第43話 一颯さんロス(SIDE IROHA)
「……連絡はこないですよね」
ベッドの上で横になりながら、画面に何も表示されていないスマホを見ながら思っていることを呟く。
週末の土曜日、いつもなら一颯さんと一緒に何かしらゲームをしているところだけど、来週の中間試験に向けて猛勉強をしているのか、心配のメッセージを送っても返ってこないことから真剣に取り組んでいるのかもしれない。いつもならすぐに返ってくるけれども……。
一颯さん含め、他の方と同じようにテスト勉強をしようと考えたが、ノートを見るだけで内容は把握できている。
そもそも、机に座って長時間、勉強するという行為がもう嫌だった。
——あの母親の存在を感じてしまうから。
「あっ……!」
スマホの画面が明るくなったので、もしかしたらと思ったが、表示されたのはLIMEの公式サイトからのメッセージだった。
いつもなら全く気にならないのに、今日に限っては来ることに苛立ちを感じてしまう。
「……今まではこんなことはなかったのに」
母親が亡くなり、遊ぶことが許された時は1人でずっとゲームをしていても平気だった。
それこそ、朝早くから起きて夜遅くまでゲームをやっていた。
友達ができなくても、ゲームがあればいいと思っていた……。
その後、DPOで顔の知らないフレンドができたけれども、その人たちがログインしなくなったとしても何とも思わなかった。
「……そういえば、アッシュさんがいなくなったときもこんな感じだ」
DPOでよく遊んでいた時に、アッシュさんが1週間ほどログインしない時があった。
たしか、家族で旅行に行ったとか話していたのでできなかったと話していたような気がした。
あの時も今みたいな、気が抜けたような……何をするのも億劫になっていた。
「一颯さんにあいた——」
虚空に向かって呟いていると、枕元に置いていたスマホがブーブーと音を立てて揺れていた。
もしかしてと思い、スマホを手にして画面を見ると……
『藤阪 郁奈』と表示されていた。
「……ゲームやアニメではないんですから、そんな偶然起きるわけないですよね」
ため息混じりに独りごちながら通話ボタンをタップしていった。
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「一颯がテスト勉強とかで全然構ってくれないんだよ! 菜月も何かしらないけど電話しても出てくれないし!」
電話に出ると、郁奈さんの開口一番が『ヒマ』の2文字だった。
自分もそうであることを伝えると、前にいったカフェで集合することになった。
「ってか、一颯がテスト勉強ってことは彩葉ちゃんもだよね!? 勉強しなくてもいいの?」
「毎日復習はかかさずしていますので大丈夫です!」
「ちょっとまって! 毎日勉強してるってこと……彩葉ちゃんすごいんだね!?」
オーバーな感じで話していた郁奈さんは七色に色づいたカフェオレを飲んでいく。
そんなものを飲んで平気なのかなと思いながら、自分が注文したアイスティに口をつける。
「そういえば、菜月の件、ありがとね」
郁奈さんは目の前の丸いテーブルにカップを置く。
「私は何もしていないです……! むしろ言いすぎたかもしれないって……」
「そんなに謙遜しなくてもいいって、ってかすごいよ私が言っても聞く耳なんてもたなかったのに」
そう言って郁奈さんはテーブルに置いたカップを再び手にとっていた。
「……最初は菜月さんという人物がどんな人なのか、興味本心で会おうと思ったんです」
「って話してたね、まさか彩葉ちゃんがそんなことを言い出すとは思わなかったけど」
「でも、途中でイライラしてしまったんです……一颯さんのことを傷つけたのに、言い訳しかしない菜月さんに」
郁奈さんはカップに口をつけながら、頷いていた。
「その後は怒りのままに好き放題言ってしまって……後々になって申し訳なく思ってしまったんです」
話を終えると、郁奈さんは笑顔で私を見ていた。
「気にしなくても平気だよ、2日ぐらい凹んでたけど、今はなんか吹っ切れたような顔してるから」
「それならよかったです……」
郁奈さんの言葉に安堵の息をつく。
「それよりも彩葉ちゃんが一颯のことをそんなに大切に思ってくれてたことが嬉しいよ!」
「……一颯さんは私の大切な——」
友達。
そう伝えようとしたけど、はっきり言葉にできなかった。
もちろん一颯さんは私の大切な友達だ。
けれど……今は何か違う。
——まさかとは思うけど、一颯のことがす、好きなの……?
あの時、菜月さんから出た言葉が頭の中を巡っていく。
そもそも好きって感情がどんなのかわからない……。
「彩葉ちゃん、大丈夫?」
声をかけられ、ハッと我に返る。
目の前では郁奈さんが私の顔の前で手を振っていた。
「……郁奈さん?」
「どうしたの?」
——誰かを好きになったことありますか?
と聞いた途端、郁奈さんは咽返っていた。
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「彩葉ちゃんが変なこと言うからビックリしちゃったよ」
「……すみません」
「大丈夫だから、そんなに凹まないでよ!」
郁奈さんはおしぼりで口の周りを軽く拭いていた。
カフェオレを飲む直前だったので大惨事にならずに済んでよかった。
「好きになっただけならたくさんあるよ! うまくいったことはないけど」
少し照れながらそう話す郁奈さん。
すぐに「彩葉ちゃんは?」を返してきた。
「……全くありません。 一颯さんと出会うまで友達がいませんでしたので」
「なるほどね……もしかして、一颯のことが好きになったとか?」
嬉々とした表情で郁奈さんは私を見ていた。
「……わからないです」
「それじゃ、今から一颯に会ってみる?」
「え?」
郁奈さんの言葉に胸の辺りがズキっとした感覚を覚える。
でも不安とかそういったものではなく、ワクワクするような……
「彩葉ちゃん、顔がニヤけてるよ」
「そ、そんなことは……」
それに今度は顔が熱くなっているような……。
「で、でも! 勉強中にご迷惑じゃ……それにこんな時間に行ったらご両親にも」
「うちの両親、連休中に仕事してたから今週が休みになったんだけど、2人で旅行に行っていないから安心して!」
そう言って、郁奈さんは私の手を取ると、軽快な足取りで店の入り口へと歩き出していった。




