……そんなにか」
「亡くなった人を悪くいうのはアレだけど、モンスターなんとかってやつじゃないかな」
おそらくモンスターペアレントと言いたいのだろう。
伝えようとすると、天王寺が足を止めた。
「っと、ここだぞ」
そう言って天王寺は目の前の家を指差していた。
ずらっと並ぶ住宅街から少し奥張ったところに家が建っていた。
天王寺の言う通り、少し分かりづらそうな場所だな。
「それじゃ頑張れよー!」
天王寺は俺の肩を叩くとそのまま歩き出していった。
「助かったよ、ありが——」
「——病気で弱々しくなってるからって、変な気をおこすんじゃねーぞ!」
礼を言おうと思ったが、すぐにこちらに振り返り、顔をニヤつかせながら再び歩き出していった。
少しでも感謝をしようと思った俺の気持ちを返せ。
天王寺の姿が見えなくなってから、大きく深呼吸をしてから門に設置されていたインターホンを力強く押していった。




