第30話 一颯の過去のことを知る(SIDE IROHA)
「あれ、一颯さん……?」
あれからずっとボスを倒し続けていると、急に肩が重く感じたので、確認すると一颯さんがもたれかかって心地良さそうな寝息を立てていた。
ずっと眠たそうにしていたし、さっき倒したボスと戦っている時も口数が少なかったので、寝てしまうのではないかと心配していたけれども、倒した安心からそのまま夢の世界へと旅立ってしまったみたい。
「ありゃあ、一颯寝ちゃった?」
私たちが座る反対側にある1人用のソファ席で雑誌を読んでいた郁奈さんが声をかけてくれた。
「みたいですね……」
「よくみたら面白い感じになってるじゃん、彩葉ちゃん動かないでね」
そう言って郁奈さんはスマホを取り出すとレンズをこちらに向けると、カシャという音が聞こえてきた。
郁奈さんは和かな顔でこちらに画面を向けてきたので、見てみると 私の肩にもたれかかる一颯さんと驚いた顔の私が写さえている。
「ちょっと待ってて、すぐに彩葉ちゃんにも送るから!」
「は、はい……」
その直後、LIMEの通知オンが鳴り出した。
画面には郁奈さんから画像が送られたと表示されている。
「それにしても相変わらず、夜よわいねー、まだ日付が変わったばかりだっていうのに」
あまり時間を気にしていなかったが、この部屋にある時計をみると、日付が変わったばかりの時刻になっている。
「菜月と一緒に夜通しゲームで遊ぼうって言ってた時も結局は一颯が先に寝ちゃってたんだよね〜」
郁奈さんは心地よさそうに眠っている一颯さんの頬を指で指したり、摘んだりとイタズラをしていた。
そんなことを繰り返しているうちに、一颯さんは苦しそうな声をあげ、少しだけ目を開けた。
「……なん……だよ」
掠れた声を出しながら眠さが優っているのか、細めで郁奈さんを見ていた。
「一颯、今の状況理解してる? かわいい彩葉ちゃんにくっつきたい男の子の気持ちはわからなくもないけどさ〜」
郁奈さんは口元に手をあてて、ニヤニヤという表現がしっくりくる笑い方をしていた。
言われた一颯さんはゆっくりと顔をあげ、私の顔を見ていた。
「……ご、ごめん!!!」
すぐに目を大きく開いて、謝ると座っている横長ソファの端へと滑るように移動していく。
その様子を見て郁奈さんが一颯さんを指さして笑っていた。
「……眠いから先に寝るね」
一颯さんは大きな欠伸をしていた。
「はい、おやすみなさい! 今日はありがとうございました!」
「郁奈ちゃん、彩葉に迷惑をかけるなよ」
そう言って一颯さんはリビングから出ていった。
その後すぐに階段を昇る足音が聞こえてきたが、眠いのかゆっくりだったような気がした。
「彩葉ちゃんは大丈夫? 眠いなら私の部屋に案内するよ」
「私はまだ大丈夫ですよ、郁奈さんが寝るのであれば私も寝ようかなと思っていますが……」
「何言ってるの、まだまだこれからに決まってるじゃん!」
郁奈さんは両手両足を使い、まるでネコや犬のような動きながら私の目の前へとやってきた。
「ってかさ、彩葉ちゃん、一颯の昔の写真に興味あったりしない?」
そう話す郁奈さんの目は爛々としている……ように見えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「じゃーん! アルバム持ってきました!」
あの後すぐに郁奈さんはリビングにある本棚から分厚い本を持って戻ってきた。
表紙には『Album KANA & IBUKI』と書かれている。
「遠慮なく見ちゃって大丈夫だよ!」
郁奈さんはそう話すと、私の膝の上に置くと隣に座り、アルバムを開いていく。
開いてすぐに見えたのは、顔がしわしわの赤ん坊だった。
「これは一颯が産まれた時の写真だね〜」
「たしかに……みれば目元とか今と変わらない感じがしますね!」
郁奈さんは次々とページを捲っていき、止めたのは幼稚園らしき場所での写真。
そこに写っているのは一颯さんと郁奈さんと……
「郁奈さん、こちらに写っているのは……?」
目についた写真で一颯さんの隣にいる女の子を指差す。
他の写真も3人で写っているのがほとんどだった。
「あー、菜月だね」
「菜月……さん?」
「うん、私や一颯の幼馴染って言えばいいのかな、親同士の付き合いもあって、幼稚園入るまえからの付き合いなんだよねー」
幼馴染……これまで友達すらいなかった私からすればゲーム以外にも存在するものなのかと思えてしまう。
「菜月もゲームが好きで、よく一颯とゲームしてたんだよ! 今日みたいに夜通しでやろうと言い出して先寝ちゃうこともあったり」
楽しそうに話をしていく郁奈さんだけど、表情は少し寂しそうに見えていた。
「ゲーム好きなら、一緒にできたら楽しいかもしれませんね!」
郁奈さんの悲しそうな顔を払拭するかのように、明るく話をしていくが、さらに暗い表情を浮かべてしまう。
「……菜月はゲームは絶対にしないよ、それに一颯もあの子とは会おうとはしないかな」
「どうしてですか?」
私の問いかけに対して、郁奈さんは黙っていたけど、しばらくして重い口を開いた。
その時に出た言葉は……
——菜月がゲームをする一颯のことをバカにしたから。
「原因は私にもあるんだけどね……」
また、郁奈さんは悲しそうな顔を浮かべていた。
「郁奈さんにもですか……?」
そう返すも郁奈さんは再び口を閉ざしてしまう。
顔には後悔とか、申し訳ないと言った気持ちが出ているようにも見えた。
「っと、こんな暗い話はやめやめ! もっと楽しい話をしよう!」
郁奈さんは暗い気持ちを吹き飛ばすように顔を左右に振り、アルバムのページを捲っていった。
「これ見てよ、一颯が中学卒業した時、記念にスタジオで写真撮ったんだけど、すごく格好良くない? こんなこというと姉バカとか言われちゃうんだけどさ!」
指さしたのはスーツ姿の一颯さんが1人で写っている写真だった。
少し引き攣った顔でこちらを見ていた。
見方によってはこちらを睨んでるとも言えなくないような……
「そうだ、今度さ一颯もいれて3人でスタジオで撮ってみない? いつもいくレンタルスタジオがあるんだけど!」
さっきまでの暗い表情が嘘かのように郁奈さんが話しかけてくれたのはいいけど……
郁奈さんのあの言葉が頭に残っていたため、話の内容を覚えていなかった。
——たしか、似たようなことをアッシュさんが話していたような……。




