第39話 久々の学生生活へ
「……一颯さん、おはようございます」
「おはよう……って朝から不機嫌そうだね」
大型連休も終わってしまい、体に鞭を打って何とか教室にたどり着いたのはいいけど、いつも笑顔で迎えてくれる彩葉が今日に限っては膨れっ面だった。
「……昨日は絶対に連敗を阻止できるはずでしたのに」
彩葉は頬を膨らませて俺を睨んでいた。
「さすがに日が昇るまで付き合わされてたら次の日何もできなくなるだろ……」
2日前の夜からずっと『アケロク』の対戦を挑まれていた。
彩葉の目的は連敗阻止だったので、負ければ解放されると思い、手を抜いたのはいいが見事にバレてしまい付き合わされることになった。
最終的には2人とも電池がきれたロボットのようにプツリと寝落ちして終わりを迎えた。
「そうですか? 昨日は10時ぐらいに起きてずっと練習していました」
彩葉の言葉に俺は大きくため息をつく。
どうやら彩葉は短時間の睡眠で生活ができる『ショートスリーパー』であることが連休中にわかった。
通りで朝方までやっても次の日ケロッとしてたわけだ……。
「それが出来るのは彩葉ぐらいだよ……」
「そうなんですか?」
彩葉は不思議そうな表情を浮かべながら首を傾げていた。
ちなみに俺は昼過ぎに起きたのはいいが、ずっと頭がボーッとしていて、ほぼ何もしないで最終日を迎えてしまった。
「おいおい聞いたか、藤阪と姫島さん、朝チュンしたみたいだぞ」
「夜からってことはどんだけラウンド重ねたんだろうな……」
「連休中に女の子口説いてた俺にはダメージはないぜ」
「口説いてたってどうせギャルゲーの女キャラだろ?」
久々に聞くクラスメイト達の小声。
前までは煩わしく感じていたけど、久々に聞くと感慨深いものがあるな。
ちなみにラウンド数で言うと100は超えている……といかあの時にそれ以上を数える余裕と思考回路は持ち合わせていなかった。
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「よう、お二人さん! ここで飯食うなんて珍しいじゃん」
午前の授業が終わって昼休み。
連休前の前日に担任から食堂で使える半額カードを貰ったことを思い出し、彩葉と一緒に学食で昼を食べていると天王寺が声をかけてきた。
「委員長と副委員長の特権を使おうと思って」
「あー、食堂の料金が半額になるってやつか、いいよなあ」
そう言いながら俺の隣の椅子に座る天王寺、持ってきたお盆の上には油揚が3枚乗ったうどん。
うっすらと和風出汁の匂いが鼻の中を掠めていく。
カツカレーじゃなくてうどんでもよかったかもしれないな……。
「そういや朝から2人のことで話題になってたな、朝チュンしたとか」
天王寺はニヤニヤと下品な笑みを浮かべていた。
「一颯さん、朝チュンってなんですか?」
「夜通しでプレイしたってことだよ」
「そうなんですね! たしかに夜から始めて気づいたら朝でしたね」
彩葉の話を聞いていた天王寺の顔が固まっていた。
端でうどんを掴んでいたが、スルスルとつゆの中へと戻っていってしまう。
「ま、ままままま……マジ!? あの噂本当だったのかよ! 何ラウンドもやっていたとか!?」
「まあ、そうだな100は超えてると思うけど?」
「ひゃっ……ひゃくだとぉ!?」
「1回が2ラウンドですので、100どころか200も超えてるとは思います!」
「に……にひゃく……」
天王寺の顔は徐々に青ざめていく。
「……わりぃ、邪魔したみたいだな。 俺、隅っこで静かに食うわ」
そう告げた天王寺はゆっくりと席を立ち上がると、お盆を持って後ろの席へと歩き出していった。
「……天王寺さん、どうしたんでしょうか?」
彩葉は不思議そうな表情を浮かべながら寂しそうに歩く天王寺の姿を追っていった。
「一人で食べたい気分なんだろ? こう言う時はそっとしておくのが一番だよ」
「そうなんですか?」
「それよりもさ……」
「どうしました?」
「ほんとうに朝チュンの意味知らなかったのか?」
俺の質問に彩葉は目を大きく開けながらも元気よく返事をしていた。
純粋な心の持ち主ってある意味怖いな……。
ちなみに後ほど天王寺にはきちんと説明しておいた。
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「一颯さん、このゲーム知ってますか?」
放課後、姉に頼まれたものを買うために近くのショッピングモールに来ていた。
自分だけで行こうと思ったが、乗り換え駅だからという理由で一緒に探してくれることに。
無事に欲しいものを購入し、帰ろうと思っていると、彩葉がモール内にあるゲームショップの前に置かれたパネルを指さしていた。
「たしか、ギャルゲーだったかな、最近ネットで話題になってたような」
彩葉が指していたのは、アニメ調のキャラクターのパネルだった。
制服姿でいかにもヒロインって感じがしていた。
「ギャルゲーってなんですか?」
「恋愛シミュレーションゲームだよ、攻略できるキャラがそれぞれいて、最終的に結ばれるって流れのゲームなんだけど……」
こういったギャルゲーのユーザーの対象は基本男なので、彩葉にはこれまで縁がなかったのだろう。
俺もあまり手をだしていくゲームでもないし。
「恋愛……ですか?」
彩葉はパネルのキャラクターに釘付けのようで、話しながらもずっと見ていた。
ずっと見ていたので、傍にいた俺まで気になってしまいスマホを取り出してゲームの内容を確認していくことに。
「……彩葉、やめた方がいいかも」
「どうしてですか?」
「イベントシーンで際どいのがありすぎる……」
公式サイトにあるイベントシーンの画像を見ていると、微かに女キャラの下着が見えたり温泉の場面で謎の光が入ったりと、女性にはおすすめできないものだった。
全年齢のギリギリのラインを攻めた作品なんだろう。
「一颯さんがそう言うのであれば……」
そう言って彩葉はそのまま歩き出していった。
彼女を見て、胸を撫で下ろしながら、安堵の息をついた。
「……もしかしたら、恋愛のことがわかると思ったんですが」
歩きつつ彩葉が何かを話していたようだが、モール内に流れる音楽や訪れた人たちの話し声に紛れてしまい聞き取ることができなかった。




