第31話 アッシュさんと一颯さん(SIDE IROHA→IBUKI)
「布団足りてる?」
あれからもずっと話していたが、郁奈さんが眠くなったようなので、部屋に向かうことにした。
部屋に入ると、床にマットが敷かれその上には枕と布団が用意されていた。
「もし足らなかったらこっちに入ってきてもいいからね!」
郁奈さんは自分のベッドの布団を捲りあげると、マットをポンポンと叩いていた。
「大丈夫ですよ!」
そう告げると布団に入っていったのだが、郁奈さんは残念そうな顔をしていたような気がした……。
おそらく気のせいだと思うけど。
そんなことを考えている間に、部屋の明かりが消えていった。
合わせるように、目を瞑っていくが……
「そういえば彩葉ちゃん明日は何時ごろに帰るの?」
郁奈さんの声が聞こえてきたので目を開ける。
「あまり考えてはいないですが、祖父母が帰ってくるのが夜みたいですのでそれまでには帰ろうかと思ってます」
「それまでゆっくりしていきなよ! 一颯も喜ぶと思うし!」
「いいのでしょうか? ずっとご迷惑をかけてるようで……」
「全然オッケー! うちの両親連休中は帰ってこないし、明日は私がバイトで家に居られないから一颯の相手をしてあげれないし」
その後にふふっと笑う郁奈さんの声が聞こえてきた。
「郁奈さんは一颯さんのことが大好きなんですね」
以前に会ってから思っていたことだけど、郁奈さんは常に一颯さんのことを考えているように思えた。
「うん、大事な弟だからね!」
暗くて表情はわからないが、声色からして本心なんだろうと思える。
自分にはこういった存在がいないから想像でしかないけど、姉ってこういう存在なんだろうなと思う。
だから少し一颯さんが羨ましく思ってしまう。
「一颯が寂しいと思ったらいつでも傍にいてあげようと思ってるけどね! 最近はウザがられているけどね〜」
「そんなことはないと思いますけど……」
「彩葉ちゃんは優しいね〜、大丈夫だよ、一颯が私をウザがる理由もわかっているし……」
先ほどまで元気よく話していた郁奈さんの声のトーンが下がっていった。
「それにいい加減弟離れをしようかなとも思ってるよ」
「……弟離れですか」
「うん、一颯も高校生になったんだし、彼女とか作りたいんじゃないかなって! それなのに私みたいな姉が近くにいたら嫌だと思うし」
郁奈さんから出た『彼女』と言う言葉に心臓が跳ね上がるような感覚を覚える。
「その相手が菜月だったら私もそんなこと考えなくてもいいんだけどね……」
郁奈さんはため息をつくとすぐに渇いた笑いをあげていた。
「……彩葉ちゃんは一颯と一緒にいるのは楽しい?」
しばらく話しかけてこなかったので、寝てしまったのかと思っていた。
声に反応して体を向けると、目が慣れていったのか郁奈さんの顔がはっきりと見ることができた。
その表情はずっと見せていた明るい表情ではなく、悲しそうな表情……。
「はい! 一颯さんと一緒にゲームをするのが毎日楽しみなんです」
「そう言ってもらえると自分のことのように嬉しいね」
もちろん郁奈さんに伝えた言葉はその場で適当に思いついたことでもお世辞でもなく本心だ。
一颯さんは私にとって大事なリアルでの友達。
これからも一緒にいたい。
——できることならずっと……。
「彩葉ちゃんなら……安心して……」
その後も郁奈さんは何か話をしていたが、限界を迎えてしまったのか心地よさそうな寝息を立てていた。
私もその寝息に誘われるように眠っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『アッシュさんこんばんは!』
目の前には大きな木々に囲まれた森のような場所にて、イリスがやってきた。
すぐに俺はキーボードを打ち、メッセージを送る。
「あ、イリスか……ばんわー」
俺のメッセージに気づいたのか、イリスはお辞儀の仕草をしていた。
『今日はどうしましょうか?』
「そうだな、イベントやってるみたいだから済ませるか」
『はい!』
イリスと一緒にイベントを進めて行くとボスが現れ、倒して行くことにした。
イベントはゲーム始めたてのユーザーでもクリアできるような設定になっており、イリスでも簡単に倒せるのだが、今日に限っては俺が何度も戦闘不能になってしまっていた。
イリスが復活させてくれたおかげで、倒すことはできたのだが……。
『アッシュさん、体調がすぐれないのですか?』
イベント終了後、アイテムを整理しているとイリスからダイレクトチャットが送られてきた。
「いや、別に……?」
『そうですか? 先ほどのボス戦、心ここにあらずって感じでしたが』
うまく隠せてるとはおもっていたが、バレバレだったようだ。
『お話を聞くぐらいしかできませんが、それで気が晴れるなら聞きますので!』
今思えば、この時は相当思い悩んでいた。
——いい加減にしてよ、私たちはもう子供じゃないんだよ! 高校生になるんだからゲームなんか卒業しなよ!
幼馴染から言われた言葉がずっと頭から離れなくて考え込んでしまっていた。
そんな時にイリスが優しい言葉をかけてくれた。
この時は、まだイリスの中身がネカマのオッサンだと思っていたので、理解してくれるだろうと思っていたのもあるが。




