第15話 藤阪家の姉弟
「あれ、一颯おかえりー」
日が完全に沈みきり夜空が広がった頃に家の玄関を開けると、2つ上の姉である郁奈と出会した。
いつもなら夜遅いのに、Tシャツとハーフパンツ姿ということは今日に限っては早めに帰ってきたようだ。
「……ただいま」
玄関の鍵をかけて中に入ると、姉が俺の腕を掴んでいた。
その時に柔らかい感触が伝わってきていた。
「今日、パパが会社の人と会食らしくてママと一緒に出かけちゃってるよ」
姉は俺の方を見て、笑顔で話してきた。
身長差があるためか、見上げる姉を見ると妹を相手してるような感覚に陥る。
実際に体験したことないので、リアルの妹がこんなことをするのか定かではないが……。
「……あっそ、俺は適当に食べるから郁奈ちゃんも好きな時間に食べて」
そう言って姉の手を振り払おうとするが、思っていた以上に力が入っていたので振り払うことができなかった。
「せっかく2人だけなんだし、一緒に食べようよ!」
そう言って姉は俺の腕を振っていた。
「俺がそう言う気分じゃない」
「私がそういう気分なの!」
姉から帰ってきた言葉に俺は大きくため息をつく。
この人は昔から自分が決めたことを曲げることはしない。
「一緒に食べてくれないなら、またベッドの中に忍び込むけどいいの?」
この時の姉の顔はいかにもイタズラしてやるぞと言わんばかりに口元に手を当てて笑っていた。
以前、朝起きた時、横に姉がいる時は驚きすぎて、朝から大声をあげたぐらいだ。
ゲームとかでそういうシーンが出た時はガッツポーズものだが、実際にやられると心臓の負担にしかならない。
「……わかったよ、着替えてくるから先に準備してて」
諦めてそう告げると姉は子供のように「わーい!」と口にしていた。
「それじゃ準備してるから早く戻ってきてねー!」
姉はすぐに俺を掴んでいた手を離しリビングへと向かっていった。
「……金かけずにドアに鍵をつける方法を探すか」
そう呟きながら俺は階段を昇っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いただきまーす!」
「……いただきます」
2人揃って両手を合わせてから箸を持って大皿にあるものを取っていく。
今日の夕飯は母親が置いていったお金で姉が近くのスーパーで適当に買ってきた惣菜だった。
「なんか一颯と一緒にご飯食べるなんて久しぶり!」
我が家は家族全員で食べていたが、姉が高校になってからバイトを始めたり、父が会社である程度の役職になったことで母を連れて会食に行くことが多くなったことでバラバラに摂ることが多くなった。
さっさと食べて自分の部屋に戻り、ゲームができるので個人的には好都合だった。
「そういえば今日、菜月とあったよ」
姉の一言に俺は箸を止めるが、すぐに大皿にあった鳥の唐揚げを取っていった。
「……同じ学校なんだからいつでも会えるだろ?」
「同じ学校と言っても、学年違うからね。 それに菜月もクラスの友達と遊んだりもすると思うし」
そう話す姉の話に興味を持つことなく取った唐揚げを食べていく。
「ちょっと見ないうちに、ものすごく可愛くなってたんだよ」
嬉々として話す姉だが、俺にとってはどうでもいいことを通り越して聞きたくもなかった。
それからずっと話を続ける姉に対し、生返事をしつつ急いでご飯をかっこんでいく。
「今の菜月にあったら一颯も惚れ——」
「ご馳走様」
姉の話を遮るように席を立ち、使った食器を軽く水で流してから食洗機の中に入れていった。
「……郁奈ちゃんの食器入れたら、食洗機のスイッチいれておいて」
淡々とそれだけを伝えると俺はリビングから出ていった。
「一颯も菜月も不器用すぎるよ……」
ドア越しに姉の呟きが聞こえた気がするが、留めることなく自分の部屋へと戻っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……まったく」
部屋に戻った俺はそのままベットに体を倒す。
すぐにゲームでもしようと思っていたのに姉が話したことに苛立ちを感じてしまいそれどこではなかった。
菜月というのは俺の幼馴染のことで、昔は3人で遊んでいた。
菜月は1人っ子ということもあり、郁奈ちゃんのことを実の姉のように接していた。
もちろんその逆も然り。
中学になってファッションセンスがないことをクラスメイトにバカにされ、傷ついた菜月にファッションを教えたのも姉だった。
その甲斐もあってか、菜月は傷つくことはなくなった。
けどその結果——。
頭の中に過去のできごとが流れていき、俺はさらに苛立ちを募らせてしまう。
そんな時に、机に置きっぱなしにしていたスマホがブーブーと音を立てる。
「誰からだよ……」
ゆっくりと起き上がり、スマホを取って画面を見るとLIMEの着信画面で『姫島 彩葉』と表示されていた。
寝てないのかと思いながらも着信をタップする。
『こんばんわー!』
その直後に姫島さんの元気な声が聞こえてきた。
「……寝てなきゃダメでしょ」
『そうなんですけど、寝過ぎたせいで寝れないんですよ!』
そういや朝からずっと寝てる的なことを言ってた気がするな。
『でも安心してください! さっき体温測ったら平熱になってましたので明日は普通に学校行けますよ!』
「そりゃよかった……」
『なので、これから対戦を——』
「——それはダメ」
『断るの早いですよ!』
「その調子だと絶対に勝つまで終わらないでしょ……」
『特訓しましたので今日は勝てる気がします!』
「そのセリフ、フラグにしかならないよ……」
それからも姫島さんは言葉巧みに対戦を申し込んでくるが、問答無用で却下していく。
彼女とそんなやりとりをしているうちに先ほどまでに募っていた苛立ちがなくなっていることに気づく。
『今日のところはこれで勘弁しますけど、明日ことは絶対に対戦してもらいますよ!』
「言ってることが悪役だよ」
思わず笑ってしまう俺。
そして気がつけば彼女と会話をしてからそれなりの時間が経っていることに気づく。
「こんな時間だし、風呂入ってくるよ、姫島さんもちゃんと寝ようねゲームしちゃダメだからね」
「わかりましたぁ……」
姫島さんは不満そうな声をあげながら、最後におやすみなさいと告げ通話を切っていった。
通話終了と表示されたスマホの画面をみつつ俺は……
「ありがとう姫島さん……」
小さな声でそう呟きながら、アプリを終了させていった。




