第45話 悩める男子高校生
「……泊まるの?」
「はい、先ほど祖父母に連絡しまして、一颯さんなら安心だと承諾してくれました」
人の家族に対してこんなこと思うことはしたくないが……
昭三さんときく江さん俺のこと女だと思ってないか?
「一颯がお風呂入ってた時に彩葉ちゃんの親御さんと話したんだけど、一颯さんなら安心できるとベタ褒めだったよ、姉として鼻が高いよ!」
姉は嬉しそうに話しながら、生姜焼きを乗せた大皿をテーブルの上に置いた。
「……ってか郁奈ちゃんが話したことにものすごく不安を感じるんだけど」
「近くで聞いていましたが、不安に思うところはありませんでした」
彩葉がそういうってことは大丈夫なのか?
「そうですよ、家ではこんなだけど、外だと自他共に認める大人の女性なんですよー?」
大人ということを意識してなのか、彩葉の真似をしたのか真相は知りたくもないが……
全く似合ってなかった。
「彩葉ちゃんが家に泊まるからって変な気を起こしちゃダメだぞ?」
「前回、彩葉に抱きついてたのはどこのどいつだ?」
「可愛い子を抱きしめるのは女の特権だから!」
これ以上相手にすると、体力が持っていかれそうなので、両手を合わせて夕飯をいただくことにした。
「一颯さん、郁奈さんがまだ準備していますよ!」
「いいのいいの、ってか彩葉ちゃんも先に食べちゃっていいよー」
「……そ、それでは失礼して、いただきます」
申し訳なさそうな顔で彩葉は両手を合わせていった。
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「失礼します」
夕飯を食べてすぐに部屋に戻り、教科書とノートを交互に睨めっこをしているとドアが開く音が聞こえてきた。
椅子を反対側へ回した先に立っていたのは彩葉だった。
さきほどのジャケットにワンピース姿ではなく、薄いピンクのフード付きのパーカーみたいなパジャマを着ていた。
家で何回か見かけたことがあるので、姉が貸したものだろう。
ちなみに下は膝までのショートパンツ。
あまりみることのない俗に言う絶対領域が露出している。
——ベ、ベツニジックリミテナンカナインダカラネ!
「も、もしかして変ですか? 郁奈さんはすごく似合うって褒めてくれたんですが……」
「い、いや……似合ってると思うよ!」
「よかったです!」
一瞬、不安そうな顔をしていたが安心したのか、胸を撫で下ろしていた。
「それでどうしたんだ? たしか郁奈ちゃんとテレビみるとか言ってなかった?」
「見ていたんですが……」
彩葉は少し顔を赤くすると下を向いて話していたが、勢いよく顔を上げる。
「普通のドラマかと思ったんですが、男の人たちが……!」
最初は力強く話していたが、次第に声は小さくなっていき、彩葉の顔はさらに真っ赤になっていった。
それを聞いて何を見ていたのか、理解できた。
「……まだやってたのかあのドラマ」
2人が見ていたのは高校生男子同士が登場するドラマ。
最初は青春ものかと思いきや、BL物だったという。
そのインパクトがあったのか、視聴率が爆上がりしたとかなんとか……。
——イケメン2人を見てるだけで幸せなのに、あんなことやこんなことまでしちゃうんだよ! 一颯もよかったらどう?
こんな理由で、姉は毎週録画して次の放送までに5回は見ないと満足できないようだ。
ちなみに俺は丁重にお断りしている。
「……なので、逃げてきました」
「あぁ、その判断は正しいわ」
彩葉の態度を見る限り、姉が変わってるというのが証明されたわけだ。
「それで一颯さんは?」
「さっき郁奈ちゃんに邪魔されたので続きをしようかと」
そう言って机の上にある教科書とノートを指差した。
「今からするよりも今日は早めに寝て、明日の朝からした方が頭に入ると思いますよ……それに!」
彩葉は自身の胸に手をあて、自信たっぷりな表情でこちらを見ていた。
「明日は朝から私が教えますので!」
「まさかとは思うけど、そのために今日泊まったの?」
「……そ、そうです!」
一瞬だけど間が空いたのは気のせいか?
「そういうことですので、今日は勉強なんかしないで布団に入ってリラックスしましょう!」
「……と言ってもな、夕方まで寝てたせいかまだ眠気がこないしな」
「それじゃ今から——」
「——『アケロク』はやらないからな、それこそ朝方まで付き合わされそうだし」
「……わかってます」
そう話す彩葉だが、今にもやりたそうにこちらをチラチラと見ていたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふわ〜あ……」
ずっと彩葉と他愛のない話をしているうちに、あくびが止まらなくなってきた。
壁掛け時計を見るとすでに日付を超えていた。
「もうこんな時間だったんですね」
「それじゃ俺はそろそろ寝かせてもら——」
「——どうしたんですか?」
「何で布団に入ろうとしているんだ?」
ベッドに腰掛けていた彩葉が布団をめくり中へ入ろうとしていた。
「こちらへ向かう時、郁奈さんが今日は一颯さんと一緒に——」
「——いやいや無理だろ!?」
「たしか『小夜ナイトカム』で一颯さんと恋華さんが一緒のベッドで寝ていました! すぐに朝になってましたけど」
「ゲームの主人公を俺の名前で呼ぶな! ってかあの後は……!」
『小夜ナイトカム』は元々R18作品のため、彩葉が話していたシーンは情交シーンの名残だとか。
彩葉は設定オフでプレイしているため、表示されないがそのあとヒロインの際どい一枚絵がでてくる。
ってかそんなこと思い出したら、余計一緒に寝るなんて、できそうもなかった。
「……ちょっと下行ってくる」
彩葉にそう告げてると階段を降りて、リビングのドアを勢いよく開けた。
「せっかく一颯のことを考えてあげたのに、もったいないなあ」
彩葉を連れて部屋に行くように伝えると、姉は残念だなと言わんばかりにため息をついていた。
「……余計なお世話って言葉知ってるか?」
「心配しなくても、耳栓して寝るから、それで聞こえても——」
「——いいから早く彩葉と一緒に部屋に行け」
自分でも驚くぐらいの低い声で伝えると、不満そうな顔でテレビを消してからリビングを出て行った。
ちなみにその日の夜はぐっすり眠ることができた。
「一颯さん、起きてください!」
朝日に照らされた彩葉の姿を見るまでは……




