第52話 波乱の学園祭初日
「学園祭スタートです!」
6月下旬の朝、いつもなら授業をしている時間帯に学園祭のスタートを知らせる放送が鳴り響いていた。
それに合わせて各教室からは拍手や「えいえいおー」といった声が聞こえていた。
例に漏れず俺のクラスでも拍手でスタートを迎えていく。
「それじゃお客さんが来る前に音響テストやるぜ!」
真っ先に声を上げたのは自分から音響係を申し出た天王寺。
自前のPCから音楽を再生されていくと、どこかで聞いたような音楽が聞こえてきた。
「ゲーム喫茶ってぐらいだから、基本はゲーム曲だよな! ここぞとばかりに自分の持ってるCDを引っ張り出した上で俺、オリジナルの編曲を——」
自分の得意分野のことなので、いつもの倍以上に饒舌になっていく天王寺。
だが、クラスメイトたちの反応はというと……。
「何か静かすぎて眠くなりそうだな……」
「せっかく盛り上げようとしてるんだし、一気にバイブスあがるような曲にしようぜ」
「グリズリーキャッツとかいいんじゃね? 朝、あの曲聴くと学校行く気になるんだよ」
「それなら吝か46とかだろ!」
真っ向から否定される天王寺。
たしかに、朝からしっとりとしたノヴェサガのメインテーマはどうかと思う。
せめてDPOのなら盛り上がっていくからぴったりだと思う。
以前、そんな感じのCMにも使われていたし。
「……ちくしょー! みんな好きにしやがれー!」
喚き知らしながら天王寺は教室から出て行ってしまった。
「……強く生きろよ、天王寺」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いらっしゃいませー!」
学園祭がスタートしてそれなりに時間経ったころ、数人のお客さんがやってきた。
お客さんといっても、来たのは同じ学校の生徒だった。
「こちらにご記入をお願いいたします、ちなみにゲームの希望とかありますか?」
対応したのはメイド服姿の女子だった。
事前に彩葉が作ったマニュアルに沿って対応をしていく。
「『ドラゴンイーター』できます? 素材集めたいんだけどソロだとボスが強くて」
「かしこまりましたー! ご案内しますー」
それからもお客さんは次々と来店し、気がつけば教室内は客でごった返していく。
「どうですか! 事前にツブヤキッターやチックトックで宣伝した成果がですよ!」
俺の横で彩葉が勝ち誇った表情で俺をみていた。
学園祭でそこまでするかと思ったが、彩葉曰く「やる時は全力を尽くすのがモットー」だと話していたのでそれ以上は追求しなかった。
というかできなかったのが本音。
「たのもー! ここで『アケロク』が強いやつと対戦できるって聞いたんだけどー?」
教室に入ってきたのは茶髪の男だった。
私服を着ているので、この学校の生徒ではなさそうだ。
「一颯さん早速きましたよ!」
彩葉はいつも以上に張り切りながら、来たお客さんを『アケロク』のブースへと案内していた。
「少し準備しますので、お待ちくださいね」
彩葉はすぐに、黒板の上に設置したスクリーンを下ろし、プロジェクターを起動させていた。
「対戦相手は君なの?」
彩葉が準備している間、俺の横に座った客がニコニコしながら話しかけてきた。
「えぇ、そうですね」
「ってかさ、俺が勝ったら今準備している子とデートできる権利とかあったりする?」
準備している子というのは彩葉のことだろう。
「案内してくれた時から、めっちゃ気になってんだよねー!」
客が話をしているうちに、準備が完了し、スクリーンには『アケロク』のタイトル画面が表示されていた。
「……それじゃ、よろしくお願いします」
「おっけー! いっとくけど近くのゲーセンで俺に敵うやついないんだぜー」
「……そうですか」
俺がスタートを押し、キャラクター選択画面へ移り変わる。
「何か、藤阪のやつ、テンション低くなってね?」
「そうか、藤阪のやついつもあんな感じじゃない?」
お互いにキャラの選択が終わり、ラウンド開始の声が聞こえてきた。
「へっへー! ってちょ、おま!?」
開始と同時に相手のキャラへと飛びかかり、コンボと投げ技を叩き込んでいく。
「ちょ、まてって! ってかなんでそんな正確にコンボいれられるの!?」
茶髪の客は抵抗しようとコントローラーをガチャガチャとしていくが、結局は何もできずこちらのライフを削ることなく散っていく。
俗にいうパーフェクト負けというやつだ。
「勝負はまだまだこれから! このあと2戦すれば、っておいー!?」
2戦目も俺の攻撃から始まり、先ほどと同じように防ごうとするも成す術なく試合終了となる。
その様子を見ていたクラスメイトや見ていたお客さん達が呆気に取られていた。
「そ、そうだ! 俺、アケコン派なんだよ! アケコンとか用意してもらったり——」
「——すみません、当店はゲームパッドのみになっております」
「そ、そうですか! そ、それでは失礼しますー!!」
茶髪の男は震えた声を上げながらお金を机に置くと逃げるように教室から出て行ってしまった。
「……一颯さん、どうかしたんですか? みんながびっくりするような顔をしていますけど」
シーンと静まり返る教室で、彩葉が心配そうな顔で俺を見ていた。
「……いや、たぶん腹が減ったからじゃないかな」
自分の腹を押さえながらそう告げるが、彩葉は納得いかなかったのか首を傾げていた。
「いらっしゃいませー! こちらに記入おねがいしますー」
静寂を破るように、メイド服の女子が大きな声でお客さんを出迎えていた。
「ここで『アケロク』ができるって……あ、一颯!」
自分を呼ぶ声に反応して、視線を向けるとそこにいたのは菜月だった。
「な、菜月さん……どうしてこちらに?」
「だって、ここにくれば一颯と遊べるって聞いたから」
彩葉へは素っ気なく返していたが、俺を見ると一瞬で笑顔になっていく。
「今日は私がお客さんだから、もちろん相手をしてくれるよね?」
「……一応な」
ため息混じりに返すが、菜月は大声をあげて喜んでいた。
俺の横で彩葉がじっとみていることに気づかないまま……




