第26話 大型連休を死守せよ!
「この前後の文章がこれですので、ここにはsetが入るんですよ」
「……お、おう」
姫島家でテストに向けた勉強会を始めてそれなりの時間が経っていた。
ここへ来た時には多少雲がありつつも青に染まっていた空は赤く染まっていた。
英語のテスト対策をしているが、事あるごとに躓いており、その度に彩葉が説明してくれていた。
彼女の説明は丁寧で分かりやすいのだと思うが……
どうにも俺の理解力が足らず、何度も説明させてしまう始末。
「それよか、俺に説明してばかりだけど、彩葉は大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ! 人に説明すると、自分がわからなかったことにも気づくので!」
彩葉は嫌な顔せずそう答えていた。
ますます、自分の理解力の無さが身に染みてくる。
それからも彼女に説明を受けながらも問題を解いていこうとするが、苦戦を強いられていた。
「少し、休憩とりましょうか! お腹もすきましたし、お菓子でも持ってきますね!」
その様子を見ていた彩葉がそう告げ、部屋から出て行った。
「つっかれ……たぁぁぁ」
腕を大きく伸ばしていくとパキパキと音を立てていた。
しかもこれまでに聞いたことのない大きな音で……。
慣れないことをしてるから、体が緊張しているのかもしれない。
……そう、思うことにしよう。
「戻りました! 一颯さん、麩菓子があったので持ってきましたよ!」
勢いよく開かれたドアの奥に立つ彩葉の手には麩菓子の袋が握られていた。
「脳を活性化させるには甘いものが一番ですよ!」
そう言いながら、部屋の中に入り、テーブルの上で袋を開ける。
黒糖のふんわりとした甘い匂いがこちらへとやってきた。
「一颯さんもどうぞ!」
「……それじゃいただきます」
取った麩菓子を口の中に放り込むとシャリっと音を立てると同時に口の中に黒糖の優しい甘さが広がっていた。
普段はあまり気にしないが、ここまで美味しく感じるのは疲れのせいなのかもしれない。
「そういえば、一颯さんは連休の予定とかはあるんですか?」
「家に籠る以外考えてなかったね」
昔は家族で遠出をしていたが、最近は父親が会社で出世してからは休む余裕がなく、母親も気晴らしで行っているスーパーのパートや、父親の会食の付き添いなど忙しくなってきたため遠出することを考える余裕はないようだった。
たしか姉も大型連休はバイト先が忙しいとか言っていたような気がした。
出かけても疲れるだけなので、 ちょうどよかったけど。
「そういう彩葉はどうなの?」
「私も何もないですね……この時期は祖父母が近所の人たちとのゲートボールの大会があるので、出かけることはなかったです。 なので連休前にゲームを買ってくれたのでそれを1人でずっとやっていました」
「なるほどね……」
つまりは俺と一緒ってことだ。
「でも今年は違いますよ!」
目の前に座っていた彩葉はこちらへと身を乗り出していた。
突然、彼女の顔が目と鼻の先に出てきたので驚きなのか、はたまた別の原因なのかわからないが心臓が飛び上がりそうになる。
「今年は一颯さんがいますから!」
「わかったわかったから……近すぎるって!」
テーブルに置いていたノートを盾代わりにしながら後ろに引く。
「たしかにやることもなくて暇だけど……一体何をするの?」
俺の問いかけに対して、彩葉は唸り声をあげるだけだった。
最近わかったが、こう言う時の彼女は何も思いついてない時が多い。
「朝からずっと通話しながらゲームするのも楽しいと思います!」
「それはゲーム次第かな、『アケロク』なら絶対にやらないけど」
「なんでですか!」
「だって勝つまで休ませてくれないし」
「安心してください! 私が勝ち続けますから!」
自信たっぷりに話しているが、一度勝ってはいるが、それ以降は負けっぱなしだ。
負ける度に再戦を申し込んでくるため、最近では10敗までと決めることにしている。
「そういえば『ドラゴンイーター』が連休初日のアップデートで武器とか敵ドラゴンが追加されますよ!」
「公式サイトで発表してたね、彩葉がずっと後方にいれば楽だからそれはアリかもね」
「じゃあ、それで決まりですね! そのためには月曜のテストを何とかして乗り切らないと!」
その直後再度、彩葉が身を乗り出してきたので、教科書を使って防ぐことに。
大型連休の予定が決まったことがやる気への引き金となったのか、それからは理解力があがったような気がした。
——そして、テスト当日。
テストは午前中に実施され、午後からは通常の授業が行われた。
そして、帰りのホームルームにてテスト用紙が返された。
「一颯さん、どうでした?」
「無事、大型連休ゲットしたぜ!」
「おめでとうございます!」
俺は彼女に向けて親指を立てながら席に戻ると、溢れんばかりの笑顔で迎えてくれた。
「ちなみに彩葉は——」
聞く前に彩葉が返ってきた用紙をこちらへと見せていた。
まったく同じ用紙のはずなのに、彼女のは光り輝いて見えていた。
「俺なんかが聞いてすみませんでしたー!」
席に戻ると彼女のテスト用紙を拝むように頭を下げていた。
「ちなみに残念ながら補修対象者がでてしまった」
自分の席でくだらないことをしていると、担任は肩を落としながら話を始めた。
「本人は知ってると思うが、これも決まりだから諦めてくれ」
その後に補修対象の名前が読み上げられた。
その中には——
「あと、天王寺」
名前を挙げられた中に天王寺も含まれていた。
「マジですか!? 点数間違ってると思いますからもう一度確認してみてくださいよ!」
「残念だが、何度確認しても赤点だ、諦めて3日間登校するんだぞ」
「えー!!! せっかくのノヴェサガ新作のサントラ買ったから連休でアレンジ曲作ろうとしたのに!!」
天王寺はやりたいことを叫んだのち、糸の切れた人形のようにその場に崩れて行った。
あまりにも可哀想になったので、LIMEで応援のスタンプを送った。
「一部を除いて明日から、休みに入るが……自分たちが学生であることを自覚して行動するように!」
最後に教師らしいことを告げて、教室から出ようとしていたが、すぐに足を止めこちらへと振り返る。
「忘れてた、姫島と藤阪はこのあと職員室に来てくれ」
それだけを告げると、担任は教室から出て行った。
「……な、何で?」
俺と彩葉、お互いに顔を合わせるとほぼ同時に首を傾げたのだった。




