第40話 キャラに命を吹き込もう!
「一颯さん、面白いギャルゲー知りませんか?」
「はい……?」
ある平日の夜、いつも通り2人でゲームをやっていると彩葉が突如こんなことを言い始めた。
数日前、ゲームショップの前を通り過ぎた際に気になっている素振りはあったがそれ以降は何も言ってこなかったので一時的なものかと思っていた。
「この前通りかかったお店で見かけてから、色々と調べてみたんです!」
どうやらあれからジャンル別で掲載しているゲーム情報サイトを見たりしていたようだ。
いつも通り夜には『アケロク』の連敗記録を更新していたので、全く気づかなかった。
「女性向けの作品もありましたので、ウイッチでいくつか体験版をダウンロードしてやってみたんです」
彼女がやったのは俗に言う乙女ゲーと呼ばれるジャンルの作品だろう。
たまにランキングで上位にあがるものがあるので、チェックはしているがプレイはしたことはない。
「何か面白い作品はあった?」
「……なかったです」
不満そうな声で答えていた。
「レビューには面白いとか、キャラがかっこいいとか書いてありましたが、プレイしてみてそんな風には感じなかったんです……最初に出会った男の人はものすごい上目線から話しかけてきまたので、ものすごく不愉快でした!」
俗にいう王子様系と呼ばれるキャラだろうか……
そう言ったグイグイ来てくれるキャラは女性には人気なのかもしれないな。
「なので、一颯さんなら面白い作品を知っているのではないかと思いまして、聞いてみたんです!」
「……言っとくけど、女性向けのゲームはやったことないぞ」
「そうなんですか?」
「さすがに女性向けをやろうとは思わないって……」
以前、あんなことになる前の菜月が興味本心から中古の乙女ゲームを買ってきたので一緒にプレイしたことあるが、男キャラのセリフを聞くたびに鳥肌が立ってしまい、すぐにやめてしまった。
「一颯さん、男性向け作品はやったことありますか?」
「数は多くないけど、それなりにかな……」
中学時代に勧められてプレイしたことはある。
クリアまでできたのはRPG要素やアクション要素があるもので、ノベル系のものは途中で飽きてしまっていた。
「一颯さんがやったので面白かったのを教えてください!」
「……あのさ彩葉?」
「何でしょうか?」
「女性向け作品の攻略対象が男キャラなのに対して、男性向け作品はその逆だぞ?」
「わかっていますよ?」
男性向け作品の攻略対象の女キャラは、理想と妄想が混在したキャラ設定となっている。
対象は男性なので、男は大喜びだが、女から見たら異様に見えてしまうのではないかと思う。
前にプレイしていた時に、その場にいた姉が『こんな女いるわけないじゃん!』と話していたし……。
おそらくというか確実に彩葉は理解していないと思うが、一度決めたことは曲げるような人じゃないので面白かった作品のURLをLIMEメッセージで送った。
「『小夜ナイトカム』ですか?」
「そう、RPGとギャルゲーが混ざった作品だよ」
中学時代に勧められてクリアできたゲームの1つだ。
キャラの育成からダンジョン攻略、アイテムドロップなどRPGとしてもクオリティが高かった作品だ。
個人的にはBGMが気に入っていたので、サントラまで買っている。
ただ、この作品……元々はPCのR-18作品だったということもあり、色々際どいシーンが要所要所にあったりはする。
もちろん、彩葉に教えたのは全年齢向けではあるがギリギリのところまで表示されている。
たしかバージョンアップでそういうシーンは表示しないこともできるようになったようだけど。
もちろん俺はその設定はオフにしている。仕方ない、健全な男の子ですから。
「キャラが可愛いですね、すごく楽しみになってきました!」
どうやら俺が教えたサイトをじっくり見ているようだ。
「そうだ、イベント画像はあまり調べない方がい——」
「——今、ちょうどそこを見ているんですよ」
彩葉の声と一緒にカチカチとマウスをクリックする音が聞こえていたが、彩葉の声が止まる。
「……まさかとは思うけど」
「一颯さん……」
彩葉の声が聞こえてきたが、さっきのトーンとは全く違った……ものすごく低い声だった。
「……一颯さんがそんな人だとは思いませんでした」
「ち、違うから! ってかゲームでは見ることができない設定にできるから!」
「一颯さんはその設定でプレイしていたんですよね……?」
「……オフでやっていました」
その直後、彩葉の様々な感情が混ざったため息が聞こえたのだった。
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「……はい、設定はオフにしたからサイトにあるようなものは出ないデス」
次の日の放課後、昨晩のようなハプニングはあったものの、彩葉は俺が面白いと言っていた作品のため紹介したゲームを買うことにした。
あのような画像をみないようにする設定をオンにするため、姫島家を訪れていた。
「ありがとうございます! それじゃ早速やってみますね!」
ウイッチをディスプレイに接続してゲームを開始する。
タイトル画面には主人公と攻略対象である女キャラたちの勇ましい姿が映っていた。
俺にとっては懐かしい画像だが、彩葉は初めてなのか、子供のような表情を浮かべていた。
「この作品、主人公の名前きまっていないんですね?」
ディスプレイにはプレイヤーである主人公の名前を入力する画面が映されていた。
「プレイヤーを投影させたいとかで、決まった名前はなかったな……制作会社としては自分の名前を入れることを推奨してたけど」
「そうなんですね……でも、この主人公って男の人でしたよね?」
「そうだよ」
彩葉は唸りながら考え込んでいた。
自分の名前以外にも漫画や他作品のキャラの名前を入れたりするのがセオリーだ。
「苗字がなければ『アッシュ』にするところですが……」
勧めた作品は現代の日本が舞台のため主人公の名前は苗字と名前が必要になる。
それからも彩葉は悩み続けていた。
「ちょっとお手洗い借りるね」
考え込んでいる彼女に声をかえてから俺は部屋を出て、トイレへと向かった。
「戻ったよー」
「あ、ちょうどよかったです! 名前決まりましたよ!」
部屋に戻ってくると、決まったことが嬉しかかったのか見てくれと言わんばかりにディスプレイを両手で示していた。
「ちょっと待て、何でこうなったんだ!?」
ディスプレイに表示されていたのは『藤阪 一颯』という、どこかで見たことのある名前が映されていた。




