第50話 昔のように……
「一颯と対戦するなんていつぶりだろ!」
軽快にBGMを口ずさみながら菜月はキャラクターを選んでいく。
「あ、言っとくけど手加減なんかしたら怒るから!」
菜月がそんなことを言ってる間に1回戦目を告げる声が聞こえてきた。
すぐに俺と菜月は無言のままコントローラーを操作していく。
「ちょ! 何で軽々とカウンター入れられるの!?」
短く飛んでからのジャンプ蹴りで先手を取るつもりだったようだが、カウンターを入れて阻止する。
驚いている隙にコンボを入れていくうちに菜月のキャラがスローモーションで倒れていった。
まずは俺の1勝目。
「最初に削ったからパーフェクト負けじゃないけど……少しぐらい手加減してもいいんじゃない?」
最初に手加減するなと言ったのはどこの誰だ……。
そんなことを思っているうちに2戦目が始まった。
「さっきは蹴りじゃダメだったけど今度は……!」
空中での飛び技を使いこちらへ攻撃を仕掛けてくる菜月。
だが、着地した瞬間を狙い、投げ技で迎撃することに成功。
「着地狙いなんてズルくない!?」
むしろ普通だと心の奥底で思いながら、相手のライフを少しずつ減らしていく。
「こうなったらウルティメイトコンボで!」
菜月は必死にコマンドを入力し、宣言通り強力な必殺技を発動させた。
だが、距離が離れていたため、避けることは容易だった。
「うそー! せっかくのウルコンだしたのに!」
嘆く菜月を尻目に俺はキャラに近づき投げ技で試合を終えた。
画面が真っ白になると同時に菜月は座っていたソファの背もたれに倒れ込んでいく。
「久々に練習しまくったのに、一颯には勝てないなぁ」
そう呟いていたが、菜月は笑っていた。
「……あのさ、一颯」
俺の名前を呼びながら菜月は下を向き、落ち着かないのか両手を組んで仕切りに指を動かしている。
「…………あの時はごめん」
対戦中に挙げていた大声が嘘のようにか細い声でそう告げた。
「一颯のことをものすごく傷つけたのにごめんで済むなんて思ってないから……一颯が私のことを殴りたいならそれでも構わない!」
気がつけば菜月は深々と頭を下げていた。
「……私はそれぐらいのことをしたんだから」
次第に菜月の声は嗚咽が交じりだしていった。
「……菜月、頼むから顔あげてくれ」
俺の声に応じるように菜月はゆっくりと顔を上げていく。
彼女の目尻から大量の涙が頬へと伝っていた。
「……ある程度のことは郁奈ちゃんから聞いてるよ」
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数日前の夜だった気がするが、姉と2人で夕飯を食べていた時に姉が彼女のことを話していた。
その時も何が原因で行動し始めたのか、聞いていなかったが、中学や高校でのファッションだけで繋がっていた友達とは縁を切ったようだ。
俺はだから毎度のようにどうしたと思いながら姉の話を適当に聞き流していた。
「この前の昼休み、久々に菜月と一緒に食べたんだけどさ! あの子、ものすごい変わってたんだよ! 変わったと言うか前に戻ったと言った方が正しいかも」
「……だから?」
素っ気なく返すと、珍しく姉がため息をついていた。
「その時、菜月が『一颯に謝りたい』って言ってた。 ちょっと前までのあの子ならそんなこと口にしなかったと思うんだよね!」
「……郁奈ちゃん」
「どうしたのー?」
「さっきから何が言いたいの?」
「そろそろ菜月のことを許してあげてほしいなって」
姉の言葉に今度は俺がため息をついていた。
そんなことはあり得ないと思うし……今更そんなことを言われても——
「……ごちそうさま」
ちょうどよく夕飯を食べ終えたので、使った食器を持って立ちあがろうとすると、突然伸びてきた手に両頬を掴まれ横に伸ばされていく。。
「いっへへへへへ!!」
掴まれるだけならどうってことはないが、色々なものが装飾された付け爪が頬に刺さって悲鳴をあげてしまう。
「……一颯は間違ったことを一度もしたことないの?」
さっきまで笑っていた姉が真剣な顔で俺を見ていた。
「あの時、菜月が一颯にしたことは許し難いことだよ……けど、あの子は反省して……きちんと一颯に対して謝ろうとしているんだよ!」
姉の声のトーンが次第に上がって行った。
「一颯もくだらない意地を張ってないで、少しは大人になりなさい、そんなんじゃ彩葉ちゃんに嫌われちゃうぞ」
何でそこで彩葉の名前がでるんだと言いたかったが、中途半端に口が広がっていたため、相手には全く伝わらなかった。
それからも言葉にならない声で抵抗するも頬を掴む手は更に横へと広がっていく。
「くだらない意地なんかそこら辺にポイすること! そして、菜月がもし謝ってあげたら許してあげること! わかった?」
更に俺の頬を横に伸ばしていく姉。
伸ばされたことやつけ爪の食い込み、両方の痛みから逃れたくで必死に首を縦に振っていく。
「よろしい!」
そう言って姉は横に伸ばしていく力を緩めていくが……
「……面白そうだからこのままちゅーしていい?」
今度は必死に首を横に振った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「カナ姉らしいなぁ」
俺の話を聞いていた菜月は気がつけば微笑んでいた。
「……でもさ、一颯が私のことを許せないっていうならそれでもいいから」
菜月の言葉を聞いて俺は大きくため息をついていた。
もちろん彼女の言葉に対するものではなく……自分に対してのものかもしれない。
あれだけゲームをすることをバカにしていた菜月だったが、さっきは昔のように心の底から楽しんでいた。
——そんな姿を見てしまったら……謝っても許さない自分が嫌になりそうだった。
「菜月……」
「なに?」
「……もう1戦やるぞ」
俺のその言葉を聞いた菜月は再び目尻に涙を溜めながら、「うん!」と力強く答えていた。
「うわあああああああああん!!!」
コントローラーを手にしてゲームを再開すると後ろから鳴き声がしていた。
振り向いた先には彩葉が手で涙を拭いながら立っていた。
「い、彩葉……何で泣いているんだよ!?」
「話を聞いていたら、涙が止まらなくなってしまったんです……」
そんなに泣くような話をしてたか?
ってかどこから聞いてたんだ!?
「ちょっと泣くのやめなさいよ! そんなの見てたら……私まで……!」
もらい泣きというやつだろうか……
菜月も泣き出してしまっていた。
「ふぅ……溜まってた事務仕事がおわった……ってあれ?」
どうしようか迷っていると先ほど、店の奥に行った店長が姿を現した。
泣いている菜月と彩葉を交互に見てから、俺の方を向き、にやついていた。
「ほう……みかけによらず、君って女泣かせなんだね〜」
……どうしてそうなる。
やり場のない俺は盛大にため息をついたのだった。




