第51話 学園祭の幕開け
「ありがとうございました! 次回もお越しくださいねー、来るなら一颯一人でも大丈夫だから!」
菜月に見送られながら店を後にする俺と彩葉。
ゆっくりと階段を降り、雑居ビルから外に出ると、日が完全に沈み切っていた。
来た時は青空が広がっていたのに……。
「一颯さん、すごく楽しかったですね!」
俺の後にビルからでてきた彩葉は心底満足したとう表情でそう話す。
「……結局俺は数回しかやってないけどな」
店に入ってゲームをやっていたのは彩葉と菜月だった。
俺がやったのは彩葉が席を外していた時に数回プレイしたぐらい。
俺たち以外のお客さんも来ていたが、2人の熱が入りすぎた試合をまるでスポーツを見てるような感覚で見ていた。
彩葉はともかく、スタッフの菜月はあれでいいのかと心配になってしまう。
「菜月さんとの対戦は楽しかったですけど……」
そう言って一颯は俺の前に立ち、微笑みながら俺の顔をじっくり見ていた。
「やっぱり一颯さんと対戦してるほうがいいです!」
「……あっそ」
屈託のない彼女の笑顔を見て、顔が熱くなってきたような。
……最近暑くなってきたからかもしれない。
「もちろん、帰ったらご連絡しますから! 今日は土曜日ですのでそう簡単には寝かせませんから!」
よほど楽しかったのか、彩葉はいつも以上に興奮気味にこちらへと体を寄せていた。
「できたら別のシチュエーションで聞きたかったよ、そのセリフ……ってか普通に遊んでたけど、学園祭の参考になりそうか?」
「もちろんです! 帰ったらまた資料をつくらないと」
「……それやったら対戦は無理だろ?」
「ご安心ください! 資料はすぐできますから」
「脳みそは一体どうなってんだよ……」
その後は夜も遅いこともあり、彩葉を家に送ってから帰宅した。
そして彼女の宣言通り、彼女が満足するまで付き合ったのだった。
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「……全く手も足もでなかったんだけど」
あれから数日後の放課後。
教室では『アケロク』大会が行われていた。
もちろん、ただ遊んでいるだけではなく……学園祭のためだ。
菜月の店で遊んだ2日後の月曜、彩葉は自信たっぷりにゲーム喫茶の内容を資料にまとめ、前回と同じようにクラス内で発表をした。
各ゲームごとにエリアを作って、ウイッチと対象のソフトを持っているクラスメイトできたお客と一緒にゲームをしていく。
対象となったゲームは『ドラゴンイーター』などの所謂、狩ゲーと呼ばれるゲームとパーティゲームなど多種多様。
……彩葉が企画するならこれがないはずがない『アケロク』。
遊んでいたのは誰がお客の相手をするのか決めるためにやっていた。
「チクショウ! 姫島さん争奪戦や『アケロク』でも俺は藤阪にかてねーのかよ!」
負けた中には大声を上げながら教室の床に拳を叩きつけるのも……
痛くないのか?
「……ってかずっと見てたけど、人間離れしてないか?」
やっと終わったと思い、両腕を上に伸ばしていると天王寺が驚いた顔で話しかけてきた。
「普通だとおもうけどな、ってか天王寺も対戦するか?」
そう言いながらコントローラーを差し出すが天王寺は目の前で両手をブンブンと振っていた。
「一颯さん、それなら私が……!」
天王寺の後ろで勢いよく手をあげる彩葉。
「……彩葉は別の役割が決まっただろ」
俺がそう告げると彩葉は頬を膨らませて俺を睨んでいた。
別に俺が何かしたわけでもないのに……
「にしても姫島さんのメイド姿楽しみだよな!」
「だよなあ! 当日は久々にカメラ引っ張りだしてこようかな!」
当日の役割には俺のようにゲームのスタッフであったり、簡単な料理や飲み物を出すのでキッチン担当がいる。
その中で彩葉が選ばれたのは客を呼び込んだり案内をするメイドだった。
彩葉の他にも数人の女子がいるが、他は立候補で唯一彼女だけが他薦だった。
ちなみに推薦したのは俺ではなくクラスの大半の男子。
「DPOではメイド服とかイリスに着せてましたけど、自分が着ることになるなんて思いもしませんでした……」
珍しく彩葉がため息をついていた。
「そういえば彩葉がメイド服を着るって郁奈ちゃんに言ったら、大騒ぎしてたな」
「……知ってます、この前LIMEで写真ちょうだいって言われました」
相変わらず行動が早いな、あの姉。
様々なハプニングがありながらも俺や一颯を含め、クラスメイトが一丸となって学園祭の準備をしていった。
「……学園祭の準備で疲れてるから終わるまで夜の『アケロク』は中止にするぞ」
準備が忙しくなる中、彩葉はショートスリーパーの体質を生かして対戦を申し込んできたが、俺の体力が持ちそうになかったので彼女にそう告げたのはいいが……
「……わかりました」
了承したものの、表情から見てとれるぐらい不機嫌だった。
そして、ついにやってきた学園祭当日。
「一颯さん起きてますか?」
「……んあ?」
彩葉の声で目が覚めた。
許可をもらって夜通し作業をしていたのか、教室にはクラスメイトたちが持参した寝袋で寝ていた。
「……もう朝かよ」
目を擦りながらゆっくりと目をあけていくと……
白を基調としたメイド服姿の彩葉が中腰で俺を見ていた。
「……いくらなんでも早すぎじゃないか? ずっと嫌とか言ってたけど実は楽しみだったとふぁ!」
話の途中で頬を掴まれ、最後の方は言葉にならない声がでてしまう。
掴んでいる彩葉は無言のまま俺を睨んでいた。
「……一颯さんには見せたいと思ったから早く着替えたんです」
何かを告げると同時に彩葉は俺の頬を掴んでいた手を離す。
その時の痛みで彼女が言っていたことがまったく耳に入らなかった。
「ってか何か言ったか、聞こえなかったからもうい——」
俺の話の途中で彩葉はどこかへと行ってしまう。
……一体なにがどうしたっていうんだ?




