第19話 もしかしなくてもこれってデートなの……?
「お待たせいたしました、デンジャラスミミックの舌とダークスッピーの黒胡椒炒めと……」
各々好きなものを注文し、暫くしてから運ばれてきた。
「デンジャラスミミックは先ほど別スタッフがダンジョンに潜り込んで手に入れてきたものなので新鮮ですよ」
ちょっとした冗談を交えながら、スタッフはテーブルの上にお皿を置いていった。
もちろん、デンジャラスミミックなど存在しないのだが、こういうのは雰囲気が大事なので詮索することはやめておいた。
「そしてこちらが、ダーススッピーの黒胡椒炒めになります。 討伐しても報酬はございませんのでご了承ください」
こちらに関してもゲームをやっていればわかるような内容を冗談を交えつつテーブルの上に置いていった。
ちなみにDPOでイベントでダークスッピー討伐クエが出され、討伐数に応じて報酬が貰えたことによるものだ。
「たしか、あと1匹倒せば報酬コンプリートできたんですけど、これはカウントされないんですね」
姫島さんの呟きにスタッフは苦笑いをしながら「申し訳ございません……」と口にしていた。
「それではごゆっくりお寛ぎくださいませ」
他にも頼んだ飲み物をテーブルに置くと、一礼してから去っていった。
色々と徹底しているんだな……。
「それじゃ頂いちゃいましょう! もちろん私はダークスッピーを!」
2人揃って手を合わせ、挨拶をしてから小皿に装っていく。
「さっきからずっと思ってたんだけど、黒胡椒焼きすごいな……」
おそらくはダークスッピーをイメージしてるからだと思うが、鶏肉やレタスなどの野菜が大量の黒胡椒によって黒く塗られていた。
しかも湯気に混じって胡椒の匂いが鼻の中を通り過ぎていく。
朝食をほとんど食べていないので、匂いが鼻を通り抜けていくたびに腹の虫が騒ぎ出しそうになっていた。
「そんじゃまずは採れたてのデンジャラスミミックの舌にするかな」
皿には茶色く焼かれた5枚の丸い形をした舌……おそらくは牛タンだと思うが、1枚、自分の皿に装ってから粒マスタードをつけて食べていく。
「やば、デンジャラスミミックの舌ってこんなに美味かったのか!」
「そうなんですか? 私も食べていいですか?」
「気にしなくてもいいよ、じゃんじゃん食べちゃって」
礼を言ってから1枚皿に装い、レモン汁をかけてから食べる姫島さん。
「あんなに即死魔法ばかりやってきた憎き相手でしたのに……こんなに美味しかったんですね」
デンジャラスミミックはDPOだけではなくシリーズの他作品にも登場しているけど、戦う時の印象が変わりそうだな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ダークスッピー討伐しました……!」
先に牛タン……ではなくデンジャラスミミックの舌を平らげてから、姫島さんの中ではメインであるダークスッピーの黒胡椒炒めを食べていった。
黒胡椒が大量にあるからか、口の中に入れた途端、ピリッとした辛さが口内に広がっていった。
自分は辛いのは平気だが、姫島さんは大丈夫かと心配していたが、表情変えずに食べる彼女の顔を見て杞憂であることがわかった。
そして、最後の食べきった姫島さんは満足そうな顔でそう告げた。
「お疲れ様……」
労いの言葉をかけた後にDPOでクエストクリアした時のBGMを口ずさむと、姫島さんはすぐに気づいて溢れる笑顔でこちらを見ていたのだった。
「でも、やっぱり報酬が貰えないのは残念な気がしますね」
「貰えたとしてもDPOにINできなきゃ意味ないしね……」
俺の言葉に姫島さんは残念そうな表情を浮かべていた。
「そういえばこの後ってどうしますか?」
「たしかこの店が、90分の時間制だからギリギリまでいるとして、その後は考えてないかな」
スマホで時間を確認すると残り20分ほどで出なければいけない時間になっていた。
そのことを伝えると、姫島さんはすぐに立ち上がった。
「それじゃ、買い物してきていいですか?」
「別にいいけど、何を買うの?」
「スッピーのぬいぐるみです!」
そう告げた姫島さんは店内の奥にあるグッズコーナーを指さしていた。
視線を向けると、テーブルの上に黄色の大小様々なサイズのスッピーの人形が並んでいた。
「いいよ、俺も気になるものがあるし」
そのまま会計まで行けるように荷物を持って、スッピーたちが待つコーナーへと向かっていく。
遠くから見ても多いと思えたが、目の前で見ると思っていた以上の多さに驚きの声が漏れてしまう。
隣にいた姫島さんは別の意味で驚きの声をあげていたのだが。
「どうしよう……! 大きいのもいいけど、場所とか考えたら小さい方が……!」
スッピーを目の当たりにして彼女の目がアニメのようにキラキラと輝いているように見てた。
よほど好きなんだな……。
「決めました……! 今回は中サイズを買うことにします!」
それなりの時間、悩んでいた姫島さんは中サイズのスッピーの人形を手に取っていた。
「そういえば、藤阪さんは何を買うんですか?」
「俺はこいつのフィギュア」
そう言って彼女に見せたのは銀色の鎧を身に纏ったスッピー……スッピーナイトのフィギュアだ。
「スッピーナイトですね!」
「前に発売した時に買おうと思ったんだけど、すぐ売り切れて、ここでも販売してるって書いてあったからさ」
どの店でも探しては見たものの完売になっていたので、ここにきた時はハラハラとしていた。
「それじゃ、会計しちゃおうか」
「はい!」
お互いに欲しかった商品を手にしてレジへと向かおうとしている途中で、先ほど注文した食事を持ってきてくれたスタッフと出会した。
「そろそろお帰りですか? よろしかったらこちらでお写真とかいかがですか?」
そう言ってスタッフが手で示していたのは、案内してくれた時に気になっていた武器のレプリカだった。
「どうする?」
「撮りたいです!」
間髪入れずに姫島さんが答えていた。
気にはなっていたので、これだけ写真に収めようと思っていたが……。
「武器をお手に持って頂いても大丈夫ですので、決まりましたら写真をお撮りいたします」
俺が手に取ったのはシリーズ作品に登場した神光の剣のレプリカを手に取った。
そして姫島さんが手に取ったのは……。
「他の武器も迷いましたけど、これが一番しっくりくるんですよね!」
先端に白い羽が生えた、天翼の杖のレプリカだった。
「それじゃお撮りしますね、はいチーズ!」
2人ともぎこちないポーズをとりながら写真に収められていく。
取ったのは姫島さんのスマホで俺のでも撮ろうか聞かれたが、彼女から送ってもらえればいいかと思い断った。
それにしても誰かと写真を取ったのは——
——別にいいかそんなこと思い出さなくても。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「姫島さんって……寝てるよ」
帰りの電車の中、彼女が降りる駅まで後2駅となったため声をかようとするが気持ちよさそうに眠っていた。
俺の肩にもたれながら……。
「楽しそうだったからいいか」
カフェを出てから、姫島さんがこの駅に来るのは初めてということもありぐるぐると色んなお店を廻っていた。
店を見るたびにはしゃいでいたので、疲れたのかもしれないな。
「駆け込み乗車はおやめください〜」
そんなことを考えているうちに電車は1つ前の駅に停車していた。
発車したら起こせばいいか……。
そして、電車のドアが閉まりそうになっているところへ急いで駆け込んでくる人の姿があった。
「ふぅ、間に合ってよかったぁ!」
駆け込んできた人は俺の目の前に立ち、吊り革を掴んでいた。
バッグからスマホを取り出そうとするも手が滑り俺の膝へと落ちた。
「あ、すみません……って一颯!?」
名前を呼ばれすぐに顔を上げた先にいたのは……。
「か、郁奈ちゃん……!?」
姉だった。そして俺の肩にもたれかかる姫島さんを見て、ニヤリと口を歪めていた。




