第54話 学園祭が終わったら……(SIDE IBUKI → IROHA)
「『アケロク』は1人3戦まで……」
「はい! 昨日みたいに独占されても困りますので」
次の日の朝、教室に入ると既に彩葉はメイド服に着替え終え、黒板の前に立っていた。
俺が教室に入ると、俺の名前を呼びながら手招きしていたのだった。
そして、自信たっぷりな表情で、プロジェクターに貼られていた用紙を見せてきた。
「ぶっ通しでしなくて済むのは助かるけど……」
何ていうか、彩葉の独占の意味合いが違うように聞こえてくるのは気のせいだろうか。
「あ、ちなみに菜月、今日はバイトが入ってて来れないみたいだな」
「そうなんですね!」
彩葉は何かホッとした顔をしていた。
その後も彩葉と他愛のない話をしているうちにクラスメイトたちもやってきていた。
今日が最終日ということもあってか、昨日よりも気合が入っているようにも見える。
「全校生徒の皆さん! おはようございます!」
そんなことを考えているうちに、校内放送が入ってきた。
「本日が学園祭最終日です! 夜には後夜祭もありますのでお楽しみに! それでは今日も1日頑張りましょう!」
校内放送に呼応するように自分たちのクラスや周りから拍手が聞こえていた。
「それでは皆さん! 宜しくお願いします!」
「おー!!」
彩葉が黒板の前に立ち、クラスメイトたちに声をかけると、一斉に声を上げると各々持ち前についていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「うっわー……SNSで書いてた通りだ、全然勝てないよー!」
そう言いながら席を立つ、1人の女性。
見た感じから姉と同じぐらいだろうか。
黒髪の中に緑色が混じっている髪が特徴的だった。
「……とりあえず来た人は全て捌けたか」
開始してからすぐお客がやってきたのは3人組の女性で、全員が『アケロク』希望だった。
どうやら女性たちは菜月のバイト先の常連のようで昨日のことをSNSで載せたら興味をもってくれたようで、来店したと話していた。
「一颯さん、お疲れ様でした」
彩葉は先ほどの女性たちの会計の対応を済ませ、店から出たのを確認すると俺の方へとやってきた。
「……彩葉?」
「どうしました?」
「……ものすごく不機嫌に見えるけど、何かあったの?」
こっちへやってきた彩葉の表情は俺を睨みつけるようにも見えた。
「そ、そんなことないです! 飲み物持ってきましたのでよかったら飲んでください!」
彩葉は慌てた様子で、コップを机の上に置くと、そのまま他のブースへと行ってしまう。
どうしたんだ……?
それからも『アケロク』希望のお客は次々へとやってきた。
彩葉が1人3回までの制限を設けてくれたおかげでそんなに時間が掛からなくて済んでいた。
「ぐおおおっ、何であそこから息を吸うようにコンボがだせるんだよぉぉぉぉ!」
最後に対戦した人は髪をグシャグチャにしながら席を立ち、彩葉の前で会計を済ませていた。
彩葉はあれからすぐに帰ってきて、何事もなかったかのように作業をしていた。
……俺の考えすぎじゃなきゃいいんだけど。
「あ、いたいた! いぶきー!」
さっき彩葉が持ってきた飲み物に口をつけていると、俺の名前を呼びながらここでは会いたくない人物が姿を見せていた。
そしてなぜか、クラスメイトたちも一斉に声の方へと視線を向けている……。
「あれ……郁奈さん?」
声をかけてきたのは姉だった。
両隣には彼女と似たような雰囲気の女性2人の姿も。
「彩葉ちゃん! めちゃ可愛いんだけど! いくら払ったら彩葉ちゃんとデートできるの?」
姉は興奮気味に彩葉をじっとみていた。
「……うちはそういった店じゃないんだよ、冷やかしなら他の店に行ってくれ」
すぐに彩葉のいるところへ向かい、姉に声をかけていく。
「もしかして、この子がカナの弟クン?」
「へぇ、イケメンじゃん! カナカナが四六時中、話題にしたくなる気持ちわかる〜」
姉の知り合い2人同時に声をかけられてしまう。
「……なぁ、何で藤阪の周りには綺麗な子ばかりなんだ? 昨日の子もそうだったけど」
「バカヤロウ! 気にしたら負けだぞ! 悔しかったら休憩時間にナンパいくぞ!」
「くっ! やっぱり『アケロク』つよくないとモテないのか!」
後ろで勘違いしている声が聞こえたので、きちんとしたことを言おうとするも、姉の知り合い2人に立ちはだかる。
……まるで私たちからは逃れないと言わんばかりに。
「弟クン、『アケロク』強いんだって? ちょっと対戦してくれないかな?」
「え……?」
「この2人見かけによらずゲーマーなんだよ!」
その後ろで姉がフォローを入れていた。
まあ、そういうことなら……いいんだけど。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いーろーはーちゃん?」
一颯さんと郁奈さんの知り合いの方の対戦を見ていると、郁奈さんが声をかけてきた。
「何かすごい顔してるよ……ってか一颯と遊びたいんだね」
そう言って郁奈さんは笑いながら私の手を指差す。
自分の手元を見ると、ゲームパッドを持つ仕草をしていた。
「あのさ彩葉ちゃん、ちょっとお姉さんとデートしない?」
「で……デートですか? でもここを離れるわけには……」
「大丈夫、一颯に任せておけば大丈夫だから! ってことで一颯! 彩葉ちゃん借りていくねー!」
すぐに郁奈さんは私の腕を掴むと、教室から飛び出して行ってしまう。
直後、一颯さんの叫ぶ声が聞こえてきたが……
「ごめんなさい、一颯さん!」
そう返しながら私は郁奈さんに引っ張られて行った。
「彩葉ちゃん、一颯と一緒に遊べなくてイライラしちゃってる?」
郁奈さんに連れてこられたのは、校門付近の飲食系の屋台が並ぶ一帯。
お昼近いのもあってか、大勢の人たちでごった返していた。
「そんなにすごい顔していますか……?」
「うん、自分で見ればわかると思うよ」
郁奈さんは肩にかけていたバッグから折りたたみ式の鏡を取り出し、私へと向ける。
見てみると、自分でもわかるぐらいムッとした顔をしていた。
「……本当ですね」
そう呟くと郁奈さんは笑っていた。
「でもさ、学園祭って今日まででしょ? 今日の夜は疲れてそうだけど、明日からは前のように——」
「——違うんです!」
私の声に郁奈さんは目を大きくあけていた。
「私、一颯さんが他の女性とゲームやっているのが嫌なんだと……思います」
その直後、郁奈さんは「そっかぁ」と少し嬉しそうに話していた。




