第3話 イリスの中身
「もしかして藤阪さんってDPOユーザーだったりしませんか?」
彼女の見た目からそぐわない単語が出てきたことに驚いて変な声が出てしまう。
「そ、そうだけど何でわかったの……!?」
「そのスマホケース、周年の時に限定販売してたのですよね?」
そう言って俺のスマホを指差していた。
彼女のいう通り、DPOの10周年の時に販売されたものだ。
ケースの上蓋の部分にはDPOのストーリーにて重要アイテムだった『天神のつるぎ』が刻印されている。
「私も最初、天神の剣デザインのスマホケースと悩んだんですが、こっちにしました」
そう言って姫島さんはカバンの中から取り出したものを見せてきた。
そこには見覚えのある羽の生えたヒヨコのようなマスコットキャラがプリントされた薄いピンクのスマホカバー。
「スッピーがかわいいですよね!」
スッピーというのはDPOに登場するマスコットキャラクターのことだ。
普段見かけるのは黄色の体なのだが、イベント時に亜種の黒いスッピーが敵として登場した際、あまりの強さに勝てなかったプレイヤーが続出。
その腹いせかなにかわからないが、唐揚げにされてるイラストがツブヤキったーやイラスト投稿サイトを見かけるようになった。
……なぜか、何の害も罪もない黄色のスッピーも。
「藤阪さんはどんなふうに遊んでいたんですか? 私は衣装ばっかりでしたけど」
DPOはバトルも楽しめるが、キャラの見た目にも凝っていた。
むしろ衣装を考えるのがメインコンテンツだと言われていた。
「基本的にはバトル専門だったかな、姫島さんは?」
「私は衣装専門でした!」
そう告げた姫島さんはスマホを操作し始めていく。
「あ、スクショがありました! 見てください!」
そう言って姫島さんは自身のスマホをこちらに向けてきた。
「え”!?」
その瞬間自分でも驚くぐらいの変な声ができてきた。
なにせ彼女のスマホ画面に映っていたのは軍人服にミニスカート姿のイリスだった。
いや、もしかしたら似たキャラってこともありえる。映っているこの衣装はたしか人気があったから着ている人も多かったとイリスが話していた気がする。
「この子、イリスって言うんですがものすごく可愛くないですか! こういうこと言うと親バカって言われるんですけど……」
あっさり名前言っちまったぞ……。
中身は絶対にネカマプレイのオッサンだと思っていたのに。
ちなみに親バカというのは自分のキャラを子供のように可愛がるプレイヤーのことを指している。
「そういえば、藤阪さんのキャラは何ていうんですか?」
「俺のキャラは——」
——いつまでゲームなんかやってるの!? みんなもうゲームなんて卒業してるんだよ!
「……の、ノインって女キャラだよ」
アッシュだと言おうと思ったが、過去のある出来事が頭の中を駆け巡ったため別のキャラ名を出した。
適当というわけではなく、サブキャラでストーリーにて女キャラ特有のイベントを見たいがために作ったものだ。
基本はアッシュを使っていたので、このキャラを使うことはほとんどなく終わってしまったが。
「そうでしたか……」
俺の返答に姫島さんは肩を落としていた。
「……何でそんなにガックリしてるの?」
「あ、ごめんなさい……」
姫島さんはすぐに顔を上げる。
「DPOやっていた時に相方さんがいたんですよ、アッシュさんって人なんですけど!」
俺のメインキャラの名前を呼ばれて心臓が跳ね上がるような感覚を覚える。
さっきのキャラを見る限りだと、アッシュというのは俺のキャラなんだが。
「ゲーム中に話してた時にもうすぐ中学の卒業式だと言ってたので、私もそうだと言ったんですけど『へぇ〜』って適当な返事しか返ってこなかったんですよ」
たしかに話した覚えがあるな……
ちなみに適当な返事に関しては俺の中でイリスの中身はネカマのオッサンだと思っていたからだ。
「だから、藤阪さんがDPOユーザーって聞いた時、もしかしてアッシュさんかとと思ったんですよ! だから思わず嬉しくなっちゃって!」
「な、なるほど……」
興奮気味に次第にはこちらに身を乗り出してくる姫島さん。
ふわりとシャンプーの香りが俺の鼻の中に入り込んでいた。
「おっ、来てない奴はいなさそうだな」
姫島さんの行動に狼狽えているうちに、入学式で目にしたガタイのいい男が教室に入ってきた。
あの場にいたからまさかとは思ったが、担任だったのか……。
「初日だし、疲れてるとは思うがホームルームを始めるぞ」
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「では、今日は以上! 高校生になったからって変なふうに背伸びするんじゃないぞ!」
体育館から教室に戻ってからしばらくすると自分たちの担任が姿を見せると、連絡事項を伝えると早々に教室を出ていくとクラスメイトたちもそれに続いていった。
自分もそれに続き、カバンを持って席を立とうとすると……
「あ、藤阪さん!」
声をかけられ立ち止まる。
もちろん呼んだのは隣の席の姫島さんだ。
それ以外、俺のことを知ってるのはこの教室にはいないし。
「……どうしたの?」
カバンを机の上に置いて、彼女へと視線を向けると何か言いたそうな顔でこちらを見ていた。
すると、姫島さんはこちらへスマホの画面をグイッと見せつけてきた。
画面には誰もが通話やメッセージで使うアプリ『LIME』の登録用のQRコードが映し出されている。
「よかったら、フレンドになってください!」
大声でそう告げる姫島さん。
それに反応して、残っていたクラスメイトたちが一斉にこちらを見ていた。
「……言う相手間違ってない?」
「間違っていないですよ?」
いかにも何で?と言わんばかりに少し首を傾げながら返す姫島さん。
「おいおい、入学初日からカップル誕生か?!」
「マジかよ! しかも女子の方、可愛すぎじゃねーか! ってか男の方どこ中のやつだ?」
「早く交換しろよ、こちとら早くかえりてーんだよ!」
何でこんなに残っているんだよ! 早く終わったんだから早く帰るのが普通だろ!
ってか最後のやつはさっさと帰ってくれ……
「あ、もしかして一颯さんLIMEインストールしてなかったりします?」
「……いや、してるけども」
自分のスマホを取り出してから、LIMEアプリを起動して姫島さんのQRコードを読み込むと、ピロンと軽快な音と同時に『姫島彩葉さんとフレンドになりました』とメッセージが表示され、彼女とのメッセージ欄へと切り替わった。
「ありがとうございます!」
姫島さんは勢いよく頭を下げる。
「おぉ!! おめでとう!!」
「あらたなカップル候補の誕生だぁ!」
「いいなあ! ちょっと可愛い女子、俺とLIME交換しようぜ!」
何故かクラスメイトからの拍手喝采。
恥ずかしさのあまり、俺は逃げるように教室から出て行った。




